中国配車アプリサービス事情をみる2016.08.27

中国配車アプリサービス事情をみる2016.08.27

SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、先日合併を発表した中国の配車アプリサービス、UberとDidi Chuxingを中心にタクシーと配車アプリ市場の動向をみる。

Karen Jiang

中国配車アプリサービス事情をみる

従来のタクシー業界は縮小傾向へ

まず、配車アプリと従来タクシー産業の動向をみると、世界各地と同様、中国でも既存タクシー産業へ大きな波紋を広げている。

Didi DacheおよびKuaidi Dacheは、2012年にサービスを開始し、タクシーと利用者をつなぐサービスとして当初タクシー運転手に非常に人気となった。しかし、2014年に自家用車を使ったサービスの提供を開始し、タクシー需要の一部を奪う形となった。

タクシー需要をみると、2012年以降増加傾向にあったが、2015年は乗降客数、走行距離ともに減少に転じた。景気減速などの影響もあるが、配車アプリの台頭も大きく影響していると考えられる。

こうした状況に対しタクシー運転手からは反感の声が上がっており、配車アプリのボイコットを求め、国内数カ所の都市でタクシー運転手によるストライキが発生している。

また上海大手タクシー会社のDazhong Transportationは2016年6月、交通運輸部に対し、適正競争を求め、モバイル配車アプリ運営業者への調査要請を提出。交通運輸部が7月28日に発表した規制は、配車アプリサービスを認めるものではあるが、各種の規制も設けている。

UberChina-02_タクシー台数

 

UberChina-01_タクシー乗客数-01

配車サービスは多様な業態が存在

次に、中国における各種サービスの概要を示す。
日本では法規制の面からサービスが限定されているが、中国の配車アプリ及び既存タクシー業界は様々な業態で事業を展開している。

価格とサービスに応じてスタンダードサービス、プレミアムサービス、他の利用客との相乗りによりさらに低価格となるカープール、タクシー配車などがある。

UberChina-03_サービス種類

配車アプリはコミッションを徴収

収益モデルでは、Didi ChuxingやUberなどの配車アプリ事業者は、一件の乗車依頼につき特定割合をコミッションとして受取るO2Oモデルを採用している。車両を保有せず、運転手と車両を登録し顧客とマッチングするビジネスモデルである。(自家用車用のPeople’s Uberは法規制の点から非営利)

しかし、配車アプリに登録している運転手の利益が少ないため、Didi ChuxingやUberは運転手に対し補助金を支給している。例えば、Didi Kuaicheの運転手は、午前6時から8時半のラッシュ時に3件の依頼を完遂すると60元が得られる。

タクシー会社は定額費用を徴収

一方、タクシー会社は営業ライセンスを取得し、運転手を雇うか、請負方式で運転手と契約する。どちらにおいても、運転手は固定の車両レンタル料および管理費を毎月タクシー会社に支払う形式である(固定費は都市またはシフトによって異なる)。

UberChina-04_コミッション

配車アプリの高いコスト優位性

配車アプリによるサービスと従来タクシーとの違いについては既に指摘されている通りである。

配車アプリは使いやすく、車両品質(価格、経過年数)、運転手の評価システムによるサービス水準の担保など利便性が高い上に、低価格なサービスが消費者に支持されている。

一方、配車アプリについては安全面における危険性が指摘される。

また、配車アプリ同士においては、利用者・運転手ともにスイッチング・コストが低いため、サービス提供者は激しい競争にさらされる。そのため、前述の補助金を支給する結果となったが、結果として業界トッププレイヤーでも赤字の状況に陥っている。

配車アプリサービス産業は2015年200億元を超える補助金を支払っており、中でもDidi Chuxingは100億元以上を支払ったと推測され、Uberは中国事業で10億米ドルの損失を出したと報告されている。

UberChina-05_料金

Didi・Uber合併で巨大プレイヤー誕生

前段が長くなったが、ここからはDidi ChuxingとUberの合併について述べる。

本件では元々中国市場で高いシェアを持っていた両者が合併することで、さらなる巨大プレイヤーが誕生した。Alibaba、Tencent、Baiduといったネット大手が揃って出資・提携する企業としても異例の存在となる。

DidiとUber中国事業について、これまでの変遷をみてみよう。

UberChina-07_合併経緯

 

Didi Chuxingは2015年合併で業界最大手に

Didi Chuxingは、2015年に配車アプリの2強であったTencentが出資するDidi DacheとAlibabaが出資するKuaidi Dache(快的打车)の合併によって誕生した業界トッププレイヤーである。

合併した両社はともに2012年設立で、2014年末時点の配車アプリ市場ではDidi Dacheが56.5%、Kuaidi Dacheが43.3%のシェアを占めた。しかし、激しい補助金競争に伴い2015年2月に合併、2015年9月から社名をDidi Chuxing(滴滴出行)とした。

2015年末までに、Didi Chuxingの運転手数は1,500万人、利用者数累計3億人、依頼数累計140億人に達した。Trustdataによると2015年時点における Didi Chuxingのシェアは、スタンダード・サービスで79.1%、プレミアム・サービスで43.1%であった。

