AIの答えを「まず疑う」。SHIFTが定義する、AI時代に経営企画が磨くべきクリティカルシンキングの正体
「ホワイトカラー不要論」さえ囁かれる生成AI時代、経営企画部門はいかなる価値を発揮すべきなのでしょうか。いまや単なる効率化を超えて、AIとの対話を通じて戦略思考を深化させ、経営層の意思決定を支援する「参謀力」の強化が求められています。この時代に、どのような取り組みが有効なのか。全社を挙げてAIの徹底活用を進めている株式会社SHIFTのコーポレート企画部の実践例から、その答えを探ります。
※本対談は2025年11月27日開催、「AIが創る経営企画の"参謀力" 対話を重ね、思考を極限まで磨き込む」セミナーを再構成したものです。
経営企画の価値を「(早い+うまい)×ホスピタリティ×珍しい」で定義
──まず、経営企画業務の中でAIをどう位置付けているか教えてください。
山口氏:大前提として、「ホワイトカラー不要論」が叫ばれる現代において人の価値はどう決まるのか。私はその答えをおおまかに「早い・うまい・ホスピタリティ・珍しい」という4つの概念で整理し、それをいかに最大化できるかにあると考えています。

経営企画の業務に置き換えると、たとえば、「早い」は迅速なリサーチや集計、分析。「うまい」は専門性の高い領域における高度な分析力。「ホスピタリティ」は攻めと守りのバランス感覚、フェアな判断、議論における適切なモデレーション。そして「珍しい」はニッチであることです。
私たちは、これら4つの要素を「(早い + うまい)× ホスピタリティ × 珍しい」という方程式で捉え、この価値創造プロセスにAIを組み込んでいます。本日は、これらの課題に対してAIをどのように活用し価値を届けているのか、社内向けツールに組み込んでいるのか、その具体的な事例をご紹介します。

3つの依存からの脱却を実現するAIツール群
──具体的には、どのようにAIを活用されているのでしょうか。
岩岡氏:「依存状態からの解放」をテーマに、自社で3つのAIツールを開発・運用しています。
1つ目は「AI格付けモデル」による、自社の信用格付(債務履行能力評価)を行う際の、外部依存からの解放です。従来、自社の格付けは外部の格付け機関へ依頼する他なく、相応のコストとリードタイムがかかっていました。そこでAIを活用し、例えばSpeedaでも取得可能な各社の財務データなど外部データを活用し、かなりの精度でシミュレーションを行える内製モデルを構築しました。これにより、大幅にリードタイムが削減でき社内でのAI活用も進みました。

2つ目は「Tableau AI検索」による”調べる工数”からの解放です。経営企画部主体で、BIツールを活用した売上ダッシュボードを整備しています。しかし現場のみなさんにとっては、膨大なページの中から見たいデータを探すのに時間がかかり、目的の情報がどこにあるのか分からなくなりやすいのが実情です。そこで、質問すれば必要な情報について教えてくれる社内用のチャットボットを開発しました。その結果、「今年と昨年の売上の違いは?」などの質問にチャットボットがすぐ答えて、情報へのリンク提示や途中までの誘導をしてくれるようになったため、誰でも迷うことなく必要な情報へアクセスできるようになりました。
3つ目は「熟練工知識AI」による人依存からの解放です。ベテランが退職する際、その暗黙知を形式知化するために膨大なマニュアルを作成するのは現実的ではありません。そこでTeamsやメール、議事録などの情報をAIに学習させ、その人の思考パターンを模倣できるシステムを構築しました。これにより、属人化していたナレッジの継承と活用を実現しています。
これらの構築にはそれほど難しい技術を使っているわけではありません。社内に中級程度のエンジニアがいれば、実現可能だと思います。

