リサーチの民主化を実現する、AI活用リサーチモデルへの挑戦
ユーザベースと共創する価値創造サイクル
NTTコミュニケーションズ株式会社


顧客志向の実現に向け、データを活用した営業活動の進化を目指す、NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門。
同部門は多様なソリューションの中から最適な物を選び、社会やお客様に新たな価値を提供するため、マーケティング改革に着手しました。その改革の重要な第一歩が、生成AIを活用した「リサーチの民主化」です。
今回は、属人的だったリサーチ業務を「型化」し、全社的に「使える知」へと昇華させるNTTコミュニケーションズの挑戦について詳しく伺いました。
営業と開発をつなぐ「1.5列目」として、経営にインパクトをもたらす収益エンジンへ
マーケティング部門の役割とミッションについて、お聞かせください。
戸松氏:NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部のマーケティング部門は、大企業のお客様に向けた価値提供を目指しています。立ち位置としては、お客様と直接向き合う営業と、後方のサービス開発部隊やコーポレート部門との間に位置する1.5列目。NTTコミュニケーションズが持つサービスとお客様を的確につなぎ、価値を提供していくことが私たちの役割です。
短期的な目標は新規受注やパイプライン創出ですが、本質的に目指しているのは、経営に対して持続的なインパクトをもたらす「収益エンジン」となることです。一般的なビジネスサイクルは「価値提供→対価獲得→再投資→価値向上」ですが、私たちはもう一つの重要なループ、「データ」のループを回すことも目指しています。
NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 部門長/OPEN HUB for Smart World 代表 戸松 正剛 氏
「データはNew Oil」と言われて久しいですが、本当の意味でデータを使いこなせている企業は多くありません。しかし、生成AIの登場により、「データがないと商売ができない」時代に突入しています。
私たちは、データをお金と同等の価値を持つアセット、特に人材のような非財務的な価値を持つ無形資産と捉えています。だから、このデータというアセットを、全社のサービス開発やマーケティング活動などに活用するサイクルを確立して、意思決定レベルを引き上げたいと考えているのです。
営業と開発をつなぐ「1.5列目」として、経営にインパクトをもたらす収益エンジンへ
マーケティング部門の役割とミッションについて、お聞かせください。
NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 担当部長 田中 佑介 氏
田中氏: 統合マーケティングプロセスにおいて、リサーチは全ての起点です。特に統合マーケティングボードのような、中長期的な注力領域を定めたり、ポートフォリオマネジメントを行ったりする場所では、客観的で質の高い情報は欠かせません。
しかし、これまでのNTTコミュニケーションズでは、リサーチの重要性は認識されつつも、リサーチのあるべき姿や標準的な手法は定義されていませんでした。各部門や担当者の「個人のスキル」に依存する形でリサーチを進めていたのです。
片桐氏:結果として、似たような調査が部署ごとに行われ、異なる結論に基づいて意思決定されるという非効率が発生していました。また、高度なリサーチが必要な場合には、外部のコンサルティング会社に依頼することも多く、社内に知見が蓄積されにくいという側面もありました。顧客理解を深め、新たな事業機会を開拓するためには、再現性があり、質の高いリサーチを内製できる体制、すなわち社内のリサーチ力強化が必要だと感じたのです。
今回のリサーチ強化はユーザベースに包括的支援を依頼いただきました。その背景をお教えください。
片桐氏:リサーチ力強化の必要性を感じていたものの、具体的な進め方に悩んでいました。すでに利用していた「スピーダ」の活用を含め検討をしていた際に、ユーザベースからNTTコミュニケーションズに合わせて「リサーチのケイパビリティ」を一緒に策定するという提案をいただいたのです。
ツールベンダーとしてではなく、課題解決パートナーとして実業務に入り込み、現場プロセスに即した伴走型の支援に魅力を感じ、協働プロジェクトで進めることを決めました。
NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 担当課長 片桐 麻美 氏
AIを活用したリサーチモデルの構築と運用実践
NTTコミュニケーションズが目指すリサーチ業務のあるべき姿について、教えてください。
片桐氏:私たちの最終的な目標は「リサーチの民主化」です。特定の専門家だけでなく、誰もが質の高いリサーチを実現できる状態を目指しています。これにより、お客様や市場の理解を全社的に底上げし、データに基づいた意思決定や顧客への課題解決を迅速に行える組織文化を醸成したいと考えています。
リサーチの民主化に向けた、具体的なプロセスを教えてください。
菊池氏:まず、NTTコミュニケーションズにおけるリサーチの全体像を3つの軸で体系化しました。具体的には、今後の注力領域を策定する「市場動向・社会トレンドリサーチ」、事業拡大に向けた「産業・業界別リサーチ」、お客様企業と個別の共創ビジネスを進める際の「DX案件推進リサーチ」です。
次に、ユーザベースにも深く関与いただきながら、これらのリサーチを効率的かつ高品質に行うため調査スキルを分解し、再利用可能な「リサーチモジュール」を作成しました。モジュール化にあたっては、「一般的なリサーチ手法はこうあるべき」というトップダウンのアプローチと、実際に営業部門から寄せられる案件に対応しながら「NTTコミュニケーションズの実務ではこの観点が重要」といった知見を組み込むボトムアップのアプローチの両輪で進めました。
図:リサーチモジュールの体系化と実用化に向けた具体ステップ
片桐氏:しかし、リサーチモジュールと手順書を作成しただけでは、社員が手順書を読み込んで、内容を理解し、自分で目的に応じたモジュールを選択しなければなりません。