さらに2016年に、Didi ChuxingはAppleからの出資を受けた。出資額は同社にとって過去最大である10億米ドルで、Appleにとってもスタートアップに関して買収ではなく出資としては初めての案件となる。

Apple出資理由のひとつとして、Appleの中国国内におけるApple Payの普及拡大の狙いがあると考えられる。また資金を米国に送金した場合課税される多額の税金(課税率40%)を回避するためという推測もある。

Uberはシェア獲得に苦心

Uberは2012年に設立され、世界70か国以上で配車アプリ事業を展開する。2014年2月に中国市場へ参入したが、当初は法的問題を避けるためレンタカー会社等と提携する形式でビジネスを展開していた。

その後、2014年10月、Uber原型に近い自家用車での提供を可能とする非営利プラットフォーム、People’s Uberのサービスの提供を開始。

しかしUberのシェアは未だ低く、Trustdataによると、2015年時点のスタンダード市場では20.9%となっている。

合併で補助金によらない成長へ

UberとDidi Chuxingの競争は、補助金合戦につながった。両社とも巨額の資金を投じて運転手と利用者の獲得を図ったが、投資家の資金によって低価格サービスを提供しているとの指摘もあったように、補助金モデルには限界がみえていた。

政府が7月に発表した新たな規制では、一定条件を満たした場合、自家用車を使ったライドシェアは合法化される一方で、採算割れとなるような価格設定が禁止されたこともあり、両社は新たな成長戦略が求められていた。

UberはDidi Chuxingとの直接対立を避け、中国への海外旅行客に向けて2016年6月に「Uber + トラベル」を開始するなど周辺領域でシェア獲得を図ってきたが、現状でも赤字であるのに対し、展開都市や規模の面で圧倒的なDidi Chuxingに対抗することは難しい。

中国の配車プラットフォーム先導者であるDidi Chuxingは政府との関係も良好など、複数の要素からUberは厳しい競争を続けるよりも合併が有利と判断したと考えられる。

相互出資による合併

Didi ChuxingとUber Chinaの合併内容は少々複雑である。

合併後Uberは新会社の5.89%(経済権益の17.7%)を保有し、Didi ChuxingはUber Globalに10億米ドルを出資(Uberの最新推定価格625億米ドルの1.6%程度)する。

Didi Chuxingの創立者であるチェン・ウェイ(Cheng Wei)はUber Globalの取締役会に、Uber CEOのトラヴィス・カラニック(Travis Kalanick)もDidi Chuxingの取締役会に入ることとなる。

またDidi ChuxingはAlibaba、BaiduおよびTencent(BAT)が共同出資する唯一の企業となった。

なおUber Chinaの各種ブランドは継続される予定だが、同統合により両社が経営、技術、提携先などそれぞれの強みを統合し、早急な収益向上とさらなる成長が期待されている。

独禁法抵触有無は現在時点で不明

問題は両社の合併が認められるかどうかだが、本件合併が独占と捉えられるかは、現時点では不明である。

中国の独占禁止法では市場の過半数を占める企業は独占企業とみなされる。

Trustdataによると、2015年Didi ChuxingおよびUberはスタンダード・サービス市場のほぼ100%を占め、プレミアム・サービス市場ではDidi Chuxing単独で43%程度の市場シェアを占めるという。

「事業集約に関する事前通知の基準値に対する国務院条例」では、統合などの事業集約において事業が特定の基準値に達する場合、国務院の管轄の商務部に事前通知を提出せねばならないとされている。

Uber Chinaの売上高は基準値に到達しておらず、両社とも利益を上げていないとして、現時点でDidi ChuxingおよびUber Chinaのどちらも事業集約に関する事前通知を行っていない。

しかし、基準値に届かない場合でも事業集約の影響(競争の排除および制限等)の存在が確認できた場合は、国務院の管轄の商務部により調査が開始される。

一方「タクシー産業の健全な発展を即す改革推進のための指導意見書」によると従来からのタクシーサービスおよび配車アプリサービスは、タクシー産業に含まれており、タクシー産業全体を母数とすれば本件合併は独占として捉えられない可能性もある。

シェア獲得と収益化が成るか

配車アプリサービスにおいても、最大の課題であった補助金削減と収益化が進むとみられる。

Didi Chuxingは統合後すぐには補助金を廃止しないと示しているものの、合併により補助金競争が終焉するのは間近であると予想される。今後はサービスの質、依頼マッチングのスピードや精度などの技術が争点となるだろう。Didi Chuxingについては出資者である巨大ネット企業との提携サービスも武器になる。

タクシーや配車サービスの需要にはまだ拡大余地が大きく、Roland Bergerによると配車アプリサービスに対する市場の需要は、2020年までに5,000億元に到達し、同時期には需要が供給を上回ると予測されている。

日本や世界同様、中国でもサービスの品質と適正な価格競争を元に利用者の利便性向上が期待されるとともに、数年以内にプレイヤーは一定数に淘汰されると考えられる。

まずはDidi ChuxingとUberの合併可否だが、その後の業界動向も注目される。

(執筆 Karen Jiang、翻訳 Ogino Ayami、編集 Kuboki Nijie)