広告業界の現状と課題を見る2016.07.09

広告業界の現状と課題を見る2016.07.09

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、技術や媒体の拡大に伴って変化し続ける広告業界について、広告代理店(広告会社)を中心とした動向を見る。

Nozomi Nakagawa

広告業界の現状と課題を見る

日本の広告市場は約6兆円

まず、国内広告市場の規模を確認する。

電通「日本の広告費」によると、2015年は6兆1,710億円。ピークとなったのは2007年の7兆191億円で、その後世界的な経済停滞の影響を受けて市場は縮小したものの、インターネット広告の成長もあり、現在は2000年代初期頃の水準に回復している。

そのうち、テレビメディアは約3割を継続的に占めており、依然として影響力は強い。ただし、媒体別に2005-2015年の年平均成長率(CAGR)をみると、広告費全体は▲0.7%、各媒体が軒並み減少傾向となっているのに対し、インターネットのみ7.8%と急成長している。
広告・イベント-01_日本の広告費_修正

電通の調査は、広告主側が使用した広告媒体料と広告制作費から市場規模の算出を行ったものである。一方、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」では、広告業を行う企業の売上高から広告業の規模を算出している。

経産省の調査によると、2015年の広告業売上高合計は5兆9,249億円。そのうちマスコミ4媒体とインターネット広告を除いた規模(一般的にプロモーションメディア広告と呼ばれる)は3兆3,312億円で、売上高全体の約6割を占めている。

ただし、経産省の統計では、電通の調査では分離されていたPOPは「SP・PR・催事企画」に、電話帳とフリーペーパーは「その他」に分類されるなど、統計上の違いがある点には注意を要する。
広告・イベント-02_広告費の売上高

企業の売上高と広告費はおおむね連動

広告業界全体の収支は景気動向と連動する傾向がある。これは、広告宣伝費が基本的には、売上高に対して常に一定の割合を占めるという特性によるものである(業種ごとのばらつきはある)。参考に、法人企業統計の売上高と広告費の合計を比較したグラフを下記に示す。傾向としてはおおむね一致していることがみてとれる。
広告・イベント-06_売上高と広告費_修正

 

国内外で商慣習が異なる

ここまで市場規模と全体動向を確認した。広告自体は誰もが日常的に触れるものである一方で、広告業のビジネスモデルは複雑である。

広告業は、顧客からの受注や広告枠の仕入れ、販売を行う広告代理店業務と、コピーやイメージの作成、各種デザインなどを行う広告制作業務(「クリエイティブ」部門とも呼ばれる)の大きく2つに分けられる。

広告代理店は、顧客(広告主)の要望に合わせてテレビなどの媒体社や「メディアレップ」から各種メディア広告媒体を購入する。メディアレップは、インターネット広告に特化した業態であり、日本では従来型の広告代理店と資本関係にある場合も多い。広告媒体の買い付けから制作、納品までをグループで一貫して手がけるような企業は、総合広告代理店と呼ばれる。日本の2大広告会社である電通、博報堂DYのような企業がそれに該当する。

実際の広告制作業務は、代理店グループ内の制作部門か外部の協力会社などが行う。広告主が支払う広告費の大半は媒体の買い付けにかかるため、広告代理店側では制作コストを低減することの重要度が高く、制作業務の外注化を進めることで一定の利益率を確保している。

広告主が支払う広告費の流れについて、一例を示すと下記イメージ図のようになる。
広告・イベント-07_広告フロー

上記の図は、あくまで日本の事例である。そもそも日本の広告市場は、世界的にも独特な商慣習を形成していることで知られる。欧米では、顧客1社に対して広告代理店が専属になる「AE制度(アカウントエグゼクティブ、一業種一社制)」が一般的な手法となっている。
広告・イベント-05_AE制度_修正_広告主

この制度においては、顧客は原則的に最初に指名した代理店以外を選定することがない。また、その他の代理店は、すでに他社との契約を行っている顧客から新たに受注することはない。場合によっては、同一業種を手がけないような契約を結ぶこともある。日本の代理店は、メディア媒体を統括することによって収益を確保する側面が強いが、海外では契約先を拡大することが基本的な成長戦略となっている。

総合代理店への資本集約が進む

具体的な参入企業を参照する。前述の電通、博報堂DYのほか、規模感の比較のために世界にも目を向けてみると、WPP(Corporate: ITA、Registered: GBR)、Omnicom Group(オムニコム・グループ、USA)、Publicis Groupe(ピュブリシス・グループ、FRA)、Interpublic Group of Companies(IPG、インターパブリック・グループ、USA)などが主要プレーヤーとして挙げられる。

近年の広告業界では、資本力や事業規模に強みのある総合広告代理店が中心となって相次いでM&Aを行ったため、各社とも資本関係が多くなっており、上位企業とそれ以外との規模の差も次第に大きくなってきている。
広告・イベント-03_主要企業の売上高_修正

各社デジタル広告中心の成長戦略

主要プレーヤーはいずれも、アジア・パシフィックを始めとした新興国市場への事業拡大とデジタル分野の強化を、今後の成長戦略として挙げている。各社のデジタル広告による売上高と全社売上高を比較すると下記グラフのようになる。
広告・イベント-04_デジタル広告と売上高_注修正_企業名修正3

