低迷期を迎えた中国百貨店業界~背景と今後2016.08.06

低迷期を迎えた中国百貨店業界~背景と今後2016.08.06

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は低迷期を迎えた中国百貨店業界の動向をみる。

Tengteng Liu

低迷期を迎えた中国百貨店業界~背景と今後

中国の小売業界には、百貨店、コンビニエンスストア、ディスカウントストア、スーパーマーケット、大型スーパーマーケット、専門店(Specially store)、専売店(Exclusive shop)、ショッピングセンター(SC)、電子商取引など、政府によって18種類の業態基準が規定されている。

中でも百貨店は都市の中心に立地し、品揃えと品質で流行の先端を担う。日本とよく似た業態だが、中国のビジネスモデルや課題をみていきたい。

在庫ゼロのビジネスモデル

欧米の百貨店は売れ残った商品の在庫を抱えるリスクとコストを百貨店が負担する自主運営が主流である。これに対して、中国の百貨店は日本と同じように、在庫を持たないモデル(「聯営」モデル)が中心であり、供給業者からの賃貸料や管理費用などの固定費用のほか、売上高に応じた中間マージンなど(聯営控点)が収入となる。2015年時点で、中国の主要な都市における大型百貨店の自営比率は10%にも達していない。

百貨店(中国)-07_経営モデル_修正_矢印

次は百貨店の市場規模をみてみよう。

百貨店の市場シェアが1.4%に縮小

2014年の百貨店売上高は前年比2.8%増の3,806億元となった。しかし、消費が拡大している中国では小売市場におけるシェアの低下が目立つ。年平均成長率を見ると、2005年から2012年にかけてCAGR16.7%となったが、2012年〜2014年の間の成長率は5.7%と大幅に鈍化している。小売市場における百貨店のシェアは2005年の1.9%から2014年1.4%へと低下し、百貨店の影響力が低下していることがわかる。

百貨店(中国)-01_百貨店売上高とシェア_修正

百貨店のシェア低下の要因には、コンビニや専業店などの新業態の台頭、EC市場の拡大、消費者ニーズの多様化などがある。

高まる新業態の存在感

近年のデータをみると、百貨店の店舗数は増減しているものの、2010年4,239店舗に対して2014年で4,689店舗と微増にとどまっている。

店舗閉鎖も増加しており、聯商網の統計によると、2015年の百貨店の閉店数は2014年の3.6倍の83店舗を記録した。中でも、北京市をはじめとして江蘇省、広東省、安徽省、浙江省などの主要都市での閉鎖が相次いだ。重慶百貨大楼は2015年に6店舗、2016年にも10店舗を閉店する見通しなど、今後も低迷は続く見込みである。

一方、コンビニエンスストア、専業店や大型スーパーマーケットなどの店舗数は順調に拡大している。コンビニエンスストアは2010年1.4万店舗から2014年1.7万店舗、特定の分野の商品を販売する専業店は同8.4万店舗から10.9万店舗に増加した。百貨店の商品が消費者の多様化する要望に応えられなくなり、サービスと価格の優位性も低くなっていると考えられる。

百貨店(中国)-02_店舗数_線グラフ_単位修正

ECの市場シェアが急増

EC(e-commerce)市場の急成長も百貨店業界にマイナスの影響を与えている。EC(BtoC)の売上高は2009年より毎年50%以上の増加率で急成長し、2015年には3兆8,800億元に達した。小売市場の売上高に占める比率は2009年の1.9% から2015年の12.9%へと大幅に上昇した。

消費者が家にいながら、インターネットを通じて低価格、多種類な商品が入手でき、自宅まで配達をしてもらえることがオンラインショッピングのメリットである。日本と同様に、品揃え、価格、独自性などで強みを出せなかった百貨店の魅力が薄れているといえるだろう。

百貨店(中国)-05_電子商取引市場規模とシェア_兆元

消費者ニーズはモノからサービスへ

収入の増加に伴って中国の消費者の関心は「モノ」から「体験・サービス」へと移行している。

都市部世帯一人当たりの消費現金支出額(年間、住居費除く)を1995年と2014年で比較すると、交通・通信(+12ポイント)、文化教育娯楽(+4ポイント)、医療保険(+3ポイント)と注目される。一方、食品と服飾の支出は20ポイント近く低下した。

