SPEEDA EXPERT RESEARCH

2022/7/28 開催 セミナーレポート 2022/9/13更新

エキスパートと探る 未来の事業機会 vol.6 半導体×成長産業-半導体の「いま」と「未来」を知り、日本の有望市場と共創&成長へ

半導体×成長産業-半導体の「いま」と「未来」を知り、日本の有望市場と共創&成長へ

昨今では世界的な半導体供給不足が叫ばれ、他方では「次世代半導体」とも言われる技術革新に期待が集まる中で、日本は半導体の活用先としてどのような市場に着目し、どのように半導体を使いこなしていくべきでしょうか。また、半導体メーカーと顧客企業の間でどのような「用途開発」のあり方が求められているのでしょうか。

今回は、40年近くにわたり半導体事業に携わる東芝チーフエバンジェリストの大幸秀成氏をお招きし、半導体業界の「いま」を学びながら「未来」の成長市場やビジネスモデルの考え方などをお話しいただきました。

Speaker

大幸 秀成 氏

大幸 秀成 氏

株式会社東芝 CPS×デザイン部 チーフエバンジェリスト

1982年、株式会社東芝に入社。入社後28年間は、半導体製品のマーケティング、研究開発、製品立上げ、販促、FAEとして国内外顧客開拓を中心に活動。並行して、米・欧企業とのアライアンス、共同開発を推進。最近の12年間は、半導体に関わらず、東芝グループの異部門をつなげ、新規事業立上げを推進、社内プロデューサー役も担う。
異業種・異文化の顧客やパートナー企業と開催する「共創ワークショップ」を新規市場開拓のフレームワークとして設計し、ファシリテーターならびに推進役を担う。現在はコーポレート部門のCPS×デザイン部に所属し、研究所を含めた東芝グループ全体の新規事業、新規市場への取り組みの支援・コーチングをおこなっている。

半導体の「いま」 ―課題とビジネスモデルの現状

半導体の産業貢献〜なくてはならないキーパーツ
出典:登壇者資料

50兆円と言われていた半導体市場ですが、2020年から今年(2022年)にかけて2桁以上の成長を遂げ、今や60兆円を超える規模になっています(経産省、WSTS、Omdia等公開情報を参照)。

この60兆円という半導体の事業が影響している産業全体の規模はどれくらいかというと320兆円。この中にスマートフォンやテレビ、ICT機器などがすべて含まれています。

それとは別に、車産業は330兆円規模であり、半導体の供給トラブルで減産を強いられていることを考えると、車産業も合わせて600兆円を超える規模になります。つまり、半導体そのものに対する影響力は、実に10倍の規模の産業を支えているというのが現状です。

「半導体供給不足」解消の手立ては?

半導体供給不足が続いている
出典:登壇者資料

もはや現代の生活になくてはならない半導体ですが、みなさんご存知のとおり供給不足が続いています。コロナ禍と重なり、労働力や安全性、資源問題など、サプライチェーンの課題を引きずっている状態です。

資源問題に関わるのですが、中国ウイグル自治区で人権侵害問題も起きています。半導体の材料であるシリコンの多くはウイグル自治区で採掘されているのですが、その採掘現場で強制労働の疑いが浮上し、アメリカが禁輸措置をとりました。

こちらのシリコンは主に太陽光パネルに使われているのですが、値段の高騰やサプライチェーンへのダメージは避けられません。半導体デバイスビジネスも影響を受けると思われます。

そのほか、意外と話題に挙がらないこととして、汎用半導体製品の問題があります。たとえば、二本足のダイオードや三本足のトランジスタなどの超汎用半導体は1個数円程度ですが、あらゆる電子機器に使われているので、これが1個入らないことで、車は作れないということになります。

ただ、増産投資は容易ではありません。中古設備や老朽設備で製造しているので、安く提供できるけれども、増産投資となると一気にハードルが上がる。中国やインドのような新興国も安すぎて簡単には参入できないんです。

そのような意味では日本のメーカーも欧州のメーカーも頑張っているのですが、キャパシティはなかなか上がってこない。

SoC(System on a Chip)は増産しやすく、メモリーも世界中から投資されているので、この分野の半導体製品は逆に余り始めているとも言われているのですが、汎用半導体は足りていないというのが今の問題です。

