SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は今話題の自動車業界。出そろった大手3社の決算と各社の動向についてまとめた。
Nozomi Nakagawa
日本の自動車3社の業績動向を見る
トヨタ・日産・ホンダの決算を確認
先週、日系メーカー大手のトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業(ホンダ)の2016年3月期決算が出そろった。3社とも過去最高業績を更新している。
今期は為替の円高進行が予想されている。営業利益の増減についても、日産は▲2,550億円、ホンダは▲3,030億円、トヨタに至っては▲9,350億円と大きくなる見通しとなっている。
また、トヨタは諸経費の増加ほかによる▲5,400億円も注目すべき点である。現時点では、2月の熊本地震による工場稼働停止の影響は織り込んでいない。
なお、今期のグループ販売台数計画は、3社とも前年同期比約3%の増加を見込む。近年低迷が続く日本市場についても、トヨタと日産は増台の計画である。
三菱自は日産の傘下に
先日、三菱自動車と日産が資本業務提携に合意したことが発表された。
日産は、三菱自動車が行う第三者割当増資を引き受ける形で株式の34%を取得し三菱自動車の筆頭株主となる。業務提携の具体的な方針及び内容等については、今後協議が進められる予定となっている。
三菱自と日産の販売状況を確認
簡単に両社の販売状況を確認する。2015年度の世界販売実績は、三菱自動車が104.8万台、日産が542.3万台で、三菱自動車は日産の約5分の1の規模である。
日産・ルノーの2015年(暦年)販売台数は852.8万台。三菱自動車と単純合算すると約955万台の規模となる。
車種や地域の構成に違いはあるものの、トヨタ(1,015万台)、VW(993万台)、GM(984万台)に次ぐ販売規模となることが想定される。
三菱自動車は、台数のインパクトこそ小さいものの、地域別ではASEANにおける強さが目立つ。
日産は、2016年度までの中期経営計画において、グローバル市場占有率8%を掲げており、今後の成長市場であることも考慮すると、ASEANの販売網は着実に固めておきたいところである。
なお、全車種における軽自動車の構成比率をみると、日産28%に対し三菱自動車は44%にのぼる。さらに三菱自動車は、国内販売10.2万台のうち5.9万台と半数以上が軽自動車となっている。
トヨタとの提携関係が広がる
三菱自動車と日産以外のメーカーに目を向けてみると、各社のトヨタとの提携関係が以前にも増して強化されつつある印象である。
2015年5月、トヨタとマツダの業務提携が発表された。
それ以前から、トヨタのハイブリッドシステム技術のライセンス供与や、マツダのメキシコ工場におけるトヨタの小型車生産などで業務提携を行ってきたが、両社の経営資源の活用や商品・技術の補完など、継続的な協力関係の強化を図っている。
先日「SUBARU(スバル)」へ商号変更を発表した富士重工業も、2005年10月以降トヨタが筆頭株主となっている。
同社は2007年からトヨタの「カムリ」を受託生産することで、北米工場の稼働率を維持してきた。
現在は、今年8月をめどにトヨタによるダイハツ工業の完全子会社化が進められている。
両社の技術やノウハウを融合しつつ、ブランド差別化や商品ラインナップの最適化、生産効率化などグローバル戦略を一本化していく。
また、スズキとの間についても、両社からの正式な発表はないものの、提携交渉が開始されるのではないかといわれている。
ホンダはタカタへの対応に注目
一方、ホンダには特に大きな資本関係がみられない。
今後の技術開発の方針として環境対応と自動運転を挙げており、FCV(燃料電池車)「クラリティ フューエル セル」の発売、自動車では世界初のセル生産システム「ARCライン」の導入など、自社の戦略を着実に推進している。
しかし、直近ではタカタのリコール問題への対応を迫られている。タカタの2016年3月期決算は、リコール追加費用を特別損失として計上し、130億円の赤字となった。
今期の連結最終損益見通しは130億円の黒字としているが、原因が特定できない大半のリコール負担は織り込んでいない。
ホンダは、エアバッグインフレーターに関連する製品保証引当金繰入額として、2014年度約1,200億円、2015年度約4,360億円を計上した。
リコール対象台数は全世界で1億2千万台近くに拡大するとみられており、今後もある程度の費用負担は発生するとみられる。
EV、PHVでは、日産、三菱自が存在感
ここで、世界のEV(電気自動車)、PHV/PHEV(プラグインハイブリッドカー)の販売環境と各社の戦略を改めて確認してみる。
下記に2015年のグローバル販売台数をまとめた。
ちなみに、PHVとPHEVという2種類の呼び方があるが、基本は同じである。ただ、国によって主な呼び方が違っている。
日本では経済産業省がPHVと呼び、米国環境保護庁(EPA)はPHEVとなっている。米国ではPHEVもさらに区分けがされている。
