厳冬期を迎える中国鉄鋼業界、現状と今後の方向性をみる2015.12.05

厳冬期を迎える中国鉄鋼業界、現状と今後の方向性をみる2015.12.05

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、中国の鉄鋼業界を取り巻く環境についてまとめた。

Rujun Li

厳冬期を迎える中国鉄鋼業界、現状と今後の方向性をみる

中国の粗鋼生産量は首位

世界鉄鋼協会(World Steel Association)のデータによると、2014年世界の粗鋼生産量は16億6200万トンとなり、前年度より1.2%増加した。地域別に見ると、中国の粗鋼生産量がトップで、前年度より0.9%成長の8億2000万トンとなった。2位は日本の1億1000万トンである。次いで、アメリカ、インド、韓国が3位から5位を占めている。
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1人あたりの消費量は日本レベル

地域別の粗鋼生産量と輸入量の合計から輸出量を引くと、その地域の粗鋼見かけ消費量が算出できる。各国の人口一人あたりの見かけ消費量を見てみると、中国は2014年で510kgに達し、2007年からの年平均成長率は約7%となっている。

また、この水準は、主要な工業国であるアメリカやドイツより高い。トップを占めているのは韓国であり、一人あたり鋼材の見かけ消費量は1118kgに達した。主な理由は、韓国の一人あたり自動車生産台数が最も高いことがあげられる。各種公開データによると、2014年韓国の一人あたり自動車生産台数は0.09台となり、中国の0.02台とアメリカの0.03台をはるかに越える水準となっている。

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生産能力の過剰に直面

鉄鋼業界は経済発展の基礎である。しかし中国の鉄鋼業界は急拡大し、生産過剰な状況に陥っている。生産能力過剰の状況は、基本的には設備利用率という指標から見て取れる。

欧米の水準からみると、79ー83%程度が合理的な水準と考えられ、75%以下となると生産過剰の状態と見て取れる。

中国工業和信息化部が発表したデータによると、2007ー2011年の間に中国鉄鋼業界の設備利用率は合理的な水準である80%程度(79ー81%)を維持していた。

しかし、2012年以降は、設備利用率は著しく低下し、生産過剰の状況が進んだ。2012ー2014年の中国の生産能力はそれぞれ10億トン、10億4000万トンと12億5000万トンだが、各年の粗鋼生産量はそれぞれ7億2000万トン、7億8000万トンと8億2000万トンだった。その結果、設備利用率は72%、75%と66%となり、生産能力過剰の状態が深刻化したことが明らかになっている。
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鉄鋼価格は低下が続く

中国鉄鋼価格も2012年から大幅に低下した。中国鉄鋼協会が発表した鉄鋼材料総合物価指数(1994年1月=100)は、2015年8月には2558ポイントとなり、2006年以来の最低水準に落ち込み、2008年7月の最高水準6805.61ポイントより62%減少した。

また、各鉄鋼製品の価格も同じように推移している。年間平均鋼材決算価格から見ると、2014年の平均価格は3074元/トンとなり、2011年の4468元/トンより31%減少した。このことも、中国鉄鋼業界が低迷期に陥る要因となっている。
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鉄鋼大国だが、技術面に課題

中国の粗鋼生産量は、世界のトップとなったが、全体の産業技術面から見ると、まだ中低レベルにとどまっていると言える。現に大半の中国鉄鋼企業の高付加価値鉄鋼製品の割合は半分以下である。また、高強度中厚寛鋼帯、特厚板、自動車用亜鉛メッキ鋼板などの高技術力製品の品質は、日本やドイツなどの先進国と比べて大きな差があることが明らかになっている。

基本的には、海外の鉄鋼業界において、特殊鋼の割合は10%ぐらいのレベルだが、中国では5%程度。しかも、そのうち、Q345C鋼板や合金鋼などの中低レベルの特殊鋼が約80%を占めている状況である。

