貸切バス市場の動向をみる2016.01.30

貸切バス市場の動向をみる2016.01.30

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今年1月15日、軽井沢でのバス転落事故が発生した。詳細な原因は現在究明中だが、本稿ではその背景にある市場動向について概略をみる。

Nijie Kuboki

貸切バス市場の動向をみる

事故と安全規制を繰り返す

貸切バスは他の旅客輸送とともに2000年に規制緩和が実施されたが、以降大規模な死傷事故と安全規制を繰り返している。

2000年2月の規制緩和では、需給調整を前提とする免許制から輸送の安全等の資格要件を満たせば参入可能な許可制へ移行した。参入事業者数は増加したが、一方でさまざまな問題が発生する。旅行会社が手配した貸切バスにより実質上の高速乗合バス(以下高速ツアーバス)が運行され、直接契約関係にない利用者への安全性の配慮が問題となった。

2007年にあずみ野観光バスの死傷事故が発生、運転者の長時間勤務や低価格での運行受託などが明らかとなる。2010年には総務省が高速ツアーバスの安全対策について勧告を実施、国土交通省が対応策をとりまとめたところで関越道で再度大規模な事故が発生した。

そのため2013年から安全規制が強化され、高速ツアーバスから新高速乗合バスへの移行、交代運転者などの安全性強化、貸切バス料金の制度改正(値上げ)などが実施された。その流れの中で今回のバス事故は関越道事故を越える死者となり、さらなる制度改正につながる可能性は高い。
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貸切バスの分担率は1割未満

ここからは貸切バスの動向を俯瞰する。

国内の旅客輸送機関における貸切バスの分担率(輸送人キロベース)は6~7%で推移している。
分担率が大幅に低下した乗合バスよりも高いものの、市場としてそれほど大きいものではない。
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輸送量は2008年以降急減

輸送量の推移をみると1980年代に乗合バスを上回り、さらに規制緩和により増加したが、2008年以降急激に減少した。徐々に回復している乗合バスとは対照的な動きとなっている。
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事業者は増加したが市場は伸びず

規制緩和により事業者は一気に1,000社程度も増加、輸送量は微増となったが、一方で市場はむしろ減少した。パイが拡大しない中で激しい競争となり、必要以上の価格低下を招いた恐れがある。

2009年以降は事業者数が安定、営業収入は微増となっているため、状況は改善した。とはいえ、2000年時点を下回る営業収入に対し2013年時点で1.6倍の事業者数が存在している。
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赤字事業者が4割

そのような中で、貸切バス事業者のうち、2013年度時点で40%の事業所が赤字となっている。同年度における全産業11%、製造業13%と比べても多い。

2012年度から収支率は100%を超えており、新料金制度の影響もプラスに働くため改善が見込まれるとはいえ、特に中小規模の事業者は深刻な経営難となっている場合も多いと推察される。
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収入、実働率とともにコストもup

貸切バス事業者の経営状況の内訳として収入とコストをみてみよう。

規制緩和以降、1日1車あたりの収入(単価)、実働率ともに減少傾向にあったが、2012年より改善傾向がうかがえる。

他方コスト面では乗合バスのコスト構造を参考に示した。2009年から燃料油脂費が増加、コストアップの主因となっていたが、2014年はいったん落ち着きをみせた。2015年以降も当面は低水準での推移が予想されるが、一方で人件費は上昇傾向にある。貸切バス事業では運転者数が車両数を常に下回るなど人手不足が続いており、今後も最大のコスト要因である人件費が上昇する可能性は高い。
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運転者の給与はいまだ低い

人件費が上昇しているとはいっても、他業界に比べればいまだバス運転士の給与水準は低い。規制緩和による競争激化の中で、最大のコスト要因である人件費を削減してきた結果である。

運転者の平均年齢は全産業よりも10歳程度高い54歳だが、給与は100万円近く低い400万円程度である。2013年、2014年と改善しているとはいえ依然として全産業の水準には遠い。バス運転士の不足については、低い給与水準も一因といえる。
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運転士は高齢化が進む

10人以上の事業所について、運転士の年齢分布を示した。バス事業(乗合含む)は貨物輸送に比べても若年層が少なく、50歳以上が45%を占める。

これにはそもそも第二種の免許保有者が40代以降に偏っていることに加え、40代以下では貨物輸送の方が給与水準が高い傾向にあるため、若年層が貨物の運転士を選んでいる可能性がある。
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2014年の料金改定で売り上げ増の見込み

こうした問題に対し、適正な料金を得ることで安全性の確保につなげるため、2014年4月に料金改定が実施された。定められた範囲内の単価と、運行距離および所要時間に基づいて算定するもので、結果的に料金は値上がりとなる。

貸切バス市場において料金改定の影響は大きく需要は減少したが、全体での売り上げは増加となる見込みである。

貸切バスは2014年度の輸送量がマイナス7%、企業物価指数における貸切バスのサービス価格がプラス12%であったことから、単純計算で4%の増加となる。この傾向は2015年以降も継続しており、一定の収益性の改善が予想される。
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北海道では訪日客で需要増

全国的に需要減となっている貸切バス事業において、唯一堅調な北海道では訪日客の増加が需要を押し上げている。

関東、近畿でも前年比マイナスが続く中、北海道では冬季の需要が増加しており、その主因は訪日観光客とみられる。

宿泊客延数と、宿泊客に占める外国人比率をみると、冬季には訪日客の比率が2割に達し、貸切バスの需要増加にも大きく寄与している。
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車両数は増加しているがリスクも

こうした訪日客の増加を背景に、大型バスを中心として増車の動きが活発化している。バスの生産台数をみると、小型バスは2012年、大型バスは2014年9月頃から大きく増加した。

バスメーカーの生産能力はそれほど大きくないため、2014年度の保有台数の増加は大型バス1%未満であり、過剰供給とはいえない。しかし、従業員10人未満の零細事業者が多く、平均営業収入が1億円弱である貸切バス事業者にとって、1台3000~4000万円という費用は大きい。運転士の不足や最大需要先である国内団体等からの需要が不透明な状況下では、安定稼動が可能かというリスクは存在する。

なお、バスメーカーではすでに再編が終了し、中・大型バスについてはいすゞと日野の製造・開発部門を統合したジェイ・バス、三菱ふそうにほぼ集約されている。
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業界再編と独自企画が必要

今回の事故で貸切バス事業への参入に際して基準強化が検討されているようだが、業界が低迷から脱するには、事業者の整理・統合と旅行業者依存からの脱却が必要になるだろう。

少し古いデータになるが、はとバスの貸切バス事業は代理店経由の受注が8割になるという(2010年、はとバスなどの定期観光バス事業は含まない)。おそらく中小規模の事業者はほぼ旅行業者の下請けとなっており、それが競争激化を招く一因と思われる。

また旅行業者、貸切バス事業者ともに零細事業者が多く、従業員30人未満の事業所の占める割合は、事業所数でも従業員数でも高い水準を示している。
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貸切バス事業は需要の季節変動が大きく、多数の車両を保有するとリスクが高まるため、保有台数を減らし外部委託を活用することには合理性がある。しかし、自社企画商品などは一定の事業規模が必要であること、現状必要以上の価格競争に陥りがちであることから、ある程度の業界再編は必要になる。

競争と多様な選択肢を重視するあまり、安全性が損なわれるようでは本末転倒である。自動車輸送業界は規制などの要因もあって変革が進みにくいが、事業者、利用者双方のためにも攻めの改革が望まれる。

(写真:Shaun Lombard/iStock.com)