鉄道の完全自動運転への課題を探る2017.06.20

鉄道の完全自動運転への課題を探る2017.06.20

今回は、鉄道の完全自動運転への課題を鉄道産業を振り返りながら考察する。

Nakagawa Nozomi

鉄道の完全自動運転への課題を探る

 

世界の鉄道市場は拡大見込み

まず世界の鉄道市場に目を向けてみる。欧州鉄道産業連合(UNIFE)などの公表データを基にすると、世界の鉄道市場は2011-2013年の約19兆円から、2017-2019年には約22兆円に達すると予測されている。分野別では、車両製造部門とサービス部門が拡大し、全体の約7割を占めると見込まれている。
インドやASEANを始めとした新興国においては、人口増加や都市の拡大などにより、今後も車両数の増加が期待される。一方で、金額ベースの市場規模については、欧州もアジアやアフリカ並みの成長率が期待されている。欧州含む先進国市場においては、より高機能なシステムへの置き換え需要などが市場の押上要因になるとみられる。

国内の鉄道車両生産数は漸減傾向

国内の鉄道車両生産数は、1987年のJR民営化を機に大きく増加し、1990年度には3,138両とピークを迎えた。その後、JRからの発注が落ち着いたこともあり、市場全体は2,200両前後での推移が続いた。2000年代半ばから2007年度にかけては、移動の需要増や車両自体の更新などにより、生産数も増加傾向にあったが、それ以降は再び減少傾向となっている。
次に輸送量を確認する。鉄道は、国内旅客輸送の約7~8割を占めており、交通手段としての重要性は言うまでもない状況だが、長期的にはマクロ動向の影響を受けて縮小傾向が続くと予想されている。
日本は高い技術優位性を保持
このような状況にある日本だが、技術力では各国と比較しても優位性を保っている。特許庁「平成27年度 特許出願技術動向調査報告書」によると、鉄道管制システムに関する1994~2013年の累計特許出願件数は14,094件にのぼる。トップ10のうち7社が日本企業が占めている。

鉄道運行に不可欠の管制システム

鉄道の安全で効率的な運行には、信号や運行管理などを含む鉄道管制システムが必須である。特に国内の三大都市圏にみられるような高密度ダイヤの実現や、各社が輸出に取り組む高速鉄道などにおいては、高度なシステムが要求されるが、日本はそれらの分野において強みを発揮している。
鉄道管制システムの技術区分は、大分類で「保安技術」「運行管理技術」「基盤技術」の3つに分けられる。
保安技術は、主に車両自体の動きに関連する技術やシステムを指す。具体的には、列車の自動制御や自動停止、保安システムと運行管理システムとを連携させるもの、踏切保安装置などが挙げられる。
運行管理技術は、ATS(自動運行監視システム)やTMS(運行管理システム)、CTC(列車集中制御装置)などを含む。一般的に馴染みのある計画ダイヤの作成や信号システムによる遠隔制御、旅客案内などもこれにあたる。
基礎技術は、運転士とのインターフェースであるDMI(Driver Machine Interface)などが中心で、通信セキュリティ、IoT、ソフトウェアなども含む。
日本特有の環境も技術力に影響
鉄道管制システムについて、日米欧中韓独仏への出願をみると、出願先国別では日本が36%の5,047件、出願人国籍別では日本が40%の5,610件と、いずれも他国を引き離してトップとなっている。
さらに小分類別にみると、出願人全体に占める日本国籍の比率は、「定時運行/高密度運」で72%、「ダイヤ乱れ後の復旧技術」で92%、「旅客案内」で83%と、特定の領域において非常に高い。また、これらに対してはやや落ちるものの、信号システムとポイント(転てつ機)を連動させるための「連動装置」は63%、踏切内の障害物を自動的に検知する装置「障害物検知」は58%と、比較的高い水準にある。そのほか全体の45%を超える分類としては、「防災」や保守・メンテナンスなどにも関わる「保全性向上」などが挙げられる。
通勤ラッシュなどの過密な運行状況を正常に保つためには、高い技術力を要する。また、有事への備えや復旧などといった技術には、地震大国という日本特有の環境も影響していると考えられる。一方で、駅情報をPCやスマホなどで閲覧できる旅客案内システムなど、ユーザーの利便性向上も図られている。