プリウスを筆頭に「HV」を推進してきたトヨタは「PHV」を、日本初の量産型の「EV」i-MiEV(アイミーブ)を発売した三菱自動車は「PHEV」を「プラグインハイブリッド」の呼称として使用している。
EV、PHVともに中国系メーカーが急速に台頭していることがうかがえる。EVでは、Tesla Motorsが目立つが、その他メーカーはEV以外の車種もそろえた中での台数であることは考慮すべき点である。
PHVでは、三菱自動車が2位以下に差をつけてトップである。
一連の騒動により、今後各社のポジションも変動することが想定されるものの、現状のEVとPHV動向においては、日産・ルノーと三菱自動車の合算で世界トップクラスの規模を有することが見て取れる。
日産は、量産型EV日産リーフでEV市場をけん引してきた。
2015年11月に北米で販売開始した最新リーフには、30kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載、航続距離を従来から20%以上伸ばした。
ただし、足元ではハイブリッドにも注力していく方針を示しており、2016年度末までにHV15車種を追加するとしている。
三菱自動車は、今後の商品展開戦略としてSUVのラインナップ拡充や電動化に注力するとしていたが、日産の傘下に入ることに伴い、EV開発は日産に一本化されることとなっている。
三菱自動車は、当初2020年度までにSUV「RVR」のEVモデルを投入する計画であったが、経営資源が限られるなか、得意分野への集中という路線変更をせざるを得なくなった。
日産としては、三菱自動車との相互OEM供給や基礎研究分野の整理、電池の仕様統一など、グループ全体の効率化と最適化を進めることができる。
同社の中長期的な投資計画には、より注目度が高まったといえる。
今後の投資の方向性に注目
投資という観点で、冒頭で決算を確認したトヨタ、日産、ホンダの3社について確認してみる。
まず設備投資について、トヨタは現場の改善や新規工場の初期コスト低減などが進んでいる中、今後も増加の見通しとなっている。
「意志ある踊り場」を脱し「意志ある投資」へと段階が変わった今、具体的な投資内容には注目である。
また、ホンダは足元で減少傾向となっているが、有報時点での詳細な数値は改めて確認したい。
研究開発費の推移もみてみる。自動車事業のみの数値を参照すると、販売台数1台あたりでは下記のようになる。
トヨタは、プリウスやMIRAIを始め、技術的にもコスト的にも障壁の高い段階から開発に取り組み、着実に車種へと反映を続けてきた。
その中で、1台あたりの研究開発費は安定しており、資本や基礎研究などの体制が盤石であることが改めてうかがえる。
2009年度以降低下してきている日産が、投資計画見直しにより長期的にはどの程度反映されるかに注目したい。また、ホンダは、二輪や航空機にも注力しながら、足元では四輪への投資も加速している。
トヨタ、日産、ホンダの3社は、国内における水素インフラ開発の支援も行っており、その進捗も気になるところである。
まとめ~再編の動きが拡大へ
近年の自動車業界においては、車体モジュール化、部品共通化などの流れを受けて、部品メーカー同士のM&Aによるメガサプライヤー化、経営資源の選択と集中の動きが強まっている。
完成車メーカーについても、規模の拡大から、経営基盤の安定化や持続可能な研究開発体制の構築といった段階へ移行しており、各社ケイレツサプライヤーや販売体制の再編を進めてきた。
足元では、完成車のブランド統合を含めたより大きな再編へと発展しつつある。
今回の日産・三菱自動車の提携により、完成車メーカーの再編が加速することは間違いないだろう。さらに、その動きは特に日本国内の販売網の再編へとつながっていくことが予想される。
現在トヨタは全国5,000店舗以上展開している。日産は約2,100店舗、ホンダは2,216店舗となっている。
今回の提携により、日産に三菱自動車の約630店舗が加わり、日産・三菱の国内販売店舗数はトヨタに次ぐ規模となることが想定される。
今後は、各社販売チャネルの整理を進める必要がありそうだ。
燃費や排ガスなどへの対応は、自動車産業にとって最大の課題とされてきたが、昨年のVWに続き三菱自動車、スズキと一連の報道を受けて、基準やフローの厳格化、透明化への要求は、世界的により加速していくと考えられる。
一方、新分野への研究開発についても、各国政策の影響が大きい水素インフラや、国や地域ごとに前提が異なる自動運転技術など、判断が難しいのが現状である。
特に日系大手3社にとっては、規模を拡大してきたがゆえに直面している課題ともいえる。
現在は、自動車メーカー各社の「人・クルマ・交通環境」への包括的な取り組みを通じて、自動車そのものの再定義が進んでいる。
今後の「いいクルマ」には、車両としての性能だけではなく、社会全体へいかに貢献していくかが求められることになるだろう。
その中で、各社が何を優先し、どのように取り組むかに注目していきたい。
(写真:Bloomberg)