ヒト・モノ・カネで見る「地方創生」2015.07.29

ヒト・モノ・カネで見る「地方創生」2015.07.29

昨年から首相官邸が音頭をとって、地方活性化の施策検討を進めている「まち・ひと・しごと創生本部」。「地方創生」という単語をよく見聞きすようになっただろう。地方活性化の必要性は、多くの人が賛同しているはず。しかし、地方の持続的・効率的な経済体系を構築するためには、単純な人口や仕事の増加だけではなく、「集中と選択」が必要だ。一部地域では、痛みを伴うことも踏まえた議論が求められる。今回は地方の現状を「ヒト・モノ・カネ」の観点で「SPEEDA」も活用して整理したうえで、地方創生について考えてみたい。

Nijie Kuboki

ヒト・モノ・カネで見る「地方創生」

地方部では全ての基礎となる人口の減少が続く

まず日本全体および地方の人口推移を確認する。

日本の総人口は2014年1月現在で1億2708万人だが、2010年をピークに減少し、2040年には16%減の1億728万人になると推計されている。地域別にみると、人口が1980年の水準を維持できるのは関東圏のみで、東海地方は微減、その他地域では10%以上減少する。

1980年、2010年、2040年で地域別人口構成比を比較すると、関東の占める割合が増加しており、2040年には35%に達する見込み。また東海と近畿を合わせれば65%と、全体の4分の1未満の面積に日本人口の大部分が集中することになる。

民間組織「日本創成会議」が昨年発表した「500以上の市町村が人口1万人未満となり消滅の恐れがある」との指摘を覚えている人も多いだろう。最近、地方自治体による都心部から地方部への移住を促進する施策が目立つが、これだけ大幅な減少を目前に控えているとなれば、それも当然と言える。

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経済的低迷と財源不足に悩む

次に、「カネ」、つまり財政力や経済力はどうだろうか。

県内総生産の増減率をみると、3大都市圏や広島、福岡などを除く地方の大部分は、5%以上の減少となっており、人口減以上に経済の低迷が著しいことがわかる。地方に仕事がないことも若年層が都市部へ流出する大きな理由であり、負のスパイラルに陥っている。

また、経済力は財政面に直結する。都道府県別の税収バランスをみると、北海道や東北、山陰地方などで税収が不足、3大都市圏などから地方に資金が分配されている。経済活性化の手を打とうにも財源がなく、政府からの支援(交付金など)に頼らざるを得ない状況だ。

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重いインフラ負担が地方を圧迫

最後のモノについては、さまざまな捉え方があるだろうが、本稿では社会資本を考えてみたい。

社会資本とは道路や公共交通、水道・電力設備、公共施設などを指す。普段はあまり意識をしないかもしれないが、居住者の生活だけでなく地域の経済活動にとっても不可欠の要素である。

これらの社会資本ストック(これまでの社会資本投資額の累積額)の1人当たりの分布状況をみると、北海道、東北、山陰地方などで人口に対して多額の社会資本が投下されてきた。それにより全国で同水準のインフラ整備が実現されたわけだが、現在ではその社会資本の効率性の問題に加えて、維持管理コストの増大が地方の負担になっている。

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老朽化したインフラの維持管理コストが増加

ここで一度、日本全体に戻ってインフラの現状をみる。

国土交通省所管の社会資本投資額をみると、1970年代から1990年代にかけて投資額が大幅に増えてインフラが新設されたが、徐々に維持管理費も増加している。特に近年は厳しい予算上限の中で維持管理コストが相対的に上昇している。さらに、今後も老朽化した設備が増加するため、従来通りに更新すると現状を維持するだけでも予算が不足することになる。

こうした状況に鑑みると、かつての社会資本投資が地方に重くのしかかっていることが推測される。

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低密度人口の地域では投資効率が低下

地方への社会資本投資には、効率性の観点でも問題がある。基本的に投下地域を絞るほど効果は高くなるため、従来通り一律の投資を重ねても成果を生まない可能性がある。

都道府県別の人口集中度と社会資本の投資効率をみると、人口集中度が高いほど効率性が高い(効率性の指標は簡易的に県内総生産を粗資本ストックで割ったものを使用)。同様に人口集中度が高いとサービス業などを中心に労働生産性が高まりやすい。これは公共サービスにおいても同様で、人口が薄く広いほど自治体の管理コストは増加する。

従って、今後資本投下をするとしても、選択と集中により効率性を高めない限り、効果が生じないどころか長期的にはマイナスの影響を与えかねない。

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選択と集中には痛みが伴う

一方で、選択と集中による投資効率の改善を具体的に考えると、居住者にとっては多くの痛みを伴う可能性がある。公共サービスや活性化のための支援を含め、財源が限られる中での選択と集中は、選択されなかった地域への投資低減につながるためだ。

人口密度と社会資本ストックの効率性の観点では1k㎡あたり1000人がひとつの境目となることから、東日本において1k㎡あたり1000人以下の地域を下図に示す。関東に比べて東北地方は大部分が1k㎡あたり500人以下であり、人口の1割程度がこうした低密度地域に居住すると推測される。

これらの地域すべてに対して一律・継続的な資本投下が困難なことは明らかだが、居住者がいる以上何らかのサポートは必要であり、そのバランスが重要となる。

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人口対策だけでなく資本配分の議論が必要

コンパクトシティという中心市街地を軸としたまちづくりの考え方が掲げられて久しいが、地方での人口集積が進んでいないのは、痛みを許容せずに資金を投下していたことも影響しているだろう。事業ポートフォリオと異なり居住者を切り離すことはできない一方で、投資効率を考えなければ日本全体が沈下しかねない。

地方移住や出生率の向上施策など人口そのものを増加させる取り組みも、過疎化した自治体のまち興しも当然重要だが、日本全体の方向性を検討するうえでは、どこに何をどこまで投資すべきか、資本の配分についてより深い議論が必要になる。

政治の役割のひとつである富の創造と分配において、かつて右肩上がりの時代には、増加する富を地方まで分配することが可能だった。しかし、成熟期にある中で資本は限られており、より効率的な富の創造と効果的な分配が求められる段階にきている。そのことを政治と有権者双方が認識し、より建設的な政策検討を進めたい。

 

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