鉄道ビジネスの今、大手私鉄の動向を見る2015.11.11

鉄道ビジネスの今、大手私鉄の動向を見る2015.11.11

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は大手私鉄各社の動向を確認。鉄道会社の経営戦略は、鉄道を軸とした関連産業の開発と多角化で、その戦略は明治時代に遡る。その戦略は100年経過した現在でも有効なのか、鉄道会社をとりまく環境について各種データを検証する。

鉄道ビジネスの今、大手私鉄の動向を見る

鉄道のビジネスモデル

鉄道のビジネスモデルといえば、阪急電鉄の事業モデルが有名である。鉄道の敷設だけでなく、ターミナル駅での百貨店開業、沿線の住宅開発、郊外の宝塚劇場やホテルなど娯楽産業の開発を行い、輸送客の増加と不動産利益の獲得に成功した。

輸送サービスという手段に対し、不動産、流通、娯楽といった移動の「目的」となる事業は相乗効果を創出するため、多くの鉄道会社が同様のポートフォリオで事業展開をしてきた。

西武鉄道のように過剰な多角化はバブル崩壊後経営を圧迫したが、鉄道会社由来の事業の多くはグループまたは独立した経営体として現在も残っている。
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鉄道と沿線開発は相互に作用

現在では鉄道の新規開通はめったにないが、2005年に開業したつくばエクスプレス(TX)の沿線をみると交通インフラ整備の効果が顕著にみえる。

北千住以北では人口は減少基調にある中、TX沿線では人口が増加、地価も上昇している。TX自体が行政による出資に基づいており、沿線開発についても行政の支援が大きいことから割り引いて考える必要はある。しかし沿線には民間資本もかなり投下されており、開業10年後でも人口は増加傾向にあることは鉄道開業の効果を示している。

TXでは鉄道と沿線開発が分かれているが、私鉄では通常自社保有の土地を開発するため、その利益の大きさも想像できるだろう。

2010年~2014年における人口増加率、地価上昇率
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商業施設等の集客効果も顕在

商業施設や娯楽施設の集客効果は非常に高く、鉄道利用者増に寄与している。阪急電鉄における宝塚劇場のようなレジャー事業の効果は今もあるのだろうか。

少し古いデータになるが、平成23年度の大都市交通センサスによると、普通券利用、つまり居住者以外の利用が多い駅は舞浜やみなとみらい、国際展示場、二子玉川など娯楽・商業施設やイベント施設のある駅となっている。みなとみらいや国際展示場などは普通券利用が6割を超え、その集客効果の高さがうかがえる。
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レジャー事業と鉄道の相乗効果の具体事例では、東武鉄道とスカイツリーが挙げられる。
東武鉄道の運賃収入は、定期・定期外ともに2008年度から減少傾向にあったが、スカイツリー開業後は定期外収入が5%増加し、その後も維持を続けている。

スカイツリーやソラマチタウンなどの運営自体も利益貢献度が高い。2012年度の営業利益の内訳をみると、レジャー事業が大幅に拡大したことがわかる。

また2010~2014年における周辺地価をみると、スカイツリー隣接地点では15%以上昇、また少し離れているが浅草の地価上昇もスカイツリーの影響が大きいとされる。東武鉄道による沿線のマンション開発もあり、不動産事業にも寄与している。
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2010年~2014年における地価上昇率
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主要私鉄では多角化経営が一般的

ではここで主要私鉄グループの事業ポートフォリオをみてみたい。JRを含む上位10社の売上と事業構成比を比較すると、JR3社では交通事業が売上の大部分を占めるのに対し、私鉄では不動産や流通、レジャー事業など多角化が進んでいることがうかがえる。阪急阪神グループには現在流通・小売に該当する事業が見当たらないが、阪急・阪神百貨店などのH2Oリテイリングはかつて阪急電鉄、阪神電気鉄道から分離した事業であることに留意したい。
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さらに、上位私鉄企業について営業利益ベースの構成比をみると、各社とも交通(鉄道・バス等)事業と不動産部門が大きく、加えてホテルやレジャー事業、流通事業となっている。

売上ベースでは流通やレジャー事業の比率が高くなりやすいが、利益貢献度からみれば交通と不動産開発が中核であり、流通・レジャー事業は移動の目的や沿線価値創出の意味合いが大きいと考えられる。
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東急は継続的な不動産開発を実施

私鉄の中でも、東京急行電鉄(以下東急)は鉄道と不動産事業の相乗効果創出に長けている。阪急電鉄の事業モデルを東京に持ち込んだのが東急といわれており、交通事業の利便性向上、沿線の不動産開発とブランディング、レジャー事業を含めた多彩なポートフォリオで事業を展開してきた。