鉄鋼貿易の面から見ると、中国は1998年には鉄鋼輸入量は1242万トンで、輸出量の359万トンより大幅に上回った。2006年から中国鉄鋼輸出量は初めて輸入量を超え、2014年には、輸出量は9378万トンとなり、輸入量の1443万トンと比較して約7倍になった。

一方で、輸出入の単価から見ると、1998年、1トン当たりの輸入単価は506.23ドル/トンに対して、輸出単価は471.10ドル/トンだった。また、2014年には、輸入単価は1241ドル/トンに達したが、輸出単価は755ドル/トンであった。これも中国鉄鋼業界は大半が低付加価値製品であり、高付加価値製品は輸入に頼っていることの一つの証拠である。

中国の輸出先を見ると、韓国がトップで中国輸出量全体の13.8%である1297万トンとなっている。上位10位の国や地域の中で、東南アジア地域は7つの地位を占めている。東南アジアでのインフラ建設が拡大することにより、それら地域で鉄鋼製品への需要が増していることが背景にある。

一方で、中国からの輸入鉄鋼量が増えることに対して、各国の鉄鋼会社は自国の市場シェアを守るため積極的に動いている。

2014年12月には、韓国のHyundai SteelとDongkuk Steel Groupは中国鉄鋼への反ダンピング訴訟を起こした。今後、中国から韓国への輸出は18ー33%の反ダンピング関税を徴収される可能性が高まっている。インド、アメリカやヨーロッパなどの各国や地域も同様な動きがある。
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川下業界の需要量から見ると、建築業の需要量が一番大きく、2014年には4億2000万トンとなった。2位は機械製造業であり、2014年の需要量は1億5000万トンとなった。自動車業界は3位を占め、鉄鋼需要量は5164万トンに達している。全体に占めるそれぞれの割合は56.5%、19.7%と7.0%だった。2014年世界の平均水準と比べると、建築業と機械製造業の割合が上回ったが、自動車の割合は低くなっている。
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集中度が低い中国鉄鋼業界

中国鉄鋼協会のデータによると、2012年には、中国鉄鋼関連企業は1万1031社に達した。そのうち、中小企業の数は1万608社であり、全体の96%を占めている。また、業界のトップ4の生産量が全業界に占める割合(CR4)は、2012年には22%であり、同年の日本の74%とアメリカの53%より低い水準となっている。

さらに、2014年には、中国鉄鋼企業のCR10は36%となったが、韓国とブラジルのCR3は90%と89%、ほかの主要鉄鋼製造国の日本、ロシア、インド、アメリカのCR4はそれぞれ83%、83%、67%、60%であった。

これまでの中国鉄鋼市場の拡大は、基本的には企業数の増加によって、全体の生産能力が増加した。中小企業が大半の業界構造は、規模の経済性を発揮できない状況であり、中国の経済成長が鈍化していることも、中国鉄鋼業界をさらに追いつめている。
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収益性と規模に課題ある中国企業

世界鉄鋼協会のデータによると、2014年世界粗鋼生産量のトップはArcelorMittalであり、その生産量は9808万トンとなっている。それは、2位の新日鉄住金(4930万トン)と3位のHebei Iron & Steel Group(4709万トン)の生産量の合計よりも高かった。

また、トップ10の企業の内訳を見ると、中国企業が6社を占めているが、純利益率がプラスになっているのは3社しかない。一方で、非中国系の企業の3社の純利益率はプラスであり、新日鉄住金は3.8%の水準である。
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さらに、同期間の粗鋼生産量ランキングのデータから見ると、2014年トップ50の1社あたりの平均生産量は1968万トンだったが、16位以後の企業は平均値より下回っている。

たとえば、50位のCITIC Special Steel Group(CHN)の生産量は793万トンであり、平均値より1175万トンも下回っている。さらに、50位から100位までの間に、生産量500万トン以下の企業は35社あり、そのうち中国系企業が22社を占める。

その22社の全体生産量は7648万トンであるが、これは3位のHebei Iron & Steel Groupと4位のBaoSteel Groupの生産量の合計より下回っている水準である。これも中国鉄鋼業界の集中度が低いことの表れとも言える。

