自動車の「次世代」、トヨタの方向性を確認 ~東京モーターショー2015~2015.10.31

自動車の「次世代」、トヨタの方向性を確認 ~東京モーターショー2015~2015.10.31

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析をおこなっています。以前、「日系自動車メーカーが直面する「次世代」の現状をざっくり理解する」を取り上げたが、今回は、先日トヨタが発表した環境戦略でHV、FCVの方向性が示されたことから、東京モーターショーを通じてトヨタの「次世代」の方向性を確認してみた。

Nozomi Nakagawa

自動車の「次世代」、トヨタの方向性を確認 ~東京モーターショー2015~

トヨタの環境戦略

2015年10月14日、トヨタ自動車から「トヨタ環境チャレンジ2050」が発表された。その内容は下記である。
04_トヨタ環境チャレンジ

 

これは、2050年までに、さまざまな地球環境の問題に対応し、社会にプラスをもたらすことを目指すものである。具体的には、新車のCO2排出量削減、部品から廃車までクルマのライフサイクル全体を通してのCO2削減、燃料の多様化、「水素社会」実現に向けた取り組みなど、6つのチャレンジを掲げている。

今回トヨタはHV、FCVの台数計画も織り込んだ。以前のSPEEDA総研でも取り上げたが、調査機関による今後の販売台数予測は以下のようになっている。この実現性には疑問があるところではあるが、今回は次世代自動車の方向性を確認するべく、東京モーターショーでトヨタの動向を確認してみた。
grp_販売予測

ハイブリッドの本命、新型プリウス

東京モーターショー2015で、トヨタからは4代目にあたる新型プリウスが出展された。この新型プリウスはTNGA(Toyota New Global Architecture)に基づいた新たなプラットフォームを導入する初めての車種になる。
prius

新型プリウスは、一部グレードでJC08モード40km/Lを実現。同クラスではトップレベルの最大熱効率40%を実現したエンジンの採用、モーター、トランスアクスルなどさまざまな部品も小型・軽量化が行われた。またプラットフォームの一新に伴い、車高は100mm以上も低くなると同時に重心も低くすることが実現されている。

特に、現行よりもノーズが70mmも低いが、このトヨタマークの位置は86と同じぐらいの高さといえば、その低さを実感できるだろう。従来と変わったところを挙げればたくさんあるが、開発に携わった製品企画の主査の方に伺った内容を少し紹介したい。

新型プリウスの製品企画主査に聞いてみた

そもそも自動車を開発する際には、何から決めるのだろうか。伺ったところ、「クルマの役目・コンセプト」を決定するのが最初のステップ。

今回の新型プリウスについては、最大のコンセプトは「環境車」であること。環境対応の基準をどこまで引き上げるか、普及台数はどの程度の規模を想定するかなど、そのコンセプトの枠組みを決めた上で、自動車そのものの性能や価格などへと議論を展開する。もちろん、国や地域ごとに異なる環境規制も当然守ることが開発の大前提である。

新型プリウスの開発コンセプトは、「Beautiful Hybrid(美しい地球・美しいクルマ)」。プリウスのDNAともいえる優れた燃費性能の進化はもちろんのこと、感性に響くスタイルやヒト中心のインテリア、ワクワクドキドキを感じさせる運転の楽しさ、先進の安全性能、そして災害時には電源供給のためのエネルギー機器になるという「社会との共存への配慮」を念頭に開発を進めてきた。

この主査が新型プリウスの開発に携わったのが2010年から。開発には約5年の年月がかけられている。以前のトヨタの基幹モデルは4年ごとのフルモデルチェンジサイクルであったが、近年は6年程度にそのサイクルも長期化してきている。こうした状況の中、プラットフォームも最低でも10年程度は使用できることが求められているという。

興味深かったのが、電池についてである。これまでのプリウスは、一部を除きほぼすべてのモデルでニッケル水素電池を使用してきたが、4代目に関しては、リチウムイオン電池の本格採用が発表されている。この点に関して、ニッケル水素電池とリチウムイオン電池の販売構成の予測を尋ねたところ、おおむねそれぞれ半数くらいを想定しているとのことであった。

両方の電池を使うために求められるのが、電圧や電池の出力をそろえることである。新型ではニッケル水素電池を3代目プリウスより高出力化しており、これに伴いリチウムイオン電池も「プリウスα」で採用したものから改めて設計しているという。

燃料電池車の取り組み

トヨタから世界で初めて公開されたものとしては、燃料電池自動車の新コンセプト「TOYOTA FCV PLUS」がある。
FCV

燃料電池車は、FCスタック(燃料電池)、水素タンク、バッテリーが、キーパーツとされている。

この車の特徴は、搭載された水素タンクに加え、車外から供給される水素からも発電が可能。駐車中などに保有する電力を他車および地域の電力網に提供することもできる。MIRAIよりも、積極的に電気を生み出すということに重きを置いており、このクルマ1台で、戸建てであれば10軒分、数台集まればスーパーマーケット程度の規模までの発電は可能とのことだった。

ただし、これは水素インフラが十分に整った社会で初めて役立つクルマとしてつくられたコンセプトモデルであり、系統電力につなぐリスクなど現状では依然として課題が多い。

FCVはEVよりも部品点数が多い。水素の貯蔵、化学反応、圧縮など、EVにはない機能が基本性能として求められるため、機能部品をより小さく軽くし、現在のような形状のクルマにするにも、相当の技術力が必要とのことだった。