半導体デバイス事業の3分類とビジネスモデル

半導体デバイス事業は以下の3つに分類されます。

  1. 汎用/ASSP 少品種多量生産 / 微細化最先端より1~2世代遅れ
    特定の用途向けに開発されたもので、たとえばBluetoothチップやWiFiチップ。これらは微細化先端よりも、実は1~2世代遅れのデザインルールを使った製造方法になります。DRAMやNAND、Flashなどもある意味汎用製品になります。
  2. 最先端プロセス、高性能、短サイクル多量受託生産 / 微細化最先端
    最もマスメディアにピックアップされるSoC(System on a Chip)です。代表はAppleのM1チップのようなスマホやタブレットの心臓部に入っているもので、工場投資は1兆円と話題に挙がりやすい半導体です。
  3. 多品種ロングテールポートフォリオ、Product mix見込生産 / 微細化
    品種が多く生産数量も多いもの。発注・要求が変わっても増産は簡単にはできません。ディスクリート、パワーMOS FETやダイオード、汎用アナログと言われるものはこちらに含まれています。月あたり1兆個を超える、ものすごい物量が動いています。

垂直統合 vs 水平分業のビジネスモデルと特徴

半導体産業においては、垂直統合型と水平分業・パートナー分業のビジネスモデルがあり、下記のような特徴があります。

垂直統合 vs. 水平分業 〜考えると奥が深い〜
出典:登壇者資料

日本は水平分業にいけなかったからこの業界で負けたと言われていますが、それが理由ではないんです。投資余力がなかったからです。

それぞれに良し悪しはあって、垂直統合型の一番のメリットは性能をその一社で出し切れることです。自社にノウハウを蓄積できる。一方投資余力がないと、他からお金を集めてくるのは難しい点が問題です。

対して水平分業は、設計、製造、テスト、販売など複数の企業で分業するので、投資分担できるということです。たとえば、1つの工場が10~20社の顧客を抱えて物量を流すので、投資リスクは低くなります。なおかつ開発スピードも速い。最も大きなポイントは、デジタルですべてが処理されていることです。シミュレーション、顧客サポート、設計もすべてデジタル。地球の裏側にいても、連結して仕事ができるという強みがあります。

日本の半導体は負けているのか?注目すべき技術

「日本は半導体ボロ負けだよね、右肩下がりだよね」という話が飛び交っていますが、必ずしもそうではないと思っています。

日本が誇る技術と言われているのがパッケージです。

パッケージとはクリーンルームでできたチップを載せる基盤ですが、今までは単一だったところ、複数のチップを混載して搭載する技術がどんどん進化しています。3次元パッケージ商品、インフォデバイス、チップレットというような分野で、急速に用途が拡大しています。

スマートフォンやデータセンターなど通信ネットワークの拡大により高性能化はどんどん求められていますが、従来のPCB(Print Circuit Board)実装技術では限界がある。そこで複数チップをひとつのパッケージに封止する3次元化です。チップを縦積みにして情報をやりとりするとスピードが上がります。この技術が実は日本の企業、素材メーカーも含め長けていると言われています。

世界シェアに食い込む日本のパワー半導体

パワー半導体もまだまだ頑張っています。世界シェアの4位に三菱、フジ、東芝と続き、9位ルネサス、10位ロームとトップ10に5社も入っています。

パワー半導体の世界シェアー(Omdia 2021 Revenue参照)
出典:登壇者資料

ポイントは、日本勢のトップ3社はインフラと連動しているということです。インフラと連動した事業をきちんとマネージしてきた。つまり、数を追い求めるというビジネスモデルではないんです。

半導体事業は数を売ってなんぼと言われがちで、数が捌けなくなった途端に撤退という判断が下ります。そうなるとSoCやシステムLSI、ASICが辿ってきた世界観になり、日本にはプレーヤーがいなくなってしまいます。これから何を重視すべきか、将来どうあるべきかというところは、まだまだ議論の余地が残っていると思います。

半導体の「未来」は成長産業にどう生かすか

今回のお題ですが、こちらが私が考える成長産業としての目の付け所です。

成長産業としての目の付け所
出典:登壇者資料

一番は電力制御です。インフラ上の問題や再生可能エネルギーなどの課題もあるので、ここに今、資本含めいろいろなものが集まってきています。とくにパワー半導体に関しては、日本に強いメーカーが何社もいますので、このセットを作る方々と一緒に強い産業にしていくというのが、最も身近で、最も世界に向けて成長が期待できる分野だと思います。

次に日本が強いテレビゲーム関係。こちらはソニーさん、任天堂さんを軸に強いエコシステムができあがっていますので、これからメタバースに動いていく際に、新しいツールやネットワーク環境構築に向けて需要が出てくるだろうと。それとは別にアミューズメントやカラオケといった場のサービスも、ある意味メタバースの進化版といった形で発展すると思われます。

OA、事務機に関しては、テレワークでのIoT活用。カメラ応用も圧倒的に増えると思います。事故や災害予兆アラームだけではなく、人や物を探すということにも、ユーザーが自由に使えるようなカメラシステムが街中に展開される可能性があると言われています。