菊池氏:ですが、技術進化の著しい生成AIを使えば、担当者がプロセスを理解できていなくても、目的達成のためのリサーチは実現できます。リサーチの民主化をさらに進められると気づいたのです。
NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 清 陽子 氏
清氏:そこで、ユーザベースの担当者に生成AI活用の技術支援をいただきながら、作成したモジュール群を生成AIに学習させ、AIをインターフェースとする次世代リサーチモデルを構築しました。
現在では約30のリサーチモジュールがあり、リサーチ目的を入れるとAIが最適な調査プロセスや調査項目を自動で選択してくれます。また、アウトプットした結果をインフォグラフィック化までしてくれるため、パワーポイントの資料も簡単に作成でき、誰もが目的に近いリサーチを実現できる状態になりつつあります。
図:生成AIを活用したリサーチモジュールの仕組み
AIを活用したリサーチモジュールは現場にどのような変化をもたらしましたか。営業担当者の感想などをお教えください。
菊池氏: リサーチモジュールを活用することで、「これまでは業界や顧客の理解に時間がかかったが、この仕組みを使えば、短時間で精度の高いアウトプットが得られる」「リサーチの専門家でなくても、一定レベル以上の調査ができるようになった」といった驚きと好意的な声が多数寄せられています。
田中氏:調査工数や資料作成の劇的な短縮はもちろん、自分たちの手元ですぐにリサーチできることで、業界やお客様理解が深まり、売上やCX向上につながっています。また、従来は私たちの部で対応していたリサーチ教育や、リサーチ案件も減りました。結果として、調査コストの削減だけでなく、人的・時間的な削減など幅広い効果が見え始めていますね。
戸松氏:リサーチは意思決定のための手段であるため、企業ごとの意思決定の癖や重視点を把握する必要があります。今回は社内の実案件を基にモジュール化しているので、その癖が存分に盛り込まれた、NTTコミュニケーションズ独自のリサーチプロセスを構築できています。経営層が意思決定しやすい環境に近づいていると感じます。
今回、ユーザベースと連携してプロジェクトを進めたことに対する感想をお聞かせください。
菊池氏:今回のプロジェクトに関して、ユーザベースの担当者が私たちと同じ現場で働き、営業現場の声を直接吸い上げてくれたことには非常に意味があったと考えています。
同じ目線で業務に一緒に取り組んだからこその気づきが、モジュール開発や仕組みの改善に存分に活かされました。「スピーダ」というツールの枠を超えて、「NTTコミュニケーションズにおけるリサーチのあるべき姿や、最適なリサーチ手法」を追求する現場密着の取り組みが、独自の「現場で使えるリサーチの民主化」を大きく前進させたと感じますね。
NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 菊池 悠介 氏
AIで変わるリサーチ業務を味方に、事業創造を支援する組織へと進化
マーケティング部の今後の展望、2025年度以降の取り組みについて教えてください。
戸松氏: 短期的には、各事業部が自律的にこのAIリサーチモジュールを活用してリサーチできる状態、すなわち「リサーチの民主化」の第一段階達成を目指しています。
さらに先には、単なる効率化ツールとしてのAI活用ではなく、AIが人間の能力をどう拡張できるかを探求するつもりです。例えば、「AIエージェント」が独立して営業活動を行う未来も考えられますが、私たちは「エージェンティックAI」、つまりAIが人間に寄り添い、生産性を向上させる方向性を重視しています。
現在の効率重視の営業スタイルはAIが得意とする領域かもしれません。しかし、私たちはAIを活用することで、営業担当者がお客様と共に新たな価値を創り出す役割へと進化できるのではないかと考えているのです。
その未来の実現に向けて、今回開発したリサーチモジュールに加え、複数のAIモデルも考えています。これらを活用することで、従来は一部の人しかできなかった高度な価値共創活動を、より多くの営業担当者が実現できるようになるかもしれません。この仮説が正解だとは考えていませんが、仮説検証を高速で回せるようになった今、AIを活用して高速に検証していくこと自体、私たちが今後挑戦すべきことだと感じています。
※2025年5月取材。本文中に記載の企業名・組織名・役職・数値情報、スピーダの仕様等はインタビュー当時のものです。
NTTコミュニケーションズ株式会社
www.ntt.com/業種
情報通信・IT
部署・職種
マーケティング
企業規模
5000人以上
主な利用シーン
事業開発/新規事業開発、ビジネス戦略策定、営業・マーケティング戦略策定、営業フロント業務
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NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 部門長/OPEN HUB for Smart World 代表
戸松 正剛 氏
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NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 担当部長
田中 佑介 氏
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NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 担当課長
片桐 麻美 氏
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NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門
菊池 悠介 氏
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NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門
清 陽子 氏