また、一定規模以上の中国鉄鋼企業の合計売上高は低下し続け、2014年末には8056億元となり、前年度より15%減少した。2015年9月までの累積売上高総額も減少傾向が続き、前年同期比22%減の4930億元となっている。利潤額の面では、2015年8月から損失が出ており、9月の累積損失は38億元に達している。
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今後の中国鉄鋼業界の発展方向

「合併と再編」
前述したように、中国鉄鋼業界の集中度が低く、鉄鋼業界の規模の経済性を発揮できず、さらに中国経済成長が鈍化することにより、鉄鋼需要量も成長が鈍化することで、中国鉄鋼企業の業績は厳しさを増すことが予想される。

中国鉄鋼協会のデータによると、2015年上半期には、利潤額ランキングトップ10の企業の合計利潤額が165億元となり、前年同期より113%増加した。これに対して赤字のトップ10企業の合計損失額は139億元となり、前年同期より152%増加しており、収益性の二極化が進展していることが伺える。

このような状況は、鉄鋼業界が合併や再編のタイミングを迎えているとも言える。2014年には中国鉄鋼業界において大きな合併の案件は7件あり、民間企業が積極的にM&A活動を行っている姿勢に対して、国営企業の動きは停滞している。また、それらのM&A活動は主に特定の地域に集中しているという特徴を持っている。

2015年に入ると、中国政府は鉄鋼業界のテコ入れの為、業界の再編を計画した。3月に中国工業和信息化部が、「鋼鉄産業調整政策(2015年改訂)意見募集稿」を発表し、鉄鋼業界に合併や再編を加速することを要求している。

同政策では、2025年までにCR10を60%にすることを目指し、3社から5社のグローバル影響力を持つスーパー鉄鋼集団を形成しようとしている。また、中国工信部は『鋼鉄工業転型発展行動計劃(2015-2017)』を作成中で、未来の中国鉄鋼業界の発展方向を定める方針である。今後、国有鉄鋼企業の再編の動きも積極的になることが考えられる。

「海外への進出」
2014年から、中国政府は「一帯一路」の経済圏を提唱し、インフラ系の企業が海外に進出することで、さらにその規模が拡大することが予想される。そして、中国鉄鋼企業もその波に乗り、国内の過剰生産能力を一定程度消化することが期待できる。

中国税関のデータによると、2015年第1四半期までに、南アジアのインドとパキスタンが、中国から輸入した鋼材量はそれぞれ前年同期比207%増と124%増となっている。トルコ、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、イランの同国輸入量の増加率はそれぞれ200%、137%、110%と97%に達した。

東南アジアのベトナム、インドネシア、フィリピン、タイ、マレシア、ミャンマーの中国による鉄鋼輸入量の前年増加率もそれぞれ134%、114%、47%、79%、78%と77%となっている。

さらに、海外の需要が成長していることにより、中国鉄鋼企業も海外で拠点の設置を進めている。2015年3月27日には、Metallurgical Corporation of China(MCC Group)とMagang GroupはスイスのFerrumとカザフスタンで100万トン/年の鋼鉄生産合弁企業設立に関する覚書を締結した。また、Jiuquan Iron & Steel Groupもカザフスタンに生産拠点を設立する意思を表明している。

まとめ

世界粗鋼生産量がトップである中国の鉄鋼業界は、深刻な問題を抱えている。輸出が拡大する一方で、低い技術力の問題で競争力が徐々に下がっていくことが懸念される。さらに、中国鉄鋼業界の集中度が低いことで、規模経済性を発揮できず、経済成長の鈍化も加わることで、中国鉄鋼業界は厳しい冬の時代を迎えている。

2014年世界粗鋼生産量のトップ10の中で、6社が中国系企業であるが、その半分の3社が赤字である。今後、中国鉄鋼業界が好調に転じるためには、再編や合併、また海外への進出に本気で取組む必要がある。

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