「移動できる作業ロボット」の台頭

「変化はチャンス」:既存産業界(日本)の落とし穴
出典:登壇者資料

また、車産業と産業ロボットは世界的にも強い分野です。ところが今、この2つを兼ね備えた作業ができる移動ロボットが伸び始めています。一般的にサービスロボットと言われていますが、自走で動く作業ロボットというのは、実は日本の大手メーカーがほとんど手を出せていない分野です。

自動運転車は自動車メーカー、お掃除ロボットやテレプレゼンスロボットをベンチャーがやっているような形も日本の問題かと思います。

コロナの影響で病院やホテル、レストランなど、一気にロボットの導入が進んできましたが、自走型は既に世に出ています。ここのマーケットを見逃していないかということが1つポイントです。たとえば、配達ロボットが発達してくれば、過疎地対策になりますし、いろんな社会解決を課題を解決できるのではないでしょうか。

半導体のさらなるポテンシャル -ソフトウエアデファインドソリューション-

デバイス事業+ソフトウェア/ソフトウェア・デファインドソリューションへ
出典:登壇者資料

一方、日本が弱い分野はソフトウェアです。ゲーム産業はソフトで儲けるモデルが成り立っていますが、私は半導体産業も同じようにできないかと思っています。

スマートフォンのようにアプリをダウンロードすることで新たな機能が身につく、ソフトウェアディファインドと言われていますが、これから身近にくるだろうソフトウェアディファインドはロボットです。標準的なロボットを作り、用途に応じてプログラムを変えるという形です。また自動運転車が世の中に出てくると、乗客や運ぶモノに応じた機能をソフトウェアディファインドにする必要があると言われています。

それからEdge AI機能も半導体のさらなるポテンシャルとして考えられます。学習済みのアルゴリズムをEdge半導体にインストールすることで、通信が途絶えても自立運行が可能になる。いずれ宇宙開拓や深海調査にも応用できると思います。

日本の強みを発揮できるビジネスモデル実現のために

半導体産業は、以前はエンドユーザーが欲しい半導体を作りさえすれば売れるというビジネスでしたが、2000年頃からだいぶ怪しくなってきました。とくに日本の電気製品メーカーはどんどん衰退してしまった。

電気電子業界だけではなく、車も、すべての産業において、果たして新製品を作っても売れるかどうか自信がもてなくなってきている。そのため、半導体という部品業界だけではなく、完成品も含めてみんなで考える必要があると思っています。

サービサーとの「共創」〜ミッション、ビジョン、ロードマップが描けているか?
出典:登壇者資料

この図のピラミッドの頂点にある、社会課題の解決・人類地球レベルの価値、日本であれば日本の課題を解決するということでも十分だと思いますが、そこを目指してみんなで考えてサービスを提供していこうと、ビジョンを共有できることが大事だと思います。

それにより必要な技術やモノ、ソフトウェアは何かというのが紐づき、最終的にロバストなビジネスモデルが完成する。

このピラミッドの構造を、半導体産業だけではなく、私が挙げた成長産業の分野にいる企業の方々、コンサルティングや調査会社の方々、協力メーカーなど、そういった方々が集まり「共創」ワークショップなどをやりながら、同じ目線で走っていけないかと考えています。

日本の力が発揮できる、独自のコンセプトとは

最後に、私のアイディアを2つご紹介します。

1つは「モノ消費型産業からの脱却」―多量消費、短サイクルの買い替え、それから売り切り商品、低価格競争、新興国狙いとの決別ですね。代わりに、100年対応の電化製品を作る、100年対応のインフラやモビリティを作ろうというコンセプトです。

日本の力が発揮でき、どこの国も真似できないコンセプト(案)#1
出典:登壇者資料

日本がモノづくりに優れていることは周知の事実ですが、その強みが生かしきれてない。脱炭素、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーが求められる今、どこの国も真似できないような耐用性の長いモノづくりこそ、日本の力を発揮できることではないでしょうか。

カーボンのような長寿命材料を使う、機能ブロックは修理・交換・リペアが簡単にできるように最初から設計しておいて、世代が交代しても使えるという考え方もあらかじめ取り入れておくことが大事だと思います。

一方、長寿命であるほど儲かるように、ビジネスモデルも変える必要もあります。新興国に対しても安いモノをつくって売るのではなく、100年使えるモノを送り込むこと。そして、使った分だけ課金する。このような日本の強みが生かせる新しいビジネスモデルをやってみたらどうかと、私は強く思っています。

もう1つのアイディアは「和食産業の強化」です。インバウンドはいずれ戻ってきます。外国人にとっても魅力がある和食ですが、決別すべきは食品ロスです。無駄をなくして同時に強みにすることで、サーキュラーにもなりますし、SDGsにも応えることができます。

