駅ナカと駅ビル~JR東日本の多角化戦略2016.03.26

駅ナカと駅ビル~JR東日本の多角化戦略2016.03.26

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、3月25日オープンの「JR新宿ミライナタワー」など、拡大が目立つJR東日本の周辺事業をみる。

Nijie Kuboki

駅ナカと駅ビル~JR東日本の多角化戦略

多角化に遅れをとるJR東日本

1987年に民営化した東日本旅客鉄道(JR東日本)だが、従来私鉄各社に比べて多角化が遅れていた。

私鉄事業者は一般に、都心から鉄道を引いて沿線で住宅地を開発、加えてターミナル駅の百貨店、住宅地のスーパーなど小売業を展開し、鉄道事業と住宅・不動産、流通事業が一体的となっている。

しかし、旧国鉄であるJR東日本では、一部ホテルや駅ビル事業を展開していたものの、民営化から10年経過した1997年度で鉄道以外の収入は3割に満たない状況であった。

その後、人口減少時代となる21世紀を迎えるに際し、JR東日本は2000年に「“通過する駅”から“集う駅”へ」を掲げ、多角化へ転換する。

2000年以降、駅のバリアフリー化や耐震化、高架工事に合わせて、駅ビルや駅スペース活用事業を展開した。

2001年にはコンビニ事業を統合し「NEWDAYS」が誕生、2005年以降は駅構内の一角にコンビニや飲食店舗を入れた「Dila」や「ecute」が次々と開業した。ルミネマン渋谷やルミネ有楽町など駅ビルから離れた立地にも出店している。売り上げをみても鉄道以外の事業費率が拡大していることがわかる。

しかし、その一方で、2014年度の私鉄の事業構成比と比べるとまだ多角化の程度は低い。私鉄のような大幅な多角化が必要かどうかはさておき、鉄道の集客力を生かした多角化を進める余地は大きいだろう。
20160326_SPEEDA総研_駅ナカ-01_各社比較

 

駅ナカは狭小店で売上が見込める

駅ナカ事業を詳しくみてみよう。

わざわざ集客をする必要のない鉄道駅という圧倒的な好立地を武器として、駅ナカはほかの小売業に比べて高い効率性を持つ。

1㎡あたりの売上高(年間)をみると、コンビニの中でも店舗売上高が高いとされるセブン‐イレブンは180万円、駅ナカと同様に食品比率が高い阪急百貨店大井食品館が230万円、グラフにはないが東京駅直結の大丸百貨店東京店が150万円と、一般の小売業では200万円程度が標準となっている。

一方、ecuteでは立川の140万円を除きすべて200万円以上であり、東京駅や品川サウスでは600万円前後と高水準を誇る。

規模の点でも品川サウスや上野では売上高が100億円を超え、小規模百貨店を上回る。
20160326_SPEEDA総研_駅ナカ-02_ecute×小売業_修正

駅ナカ売上は乗降客数に比例

では駅ナカ店舗の収益性に最も影響する要素は何か。

各駅の利用者数(乗降客数+乗継客数、2011年時点)と売上高をみると、1000㎡未満の小型店舗である東京駅を除き、売上高は店舗面積ではなく駅の利用者数に比例することがうかがえる。

なお、当然ながら1㎡あたりの売上高も利用者に比例する中、日暮里の1㎡あたりの売上高は上野駅の2倍程度と高い。これは空港利用者など利用者特性も影響していると思われる。
20160326_SPEEDA総研_駅ナカ-03_ecute×駅利用者数

収益性では駅ナカより駅ビル

他の小売業と比較すれば効率の高い駅ナカ事業だが、小売事業の特性上、JR東日本の事業の中では利益率が低い。

減価償却費が少なく費用の大半を変動費が占めると考えられ、比較的リスクの少ない点はメリットといえるが、営業利益率は運輸事業25%、不動産事業(ショッピング・オフィス)49%に対し駅ナカ事業(駅スペース活用)は15%と低い。

またターミナル駅の空きスペースが限られているため事業を拡大しにくい点が大きなデメリットとなっている。

駅ナカ事業の営業利益は、新規開業のないこともあり近年横ばいで推移しており、2007年度比の増加率は-5%。他方不動産事業は同21%で堅調に拡大を続けており、営業利益では全体の2割を占めるに至った。
20160326_SPEEDA総研_駅ナカ-04_利益率

 

 

不動産事業を拡大

既存の保有資産を活用し手軽に稼ぐモデルであった駅ナカ事業に対し、本格的な投資投下により稼ぐ事業が不動産事業である。

JR東日本の不動産事業(ショッピング・オフィス事業)にはルミネ、アトレなどが含まれ、百貨店とは異なり、テナント誘致による賃貸収入が主となる。特にルミネ有楽町の開業は、西武百貨店撤退後であったことや、ルミネが駅ビルを離れた出店として注目を集めた。

ショッピングビル以外にもオフィス物件も開発しており、Tokyo Station City(東京駅周辺エリア)のサピアタワーなど多数の物件を持つ。

2000年代後半以降も積極的な開発が続いてきたが、今年以降さらに大規模開発事業が開業見込みとなっている。
20160326_SPEEDA総研_駅ナカ-05_表

20160326_SPEEDA総研_駅ナカ-06_ショッピングセンター

JR新宿ミライナタワーがオープン

最後に25日にオープンしたJR新宿ミライナタワーの概要を記載する。

オフィス、商業施設、多目的ホール、保育施設などを含む複合施設で、総工費580億円、延床面積11.1万㎡、32階の大規模施設である。駅舎が線路上空2階に移転、その跡地に高さ約170mのタワービルを建設した。

JR新宿ミライナタワーはオフィス、商業施設、多目的ホール、保育施設などを含む複合施設で、総工費580億円、延床面積11.1万㎡、32階の大規模施設

JR新宿ミライナタワーはオフィス、商業施設、多目的ホール、保育施設などを含む複合施設で、総工費580億円、延床面積11.1万㎡、32階の大規模施設

商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」は駅ソトであるミライナタワーの6フロアと、駅ナカの双方にかかる横断的な施設となっている。

売場面積は約7600㎡、100店舗が予定されており、飲食店も多数入居する(飲食店の多くは第2期の4月15日オープン)。想定顧客層はルミネ1、2よりも高めの年代で、大人向けのポジショニングをとるようだ。

商業施設「NEWoMan」(ニュウマン)は駅ソトであるミライナタワーの6フロアと、駅ナカの双方にかかる横断的な施設となっている

商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」は駅ソトであるミライナタワーの6フロアと、駅ナカの双方にかかる横断的な施設となっている

20160326_SPEEDA総研_駅ナカ-07_表

今後~駅ビルを離れるか

ミライナタワーは近年の駅周辺商業施設開発事例をみても遜色のない規模であり、新宿という立地から大きな収益が期待できる。

しかし、本件は一般に公表されたのが2008年と、オープンまで最低でも8年以上の期間をかけている。

私鉄企業と比べると依然として鉄道事業への依存度が高いJR東日本が、さらに不動産事業の拡大を図る場合、自社保有資産や駅ビルに限らない立地への展開が必要になる。ほかの百貨店とともに、今後も同社の動向が注目される。