売上高では上位と差があったPublicisが、デジタル広告ではOmnicomを上回っている。従来の広告代理店では、既存の顧客ネットワークの規模が売上を支えてきたが、近年の技術革新によって、広告自体の形態や取引の流れも多様化し、既存の事業規模にとらわれない成長の余地が出てきていると推測される。

なお、Publicisは、2015年12月にグループ傘下の企業を「Communications」「Media」「Sapient」「Healthcare」の4つのサービス軸で編成し直し、顧客を中心とした一貫体制を構築するという世界規模の組織改革を行った。今後は、ある程度のグループ再編や、自社内の広告手法のポートフォリオ最適化なども、各社にとって重要な課題となってくると考えられる。

リアルとデジタルの融合が進む

各社が取り組むデジタル広告について、実際の事例をいくつかみてみる。デジタル広告というと、急成長しているインターネット広告への注目度が高いが、近年はWebとリアルの違いが明確になってきたことにより、双方のよさの再認識にもつながった。

バランスと効率化という観点では、たとえばフリーペーパー・マガジンなどが着々とWebサービスの拡充を進める一方で、これまでWeb中心に展開されてきたDM(ダイレクトメール)は費用対効果の観点から紙媒体の方が有効と判断されるケースなどがみられる。

オンラインとオフライン、デジタルとリアルの融合を積極化する取り組みもみられる。展示・映像分野では、「モンスト」「白猫」などのスマホゲームを中心に、オンラインコンテンツのファン向け大型リアルイベントが増加傾向にある。

技術的な面では、デジタルサイネージ(電子看板)広告も注目を集めている。デジタルサイネージとは、屋外、店頭、公共・交通機関などさまざまな場所で、ディスプレイなどの電子的な表示機器を使用して情報発信するシステムの総称である。

富士キメラ総研の調査によると、国内デジタルサイネージ市場規模は2014年に約1,000億円。2020年ごろには2,500億円を超えると予測されており、そのうち5割以上がデジタルサイネージを活用した広告需要になると見込まれている。また世界市場では、2022年までに2兆円以上の規模にまで拡大すると予測している調査もある。

JR東日本は、デジタルサイネージ広告を積極的に展開している。山手線ユーザーであれば、車両ドアと天井の間にある「トレインチャンネル」を見る機会は多いことだろう。ニュースや天気予報などの情報番組、季節性のある商品広告など、タイムリーな連動が特徴である。また、長編ストーリー仕立ての映像作品もあり、ユーザーが毎日見るという特性を活用して制作側も趣向を凝らしていることがよくわかる。

2015年11月には、デジタルサイネージ広告に特化した車両E235系が山手線に導入された。当初は車両トラブルもあったが、今後量産化を進めて2017年春ごろから順次投入していく予定となっている。そのほか、駅内の柱を活用した「J・ADビジョン」や東京駅、恵比寿駅、四ツ谷駅といった主要駅での「大型ビジョン」なども展開されている。

西武池袋駅のデジタルサイネージ広告

西武池袋駅のデジタルサイネージ広告

デジタルサイネージは、VR、AI、自動販売機、音楽ライブなど広告以外でも多くの分野で研究開発が進められており、既存の広告の置き換えにとどまらず、さまざまな活用方法が期待される。

まとめ~広告枠を再定義できるか~

近年注目されているデジタル広告の分野では、媒体そのものの形態や技術がめまぐるしく変化し、広告市場全体への貢献度も徐々に拡大しつつある。また一般消費者にとっては、モバイル、SNSなどとの連携が強まったことにより、従来は遠い存在であった広告メディアとの距離感が徐々に縮まってきているように感じられる。消費者が広告への反応を示すことができるようになったこともあり、広告は従来の一方通行型から、双方向かつリアルタイムな情報発信媒体へと変化した。

2015年初めに東京メトロ丸の内線新宿駅内で展開された「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」との連動型デジタルサイネージ広告は大きな反響を呼んだ。TVアニメから劇場版へつなげることは、コンテンツが成功するための重要な戦略となるが、ユーザーのリアルな体験に結びつけることで、既存のファンを劇場へと誘導し、その他大勢のユーザーには検索やSNS拡散などの方法で作品への興味を喚起した。既存メディアと新しい技術を融合させた事例であり、見た人に具体的な行動を起こさせるという意味では広告として成功例ともいえる。

今後の広告会社には、単に広告枠を販売するだけではなく、広告を介することによる付加価値を生み出すことが、より一層要求されることになる。ターゲットがマスから個へと細分化されていったことにより、従来のやり方では消費者への訴求が難しくなった。一方で、量や効率性の部分は技術によって解消されつつあり、個々の消費者により濃く深く刺さる情報発信も可能となってきている。個への訴求力をどのように向上させていくのか、それとも場所や時間といった既存の枠にとらわれない新たな広告枠を生み出していくのか、ビジネスモデルの再構築も含め、つくり手としての手腕が問われている。