SPEEDAとは
資料・コラム

「ベンチャー集合体」のイノベーションDNA。形式知化への第一歩にSPEEDAが貢献

大手総合部材メーカーのイノベーション領域における活用

日東電工株式会社

User's Voice

「三新活動」「グローバルニッチトップ™戦略」など独自のマーケティング戦略でハイテク分野から生活材分野まで多くの機能製品を生み出している日東電工(以下Nitto)。黒子に徹しながら、あらゆるB2B領域で「なくてはならない」キープレイヤーとして存在感を発揮しています。「ベンチャー集合体」の異名をとる同社のイノベーションDNAとは?またその課題はどこにあるのでしょうか。
情報機能材料事業部門で偏光フィルムの開発に携わる山崎様、それを調達とコーポレートR&Dから支える堤様と仲野様に、脈々と受け継がれる同社のイノベーションDNAの中でSPEEDAがどのように貢献しているのか伺いました。

サマリー

  • 研究開発の“あるべき姿”を実現。新たな研究テーマ探索の活きるユースケース。
  • 未来予想図となるロードマップを描くIPランドスケープを実現。
  • 設計開発の初期段階から、戦略的に開発調達が入るための提案力向上に調査レポートが効果を発揮。
  • 従来、接点のなかった技術情報と経営情報の双方へアクセスしやすくなることで、ビジネス感覚をもった技術者の育成が期待できる。

技製販管の連携で推進するイノベーション

貴社のミッションをお教えください。

Nittoは粘着技術と高分子合成・加工技術をベースに、多岐にわたる業界へオリジナル製品の数々を生み出してきました。それを可能にしているのが独自のマーケティング活動「三新活動」です。 三新活動とは、既存製品に「新用途」と「新技術」を付加するイノベーションを経て、今までにない「新需要」を創造する取り組みです。たとえば電気絶縁ビニルテープとして使われていた既存製品は、粘着剤の改良や、帯電防止機能を次々に加えることによって、電線メーカーから住宅、自動車といったさまざまな用途へ製品を展開してきました。技術・製造・販売・管理が一体となった三新活動は、私たちが行うイノベーションのDNAであり、私たちが「ベンチャー集合体」と評される所以です。

※技術・製造・販売・管理が一体となった「三新活動」イメージ

現場ではどのような取り組みをされているのでしょうか。ディスプレイ用偏光フィルム開発に携わる皆様それぞれの部門の役割を教えてください。

山崎様:情報機能材料事業部門の第2開発部で、偏光フィルム用中核材の機能開発および製品開発を担っています。ディスプレイ業界はコモディティ化のスピードが速いため、自分たちの力だけではイノベーションに限界があります。お客さま、材料メーカー、装置メーカーなどと連携して情報収集に努めるのがミッションです。

堤様:山崎が所属する情報機能材料事業部門のR&D統括本部で取り組む開発段階の材料調達をしています。材料調達における様々なコスト削減のため、開発初期段階から調達が参画していく「開発調達」がミッションです。初期ニーズに合う外部リソースの情報の収集と社内発信に力を入れています。

仲野様:CTO直下の全社技術部門に所属しています。開発・山崎が3年先に思い描いているテーマに対し、実現するためのマテリアル探索を調達・堤と一緒に進めています。コーポレートR&Dと事業開発をつなぐ役割でもあります。

暗黙知に頼らないイノベーションの構築が必須

SPEEDA導入前の社内における課題感をおしえてください。

山崎様:急激に変化する時代に、「研究開発はどうあるべきか」という危機意識は誰もが抱いています。それぞれが経営者的な感覚を持ち自由闊達に議論できている文化は素晴らしいと思っています。他方、形式知化されていないところがあります。平たく言うと、お互いに暗黙の了解のうえで研究開発が続いている部分が多いのです。 装置の自動化やAI技術の発達によって、これまで仕事の大部分を占めてきた実験作業やデータ解析に基づいたモデル構築の主役が技術者から機械に移りつつあります。今後、技術者に求められるものは、課題の発掘力や設定力ではないでしょうか。 いかにマーケットに出て課題を見つけられるか、スピーディに研究開発に落とし込んでいけるか、行動力と分析力も求められるでしょう。未来を担う技術者の育成には、暗黙知だけに頼らず、暗黙知と形式知が相互に関係しながら発展できる体制の整備が急務だと考えています。

堤様:個々のスキルセットの違いもあるので、うまくマーケットと対話しながら開発シナリオを描く能力にはどうしても個人差が出る状況です。 Nittoが明るくない分野の技術をどのように取り込んでいくかという課題もあります。私たちの強みであるフィルム製造や粘着剤以外の分野でどう動いていくか。外部共創によって、付加価値を与えながら、全体コストも下げるマッチング活動を目指していきたいと考えています。

仲野様:私たちのオープンイノベーションは、マテリアルを買い、お客さまが求める価値に仕上げることです。どんな面白い技術を持っているサプライヤーがいるのか、どういった観点でパートナーを選ぶべきか、などの有益な情報を常に求めています。 同時にこれらの情報を社内で入手するには限界があります。

NittoのイノベーションDNAは脈々と受け継がれていると伺いました。このDNAはどのように受け継がれているのでしょうか?また、どのような変化が求められていますか?

