#経営企画 2025/12/25更新

8年で18件の実績から読み解く、「仕組み化」で進める クラウドワークスM&A成功の法則

8年で18件の実績から読み解く、「仕組み化」で進める クラウドワークスM&A成功の法則 8年で18件の実績から読み解く、「仕組み化」で進める クラウドワークスM&A成功の法則

中期経営目標で「300億円のうち120億円をM&Aで創出する」という計画を掲げ、企業成長を加速させてきた株式会社クラウドワークス。同社の成功の秘訣は、明文化されたポリシー、効率的な情報収集プロセス、そして買収後の成長を見据えた統合戦略です。本記事では、M&A担当執行役員の酒井 氏と投資戦略部部長の三宮 氏に、連続M&Aの実践的ノウハウを詳しく伺いました。

※本対談は2025年11月18日開催、「【M&Aイノベーターズ】クラウドワークスが語る、18件のM&A成功に学ぶ"仕組み"-"再現性"を高める戦略設計とSpeeda活用-」セミナーを再構成したものです。

事業成長を支えるクラウドワークスのM&A戦略と実践方針

──まず、貴社の事業とM&Aの概要について教えてください。

酒井氏:クラウドワークスは2011年に創業し、昨年末に上場から丸10年の節目を迎えました。社名が示すようにクラウドソーシングのイメージが強い企業ですが、人材と企業のマッチング事業やSaaS事業にも力を入れています。
『個のためのインフラになる』というミッションのもと、あらゆる個人一人ひとりが才能や得意分野を最大限に発揮できる環境づくりを進めています。

M&Aは2017年にスタートし、2023年より専門チームを立ち上げて取り組みを加速、「既存事業の拡大」と「新規領域への進出」を目的として、これまでに累計18件を実施しました。
我々は「M&Aで企業を買う」という捉え方をしておらず、「グループインしてもらうことで、その会社の成長にクラウドワークスがどれだけ貢献できるか」というポリシーを大切にしています。

──『グループインポリシー』ですね。詳しくお聞かせください。

酒井氏:『グループインポリシー』は、5つのドライバー(強み)を対象会社に提供することで、4つの領域で相乗効果を創出するという考え方です。

クラウドワークスの強みを提供することで、シナジーを創り上げる

当社代表の吉田(浩一郎 代表取締役社長 兼 CEO)が、「お互いが合意されていない期待を持っている状況こそ、組織内の摩擦やすれ違いを生む主要因である」と捉えたことが、策定の背景です。曖昧な前提を残さないために、可能な限り具体的な数字や基準で提示するカルチャーを磨き上げてきました。

併せて、M&Aプロセスで大切にしている3つの観点があります。
まず「対話を重視」することです。対象企業との面談において吉田は、その企業の歴史、創業者がどういうきっかけで会社を立ち上げたのか、経営陣の生い立ちや人となりなど、背景にあるストーリーにしっかり耳を傾けます。
次に「成長へのコミット」です。グループイン後にどんな成長を実現できるのか、そのためにどの程度の利益目標を掲げ、双方がどんなアクションを取っていくべきかを、丁寧にすり合わせます。この段階で、目指す成長イメージやコミットにギャップがある場合は、無理にM&Aに進むのではなく、より適切な選択肢を検討することもあります。
最後は「One CrowdWorks」です。クラウドワークスに加わるからこその成長や達成感を確かな形で実感できるよう、パートナー候補側が求める価値を対話を通して定義し、それに沿った評価指標やインセンティブを一緒に作り上げていきます。

M&Aを動かす組織体制と役割分担

──ポリシーや3つの観点に基づいて、どのような体制でM&Aを推進されていますか。

酒井氏:6〜7名で構成された投資戦略部が、初期検討からDay100直前まで責任をもって管理し、PMI担当のグループ戦略室へ引き渡すのが基本体制です。同部は社内の各事業部出身者と、金融やM&A仲介経験者で構成されており、ソーシング担当とデューデリジェンス以降のエグゼキューション担当に分かれて運営されています。

