日銀のETF購入戦略から見る、名目GDP600兆円への道筋2016.05.28

日銀のETF購入戦略から見る、名目GDP600兆円への道筋2016.05.28

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、4月から始まった設備・人材投資ETFに関連して、今後の各種投資と経済発展の方向性を考える。

Nijie Kuboki

日銀のETF購入戦略から見る、名目GDP600兆円への道筋

まず、設備投資や雇用の現況を確認したい。

2015年度GDPでは増加

GDPの民間企業設備は、2007年水準には及ばないが増加している。

GDPへの寄与度においても、2015年度の0.2%は、家計消費寄与度が-0.2%であったことを考えると堅調だったといえる。
1_GDP

4-6月期機械受注はマイナス見通し

機械受注統計をみると、全体ではプラスを維持しているが製造業の鈍化が顕在化している。4-6月期の見通しは3.5%減とマイナスの見通しで、今後の動向が注視される。
2_機械受注統計

実質賃金はマイナス

賃金指数をみると、1997~1998年をピークに低下しており、特にリーマンショックにより大きく落ち込んだ。2014年以降名目賃金はやや上昇に向かっているが、実質ではむしろ減少しており、未だ2012年水準に戻っていない。
3_賃金指数

進まない正社員の雇用

常用雇用者指数では、パートタイムの雇用は一貫して上昇しているが、一般労働者(フルタイム)の雇用は長らく低迷していた。2014~2015年からようやく改善傾向となっているが、パートタイム労働者比率は全体で30%と、依然として高水準にある。
4_常用雇用指数

日銀の動き

こうした状況の中、日銀は2015年12月に新ETFに対する3,000億円の買入枠を発表した。「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するための指数連動型上場投資信託受益権」という名称からもわかるように、設備投資、人材投資をキーワードとして、投資を積極的に行う企業の株式を日銀が買い入れるというものだ。

しかし、そもそも”ETFが何か”、”日銀のETF買入が何を意味するのか”、という方もおられるだろう。前段が長くなるが、ここでその概略を振り返る。

QQEにより日銀がETFを大量保有

ETFとは、Exchange Traded Fundsの略で、株価指数などに連動する投資信託である。例えば、TOPIX連動型のETFの株価はTOPIXと同じ動きをする。なお、投資信託には、利益を得る権利(受益権)はあるが議決権はない。

日銀によるETFの買入は2010年から始まったが、当時買入枠はまだ少なく、拡大されたといっても2012年末で1.5兆円程度であった。

しかし、2013年に入って量的・質的金融緩和(QQE)の手法の一つとして設定され、買入枠が拡大した。これまで都度設定してきた買入枠は年間1兆円ペースとなり、2014年10月の追加緩和では、年間3兆円ペースとさらに拡大している。

設備・人材投資ETFの買入枠は、2015年12月の補完的措置として設定され、上限は3,000億円となる。ただし日銀保有株の売却額とほぼ同等の規模のため、規模自体をみると新たなETF買入が市場に与える影響は限定的とされている。

ETF保有残高は8兆円規模

こうした買入枠の拡大により、日銀の保有するETF残高は2016年3月時点で7.6兆円に達した。東証の時価総額に対する割合は1.4%になる。またETF市場に限れば、その過半数を日銀が保有している。
5_日銀ETF残高

株価下落時に買入、デメリットも

日銀のETF買入はいつ行われるのか、株価の動きとの関係を図示する。買入の実施は前場が前日の終値を下回った下落局面に多い。またその結果、前場終値よりも株価が上昇した日が4割以上あるとみられる。

一方で、ETFの大量保有は出口戦略をどうするかという問題がある。また、日経平均企業の9割において日銀が実質大株主になっているとの試算もあり、コーポレートガバナンス面における問題も指摘されている。
6_ETF買入タイミング

設備・人材投資ETFを設定

前段が長くなったが、具体的に「設備投資、人材投資に積極的に取り組んでいる企業」とはどういった企業が該当するのか。日銀は本件ETFについて下記条件を設定した。また提示された条件のほかにも、日銀以外による買入が半数は必要なことから、一定のパフォーマンスを出さなくては他の買い手がつかず、結果として日銀の買入額が制限されることになる。

<設備・人材投資ETFの条件>

(1)設備投資:設備投資または研究開発費が基調的に増加している企業

(2)人材投資:雇用者数、人件費、能力開発費等、人材投資が基調的に増加している企業、または労働環境の整備、保育支援、人材育成制度の充実等、人材育成に積極的に取り組んでいると客観的に認められる企業

(3)成長性(必須条件):設備投資および人材投資への取り組みが、売上高、収益性、生産性、企業価値等の観点から、企業の成長に繋がる

<買入額の条件>
銘柄毎に、原則として時価総額の2分の1の範囲内

SPEEDAでみる条件合致企業

上記条件を満たす基準として下記項目を設定し、SPEEDA上で企業を抽出した。

<抽出条件>
①人件費増加率、②従業員増加率、③設備投資増加率、④研究開発費増加率について、それぞれ3期連続でプラスの企業

①~③全てに合致する企業は103社、①~④のいずれかに該当する企業は1,927社となる。

全てに合致する企業のうち、時価総額の大きい企業では富士重工業、ファーストリテイリング、ヤフーなどが挙げられる。また中位企業ではコスモス薬品(ドラッグストア)、アース製薬(殺虫剤等)、物語コーポレーション(外食)などが入っている。

業種別では、多額の開発費や投資を要する輸送機械などは当然だが、小売や外食なども多くの企業が該当した。なお、イオンなど買収により増加している企業があることも注意を要する。
7_条件合致する企業リスト

 

8_業種別条件合致企業

今回実際に上場したETFをみると、条件全てに合致する企業は全体の1割程度、いずれかに該当する企業は6~8割程度組み込まれており、概ね同様の条件でスクリーニングをしたと考えられる。
9_ETF銘柄リスト

生産性向上のための投資は必須

最後に設備・人材投資と日本経済の今後について考えてみたい。

安倍首相は2020年に名目GDP600兆円の達成を掲げており、産業競争力会議における「日本再興戦略2016(案)」では、

①潜在市場の掘り起こしによる新たな有望成長市場の創出・拡大、

②人口減少社会、人手不足を克服するための生産性の抜本的向上

③新たな産業構造への転換を支える人材強化

を課題としている。

OECD主要国における製造業の生産性(労働者一人当たり付加価値生産額)をみても、まだ日本に改善の余地があることは明らかであり、人口減少社会が始まっている中では、人と人がより効率的に働ける仕組み・環境への投資が欠かせない。

また、今般の伊勢志摩サミットでも世界経済の先行きへの懸念が取り上げられ、持続的な成長に向けた対応として、投資の必要性が再認識されている。

各企業に積極的な投資を期待するほか、より生産性の高いシステムやビジネス構造についても考えていきたい。

(参考)

10_製造業製造製

 

11_スクリーニング条件

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