仲野様:Nittoを築き上げてきた先人の工夫や取り組みは、いまの教えとして私たちに脈々と受け継がれていますが、一方でそれが暗黙知となっているのも事実です。NittoのDNAを暗黙知のまま終わらせるのではなく、設計開発のフェーズごとに細分化して形式知にしていくことが課題です。

新しい可能性を拓くSPEEDAの情報力

課題の発掘力や設定力は、実際にどのように生みだされるのでしょうか。またSPEEDAはどのように役立っていますか?

山崎様: まず、既存技術を分析したうえで、どのような未来予想図が描けるか思考を重ねます。未来予想図ができ上がると「私たちの技術力で貢献できるものは何か」という課題が見えてきます。 この課題を目標とし、現在開発すべき技術を時系列に並べていくとロードマップが完成します。どの技術が実現すれば、どこの市場まで狙えるかという検討も可能です。随時フォーカスしながら市場の分析を重ね、ベクトル修正しつつ目的地に至るといった調査に、SPEEDAは非常に役立っています。 実際に有機ELディスプレイや液晶ディスプレイなどのディスプレイパネルを作ることができない私たちには、パネルの特性を検証できないため、SPEEDAなどのツールを使って調整します。ニュース記事、特許情報、技術レポートなども相互に参照したうえで、計算と検証を繰り返しながらシミュレーションを重ねます。進めるうちに、自分たちの考えが正しいのか、想定と異なるのかなどが分かるようになりました。

素晴らしい取り組みですね。形式知化にSPEEDAが役立ったということでしょうか?

山崎様:SPEEDAを使うことで、未来予想図となるロードマップを描くIPランドスケープができたという実感はあります。これぞ進めていくべき研究開発の王道というものを、ある程度、構築できたのではないかと思います。

堤様:調達の観点では、「こんな製品を作りたい」「こんな機能を持つ材料が欲しい」という設計開発ニーズの初期段階から、戦略的に開発調達が入っていくことが価値を高めるのではないかと考えています。開発調達の重要なプロセスの1つに翻訳作業があります。ここで言う翻訳とは、設計開発部門からの「新しい機能が欲しい」という要望に対して、「どんな素材、加工、技術が欲しいのか」と必要な要素へ分解するプロセスのことです。 この翻訳作業では、必要な材料や加工技術を調べる必要があるため、対話がなければ成り立ちません。そのため既存の情報を活用するだけでなく、新しい分野の調査スキルまで求められます。情報次第で翻訳の精度が決まるため、SPEEDAのようなツールが必要になってきます。

※三新活動におけるSPEEDA貢献のイメージ図

SPEEDAの魅力は、この翻訳を進める上で重要となる情報調査に役立つところです。業界レポートが大変参考になり、特に素材・素材加工品のページを活用しています。 調査力が高まったことで、提案力の向上にも繋がりました。可能であれば、もう1段階下の細かいカテゴリーまで情報があるとさらに便利ですね。たとえば、総合化学業界のサブカテゴリーである各樹脂類の詳細まで調べられるようになることを期待しています。

サステナビリティの話題も豊富なところも魅力的です。例えば、廃プラスチックやバイオプラスチックのトレンドが素材のカテゴリーでまとまっているのが使いやすいですね。 今後は、SPEEDA EXPERT RESEARCHも使ってみたいと思っています。調査を進める中で、もう1段階深掘りしたい時は、エキスパートの知見も活かせるかもしれません。どのように活用していくべきか模索することがこれからの課題でしょう。

※SPEEDA業界ページ「電子材料業界」より抜粋

暗黙知を形式知へ落とし込んでいく際、必要なプロセスや、やるべきと思うことをお聞かせください。

仲野様:事業部にいた経験から、「どの部門にどんな得意分野を持った人がいるか」といったスキルマップがあると、将来的に間接部門との連携に有効ではないかと考えます。 そこに社員同士が議論できる場のような機能も持たせることが理想です。「必要な情報」「将来の見通し」「セグメンテーション」「モデル構築方法」「可能性あるパートナー」「有効なツール」など、どういう情報整理をしたら議論できるか項目を洗い出せると便利だと思います。 その中で、マーケットにどんな技術を提案していくか、議論する時の見方、次に進むべき打ち手、コネクションの作り方などを提供できればいいですね。 これらは部門を超えた取り組みとして議論していくことが重要です。私たち3人の間で議論はできていますが、できれば企画部門や、管理部門なども巻き込み、全社的に議論し合いながら推進していくべきだと考えています。

