マンションのライフサイクルコストと資産価値2015.11.04

マンションのライフサイクルコストと資産価値2015.11.04

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、今なにかと注目のマンション。新築面ばかりが注目されるが、今後問題が顕在化しそうな維持・修繕の問題を取り上げる。

Yo Yamadori

マンションのライフサイクルコストと資産価値

ライフサイクルコストに目を向ける

日本における共同住宅は約80年の歴史があるが、分譲マンションについてはまだ約50年しか年数を経ていない。1964年東京オリンピックの開催もあった1960年代の第1次マンションブームから1990ー2000年代の第6次マンションブームまで、高度成長期からバブル期など幾度かの隆盛期を経て、今日に至っている。

特に、1994年以降の都心回帰現象に伴いマンション需要が拡大、年間15ー20万戸の間で推移、ストックを積み上げた。その後も、超高層マンションの建設もあり2009年まで高水準が続いた。ちなみに、今回の傾斜問題が浮上したマンションが販売されたのもこの時期に当たる。

日本では新築志向が高いこともあり、イニシャルコスト(企画設計・建設費)に焦点が当てられがちだが、建物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3ー4倍の費用がかかるとされる。

規模や経年で異なり、たとえば、築40年マンションの場合、おおむね建設費がライフサイクルコスト全体の約25%、ランニングコスト(管理費)の保全費が約15%、修繕・更新費が約10%、光熱水費が20%、一般管理費が約25%という試算もある。

なお、ランニングコスト(管理費)には、リニューアル費や解体費は含まれていないこのことからも、ランニングコスト含め建設後の費用の充当が重要なことがわかる。新築市場においては、イニシャルコストが焦点であるが、ストック市場においては購入後のメンテナンスや修繕に目を向ける必要があるだろう。
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増加を続けるマンションストック数

全国分譲マンションストック数は、国土交通省によると、2014年末時点で613万戸となっている。このうち、築30年超のマンションが約151万戸を占めており、10年後には300万戸近くまで増加すると見込まれる。
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経年マンションの価値は、管理組合による修繕の実施と修繕積立金の確保、コミュニティによって大きく左右される。現実をみると、多くの管理組合で活動への参加者不足、理事長のなり手不足、賃借住人の増加や、負担金の回収困難といったさまざまな問題を内包している。一般的には、管理業務を一括、または、その一部を管理会社に委託しているが、そのマンション管理業界についてみてみる。

大京グループが管理戸数ではトップ

マンション管理業界は大手デベロッパーの子会社を中心とした展開がみられ、近年では独立系の事業者も出現している。2015年3月現在の総合管理戸数ベースでは、大京グループが53万戸で首位、次いで東急コミュニティが管理戸数47万戸と続き、業界トップを競う。

大京は、「ライオンズマンション」ブランドで知名度が高く、マンション販売戸数でトップの地位にあったが、2009年3月期の連結最終赤字に転落したことから、規模拡大よりも個別物件の採算を重視する戦略に方向転換した。これまでの販売実績の累積の結果、管理受託戸数も必然的にトップとなった。

なお、同社は、穴吹工務店をグループ化したことから、施工協力会社のネットワークも構築され、事業領域が拡がった。沿線開発の実績からエリアを拡大しトップの座にあった東急コミュニティを抑え首位となった。

3位にはリロ・ホールディンググループの日本ハウズイング、4位に長谷工コーポレーショングループの長谷工コミュニティが続く。5位は三井不動産系列、6位は大和ハウス工業完全子会社大和ライフネクスト、7位には独立系の合人社計画研究所を中核とする合人社グループが入り、業績を伸ばしている。本市場は、上位10社のシェアで約5割を占め、上位30社シェアで約7割を占める構造となっている。
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必ず発生する修繕、長期では建替えも視野に

大規模修繕が必要となる築12年(国土交通省マンション管理標準指針より)超のマンションは約427万戸にのぼる。特に、東日本大震災以降、1981年以前の旧耐震基準の物件は、106万戸、4万棟近く存在し、喫緊の課題となっている。

マンション寿命、そして修繕か建替えかについては、さまざまな見解があり、個々に条件が異なる。これについては、国土交通省も「マンション建替えか修繕を判断するためのマニュアル」を出しているので参照してほしい。

鉄筋コンクリートの駆体そのものは50ー100年の耐久があるとされるが、コンクリートの状態によっても左右される。いずれにしても、修繕を行いつつも、最終的には建替えを迫られる。最近では、老朽化したマンションを丸ごと売却するという選択肢も出てきた。

進まない耐震化

マンション建替えに係る法制度としては、2002年に区分所有法改正およびマンション建替え円滑化法の制定・改正が行われた。合わせて国土交通省によるマニュアルなどの整備や支援制度も進められた。

しかし、その後、耐震化が進んでいないことが問題視されていたことから、2014年12月には「マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律」(改正マンション建替え円滑化法)が施行された。

改正ポイントは、「マンション敷地売却制度の創設」、もう一つは「容積率の緩和特例」の2点に言及される。

マンション敷地売却制度とは、耐震性不足の認定を受けたマンションについては、区分所有者の5分の4以上の賛成で、マンションおよびその敷地の売却を行う旨を決議できるというもの。改正前は、多数決で売却することはできなかった。

もう一つの容積率の緩和は、耐震性不足の認定を受けたマンションの建替えにより新たに建築されるマンションで、一定の敷地面積を有し、市街地環境の整備・改善に資するものについては、特定行政庁(建築確認や完了検査などを自ら行う都道府県・市・特別区)の許可により容積率制限が緩和される。

なお、耐震性不足に対しては、改正マンション建替え円滑化法に先駆けて、2013年11月25日に施行された、「建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する法律(改正耐震改修促進法)」がある。