日本の力が発揮でき、どこの国も真似できないコンセプト(案)#2
出典:登壇者資料

和食はクオリティが高く、ヘルシーで世界無形文化遺産にも登録されています。日本独自の文化と紐づいてるものなので、他の国には真似ができません。最近はソイミートのようなものがメディアを賑わしてますが、日本にはもともと精進料理がある。ある意味代替肉フードですよね。

考え方として大事なのは「呼び込み型ビジネス」であること。グローバルというと日本の企業は外に出ようとしがちですが、日本の産業全体が元気になるためには、日本に来てもらう呼び込み型ビジネスが必要だと思います。

日本が誇りに思ってるもののテストマーケティングの場として、日本の場を使う、うまく文化と融合させることで、新たな発見やいろんな組み合わせがどんどん出てくるのではないかと思っています。

この「食」という分野に半導体がどう関わってくるのかというと、すでに精密農業や精密漁業が始まってますし、野菜工場や陸上養殖もありますよね。それをIoTでセンシングしたり気象レーダーで需給のマッチングを予測したり、ドローンも活躍したりしています。さらに苗付けや液肥・収穫、給餌の自動化など。

また、この食ロスの課題として、生産者と消費者が直接繋がっていないということもあるので、ネットワークを作る必要があります。そのほか調理のロボット化や、食ロス対策として量り売りサーバー、サブスク冷蔵庫などさまざま考えられます。

ただ、実現させるにはコストや規制などいろんなハードルを越えないといけないのですが、日本の食文化はおそらく世界でダントツに発達していますから、これをトリガーにすべきだというのが私の考えです。

食文化は日本が誇るべき文化であり、食は最も身近で最も幸せを感じられるものだと思います。半導体や電子部品業界の方、関係ないと思われている方も、ぜひこれから食文化に注目していただきたいですね。

質疑応答

講義の後には質疑応答もおこなわれ、多数の質問が挙がりました。その⼀部をご紹介します。

Q.移動型作業ロボットに関して、どのぐらいの時間軸で普及していくと考えられてますか?
A.今、台数でいうとまだそんなに出ていないんです。ポイントになるのは動かせる場(価値確認・実証の場)が用意されてるかということ。移動型作業ロボットが動いているのは、公共空間を掃除するロボットと、オフィスを消毒するロボットですね。作業といっても、多関節のアームがついているようなロボットは、まだまだこれからという段階だと言われています。ただし、着実に適応作業は増えていきます。
Q.リスクをとれる大胆な決断を下せる人材が増えない限り、透過型パネルなども中韓タイに市場を席巻されてしまうのではないでしょうか? どうすればそのような人が増えると思われますか。
A.まず1つは、何があっても貫き通す意志をもつ集団が必要だと思います。2つ目は、賛同者をどれだけ募れるかということ。日本人はそのような動きが取れないし、それを紹介するコーディネーター役や会社が少なすぎるんですね。ぜひこのあたりはSPEEDAを介してマッチングさせるなどして、一件一件のビジネスは小さくても、実証していく、実例を増やしていくことが大事だと思います。
Q.国内での製造拠点の建設、とくにTSMCが日本に工場を建設することについて、大幸さんのお考えをお聞かせください。
A.TSMCは世界各国から工場誘致されている中、日本に来る理由は産業があるということです。半導体を作るためだけに日本には来ません。TSMCの最大の顧客はAppleやQualcomm、いわゆるアメリカ系のメーカーですからね。

ではどうして日本に来るのかというと、やはり日本にはロボットとモビリティという強い産業があるからです。それは全て垂直統合型で、海外にそこは出ていない。最先端ではなくても、半導体の需要は間違いなく広がると見込んでいるんだと思います。

質疑応答を終え、「日本にはまだ秘めた力がある、成長産業のトリガーをみつけたらぜひ小さくてもいいので行動に移してほしい、一緒に日本を元気にしましょう」と締めくくられました。

SPEEDA EXPERT RESEARCHでは、
現役の経営者やコンサルタント、技術者・アナリスト・研究者など
国内約2万人+海外約11万人、560業界・最先端領域の
多様な業界のエキスパートのナレッジを活用いただけます。

半導体分野においても、エキスパートに以下のようなご相談が可能です。

半導体分野でのご相談事例(※イメージです)

  • 半導体市場の今後の動向について
  • 半導体の需給トレンドや応用先について
  • 海外半導体メーカーの成長予測について

半導体分野に関して

  • 情報収集をしているが、Web検索をしても欲しい情報に辿り着けない
  • 自社で考えた仮説や事業アイディアを、更に精度の高いものにしたい
  • 詳しい人にヒアリングをしたいが、ライトパーソンが誰か分からない

このような課題をお持ちの方は、
お気軽にお問い合わせください。

一覧にもどる