流通など低収益事業の売上比率が高いため全体の収益性はやや低いものの、輸送人員は私鉄最大、営業利益は首都圏地域で首位の位置にある。

特に二子玉川~中央林間にかかる東急多摩田園都市地域では、二子玉川、たまプラーザ、あざみ野、青葉台など多数の商業施設を展開、渋谷ヒカリエや二子玉川を始めとするオフィス物件、大井町線沿線の賃貸住宅など、継続的な沿線開発を行っている。
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その結果東急の輸送人員、運賃収入は私鉄大手の中でも増加しており、成果を挙げている。
東急の沿線人口は都心部ほどではないが増加のみられる地域が多いほか、横浜市営地下鉄の沿線人口も輸送人員増加に寄与している可能性が高い。

商業施設などの周辺は地価上昇率も高く、街のイメージ向上にもつながっていると考えられる。
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2010年~2014年における人口増加率、地価上昇率
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地方の路線は経営悪化が顕著

新規開業路線や東急沿線で人口が増加している一方、地方の鉄道路線や、関東でも外縁部にある中小の鉄道路線は人口及び利用者の減少に悩んでいる。関東地方の中小鉄道13社の合計輸送人員をみると、2004年度から2013年度にかけて17%減少した。2011年度以降横ばいとなっているものの、今後回復する可能性は低いと考えられる。

こうした第三セクターや中小の私鉄などは、沿線居住者の利用促進と、観光資源の活用など少ない経営資源の中で集客力を高めることが必要になる。
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日本の「沿線開発」を海外に輸出

ここまで鉄道と周辺事業の効果をみてきたが、母数となる人口が減少しているため、将来的に事業が縮小していくことは確実である。例えば東急の沿線人口は全国や関東地域と比べても人口減少速度は遅いが、2025年には減少に転じる見通しとなっている。

こうした状況の中で鍵となるのは海外事業になるだろう。近年ダイワハウスや総合ディベロッパーなど不動産開発に乗り出す事例がみられるが、中でも東急は2000年代前半から参画していたオーストラリアの宅地開発事業(鉄道開通予定地)、ベトナムホーチミン市郊外での街区開発、タイでの日本人向け賃貸住宅事業など積極的に事業を展開している。

東急のベトナムでの事業について、少し詳しく見てみよう。
東急は2012年3月、工業団地、住宅地、都市交通インフラなどを整備してきた現地のデベロッパーのINVESTMENT AND INDUSTRIAL DEVELOPMENT CORPORATION(BECAMEX IDC CORP.)と、ベトナム・ビンズン省における都市開発実施のための合弁会社を設立した。

開発地区のビンズン新都市は、ベトナム最大の都市ホーチミン市の北部約30kmに位置する。ビンズン新都市では同省の庁舎移転を前提に、BECAMEX IDCがインフラ、大学、住宅などの整備を進めてきた。東急は日本国内における街づくりのノウハウを提供、ベトナムへの街づくりパッケージ輸出は日本企業として初のプロジェクトとなる。
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東急の開発区域は、総面積約1,000haのビンズン新都市のうちまず約110haで、約7,500戸の住宅、商業施設、業務施設など総額約1,000億円規模の事業を実施する予定である。2015年には同新都市最初の商業施設hikariが開業、複合住宅SORA Gardens406戸の竣工式が行われるなど、順調な進行がうかがえる。

また、ベカメックス東急子会社のベカメックス東急バス(BECAMEX TOKYU)が2014年12月、日系初となる路線バスの正規運行を開始、旧省都と新都市内を結ぶ交通事業を展開している。

事業の成否が明らかとなるのは少し先になるが、アジアでも計画的な街づくりが注目されており、成功すれば大きな実績となるため、今後の展開に注目したい。

まとめ

100年前からの鉄道事業のビジネスモデルは現在も健在であり、大手鉄道事業者は不動産開発やレジャー事業の牽引により業績を伸ばしている。

しかし鉄道ビジネスのコンセプトはそのままでも、単に沿線に住宅を建てれば売れた時代ではなくなった。地方路線の現状は、人口減少が本格化した場合に誰もが勝者とはなりえないことを示唆している。近年各地で進んでいる再開発などのプロジェクトを活用し、ブランディングを含めて沿線の魅力を維持しつつ、収益性の高い事業ポートフォリオの構築が求められる。

一方で、東急のような海外事業の展開も今後は選択肢の一つとなりうる。土地の特性や商慣習の違いなどから不動産分野における海外展開は困難な点が多いが、一部事例にあるように、総合商社や総合ディベロッパーと交通事業者の連携による共同開発などの形も考えられるだろう。