また、常に水素とつながった社会であるためには、インフラのほか法規制も重要になってくる。

この車はあくまでコンセプトモデルであり、電池を始め自動車を構成するさまざまな分野の研究開発も常に行われている。現状は仕様を限定しないことで、さまざまな研究開発を模索しているようだ。

実際、燃料電池車の開発において、搭載が予定される電池についてもリチウムイオン電池だけでなく、ニッケル水素電池も研究、開発されているという技術者からのコメントもあった。FCVの場合、燃料電池のみでも走行は可能だが、補助電源とのハイブリッド方式にすることで、制動エネルギーを回収し、よりエネルギー効率を向上させることができる。燃料電池と双方の研究開発が進むことで、より早い段階でのコスト対策も可能かもしれない。

燃料電池車を支えるインフラ面を確認

水素インフラの現状についても確認するため、HySUT(水素供給・利用技術研究組合)方にもお話を伺った。

HySUTによると、水素ステーションは2015年度中に100カ所程度の設置を予定している。そのうち商用水素ステーションについては、2015年10月現在、全国81カ所への設置計画のうち28カ所が完了している。

経産省資源エネルギー庁のまとめによると、水素ステーションの基本的な整備費の内訳は以下のようになっている。
01_設備内訳

水素ステーションは、初期コストが約5億円と非常に高額。さらに半分以上を機器代が占めており、圧縮機や畜圧器といった水素に関連する機器が特に高いようだ。運用コストも年間3,000万円程度かかるとされており、さらに水素の調達コストは別途かかる。
02_水素ステーションシステム (1)

20151028_130313

現状、初期コストの半分は政府の補助金でまかなわれており、運用コストに関しては政府負担が3分の2、残り3分の1をHySUTに参加する自動車メーカー(トヨタ、日産、ホンダ)が負担しているのが現状である。水素に関しては、現状日本が最新技術を有しているとされているが、それでも商用化のためには、コストが大きな課題である。
03_企業団体一覧

ガソリンスタンドの場合、1SSあたり2,000台程度の利用顧客の保持が採算ラインとされており、耐用年数は10年程度となっている。それらの点は水素ステーションも変わらないという。水素ステーションは、標準モデルとして大型のものでは1時間あたり5~6台、少し小さいもので同2~3台の利用が想定されている。なお、1台あたり3分間の充てん方法やディスペンサーの形状といった部分に関しては、日本が主導することで世界基準を統一済である。

今後技術開発が進めばある程度のコストダウンは見込めるが、最終的にガソリン車と同程度までFCVの普及が進まなければ、大幅な改善は期待できないだろう。その普及についても、現状は補助金に頼る側面が大きい。

また、利便性の問題もある。水素を扱うには資格が必要で、ガソリンスタンドのように一般の利用者がセルフで扱うことはできない。この点については、安倍首相がリーダーシップを発揮して動いているようで、今後規制緩和がされるかどうかも焦点となる。

しかしながら、ガソリンスタンド数は年々減ってきているとはいえ、全国3万を超えており、EVの充電ステーションもようやく1万を超えた。それらと比較すれば、水素ステーションの数は、最終的な普及目標台数を考慮すると、不足感が否めない。

次世代自動車の本命はまだまだ不透明

水素インフラに関しては、基本的にFCVの普及にあわせて拡充していくとのことだった。一方、新型プリウスの製品企画主査に伺ったところでは、やはり水素についての課題の多さを指摘し、内燃機関にもまだ開発の余地はある、今後もガソリン、ディーゼル、ハイブリッドを軸として開発が進むのではないか、との見通しだった。また、PHV(プラグインハイブリッド)については、普及の時間軸は中長期を想定しているようである。

また、ハイブリッドといっても、ガソリンやディーゼルエンジンとモーターの組み合わせばかりではない。トヨタが発表した次世代タクシーの動力はLPGハイブリッドである。次世代と銘打ってはいるが、これも内燃機関の可能性を示す一例のように感じられる。

一方で、自動車というものには、近年注目度が高まっている環境対応のほかに、交通事故という負の側面もあることも忘れてはならない。
今回のモーターショーでも、自動運転車に注目が集まっているが、どちらかというと運転者の負担軽減の側面が強調されている感じもする。

自動車が、社会にプラスをもたらすことを目指すのであれば、環境対策だけでなく、完璧な安全対策も必須である。現在、世界の交通事故による死亡者数は年間約125万人といわれる。自動運転のような技術により、負の人為的要因を限りなく取り除き、交通事故ゼロの社会を目指すということは、自動車業界、また世界全体にとって、非常に大きな意義があることは間違いない。現にトヨタも「人・クルマ・交通環境」の三位一体の取り組みを推進し、モビリティ社会の究極の願いである「交通事故死傷者ゼロ」の実現を掲げている。

水素か電気かという議論が注目されがちだが、既存の内燃機関の可能性や、運転支援や自動運転などの安全対策の向上など、自動車そのものの定義が変わる時代が迫っているという認識を持つべきなのかもしれない。

(文:中川 希望)

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