小売企業の動向をみる:2017年上半期2017.11.16

小売企業の動向をみる:2017年上半期2017.11.16

今回は直近の小売企業の決算結果と今後の方向性をまとめる。

Nijie Kuboki

小売企業の動向をみる:2017年上半期

先週の記事では、今夏のモノ消費をマクロ統計から見た結果、百貨店や総合スーパー(GMS)が持ち直し、衣料品や飲食料品がやや不調という曖昧な結果になった。
今回は主に直近の決算結果から、小売企業の動向に着目したい。

増収増益、増収減益、減収減益が混在のまだら模様

直近に決算を迎えた小売企業について、2017年上半期の動向を図にまとめた。89社中増収増益、増収減益、減収減益がそれぞれ3割程度とまだら模様の結果となった。

コンビニ、ドラッグストアの快進撃が続く

業態別にみると、業態による勝敗がよくわかる。ドラッグストアやコンビニエンスストアは売上・利益ともに大きく伸ばし、百貨店は売上は横ばいだが利益は微増、GMSや食品スーパー、衣料品・雑貨等の小売はふるわない結果となっている。
そこで、小売業界における主な上場企業とマクロ統計・業界指標との連動性をみてみたい。

企業で差の出る衣料品、出にくいコンビニ

小売企業の月次売上とマクロ統計から業態別のばらつきを概算した。
売上に限っていえば、やはりマクロ指標に連動する部分は大きい。コンビニやドラッグストアは全体として好調であり、GMSや食品スーパーは全体として不調ということになる。
例外的に差があるのが衣料品小売業だ。使用した統計の精度もあるが、半耐久財で嗜好品ともいえる衣料品は企業戦略の差が出やすいとも考えられる。

衣料品小売では商品力や価格設定で勝敗

衣料品小売のばらつきについて、具体的に各社の実績をみてみよう。
売上上位企業について既存店売上高をみるとやはり企業によって動向が異なることがわかる。他の小売業態よりも衣料品は自社企画製品の割合が高く、商品力が集客を左右する。また価格設定も企業側が主導権を持ちやすく、値上げの成否が売上や利益に大きな影響を与えるなどの要因が考えられる。
直近では、2017年に入ってしまむらとライトオンの業績が低下した。夏の天候不順を脱した9月でも両社の既存店売上高は前年割れとなっている。
当然ながら売上も同様の結果となる。
営業利益は定価販売率など別の要素も問題となるが、いずれも厳しい。
アダストリアは店舗数の増加や米国事業の連結等で増収とはなったものの、既存店が低迷し減益。一方で、ファーストリテイリングの大幅な改善は海外事業の収益貢献による。なお、9月の売上が堅調なユナイテッドアローズは9月期決算が好調な可能性がある。

コンビニやドラッグストアは業界全体が好調

以上のように、偏差の大きい衣料品小売は商品力や価格設定が鍵となる。対してコンビニやドラッグストアは偏差が少なく業態として好調である。
双方とも実に10年以上、前年比マイナスとなったことがない(日本FCチェーン協会、日本チェーンドラッグストア協会調査ベース)。

GMSや食品スーパーは偏差の少ない低迷業態

標準偏差の少ないGMSや食品スーパーの売上上位企業の業績を図に示した。
GMSではイオンやイズミが売上高を伸ばしているものの、買収による拡大が主であり、必ずしも増益にはつながっていない。
食品スーパーでも増収減益となっている企業が多い。ここ1年ほどは食品価格の高騰や人件費等の上昇などで、増収しても減益要因の方が大きかったのだろう。

GMS不振は構造的要因

なお、GMSの不振については、ここ十数年続く構造的な要因と思われる。GMSは食品で集客し利益率の高い衣料品や家電などを販売していたのが、衣料品等の売上が大きく落ちたことでほぼ食品スーパーと同等となり、GMSとしての価値が訴求できなくなったのだろう。
衣料品は今でも粗利率こそ高めだが、売り場面積に対する回転率は低く、天候や景気要因などで在庫が積み上がったり、値引きによるロス率が上昇するリスクもある。
ではGMSや食品スーパーはどうすればいいのか。
既存店売上を上げることは当然重要だが、実際には偏差が少なく景気や消費者の購買心理に左右される部分が大きい=企業努力により売上を大きく拡大することが難しいのは確かなようだ。とすれば、企業側にできることは収益性を高めることだろう。

GMSは他事業で収益化

GMSでいえば、他事業での収益化がひとつの選択肢となる。代表例であるイオンでは金融、ディベロッパー、ドラッグストア事業などが稼ぎ頭であり、GMSは赤字幅が縮小したとはいえ、以前として営業赤字である。
イトーヨーカ堂はGMSからショッピングモール型のアリオへの転換を進める。イズミや平和堂もEC事業やFC事業など、従来とは異なる分野へも参入を図る。ユニー・ファミマホールディングスにおけるユニーのドンキ業態への転換はビジネスモデルが変わるわけではないが、業態の変更には違いない。

惣菜とPB、規模拡大で収益力改善

事業の幅も店舗規模も小さく、価格決定権も弱い食品スーパーは、粗利率の改善が最大のポイントとなっている。粗利率の向上において重要となるのが、購買力の拡大と高利益率分野の売上拡大だ。
食品スーパーではCGCや八社会などのボランタリーチェーンによって小規模スーパーでも一定の購買力を確保しているが、まだ今後も地場スーパーを中心に統合が進む可能性はあるだろう。ヤオコーは2016年10月に埼玉地盤のスーパーを子会社化している。
また、粗利率の高い商品といえば、惣菜とPB食品であり、各社ともこの分野に注力している。惣菜はスーパーで扱う商品の中で最も利益率が高く、他店との差別化にもなる分野である。また売上の1/4を占める一般食品においてPBを導入すればその効果は高い。

食品の「撒き餌」化とPB化がNBに影響する恐れ

先週の記事でも、家電量販店やドラッグストアなどによる飲食料品の販売について触れられているが、こうした業態にとって食品は集客のためのツールであり、利益率の高い主力商品を購入してもらうことが目的だ。つまり、食品自体でそれほど利益を確保する必要がなく、価格は低めとなる。
対して、食品スーパーやコンビニでは、売上・利益双方において食品が主力となる。ここではPB化によってさらに自社の利益率を高める動きが活発化している。
この結果として懸念される事項は、加工食品におけるナショナルブランド(NB)商品への影響かもしれない。
集客ツールとして価格を抑える業態が増えれば、通常販売価格が消費者に低く認識されることになる。
また、食品スーパーやコンビニがPB商品や惣菜分野に注力することで、NBの加工食品の取り扱い減少や、価格競争力の低下もありうるだろう。

まとめ

消費動向としては持ち直してきているとはいえ、消費者心理は依然としてやや弱く、小売企業の業績もばらつきが見える。
各社様々な対策をしているが、結局のところGMSや食品スーパーでは企業努力には限界がある。またPB化や他業態による食品の低価格販売は、価格競争の激化や、消費者の低価格・割引価格への慣れを引き起こすリスクも内包する。百貨店やGMSでは近年「コト消費」がブームとなっているが、ECとの差別化には重要な要素とはいえ、モノ以外に活路を見出すしかないともいえる。
消費の基本であるGMSや食品スーパーが本格的に持ち直すには、やはり実質賃金の上昇などマクロ要因の改善が待たれる。
 
 
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