VWディーゼル不正、「事実・背景・今後」を「時間軸」で整理2015.10.03

VWディーゼル不正、「事実・背景・今後」を「時間軸」で整理2015.10.03

2015年9月18日にVWによるディーゼルエンジンの排出規制不正があったと米環境保護庁が発表した。発覚から約2週間、多くのニュースが出て、NewsPicks内でも話題になっている。
ニュースが多いからこそ、その全体像を把握することが、ニュースを理解するために重要だと考えている。しかし、現在進行中の重大事件に関しては、ニュースが多いゆえに、理解が難しい。
そこで今回は、事件全体を説明した後に、「時間軸」をキーワードとして、VWのディーゼル不正の全貌を整理する。

Jun Kato

VWディーゼル不正、「事実・背景・今後」を「時間軸」で整理

環境規制検査を不正を用いてすり抜け、規制基準を満たさない車を発売したVW

まず、事件の全貌を解説する。今回の事件は、端的に言うと2つの違反がある。

1つ目は、環境規制検査をすり抜けたことだ。検査は厳密な手順で行われるため、その手順を車載コンピュータが認識できる。そして認識した際に、検査を通過できる燃焼制御モードに変更するように、制御ソフトがつくられていた。なおこういった検査をすり抜けるための機器は、「ディフィートデバイス」と呼ばれている。

2つ目は、検査をすり抜け、規制基準を満たさない車を発売したことだ。フォルクスワーゲン(VW)の車は、検査を不正によって通過したが、実際の走行では規制の30~40倍にもなる窒素酸化物(NOx)を排出して走行する。

つまり、本来発売されることが許されない車が発売されていると言える。なお、検査と実際の走行で、排出値や燃費などは変わる。ただし、それは路面や走り方の違いであって、今回の特殊制御によるものを許容したものではない。

短期の時間軸:事件発覚から2週間のまとめ、CEO交代など人事異動も多い

事件後の推移を見るために、9月18日から現在に至るまでの2週間の主要な出来事、発表をまとめた。
grp_2週間 (1)

長期の時間軸:世界的な規制の段階強化と開発スケジュールが、不正実行に至った背景

なぜ、今回の不正は起こったのか? 理由を知るためには、ディーゼル規制に関する歴史を見る必要がある。

ガソリン車と比較して、ディーゼルは燃費に優れ、二酸化炭素の排出量が少ないというメリットがある。一方、すす(PM)やNOxが多く発生するというデメリットがある。これに対応するため、各国・地域は段階的に規制を強化してきた。

一方で、自動車モデルに関しては各国で仕様を部分的に変更することはあっても、大きくは変更しない。そこで、モデルを展開する予定の地域と、モデルのライフサイクルを考慮して、規制値に適合するような開発が必要となってくる。
grp_日米欧の規制値の推移 (1)

今回対象となったものは2008年ごろから発売されているモデルに集中している。2009年に主要3地域の規制が強化されており、PMに関してはおおむね同じレベルとなったが、NOxに関しては差がある。そこで対応を求められるのは、最も厳しい米国の水準である。

事件発覚後、ドイツのDPA通信が2005年から2006年において不正ソフト搭載を決めたと報道している。そのソフトは部品メーカーのボッシュがつくったものだが、ボッシュは2007年にあくまでもテスト目的であって販売車両への搭載は違法だと警告したと、ドイツの大衆紙ビルトが報道している。

つまり、この2009年の規制値に対応できないことが、発売予定時期から逆算してエンジン開発に一定のめどがついている必要がある2005年あたりでわかっていたと考えられる。

そして主力車種であることやコストなども考えると、検査を通過できるようにソフトウェアで不正制御する方針が決まったと推測できる。

なお、発覚したのは米国だが、台数としては欧州が大部分を占めると考えられる。SPEEDA総研記事も参照いただきたいが、2013年の世界自動車保有台数に占めるディーゼル車の比率は20%。一方、欧州での普及率は1990年代から増加を続け、2006年には50%を超えた。
grp_ディーゼル普及率 (1)

過去の時間軸:不正期間中にVWは大きく成長したが、ガバナンスに課題

VWは、不正が発生していた時期に関して、商用トラックのMANの買収に成功した。また、合弁のために売上には計上されないものの、中国でも高シェアを持つ中、市場全体の成長を享受し、業績は大きく成長した。

しかし、つい最近まで創始者のフェルディナント・ポルシェ博士の孫にあたるフェルディナント・ピエヒ氏が経営トップを務め続けていた。

ピエヒ氏は、アウディを経て1993年にVWのCEOに就任、2002年には監査役会長となり実権を握っていた。その期間に会社は大きく成長したが、2012年には、経営経験がない配偶者を監査役とするなど、不十分なガバナンス体制ともなっていた。

そして、2015年にVWのCEOであったウィンターコルン氏の任期延長に反対したことから監査役会で孤立し、会長辞任に追い込まれた。
grp_VWの業績推移 (1)

未来の時間軸:不正対策費用とブランド毀損により相当な厳しさが見込まれる

今後に関しては、不正を受けて相当な厳しさが予想される。

まず、不正自体に関連する多くの費用が見込まれる。当局への罰金支払いに関しては、米環境保護庁(EPA)による180億ドルという数字が報道されているが、これは1台当たりの最高罰金が科された場合の金額であり、確定したものではない。

ただし、問題は世界規模であることから、他国でも罰金が発生するだろう。不正を行った1100万台は、改修が必要である。すでに65億ユーロの費用を引き当てているものの、具体的な対策方法は今月、発表する予定となっている。

対策方法によって、その費用が拡大する可能性、また対策後に達成できる性能と本来公表していた性能の差を要因として、ユーザーから損害賠償を求められる可能性がある。

それ以外にも不正車種以外も含めて、ブランドが毀損(きそん)したことによって中古車価格下落を理由とした損害賠償訴訟が発生する可能性もある。すでにイギリスでは、事件発覚後に市場全体の中古車価格がプラス2.8%で推移したのに対して、VWはマイナス0.2%で推移するなど、影響が出ている。

中古車価格に関しては、自動車会社は自動車販売に伴う金融事業を営んでいることが多く、VWも行っている。リースは、契約期間満了時の残価額を見積もっているが、中古車価格下落は現在の見積もりとの乖離につながり、減損が発生する可能性がある。

今後の業務活動に関しても、不正によるブランドの毀損によって、厳しさが想定される。ブランド価値の毀損は、値引きを含めた販売価格、販売数量に影響し、売上減少につながる。

米国の自動車販売台数速報によると、市場全体は前年同月比プラス15.8%増となる中、VWはマイナス0.6%と全体に対して大きく劣後している。事件発覚が先月18日と月の後半であったことを踏まえると、直近の販売動向は厳しいと考えられる。

また自動車は生産量の利益への影響が大きく、特に販売台数が著しく減少し、既存設備の稼働率が低下した場合には大きく利益が減少する。結果として、VWや部品メーカーなどの雇用・給与にも影響を与え、消費活動にも影響を及ぼす可能性が考えられる。

なお不正を要因とした株価下落に関しても損害賠償訴訟が起こることが想像されるが、プロピッカーである山田弁護士の東芝のケースに関しての解説記事を参照いただきたい。
grp_まとめの時間軸 (1)

(文・加藤淳)

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