欧州内規格統一から国際標準化へ

日本の鉄道は、従来海外の規格との整合性について必要性が低かったが、近年は海外進出の機会拡大などに伴い、国際規格/標準化への対応を迫られている。
欧州では、欧州連合(EU)成立にあわせて、各国を横断する国際鉄道システムの構築が必要となった。そのため、早くから欧州域内における鉄道管制システムの統一規格(TSIおよびEN規格)を制定、浸透させ、それを武器に世界シェアを広げてきた。さらに、現行の欧州EN規格を国際規格化することで、国際市場を独占しようという動きもみられる。
日本でも、国土交通省によるアクションプラン策定や規格化、認証などを行う各種機関の設置など様々な対応策が実施されてきた。2010年5月に策定した「知的財産推進計画2010」においては、国際標準化を目指す特定戦略分野を7つ掲げているが、鉄道もその中に含まれている。
 
2012年9月には、交通安全環境研究所が国内初の鉄道分野における国際規格の認証機関に認定された。これにより、国内規格をJISに登録することで、国際規格との整合性をとることができるようになった。

各社とも収益源の拡大が課題

ここで車両製造および信号システムに関連する国内企業を確認する。
鉄道車両メーカーは、大型案件受注の有無により売上高に影響を受ける。近年は、車両自体の製造コスト増に加え、海外案件における設計見直しや工程遅延などによる損失が、利益を圧迫している状況である。
 
信号システムメーカーは、鉄道だけではなく道路交通や航空など幅広い分野に顧客を持つため、売上高は比較的安定している。一方で、研究開発費の負担は車両メーカーにくらべて大きい。今後も規格の標準化を含め、技術変革に合わせた研究開発活動の必要性は高く、提携や統合・分離も加速すると考えられる。
たとえば日本信号は、2015年8月に、道路交通市場向けの事業拡大や海外展開への協業などで、名古屋電機工業と資本・業務提携を締結した。また2016年8月には、JR西日本との資本・業務提携を発表した。日本信号にとっては、鉄道設備の補修ノウハウを獲得する意味合いもあり、スマートメンテナンス領域への拡大も期待される。
なお、同社は交通系ICカードの発展にも貢献してきた実績がある。現在、国内自動改札機のシェアを握るのは、オムロン、東芝、JR東日本メカトロニクス(JREM)、日本信号の4社である。2014年には、ICカードを読み取り機にかざさずに認証できる人体通信システム「elefin(エレフィン)」を開発した。これは自動改札機のみならず、食品工場や病院、オフィスなど幅広い産業に応用が可能なほか、海外展開も期待される技術の1つである。

運行環境の特殊性が鍵に

近年、自動車業界においては、既存の自動車メーカーのみならず、通信や半導体など様々な分野を巻き込みながら、完全自動運転の実現に向けた研究開発が進められている。現状は、車両側の性能だけで認知・判断・操作を完璧に制御できるのか、現状の道路交通法や保険などといった仕組みをどのように適正化するのか、などクリアしなければならない課題は多い。
 
鉄道は、その点においては自動車の先を行っている。有名な話ではあるが、国内では神戸新交通「ポートライナー」や東京臨海新交通臨海線の「ゆりかもめ」などで、すでに無人の自動運転が長く運営されている。
 
しかしながら、鉄道の完全自動運転が急速に進む気配がない。そこには鉄道特有の理由がある。
鉄道の運行環境に目を向けてみると、その他の陸上輸送と比較して非常に特殊である。鉄道車両は、基本的には線路(道路上では軌道)内の走行しかできず、線路内においても車両の制御や安全性の担保などに関する大量の仕組みが構築されている。

一例を挙げると、自動車の自動運転では、道路に飛び出してきた人や障害物を検知して自動停止する機能があるが、鉄道にはこの機能はない。なぜなら、線路は立ち入り禁止という前提があるからだ。
運転士の免許も、鉄道事業者でなければ取得することができない。また、鉄道の安全を阻害する行為は処罰の対象となるなど、線路内では鉄道車両の走行ないし車両内の乗客の安全が優先されることが当然となっている。
 
このような背景から、鉄道産業固有の技術開発がなされてきた側面もあるが、今後その技術を横展開していけるかは1つの注目点となる。実際に2015年、自動車の自動隊列走行プロジェクトにおいて、鉄道の信号保安装置ATCで実用化されているフェイルセーフコンピューターの設計概念に基づいたECUが開発された事例もある。
ある意味閉ざされた現状の鉄道運行の環境そのものが、完全自動運転への最も高いハードルなのかもしれない。
今後は、鉄道自体の製造や運行などに関する技術、ノウハウも含め、多方面への展開や自動車、航空分野などの他分野技術の取込みの進展を期待したい。