改正のポイントは、耐震改修計画の認定基準が緩和され、対象工事が拡大され新たな改修工法も認定可能となり、容積率や建ぺい率の特例措置が講じられた。区分所有建築物については、耐震改修の必要性の認定を受けた建築物について、大規模な耐震改修を行おうとする場合の決議要件を3/4以上から1/2超に緩和した。

建替え完了は12年でわずか211件

しかしながら、建替え工事完了済及び実施中又は実施準備中の実績は、2015年4月1日現在、243件に留まる。建替え事業の実施件数の伸びは鈍化しており、ここ数年は微増、年間10件に満たない状況にある。工事完了済のものは211件であり、このうち円滑化法によらない建替えは 149件、円滑化法による建替えは 62件を占めている。

マンションは民法の特別法としてのマンション区分所有法に基づくことから、一つの建物に多くの区分所有者が存在する。そのため、建替え事業では、合意形成、資金調達、既存不適格など法規制に係る問題が発生する可能性があり、事業が長期化するため市況の影響を受けやすいなどリスクを伴う。

マンション建替えができない場合は、老朽化に伴う居住環境の悪化や防犯上の不安や地震などによる災害、経年による資産価値の劣化、さらには周辺地域への連鎖も想像に難くない。
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建替え事業成立のポイントとは?

過去のマンション建替え事業の成功事例をみると、「都心の好立地で、容積率に余裕がある」、「市街地再開発事業のエリア対象区域」といった事例が多く、公団など公的機関により供給された物件が多いのも特徴である。計画的な修繕を行い、設備が陳腐化していない場合はほとんどみられない。

建て替えのスキームとしては、民間業者が参画し、「等価交換方式」を採用するケースが多い。等価交換方式による建て替えの場合、余剰容積率を活用することで増加した戸数を販売、その分譲代金を事業費に充当するため、負担金がゼロもしくは大幅に軽減される。
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修繕市場は2兆円超え規模に拡大するか

現状では建替えは進まず、まだ計画修繕による対応がほとんどとなっている。

マンション管理業協会によるマンション大規模修繕市場の市場予測をみると、共有部分と専有部分を合わせて、2015年で2兆円規模、2017年では2.7兆円まで拡大すると推計されている。これは、2014年度のマンション工事費用(※)2.9兆円を参考値として比べると、2015年の基本ケースで新築の約5割、拡張ケースで7割程度の規模となり、大きな市場とみることができる。

※マンション工事費用:建築統計年報(建築着工統計)の用途別:住居専用建築物かつ構造別:鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造鉄骨造の合計値
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進む高齢化と永住志向

マンション築年数の増加とともに、世帯主の高齢化も進行しており、60歳代、70歳代以上の割合が増加、50歳代以下の割合が減少傾向にある。これに伴い、永住意識が、1990年代初頭までの約3割から徐々に上昇、2013年度では52.4%が終の棲家として考えている。
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問題多い管理費・修繕積立金の滞納

マンション管理におけるトラブルの中で最も多い管理費等の滞納、3カ月以上の滞納があるマンションは約4割と高い数値となっている。さらに、築年数が経過したマンションほど滞納のある住戸の割合が高くなる傾向にある。

また、長期修繕計画を作成している管理組合の割合は、1990年代初頭では7割前後であったが、徐々に増加し、2013年度では89.0%、約9割まで高まっている。そして、25年以上の長期修繕計画に基づいて、修繕積立金を設定している管理組合が46.0%あり、2003年の19.7%から高まっている。

しかし、修繕積立金の積立額は、不足していると回答した管理組合が16.0%ある。なお、62%の管理組合は修繕積立金で大規模修繕工事費を支出できているが、築年数が大きくなるほど、一時金の徴収や借入金を必要とする管理組合が増加している。加えて、空き住戸の発生により区分所有者に対し追加修繕積立金の発生するリスクも否定できない現実がある。

旧耐震基準に基づき建設されたマンションにおいて、耐震診断を行った管理組合が33.2%、行っていない管理組合が58.0%となっており、実施割合は低い状況である。
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危惧されるマンション劣化の進行

このように、マンション建替えについては、まだ進捗が危ぶまれる。永住志向の高齢者世帯の増加、管理費や修繕積立金の滞納の増加、さらに空き家問題もこれに追い討ちをかけている。空き家問題は地方のみならず、都市部でも投資向けや賃貸化も増加しており深刻化している。

建替えどころか、修繕も難しい状況が垣間見えることから、マンション劣化の進行に危惧せざるを得ない。現状ではまだ潜伏しているこれらの問題が、近い将来表面化すると推察され、前述の修繕市場の拡大も不確実性が問われる。

期待されるマンションの資産価値の維持・向上

横浜の傾斜マンション問題で、分譲時の構造的な安全性や施工精度のチェックの難しさが浮き彫りとなった。同時に、マンションの資産価値についても、立場により判断の分かれるところとなっている。

一般にマンションの資産価値は、ハードとソフトの両面から判断される。マンションの耐用年数は、建築及びメンテナンス・修繕状況により物件により差があるとされるが、RC造及び、SRC造の税法上の法定耐用年数は47年となっている。

ハード面においては、定期的な修繕計画・工事、大規模修繕工事の実施により劣化を防ぐこととなる。ソフト面では、その修繕のための計画的、十分な修繕積立金が保全されていること。

マンション管理規約が遵守され、管理組合が自立的に運営されているかも重要である。同時に、第三者が客観的に住宅の検査・調査を行うインスペクションや情報の透明性も、制度として求められている。

今後のストック市場において、資産価値の維持・向上に向けた、取り組みが喫緊の課題となっている。