ブラジル経済からオリンピックを考える2016.08.20

ブラジル経済からオリンピックを考える2016.08.20

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。
日本ではメダル獲得に沸くオリンピックだが、現地では開催直前に大統領の弾劾を求める大規模デモが発生するなど、ブラジル国内は混乱している。本稿では、ブラジル経済を概観しつつ、その背景とオリンピックの経済効果をみていきたい。

Nijie Kuboki

ブラジル経済からオリンピックを考える

低迷続く経済、構造的問題

まず経済の動向をみてみよう。2011年にルセフ大統領が就任した後、2012から2013年にかけてやや盛り返したものの、2014年以降実質GDPはマイナス成長を続ける。特に2015年に再選した後、状況はさらに悪化、民間最終消費支出はマイナス成長となっている。
ブラジル-01_GDP-01

しかし、ブラジルには低成長だけにとどまらない、構造的な問題も多い。以下、経済の詳細を見る前に、前提となる基礎事項を確認する。

人口は微増、高齢化率は低い

まず人口と構成比をみると、人口は毎年1%程度増加している。若年人口は2009年に減少に転じたが、高齢化率は8%未満で、日本の26%と比較すると大きな社会問題が発生する水準ではない。

人口ピラミッドをみても、やや若年層が減ってきているものの、釣鐘型を維持している。
ブラジル-02_人口推移

ブラジル-03_人口ピラミッド-03-03

脆弱な産業構造

ブラジルの産業別GDPをみると、日本と比較して製造業や卸・小売業などの比率が低い。輸出品は農林水産物のほか、鉄鉱石、大豆、石油などのコモディティが多く、輸入品は化学品、工業製品が7割を占める。

つまり、一次産業による素材を輸出し工業製品を輸入する、典型的な新興国の経済構造から脱し切れていないことがうかがえる。
鉄鉱石や大豆は価格の上下が激しく、こうした素材への依存度が高い場合資源価格の下落による影響を大きく受けることになる。
ブラジル-04_GDP構成比

ブラジル-05_輸出構成比

資源価格下落とレアル安が影響

最近の経済動向に話を戻そう。

こうした構造から、資源価格の下落で主要輸出産業が大きな打撃を受けることとなった。また、工業製品を輸入に依存しているため、同時に進行したレアル安によって国内消費もマイナスの影響を受ける。
ブラジル-06_コモディティ

雇用も大幅減

ルセフ大統領2期目となった2015年頃から、雇用者数は減少となり、直近では全産業に拡大している。これは2008年~2010年の不況時にもなかった状況であり、国民の不満はかなり高まっているであろうことが推測される。
ブラジル-07_雇用者数

若年層で高い失業率

一般に若年層は失業率が高く、景気の影響を受けやすいが、ブラジルでも若年層の雇用状況が悪化している。
18~24歳の失業率は、雇用が減少となった2015年以降大きく上昇し、15%を上回る水準となった。

ブラジルでは高校までが義務教育であるが、卒業しても就職口がないという厳しい状況にある。
ブラジル-08_失業率

低所得者への政策を展開

では政府は何をしてきたのか。ルーラ前大統領、ルセフ大統領がともに実施してきたのが貧困対策で、低所得者向けの給付制度(ボルサ・ファミリア)によって中間層の拡大に寄与したといわれる。ルセフ大統領の2期目を争う選挙でも、低所得者層の支持するルセフ大統領と、中高所得者層の支持するネベス候補という構図となった。

こうした政策と資源高の背景もあり、2000年代以降中間層が増加、最低賃金(※)に対する収入水準では、最低賃金の1~3倍を得る人口が2001年35%から2014年には46%に拡大した。
ブラジル-09_収入別人口

財政収支が悪化

しかし、このような支出は資源収入が好調であったときはよいが、景気低迷に伴い財政収支の悪化を招いた。
2014年の基礎的財政収支(GDP比)は-0.4%と、1997年以来の赤字に転落している。

さらに、当該2014年はまさに不正会計が問題となっている年度であり、その一括返済分を2015年度に計上したことで、2015年は-2.0%の赤字となった。
ブラジル-10_プライマリーバランス

日本企業へも影響

ブラジルに進出している日本企業は多く、こうした景気減速の影響を受けている。SPEEDAでブラジルに関係会社を持つ企業を検索すると、268社が該当する。

中でも新日鐵住金や川崎重工では出資先の経営不振、キリンホールディングスは買収したブラジル事業の計画未達などが報じられている。
ブラジル-16_表-15-16

 

このような状況のブラジル国内において、オリピックを開催することに不満を持つ人が出ることは想像に難くない。

一方でオリンピックの経済効果はどうなっているのか。ブラジルを始め過去のイベントから東京オリンピックを考えてみたい。

スポーツイベントで巨額のコスト

オリンピックやワールドカップなどのスポーツイベントには巨額の費用がかかることは周知の通りであり、直近のロンドンやソチでは競技関連の運営費だけで100億ドルを超えた。開催総額はさらに高額となる。

ブラジルワールドカップも開催総額150億ドル、リオオリンピックは運営費41億ドル、開催総額120億ドルと報じられている。また、開催費はインフレを除いても計画を超過することがほとんどである。

2020年の東京オリンピックは当初運営費約3,400億円、総額約7,000億円(非組織委員会分を含む)であったが、大幅に増加するとの見方が強く、2兆円近くなるとの憶測も流れている。
ブラジル-15_表-15

外国人増加の一方国外脱出者も増

費用対効果の面では、ブラジルでは効果は限定的という見方が多い。直接的な経済効果が見込める旅行関連産業では、ワールドカップ期間におけるブラジルの旅行収支はマイナスが拡大した。

外国からの観光客の増加以上に、国内から外国への旅行者が増加したためで、国内で消費されるはずのものが国外に流れたことになる。
さらにリオオリンピックは全国的に展開したワールドカップに比べて1都市限定となるため、観光客の大幅な増加は見込みにくい。
ブラジル-11_旅行収支

ブラジル-12_旅行者数

ロンドンオリンピックではその傾向がさらに顕著となる。オリンピック開催の2012年7~8月は、むしろ渡英者は減少し、国外への旅行者が増加した。要因としてはビジネス客が来訪を控えたり、ロンドン市が混雑回避のため休暇を取得しての市外滞在を奨励したことなどが考えられる。
ブラジル-13_イギリス

勝負はオリンピック期間外

各種レポートでも、オリンピック開催年自体はむしろ観光客が減少する傾向にあり、開催4年前から開催前年、および開催後がポイントといわれている。
また開催都市以外での経済効果が限定される上に、建設投資などが需要の先食いに終わってしまっては意味がない。特に公共施設では、オリンピック後の運営が課題となることは各所で指摘されている。

日銀の試算によると、建設投資が2018年でピークアウトするため、オリンピック開催後まで経済効果を持続させていくためには、各種の成長力強化に向けた取組みで建設投資に代わる新規需要の掘り起こしを要する。

ブラジル-14_東京

これから東京ではオリンピック関連の投資加速が見込まれるが、経済の観点のみでいえば開催年のみに焦点を当てるのではなく、前後数年間に渡って全体の効果が最適となるような設計が必要となる。

特にインフラや宿泊施設のキャパシティ問題などは、開催時期の特殊需要ではなく、恒久的な需要を元に判断すべきだろう。Airbnbなど、で民間から提供されているソフト面での解決策を積極的に活用してほしい。

先日小池都知事が設置した都政改革本部では、オリンピック組織委員会も対象と発表された。安全性・セキュリティなど必須の部分とそれ以外でメリハリのある投資を期待したい。