航空業界、迫られる環境対応2015.11.14

航空業界、迫られる環境対応2015.11.14

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は航空業界の環境対応についてまとめた。フォルクスワーゲン(VW)の問題が自動車業界を揺るがしているが、同様に航空業界も環境対応が迫られている。その現状と方向性について確認してみた。

Nozomi Nakagawa

航空業界、迫られる環境対応

世界の航空機市場、現状を確認

まず、民間航空機の動向を確認してみる。日本航空機開発協会(JADC)によると、2014年の主要なジェット機運航数は1万7948機。機体メーカーとしては、米ボーイングと仏エアバス2社への依存度が非常に高い業界である。
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また、同年の輸送旅客数は32億7200万人。長期的な増加傾向にあり、2000年以降はさらに伸び率が加速している。
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強まる環境規制

航空機の漸増傾向を受け、航空セクターにおける排ガス問題の注目度が高まっている。欧州における規制の一つに、2005年以降導入されたEU域内排出量取引制度(EU-ETS)がある。これは、CO2などの温室効果ガスに関する排出量取引制度としては、世界最大規模である。

この制度によって、EU全体の排ガス削減目標に応じて、施設や企業に対する排出枠の割当量が決定される。2012年からは航空セクターも対象となっている。これを超過した場合は排出権を購入しなければならず、さらに近年は、オークションによる有償割当へと移行が進められており、環境規制への対応が急務となっている。

航空機のCO2排出量は3%

International Energy Agency(IEA)などの調査によると、2012年の世界のセクター別CO2排出量では、運輸が全体の23%。うち航空機は13%を占めている。国連のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)では、航空セクターのCO2排出量は、2050年には現在の2ー5倍に達すると予測している。
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なお、CO2以外も含めた航空機による排出ガスについては、下記のようなものが指摘されている。
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CO2排出量削減は全体の課題

以前こちらの記事でも言及したが、CO2の排出量削減は運輸セクター全体の課題である。

運輸セクターの燃料は、電力利用の鉄道を除き、95%以上を石油燃料に依存している。石油燃料は、単位あたりの発熱量が高いこと(ガソリンで1万1100~1万1500cal/g)、貯蔵・移送などの取り扱いが容易であること、配送ネットワークや給油インフラが整えやすいことなどの特徴があるためである。

機体製造における取組みと成果

輸送セクターの環境対策において、燃費の改善は欠かせない課題である。機体メーカー各社は、これまでさまざまな努力を重ねてきた。

自動車同様、航空機も軽量化による燃費の向上が求められている。機体メーカーは使用材料の変更を進めており、機体に複合材料が採用され始めたのは1970年代以降である。1980年代に入り、徐々に炭素繊維が導入されるようになった。参考にいくつかの機体の構造材料比を表示する。直近20年程度で、複合材料の構成比が大幅に上がっていることがわかる。

なお、近年は複合材料として炭素繊維の注目度が高いが、実際はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やグレア(アルミと複合素材の積層素材)など、さまざまなものが存在する。

A380では、素材の見直しにより機体重量が15トンも軽量化された。また、B787では、タイヤを従来比の8%軽量化している。重要なのは軽量化だけではない。B787は燃費が従来比20%向上しているが、そのうち40%はエンジン性能の向上によるものである。
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なお、先日初飛行となったMRJは、同型ジェット旅客機にくらべ燃費20%向上、CO2排出量20%削減を達成しているほか、NOx、PMを始めとした各種排ガスも軒並み5割以上削減されている。

エアライン各社の取り組み

機体メーカーだけではなく、エアライン各社もさまざまな取り組みを推進してきた。2000年代中頃から、食器や荷物コンテナなど機内の搭載物の素材を見直し、機体と同様に軽量化を図っている。

運航については、ディスパッチャーにより、揺れが少ない高度や風向きなど、さまざまな要因が考慮され、最適なフライトプランが作成されている。また、定刻通りの運航率向上は、顧客メリットに加え、消費燃料やCO2排出量削減の意味でも重要であるとされている。

またANAの発表によると、2014年度の整備施設におけるエネルギー使用実績は原油換算で約1220KLと、2010年度比で22%の削減率を達成している。

目標達成まではまだ遠いのが現状

このような業界としての努力があるにも関わらず、将来的な目標達成は現状のままでは困難とされている。

ICAO(International Civil Aviation Organization、国際民間航空機関)は、国際航空において、2020年以降CO2排出量を増加させないこと、2050年まで燃料効率を年率2%で改善することなどを目標としている。そのためには、機体の燃費向上や運航ルートの適正化だけでは足りず、代替ジェット燃料の開発が必須であるとしている。