人々のライフスタイルは衣食などの基本的なニーズから、精神の充実へと徐々に移り変わっている。中国商務部の公開資料によると、2015年の中国における映画興行収入が前年比50%増の440億元となり、2015年の国内旅行収入も4兆元を超えた。また、中国観光研究院が発表したデータによると、2015年に中国の海外旅行者数が1億2,000万人に達した。

百貨店(中国)-13_都市部消費支出_円

主要企業の売上高は頭打ち

「2015年中国百貨店業界発展報告」によると、2015年に中国百貨商業協会に加盟している百貨店運営企業の売上高総額が前年比9.3%増の4023.5億元に達した。しかし、2015年の営業利益額が2014年と比較して12.1%減少し、46.1億元にとどまった。

電子商取引の影響、また人件費と店舗の維持コストの上昇なども、百貨店の収益悪化に拍車をかけている。下記の図表(小売業における都市部の年間平均給与)によると、小売業界における都市部従業員の年間平均給与は2005~2014年で3.7倍となり、近年でも上昇が続いている。

一方、上場している4社の業績をみると、2013年度以降売上高が軒並み減少している。

百貨店(中国)-06_給与_万元

百貨店(中国)-03_4社売上高_漢字・億元

 

前半では百貨店業界の現状と低迷要因を見てみたが、後半では今後の戦略に注目してみたい。

統合・再編が相次ぐ

規模の拡大や、買取形態とPB(プライベートブランド)の導入による「自営式」経営で利益を上げる目的で、百貨店業界内での統合が相次いで行われている。

百貨店(中国)-08_買収案件

周辺事業と他業態への参入

また、多くの百貨店が積極的に周辺事業や他の業態に参入している。

周辺事業ではネット通販や体験型設備(飲食店、美容室、子供遊園地、ジム、喫茶店など)の展開が挙げられる。たとえば、2015年2月に南京新街口百貨が親会社の三胞集団と共同でネット通販サイトのMEICI(美西時尚)を傘下に収め、ネット通販事業に進出した。

他業態では、百貨店大手企業が中国の中部と西南部の都市にSC、アウトレットなどの拡大に拍車をかけている。

百貨店(中国)-09_サービス導入事例

 

百貨店(中国)-10_参入事例

ネットとの融合で顧客を囲い込み

競争激化で収益悪化に迫られている百貨店は、実店舗とネットを融合して顧客の囲い込みを図るO2O(Online to Offline)パターンも模索している。

Taobao通販店、Wechat通販店によるネット事業の増収、またスマートフォーンAPP(「王府井」APP、「喵街」APPなど)の活用による実店舗への送客を狙っている。具体的には、駐車場の検索と料金支払、クーポン・キャンペーンの発信、飲食店や映画館の予約、店舗で電子決済の導入などの例が挙げられる。

王府井百貨が2015年に京東金融(JD.com)と戦略的な提携を結んで、実店舗で「白条(消費者ローンサービス)」に関する業務も始めた。2015年度にECの総取引額が前年比273%増の6,227万元に上昇した。

百貨店(中国)-11_O2O

まとめ

中国の百貨店業界は2011年まで急成長してきたが、2012年以降はEC市場の衝撃、新たな業界の台頭で低迷期を迎えている。「聯営」モデルによる百貨店の同質化と利益の低下、人件費コストの上昇、また消費者の支出も衣食などの基本的なニーズから「体験的なサービス」へと移行中で、百貨店の収益悪化に拍車をかけている。

大手は様々な手段で改善を図っているが、競争が激化している小売業界で成長することは簡単なものではない。規模の拡大や事業の多角化は、下手をすれば日本のGMSの二の舞となる可能性もある。またネットとの融合でも、ネットから実店舗への送客に成功した事例は世界的にみてもまだ少ない。

国務院は2015年、実店舗の活性化や、小売業界におけるオンラインとオフラインの相互作用が必要と指摘した(『オンラインとオフラインの融合、貿易流通のイノベーションとアップグレードに関する意見』)。さらに、今年7月に発表された中国商務部の「商務発展第13次5ヵ年計画要旨」では、2020年までに小売売上高48兆元、EC(BtoC)売上高9兆6,000億元を掲げる。

百貨店業界がネット市場を取り込んで発展できるのか、ネットに押されて縮小の一途を辿るのか、今後の動向が注目される。