──先ほどのスライドに「AI社外取締役」についても記載されていましたが、こちらはどのような取り組みですか。
山口氏:経営企画部門として取締役会の事務局と議事進行を担当する中で、形式的な内容の確認に時間を取られてしまうという課題がありました。これでは、せっかく知識豊富な取締役が集まっているにもかかわらず、その叡智を経営に活かせません。
そこでわれわれが事前にAIと100回以上対話を重ね、あらゆる質問パターンを想定して準備を徹底。その結果、取締役会では形式的な確認ではなく、判断が伴う重要な議論に時間を割けるようになったのです。
AI時代の経営企画に求められる「参謀力」の変化
──SHIFTでは経営企画部の方が自らツール開発をするなど、AI活用の新境地を切り拓いていらっしゃいますが、AIの台頭によって経営企画に求められるスキルはどう変化していると思われますか。
山口氏:そもそも今回のテーマでもある「AIで創る経営企画の参謀力」についてご説明します。経営企画部門が参謀力を持つために重要なのは、AIに完璧な正解を求めることではありません。むしろ、AIのアウトプットの違いをどれだけ疑い抜けるか。AIは同じ質問でも前提が少し違えば答えが変わります。それを人間がどれだけ突き詰めて考えられるか。このクリティカルシンキングをいかに磨くかが人間に求められている本質的な価値だと感じています。
AIは何でも教えてくれますが、こちらから聞かないと答えてくれません。聞き方一つで回答が変わるので、質問力が問われます。しかもただ質問すればいいのではなく、質問の多角化も重要です。AIや論文、権威ある人の意見を額面通りに受け取らず、常に別の観点から疑う姿勢が求められるでしょう。それに「情報」といっても、ネット上に落ちていない情報をいかに収集するかが鍵となります。会社固有の文脈や個人の想いなど、一次情報を吸い上げるために、経営企画は現場により根ざす必要があります。
こうしてAIが情報を集め、分析し推論してくれるので、人間にはそれを形ある施策に落とし込み、実行するオペレーション力も求められるでしょう。
──こうしたAIを活用した「経営企画の参謀力の向上」に関する取り組みに共通する原則はあるのでしょうか。
山口氏:私たちの取り組みには、大きく4つの共通原則があります。
- 技術より発想
例えば「熟練工知識AI」は熟練者の退職という危機感がきっかけでしたし、「Tableau AI検索」も「どんなに良いものを作っても現場に届かなければ意味がない」という当たり前の発想から生まれました。高度な技術ありきではなく、課題解決のための発想が起点にあります。 - 社内文脈をAIに学習させる
RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術などを活用し、社内の知識を図書館のように蓄積して、必要な時に文脈に沿った回答を取り出せる仕組みを構築しています。 - 利用者体験から逆算する
つくり手の論理ではなく、エンドユーザーがどう使うかを最優先に設計することを重視しています。 - 小さく始めて回すこと
「AI格付けモデル」もプロトタイプの作成に要した期間は3日ほどです。最初から完璧を求めず、まずは動くものを作って、運用しながら改善を重ねるアジャイルな姿勢を重視しています。

