SPEEDA総研 現状総点検 #3 おカネの流れを整理する~企業・給与・消費~2015.10.14

SPEEDA総研 現状総点検 #3 おカネの流れを整理する~企業・給与・消費~2015.10.14

現状総点検第3弾。消費には給与が大きく影響する。その給与には企業の利益動向が影響。過去から現在に至るまで、おカネはどのように動いてきたのか。現状はどうなっているのか。実際の数字を見ることを中心に確認していきたい。

Nozomi Nakagawa

SPEEDA総研 現状総点検 #3 おカネの流れを整理する~企業・給与・消費~

企業業績:経常利益と現金・預金は過去最高水準

まず、企業業績の概要をみてみる。財務省「法人企業統計」から、一部の項目を抜粋した。総額では規模に違いがあるため、1954年4ー6月期を100として示している。
grp01_法人企業統計

経常利益が過去最高となっていること、現金・預金が積み上がっていることなどについては、下記の記事でも触れている。

2015年3月14日掲載:賃上げがアベノミクスの成否を握る

給与総額のピークは1998年

国税庁「民間給与実態統計調査」をみると、給与総額が過去最高となったのは1998年の222兆8374億円。その後、2012年までは緩やかに減少していた。
grp02_給与総額の推移

消費支出のピークは1993年

総務省「家計調査」(2人以上の世帯(農林漁家世帯を除く))をみると、過去最高となったのは1993年の33万5246円。給与総額の推移とほぼ同様に、2011年までは減少が続いた。なお、2013-2014年の消費支出総額は前年比0.4%増だが、増税を考慮すると実質的には増加していない。
grp03_消費支出の推移

20年以上に及ぶ経済の停滞、依然として抜け出せず

企業の売上高、給与総額、消費支出の総額をグラフに示した。それぞれ過去最高であった年を100としている。
grp04_各指標ピーク年からの推移

1990年代に入るまでは、消費の活性化が企業の業績向上につながり、連動して給与も上昇、さらなる消費側の需要増へとつながる流れが表れている。しかし、1990年代初期に消費の低迷が始まって以降、依然として大きな回復の兆しはみられない。

民間消費はGDP需要側の60%を占める。消費の冷え込みが経済全体に与える影響も大きい。

企業の業績は回復したが、給与には反映されず

先ほどのグラフで注目したいのは、2002ー2007年の動きである。

給与と消費の減少傾向が続く一方で、企業の売上高は伸びていた。ここで、企業の業績にあわせて給与が伸びていれば、消費につながった可能性はある。

もちろん企業側にも、業績見通しの不透明感や、給与は一度上げたら下げにくいことなどの要因が慎重さを増していたこともあるだろう。

消費を押し上げるためにも、賃上げは必須

法人企業統計を見てみると、人件費のピークは1999年であり、足元ではピーク対比約92%の水準となっている。一方で、現預金は169兆円まで積み上がっている。その間、賃金と消費支出は実質ベースで以下のように推移している。
grp05_06_実質賃金指数_実質増減率 (1)

実質賃金は、1990年代に入ってから直近まで緩やかな減少傾向。消費についても、2014年4月の消費増税で大きく増減があったほかは、横ばいから脱していない。2012年以降、企業の経常利益は前年を上回る成長を維持しており、ある程度の賃上げの期待が高まるのは自然な流れである。

しかし、当然ながら企業側の支出は、人件費のみではない。たとえば、前回の記事で触れたような設備投資の問題もあるだろう。

1990年に入ってから直近の2014年にかけて、設備年齢(ビンテージ)は上昇を続けており、従来と同じ規模の新規設備投資が必要かどうかは、慎重な判断を要するが、生産性向上への投資とのバランスもあるだろう。そのほか、近年はROEへの注目度も高い。

積み上がった現預金を何に回すのか、企業側には適切な選択と集中が求められる厳しい時期であるともいえる。

ここまでの流れを整理

ここまで見てきたことをもう一度度整理する。

企業の業績は順調に拡大し、直近の2015年4ー6月期では経常利益が20兆2880億円と、過去最高水準を更新している。現預金も、2015年1ー3月期に171兆4081億円でピークとなった。一方で、売上高と営業利益は、それぞれピーク対比80.4%、93.9%と回復しきっていないことには注意したい。

給与総額は、1998年222兆8374億円をピークに減少。2013年はピーク対比89.9%の200兆3596億円である。

家計の1カ月当たり消費支出は、1993年33万5246円をピークに減少。2014年はピーク対比87.1%の29万1862円となっている。

企業業績の拡大、賃上げ、個人消費の回復へと流れがつながることで、さらに企業業績の拡大へと好循環が生まれる。しかし、3つの指標のピーク年を比較したグラフからもわかる通り、消費支出の回復が最も鈍く、足元でも弱いままとなっている。

社会の構造変化と消費の関係を考える

ここで、消費者側の実態に目を向けてみたい。本稿では、家計調査の中でも「2人以上の世帯(農林漁家世帯を除く)」を参照した。しかし、世帯数と人員数は以下のように変化している。
grp07_世帯数と1世帯当たり人員の推移

1960ー2010年までの50年間で、世帯数は倍増した。ただし、1世帯当たりの人員は、半減とまではいかないものの、4.14人から2.42人へと大きく下がっている。一方で、総世帯に占める単身世帯の割合は、ここ20年間で10%近く増加している。また、単身世帯に占める65歳以上の割合も増加傾向にあり、全体の世帯構造、年齢構造が大きく変わっていることがみてとれる。

また、上記で取り上げた人件費の統計についても、同様に人口ピラミッドの変化(従業員の年齢構成の変化)による影響もあることは、認識しておきたい。

1人当たり保有金融資産はよく報道されるが、その構成にも注目すると、現状は年代別でこれだけ開きがある。消費者のボリュームゾーンが保有する資産は、正社員の減少や、賃金カーブの上昇率抑制などの影響などにより、今後は従来に比べ低い水準となっていくことも予想される。
grp08_2013年年代別の金融商品保有額 (1)

報道される家計の消費支出の動向としては、2人以上の推移をみることが一般的だが、細かくみていく際には、今後は単身世帯の動向も重要度が増してくるだろう。

結局、消費を活性化させるとはいっても、高度経済成長期やバブル期と同じような消費行動を期待することは難しい。1990年代までに急成長したGMSが近年苦戦していることや、シェアリングエコノミーの拡大などは、消費行動の変化が明確に表れている事象といえる。

政府はGDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロ、一億総活躍社会に向けた具体的なロードマップを「ニッポン一億総活躍プラン」として取りまとめる予定である。このロードマップにこうした変化がきちんと認識されているか注目だろう。

世帯所有・個人所有、モノ消費・コト消費など、変化は確実に起きているが、より革新的な商品・サービスの出現が消費を拡大するうえで、ますます重要となってきている。

(文:中川 希望)