中国の巨額インフラ投資の功罪2015.08.01

中国の巨額インフラ投資の功罪2015.08.01

前回の記事「ヒト・モノ・カネで見る『地方創生』」の中で提示した、インフラの維持コストと同様の問題は中国でも起こりうる。今まさにインフラ整備が進んでいる中国では、インフラ投資が経済成長に大きく寄与している一方で、日本よりも大規模かつ急激であるため、将来的な問題は日本よりも大きい可能性がある。インフラの投資が経済に与える影響を、「SPEEDA」も活用して長期的視点から考えてみたい。

Nijie Kuboki

中国の巨額インフラ投資の功罪

2010年前後は中国経済が世界をけん引

インフラの問題に入る前に、まず世界における中国経済の位置付けを確認する。

リーマンショックにより世界的に経済が低迷した2009年、またギリシャ問題で2012年以降欧州が低調である中、中国経済の成長が目立つ。

特に2009年は中国でのいわゆる「4兆元投資」により主要国ではほぼ唯一のプラス成長となり(日本は為替によるもので円ベースではマイナス)、世界経済の大幅な減速に一定の歯止めをかけたといえる。

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中国経済は固定資本投資が主軸

では、その中国のGDP(国内総生産)はどのように構成されているのだろうか。

日本、米国と並べてみると、固定資本形成(政府および民間による公共事業、建設・住宅投資、設備投資など)の占める比率が大きいことがわかる。

かつて日本でもみられたように、モノの普及に伴う国の成長期にはインフラをはじめ、官民ともに投資が必要になるため、固定資本形成の比率が高くなりやすい。しかし中国は固定資本形成が4〜5割にのぼり、高度経済成長期の日本の3割前後と比べても高水準にある。

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景気刺激策としてのインフラ投資

GDPにおける固定資本比率が高い中国では、当然ながら成長率に対しても固定資本の投資状況が大きく影響する。

中国のGDP寄与度をみると、国内消費と並んで固定資本の形成が大きな割合を占めており、中国の経済成長において重要な要素となっている。固定資本に占める公的部門の比率は正確には不明であるが、固定資本投資額からは日本の高度経済成長期に準ずるか、それよりやや高いと考えられる。

特に前出の「4兆元投資」は、中国政府が経済危機からの脱却を目的に、GDPの約15%に相当する大規模なインフラ投資を行ったもので、2009年においては4〜5%の寄与があったものと推測される。

また、近年減速している国内景気対策として、中国政府は今年6月にも主要な建設プロジェクトの投資促進策を強化する方針を出している。本件はPPP(官民パートナーシップ)による資金調達を計画しており、総額2兆元規模に上る。

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中国の道路、鉄道整備は続く

このように大規模な投資を続けている中国だが、インフラに求められる水準にはまだ達していない。

停電や水不足などの問題はあるものの、水道や電力の供給網は100%近い水準でおおむね完了している一方、道路や鉄道の整備率は低い。国土の広いアメリカと比較しても拡充の余地があることから、景気刺激策という視点を除いても、しばらくはインフラ投資が続く見込みである。

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インフラ投資により道路が急速に普及

では実際のところ、中国はインフラ投資にどれだけの額を投じているのだろうか。

公共関連の固定資本投資は2014年で12兆元規模に上り、公共施設、道路、鉄道、電力への投資が大きい。

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ここでは最もわかりやすい道路でインフラ整備状況の推移を確認する。

道路部門には毎年1〜2兆元が投下されてきた。地域別の道路密度を2005年、2013年時点で比較すると、急速に道路整備が進んだことがわかる。沿岸だけでなく内陸でも1平方キロメートルあたり道路延長が0.75キロメートル以上の地域が大部分となり、物流網が整いつつある。

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コストをかけても効果には疑問符

しかし一方で、道路密度の上昇率は各地域の生産性に影響を与えていない可能性が高い。地域内総生産や貨物輸送量の増加率と道路延長の増加率を比較すると、今のところほとんど相関性がみられない。

内陸部の人口密度は依然として低いままであり、企業誘致や域内における消費需要の喚起につながっていない。これはインフラ投資が景気刺激策にはなっても、地方部における根本的な経済力の向上にはあまり寄与していないことを意味する。

日本でも同様だったが、道路密度が改善しても人口分布が薄いため、費用対効果が発揮できていないと考えられる。農村部からの出稼ぎなども影響を与えているだろう。

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将来的に維持更新コストが急増

日本でも、かつて整備されたインフラの維持・更新に現在膨大な費用がかかっているが、中国では日本よりもはるかに規模が大きく、かつ20年と日本の半分程度の期間で整備されたため、コストが一気に増加する懸念がある。

毎年の維持管理費用を、投下したコストの1%程度と考えると、今後中国は交通インフラだけで2000万元(約4兆円)以上の費用がかかる計算になる。また通常の設備更新は30~50年後になるが、施工技術や環境などの要因によりさらに早く老朽化が進むことも考えられる。

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上図は日本におけるインフラ整備コストのモデルを簡易的に中国の交通インフラに当てはめた投資費用イメージである。

2014年の投資額を上限に道路・鉄道網を米国程度の水準に抑えるなどのケースを仮定しても、2060年代の更新費用は10兆元以上に上る。

中国のGDPは今後も成長が続くとの推計がなされているが、2050年には人口、生産年齢人口ともに減少期に入っており、財源も限られる中で、これまでのようなインフラ投資は困難であることが予想される。

今後、徐々に低成長時代に入っていく中国において、運営、維持管理の手法、資源配分などは日本以上に重要な問題となるだろう。

日本の課題克服がモデルになる可能性

一方で、課題先進国である日本の企業にとってはチャンスとなる可能性もある。

日本でもいまだ成功しているとは言えないが、公共サービスの事業化、PPPの活用、効率的な設備更新の技術などは強みとなるだろう。

近年海外に進出しつつある介護サービスのようにノウハウと実績が蓄積されれば、海外展開が難しいとされる市場でも商機が見いだせるかもしれない。