「使われない」を打破する 現場満足度100%を目指すAI活用
──現場との連携や、課題発掘のために工夫されていることはありますか。
山口氏:現場からの問い合わせに対するレスポンス速度を徹底的にKPI化しています。問い合わせに何秒以内にレスポンスしたかを記録し、チーム内でリソースが空いているメンバーが即座にフォローに入る仕組みです。
私たちが回答した内容は、先ほどお伝えした社内ツール「熟練工知識AI」の学習データとしてそのまま蓄積されます。つまり、誠実に人間が対応すればするほどAIが賢くなり、次からはAIが即答できるようになる。結果として回答速度と満足度が向上し、現場からより多くの情報が集まってくるという好循環を生み出す流れを狙っています。
目指すのは「思わず相談したくなる経営企画」です。「現場満足度100%」を掲げ、日々AI活用に取り組んでいます。
岩岡氏:発想の根底にあるのは”社内向け”カスタマーサクセスです。「経営企画のリッツ・カールトン」を目指すような、ホスピタリティあふれる組織文化づくりを目指しています。
──ツールを作っても「現場に浸透しない」「AI活用が停滞する」といった壁にぶつかる企業も多いです。この壁をSHIFTではどう乗り越えたのか、あらためてお教えいただけますでしょうか。
山口氏:ドライな言い方かもしれませんが、「活用しない人に過剰に時間をかけても仕方がない」と割り切ることも必要です。営業活動と同じで「課題が顕在化していて、使えば確実に助かる人」にターゲティングして届ける方が重要です。
例えば、投資家からの問い合わせ対応に追われるIR担当者向けに、過去のプレスリリースを即座に検索できるツールを提供すれば、彼らの業務は劇的に楽になります。課題からスタートしていれば、ユーザーは少なくても、「使われない」という事態は起こり得ません。
岩岡氏:共通しているのは「AIを使うこと」自体を目的にしていない点です。極端な話、「Tableau AI検索」というツールが使われなくても、ユーザーが迷わずに必要な画面に辿り着けるのであれば目的は達成できています。AIはあくまで「手段」の1つに過ぎません。

山口氏:AI活用が前に進まなかった停滞期には、半強制的に「考える時間」を設けることも有効でした。日々の業務に追われていると、どうしても新しい発想は生まれにくい。そこで週次や月次でR&Dの時間を確保し、「考えなければならない状況」を構造的に作ることで、良いアイデアも推進力も生まれていったと感じています。
こうした取り組みの一つとして、現在も、課題特定のために「課題の千本ノック」などアイデアを自由に考えるための週次定例ミーティングを実施しています。「あんなこといいな、できたらいいな」と夢の道具を考えるような自由な発想で、ひたすら課題と解決策を考える時間です。
あえてエンジニアは参加せず、「技術的に不可能」といった現実的な指摘をせず、とにかく自由に発想する場を作っています。
AI活用のスタートラインは「まずは触ることから」
──最後に、これからAI活用を始めたい経営企画担当者へアドバイスをお願いします。
山口氏:知っていることも知らないことも、人に聞く前にまずAIに聞いてみる。それだけで十分なスタートです。我々も最初は手探りでしたが、毎日チームで「今日どれくらいAI使えましたか」とアンケートを取り、一番活用した人を賞賛するところから始めました。
その後は様々な人と情報交換し、面白がりながら改善し続けることが重要です。AIを活用しながらも、人間にしかできない「判断」や「意志」を磨き続けることこそが、これからの経営企画の価値を高めていくはずです。

Speaker

山口 瞬氏
株式会社SHIFT コーポレート企画部部長
メガバンクに入行。営業部にて、時価総額5,000億程度の上場企業を主に担当。コーポレート/MAファイナンスやM&Aを中心としたソリューション営業を経験。その後、証券会社にて、ECM部(エクイティ・キャピタル・マーケット)にて、IPO、PO、CB、メザニンファイナンスなどのオリジネーション業務に従事。金融を中心としたキャリアを経て、2021年にSHIFT経営企画グループにジョイン。連結FP&A、資本政策/資金調達、EVAC事業、ガバナンスなどの経営テーマを中心に業務を行う。

岩岡 友夫氏
株式会社SHIFT コーポレート企画部 データプランニンググループ グループ長
大手リユース会社に入社。現場での経験を積んだのち、本部にて商品管理/MDを中心に業務を経験。創業当初からの価格システム刷新や分析基盤構築に携わる。その後、マーケティングリサーチ会社にて、プロダクトマネージャーや自然言語の機械学習や統計モデルの構築、また社内効率化のためのBPR業務に従事。データハンドリングを中心としたキャリアを経て、2023年にSHIFT経営企画グループにジョイン。連結FP&A、各種KPI分析、データ分析基盤および分析者の育成など、多くのデータを活かした業務に取り組む。