IATA(International Air Transport Association、国際航空運送協会)も、具体的な行動計画として、2020年から航空機のCO2排出に上限を設定すること、2009ー2020年で世界平均年1.5%の燃費効率改善を実現すること、2050年までに2005年比でCO2排出量を50%削減することなどを表明している。またICAOと同様、代替燃料の導入を想定している。

航空機や旅客数が増加基調にある中で、CO2排出量を維持もしくは減少させていくことは、それだけでも相当の努力を要することだろう。さらに、改善や新分野の開発に関しても、明確に数値目標を設定されている。

代替燃料として有望なバイオ燃料

バイオ燃料とは、バイオマスを原材料として生成される燃料のことで、バイオマス燃料とも呼ばれる。バイオマスとは、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石燃料を除いたもの」と定義されている。

ガソリンなどの化石燃料と混合して使用することもでき、既存の内燃機関の改良が不要であるため、輸送用燃料としての注目度は高い。自動車向けの燃料として研究が進められているバイオエタノール、バイオディーゼルなどもその一種である。バイオエタノールはサトウキビ、トウモロコシなどの糖質やデンプン質の作物を、バイオディーゼルは植物油、動物性脂肪などの生物由来油をそれぞれ原料とする。

バイオジェット燃料は、バイオディーゼルと同様、油脂成分の原料から生成される。調査会社によると、バイオジェット燃料の世界市場規模は、2012年時点で約7400億円。2030年には16倍以上の規模に拡大し、11兆円を超える見込みとなっている。

なお、航空機に使用されるジェット燃料は、ケロシン系(灯油とほぼ同様の性質)とワイドカット系の大きく2つに分けられ、いずれも原油の蒸留過程で生成される。その使用される環境から、発熱量、引火点、氷点など、その他の輸送セクター向け燃料にはない特徴が求められる。

品質については「ASTM規格」により厳しく定められており、バイオジェット燃料にも同等の基準が課せられる。現在は3種類の合成方法が承認されており、そのほかは認証待ちとなっている。

次世代バイオのハードルは高い

食料や飼料用の作物を主原料とする燃料は、バイオ燃料の中でも第一世代とされている。これらバイオ燃料の製造には、プラントの設置や運用にかかるコストも含め、ガソリンの約4倍のコストがかかるとされている。原料の安定供給にも地域差があり、食料と競合する可能性もあるなど、コスト以外にもさまざまな問題がある。

第一世代に対し、非食用系の主原料から製造されるものは、次世代バイオ燃料と位置付けられている。バイオジェット燃料も、次世代バイオに注目しており、原材料としてはアブラナ、ナンヨウアブラギリ、塩生植物(海浜、海岸のような塩分に富む土地に生える植物)、藻類(ミドリムシなど)の4つが有力候補とされている。しかし、技術的ハードルや製造コストは第一世代よりもさらに高く、大量生産体制をとるまでにはまだまだ時間がかかるのが現状である。

一方で、世界各国の航空会社により、バイオ燃料を使用したテスト飛行や有償フライトが随時開始されており、着実な前進も見受けられる。燃料消費量を減らすため、近年はエンジンや各種システムの電動化も進められているが、業界団体としては、それらよりもバイオ燃料の商業化が先行すると見ているようだ。

コストの分担には議論の余地あり

エネルギー関連団体の報告書をみても、今後の需要予測に関して、電力以外の再生可能エネルギーは伸び率でいうとそれほど大きくはない。しかし、航空業界全体の方針として、バイオジェット燃料の開発を進めることは、現時点では確定している。

前述の通り、ジェット燃料はそのほかの輸送用燃料に比べて非常に特徴的で、規格を変更することはほぼ不可能とされている。その規格への適応について、第二世代のバイオ燃料は比較的期待値が高いようだ。

足元の運用に影響を及ぼさないためにも、新しい燃料はドロップイン型(現在の機体、エンジンなどをそのまま使用することが可能)であることが望ましい。液化石油ガス、水素燃料、アルコール類(メタノール、エタノールなど)などはこれに該当しないため、早期の採用は非常に困難である。また、航空機の機体は耐用年数が非常に長いため、中古やリース市場への影響も、考慮しなければならない点としてはあるだろう。

このような背景を考慮すると、現状では非常に限られた選択肢となっているものの、今後の研究開発次第では、現状の計画に対し、より効率的な製造方法や新素材の発見などの可能性がないとは言えない。すでにバイオ燃料の水素処理と水素燃料については示唆されている。

航空機のライフサイクル全体におけるトータルコストも重要である。市場における明確な価格競争力を持つまでは、政策的インセンティブは必須となるだろう。誰がどのようにコストを負担するのかについても議論の余地はあるだろう。エネルギー全体の需給環境にも注意しながら、今後の進捗に注目していきたい。

(写真:Akio Kon/Bloomberg)

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