M&Aのプロセスと体制について説明する株式会社クラウドワークス 執行役員 / M&A担当 酒井 亮 氏

──社内の理解を得ながらM&Aを進めるコツを教えてください。

酒井氏:事業サイドとは定期的にミーティングの場を持ち、事業成長のために、どのような会社と組んでいきたいかをヒアリングするなど、積極的に情報を取りにいくようにしています。
加えて、実務に関わるコーポレート部門や、PMI後に人材を供給する既存事業部門との調整も欠かせないため、秘密保持の範囲内でできる限りの情報を伝えています。日々の密なコミュニケーションで理解を得ていくことが、継続的にM&Aを実施していく上で必要不可欠です。
また案件によっては、M&A後の事業責任者を既存事業部から選定するケースもあるため、必ずしも全員が人材異動を前向きに受け止められるとは限りません。そのため、グループインする側だけでなく、既存事業側にとっても、M&Aを通じて新しい役割や経験を得られるような配慮が重要だと考えています。

M&Aを連続で実現する実行体制と意思決定

──2017年からの8年間で18件ものM&Aを実施されていますが、どのように継続されているのでしょうか。

三宮氏:我々の方針を理解いただいている150社程度の仲介会社とのコネクションからの紹介が中心となっています。ご提案いただいた案件には迅速に返信し、検討状況を明確化することで信頼関係を築いています。

──そうして得た案件の進め方を教えてください。

三宮氏:年間約1,000件弱のノンネームシート(譲渡企業の匿名性が保護された企業概要書類)を受け取りますが、そのうち2〜3割のIM(インフォメーションメモランダム/企業概要書)をいただき、チームで初期検討します。その後、ビジネス面を中心に先方と議論するため、酒井のチームと最初の面談を設けます。さらに前向きに検討を進める場合は、吉田とのトップ面談で「対話を重視したコミュニケーション」を実践します。

──案件を進める判断においても、ポリシーが大きく関わっているそうですね。

酒井氏:冒頭で触れた「グループインポリシーやM&Aプロセスで大切にしている3つの観点」を軸にしているからこそ、「お互いにとってこのM&Aは最良の選択か」を早期に見極めることができ、スピード感のある意思決定が可能となります。結果として、連続的なM&Aの実行につながっていると感じています。

クラウドワークスのM&A理念と言える考え方

──LOI(Letter Of Intent/意向表明書)の意思決定から、デューデリジェンスの流れも教えてください。

三宮氏:LOIは、ビジネスとしてどうシナジーが伸ばせるのか、財務基準や投資回収期間なども踏まえて判断します。
実際の投資判断やリスク評価のためのデューデリジェンスは、LOIを出すまでは基本的に内製化しています。意向表明後、財務・法務・バリュエーション(企業価値評価)に関しては原則として外部専門家を活用しますが、対象企業の規模が小さい場合には、財務デューデリジェンスを社内で実施することもあります。

──非上場企業のバリュエーションにおけるコンプス(Comps/類似会社比較法)の取り方についてもご教示ください。

三宮氏:我々は時価総額1,000億円以下の上場企業をベースに、事業の類似性、財務状況等を総合的に勘案し、類似会社を決定しています。
バリュエーションについては、類似会社のバリュエーションも参考に、複数のアプローチを組み合わせることで、高値掴みのリスクを回避する努力をしています。

Speedaを活用した分析プロセスとスピード向上

──M&Aを進める中で、情報収集や分析の効率化が求められます。Speedaを活用した具体的な工夫やメリットについて教えていただけますか。

三宮氏:特に3つのメリットを感じています。

1つ目は、上場企業の公表情報を網羅的に確認できることです。各社の情報や資料を個別に確認してExcelにまとめる手間が大幅に削減されますし、項目名もSpeedaによって統一されているため横並びで比較しやすくなっています。数値の算出方法や根拠情報も示されており、信頼性も十分です。

2つ目は、データベースとしてのリサーチ機能があることです。例えば「リーガルテック」についてリサーチしたい場合にキーワード検索すると、市場トレンドから関連企業まで一括で情報収集できるため、馴染みのない隣接領域を理解する際にも役立ちます。エキスパートインタビューで専門家の知見を取り込める点も、付加価値として重宝しています。