SPEEDAを導入したことで、今後のどのような変化を期待していらっしゃいますか。

山崎様:私が思い描く理想像は、マーケットで通用するビジネス感覚を持った技術者の育成です。経営理念や経営戦略といった思想でビジネスを語るという意味ではなく、自分たちの仕事が実際のマーケットでどういう効果を生んだのか、数値化してビジネスを語ることができる技術者。ビジネス思考を持ち、具体的にしっかり分析できる技術者の育成に繋がることを期待しています。 そのために、自分たちの成果を数字で評価できる仕組みが必要だと考えています。SPEEDAによって技術者側から経営情報が身近になると同時に、経営者側からも技術情報が身近になりました。従来あまり接点のなかった両者がアクセスしやすくなったことによって、専門家による分析に頼っていた情報を誰でも簡単に入手できるようになっています。調達・堤がSPEEDAの業界レポートを使うことによって提案力がアップしたという話は、まさにこのような活用方法の好事例でしょう。 経営情報以外にも特許情報、学術文献などあらゆる情報がクラスター化して結び付けられている世界観がSPEEDAの特長ではないでしょうか。SPEEDAを活用することで、経営企画が知財情報から戦略を語ることも可能になり、逆に技術者からビジネスを語ることも可能になります。 このような感覚をもった技術者をNittoから世界に輩出していくことが理想です。そのためには、まず社内の知見を高め、社外との連携によってどんどんスキルを磨きたいと思っています。最終目標は、一緒に革新的なビジネス作り上げていく仲間をどんどん輩出していくことです。

イノベーションの“あるべき姿”を求めて、形式知化へ前進

SPEEDAを導入した成果はいかがでしたか?

堤様:個人レベルではできていることも、会社全体で見るとまだまだ組織的に実行できていないところがNittoが抱える課題の1つだと感じています。会社の規模がある程度大きくなると暗黙知だけで成長していくことは難しいでしょう。 業界レポートが提案力を上げた事例のように、暗黙知を形式知化していくために、SPEEDAの有効活用が進むことを期待しています。

SPEEDAが本当に素晴らしい投資だったと言えるために、期待される状況はどのようなものでしょうか。それぞれの今後の展望をお伺いさせてください。

堤様:今日、開発・山崎と技術・仲野の話を聞くことそのものが素晴らしい時間でした。なぜなら、SPEEDAを使って彼らが調べていることや、考えているトピックなど「社内の知」を共有できたからです。 今後は、社外の知を取り込むことに加え、社内の知も収集・共有できる機能もSPEEDAに期待しています。

仲野様:最新技術を調べる時、ある程度のコストと時間が必要なコンサルに頼らないと情報が入らないというケースが多々あります。今後はSPEEDAを使って新技術の情報を網羅的に仕入れられるといいですね。検索機能を使ってコンタクト先を絞るだけでもさらに効果を期待できるのではないでしょうか。

山崎様:まず、SPEEDAを使って財務三表をしっかりタイムリーに比較できるようになりたいですね。 さらに、情報の場としてのメリットにも大きな期待を寄せています。 特許情報や財務情報、文献や研究論文も、数ある情報をクラスター化して結び付けられた世界から得られるものは大きいでしょう。 SPEEDAにはさまざまな情報が集められていて、コメントや質問ができるうえに、最新情報や考察も入手できます。 今後も、フロンティアな情報の集まりと、それらによって開かれた未来を感じられる状況、ビジネスのヒントが隠されている情報の場としての役割を期待しています。

2021.4 インタビュー

日東電工株式会社

www.nitto.com/jp/ja/
  • 特色

    基幹技術である粘着技術や高分子機能制御技術をベースに、エレクトロニクス業界や、自動車、住宅、インフラ、環境および医療関連などの領域で、さまざまな製品を提供しグローバルに事業を展開しています。情報機能材料事業部門は同社の主力製品、ディスプレイ用偏光フィルムの開発を担当しています。その他、皮膚に貼るだけで体内に薬を届けられる経皮吸収型テープ製剤や、海水を飲料水に変える逆浸透膜技術など、枠にとらわれない画期的な製品を次々と生み出し、B2B領域の「なくてはならない」キープレイヤーを目指す。

  • 業種

    製造・メーカー

  • 部署・職種

    研究開発

  • 企業規模

    5000人以上

  • 主な利用シーン

    研究開発・技術企画

  • 日東電工株式会社

    情報機能材料事業部門 R&D統括本部 第2開発部 第2グループ長

    山崎 達也 様

  • 日東電工株式会社

    全社技術部門 研究開発本部 粘着技術研究センター 第4グループ長

    仲野 武史 様

  • 日東電工株式会社

    調達本部 第2調達部 係長

    堤 康平 様