過熱する中国の幼児教育2016.12.24

過熱する中国の幼児教育2016.12.24

教育投資が盛んな中国において、過熱する幼児教育市場の動向をみる。

Karen Jiang

過熱する中国の幼児教育

小学校前から競争が始まる

中国で成長する新興産業の一つに、プレスクール教育が挙げられる。
プレスクール教育は、国の義務教育制度の対象ではないため、入学の判断はすべて家庭や保護者に任せられる。80~90年代生まれの新世代の多くは従来世代よりも質の高い教育を受けており、学校教育に対しても異なる見解や傾向を持つ。
中国の教育制度は、厳格かつ競争が激しいことで知られる。子供の競争力や将来の成功に必要な能力を高めるべく、保護者は幼稚園や幼児教育センターに入園させる。
0歳から3歳の幼児は通常民間機関が運営する幼児教育センターに入園し、3歳から6歳の児童は私立または公立の幼稚園に入園する。また、課外レッスンとしてダンスや絵かき教室に通わせる場合もある。
現在、中国のプレスクール教育市場は約3,500億元(約5兆9,000億円)と推定される。

政府もプレスクールへの投資を強化

幼稚園教育は政府補助金の対象外であるものの、子どもを2-3歳より(通常3年間)幼稚園に通わせる親が増加している。また、子どもに社会性を身に付けさせるため、初等教育機関が入園前にプレスクール教育を受けることを求める場合も多い。
政府もプレスクール教育への投資強化を図っており、公立幼稚園の全体における比率は上昇している。

高額でも利用意向は高い

具体的な利用状況をみてみよう。
learning.sohuの調査によると、レッスンに通う頻度は週3回以上11.5%、週2回19.7%、週1回51.1%、週1回未満17.8%。
レッスン料も安くはない。国内系、海外系とあるが、海外ブランドでは1時間150-200元(約2,500~3,400円)、国内ブランドでは120-160元(約2,000~2,700円)となる。
上海の平均賃金が月額5,900元程度であることを考えると相当な額となるが、約75%の家庭が1学期あたり4,000元までの学費を許容するという調査結果が出ており、教育への関心が相当高いことがうかがえる。

2千万人を超える幼児人口

プレスクール教育の対象である幼児人口は増えている。中国の出生率は1.2%程度で推移しており、国内では毎年約1,600万人の新生児が誕生、0-6歳児人口は2015年時点で1億1,430万人を超える。
政府は2015年10月に「一人っ子政策」を改め、全国の夫婦に第2子までを認める「二子政策」の導入を発表した。同政策により出生率が高まる見通しで、2017年に幼児人口は2,170万人に達し、ピークを迎えると予測される。2018年以降減少に転じるものの、今後出産に関する規制が撤廃されれば再び増加する可能性が高い。

O2Oサービスも登場するが拡大は困難

近年、中国ではO2Oの概念が普及しつつある。この時流に合わせ、幼児教育にO2Oを取入れる企業が数社現れており、0-3歳児向けの教師派遣型(オンラインで予約すると自宅に教師を派遣する)幼児教育を提供するZao Jiao Dao Jia(早教到家)もこの一社である。
派遣型の幼児教育サービスは、従来の教育センターが提供する標準化された「1対多数」のレッスンとは異なり、通常「1対1」で個別対応したレッスンを提供する。現在、幼児教育のO2Oサービスは、従来型の「1対多数」の教育サービスから市場シェアを奪うため、それらのサービスとほぼ変わらない利用料金を設定している。
しかし派遣型の幼児教育サービスは、従来型の事業者により提供される「他の子どもと触れ合う機会」を提供することができない。これに加え、1日当たりの利用が1回にのぼる食事の宅配などのO2Oサービスと違い、保護者が同サービスを利用する頻度は最大でも週に1-2度となる。また経験豊富な専門員は、通常従来の教育センターまたは幼稚園で、より安定した給与の高い職に就くことが可能なため、人材の確保も困難で、急成長する見込みは薄い。

大手企業は周辺領域も展開

中国の幼稚園市場は分散市場であり、多くの企業は1校の幼稚園を運営する小規模事業者だが、大手事業者も存在する。これらの企業は子供向け領域全般でのサービス展開を図る。
米国ブランドのGymboree(金宝贝)は、子供向けアパレルブランドだが、中国では1976年にGymboree Play & Musicへ出資することで事業を開始した経緯がある。
国内最大の幼児教育サービス事業者のひとつであるRYB Education Institute(红黄蓝)は、幼稚園の教師向け研修期間、幼児教育関連製品やその他マタニティ・幼児向け商品の販売、また幼児教育の携帯アプリなども展開する。

フランチャイズや新規参入により競争が激化

幼児教育センターが急速に拡大した理由の一つに、フランチャイズ式ビジネスモデルがある。中国の約70%の幼児教育センターは、フランチャイズ式で運営されている。大手ブランドは、通常チェーンストア式で事業を開始し、ブランド認知が高まるとフランチャイズ式への移行を行う。
また、幼児教育との関連性の有無に関らず、多くの国内プレイヤーが幼児教育市場への参入を狙っている。2014年には国内アパレル企業のZhejiang Semir Garment(浙江森马服饰)が買収により本業界に参入した。2016年6月にはGymboreeが幼児教育サービス事業をZEAVION Holdings(中国人起業家が設立したシンガポールの教育サービス会社)に売却するなど、各所で動きがみられる。今後、大手企業の産業参入が進むにつれ、幼児教育セクターは急速に発展し、競争も激化してゆくことが予測される。
なお、海外ブランドでは、標準テストで抜きんでる能力よりも、子どもの想像力、協調性、また個性の形成を重視する欧米式の教育手法をとる。例えば、GYMBABYは西洋の教育論および教育法に基づく斬新なアプローチで産業全体の注目を集めた。
80年代・90年代生まれの保護者はこうした海外の教育法を高く評価しており、国内ブランドでも「欧米式教育法」をうたう企業は多い。

まとめ

幼児人口の大きさや、家庭の可処分所得の上昇、教育支出の増加を追い風に、中国の幼児教育産業は巨大な潜在市場となった。中国の幼児教育産業は、他国と比べやや立ち遅れがあるものの、保護者の関心は高い。
一方で大手企業の参入や市場への資金流入増加などで、競争は激化している。さらに今後、政府は市場を規制する条例を公布する見通しである。
教育は価格よりも品質やブランド力が求められる分野であり、人材の確保やサービスのシステム化・均質化など、生存をかけた競争力を高めてゆくことが求められている。
 
(原文:Karen Jiang、翻訳:Ogino Ayami、編集:窪木虹恵)