3つ目は、加工しやすい形でデータが提供される点です。Excel、PowerPoint、Wordで直接ダウンロードできるため、資料作成をスムーズに進められます。

Speedaが扱う情報ソースは多岐にわたるため、使い方次第で活用の幅はさらに広がるでしょう。

Speedaについて説明する株式会社クラウドワークス 投資戦略部部長 三宮 大典 氏

経験を糧に挑戦を続ける、クラウドワークスのM&A成長戦略

──PMIの重要な節目である初期対応の秘訣はありますか。

酒井氏:グループインいただく企業の従業員にとって、M&Aは予想外の出来事です。そのため、Day1で代表の吉田も一緒に企業を訪問し、M&Aの意図や今後の方向性を丁寧に説明しています。さらに、不安を和らげるために食事の場を設けるなど、安心して新しい環境に移行できる雰囲気づくりにも努めています。

──相乗効果創出の取り組みについてもお聞かせください。

酒井氏:グループインいただいた企業間のシナジーとしては、各企業の社長による月次のグロース会議や合宿を開催するなど、密なコミュニケーションの場をもつことで、相互理解を深めるようにしています。また、先日のオフィス移転で、グループ企業の立地もなるべく集約し、物理的な連携も取りやすくしました。
人材交流も重要視しています。グループ入りした経営陣に新たな役割を担っていただいたり、当社からは営業社員をグループ企業へ出向させたりするなど、一人ひとりのメンバーが互いの成長に貢献できる環境を整えています。

──最後に、今後のM&Aの展望をお聞かせください。

酒井氏:まず、スタートアップM&Aへの本格的な挑戦です。これまでは外部株主の少ない案件が中心でしたが、今後はこれまで手がけていない領域のスタートアップとの連携を増やしていきたいと考えています。
次に、事業ポートフォリオの最適化です。買収だけでなく、売却も含めた最適な事業構成を追求し、全体の成長を加速させます。
さらに、DXコンサル領域を中核事業として位置づけ、M&Aを活用しながらさらなる拡大を目指します。

三宮氏:今後はより複雑なストラクチャーを検討することの必要性も感じています。今までの経験から得た学びと改善点を糧にし、これからも変化を恐れず新たな挑戦に向き合っていきたいと考えています。

酒井氏:M&A市場は活発化しており、「最初の1件をどう進めるべきか」というご相談も増えてきましたが、件数を重ねて分かることの方がはるかに多いと実感しています。だからこそ、まずは一歩踏み出すことが何より重要です。想定どおりに進まないM&Aの方が多いのも事実ですが、私たち自身も試行錯誤を続けながら、より良いM&Aを実現すべく常にトライし続けていきます。

Speaker

酒井 亮 氏

酒井 亮 氏

株式会社クラウドワークス
執行役員 / M&A担当

明治大学政治経済学部卒業。2016年にクラウドワークスへ新卒入社。フリーランスのエンジニア・デザイナー向けエージェントサービス「クラウドテック」の立ち上げをはじめ、CtoCスキルプラットフォーム「サイタ」の事業マネジメント、生産性向上SaaS「クラウドログ」の買収およびPMI・事業成長を主導し、約5年で買収時の10倍規模へ成長させる。
2023年より執行役員CROとして全社業績管理およびAI事業の買収・立ち上げを担当し、2024年からはM&A担当としてグループ戦略をリードし、累計18件のM&Aを手がける。

三宮 大典 氏

三宮 大典 氏

株式会社クラウドワークス
投資戦略部部長

慶應義塾大学大学院法務研究科修了。新卒にて独立系財務コンサルティングファームへ入社、上場/非上場企業へのM&Aアドバイザリー業務、各種資本政策コンサルティング業務に従事。
その後、みずほ証券株式会社グローバルマーケッツ部門金融戦略部にて、株式関連ソリューションの開発・提案、各種金融ソリューションの開発に従事。Fintech スタートアップ企業の事業開発部マネージャーを経て、株式会社クラウドワークス入社。同社のM&A、投資案件に関する業務全般に従事。

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