経営と営業がシンクロした戦略。CTCエスピー営業変革のはじまり
売上は順調に伸びているものの、利益が思うように伸びない──そんな構造的課題に直面していたCTCエスピー株式会社は、SaaS事業拡大を軸に営業変革へと踏み出しました。
親会社経由の取引が多い中で、いかに「脱・御用聞き営業」を実行しているのか。
本記事では、「旗を立て続ける経営」を担う代表取締役社長の上 氏と、「変革の意図と行動を文化として営業現場に根付かせる」実行を担う菊池 氏に、経営の危機感をどのように現場へ落とし込んでいったのか、そのプロセスを伺います。
※本対談は2026年1月27日開催「経営トップの危機感×営業現場のリアル ー 脱・御用聞き営業を進める"変革会議"の裏側」セミナーを再構成したものです。
売上好調でも利益が伸びない構造的課題
──本日はCTCエスピーの上さん、菊池さんより営業変革についてお話を伺います。
加えて、変革に伴走している当社営業マーケティングコンサルティングチーム ディレクターの畑佐も同席いたします。
ではまず、貴社について教えてください。
上氏:私どもCTCエスピーは、ネットワークセキュリティやストレージを中心として、コミュニケーションツールなど幅広いITソリューションを提供しています。ビジネスモデルは大きく3つで、親会社である伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)を調達で支える卸売、パートナー経由での販売、そしてエンドユーザーへの直接販売です。売上の6割強が、良くも悪くも親会社経由となっています。
──売上は順調に推移されている中で、なぜ営業変革に踏み切ったのでしょうか。
上氏:トップラインは伸びても、利益が同じカーブで追随していない現状に危機感を抱きました。このままでもそれなりの成長はしていくでしょう。ただし、利益がなかなか伸びていかない。利益が出なければ、投資も次のチャレンジもできません。社長就任当初から「今までのやり方だけでは成長は頭打ちになる。何から手を付けるべきか」と感じていました。

──売上は出ているものの利益が伸びない状況を、営業の現場はどう受け止めていましたか。
菊池氏:営業現場では、自分たちに残る利益を下げざるを得ない状況に、悔しさを感じていました。さらにエンドユーザーからすると、我々は「要件を受けて製品を手配するだけ」に見えてしまい、利益を確保したいのに自信をもって価値を示せず、価格に反映できないジレンマを抱えていました。
畑佐:直接販売を強化して利益率を高めることが変革に繋がっていくわけですが、親会社からすると「CTCエスピー=調達担当」と捉えられている面もあると思います。極端に言うと、利益率は親会社で見るので調達だけ担ってくれたらよい、という考え方です。
その中で、親会社からはどのように受け止められるものでしょうか。
上氏:すごくいい質問ですね。「グループ全体で利益を上げていこう」というと聞こえは良いですが、実際の現場からすると綺麗事ではないかなと。子会社であっても、我々は一つの事業会社であり、明確な目標も課せられます。評価も責任も、最終的には自分たちの数字に返ってくる。だからこそ、立場に関係なく事業として利益を出し、しっかり自立する覚悟で取り組んでいます。
「御用聞き営業」に陥る負のスパイラル
──具体的にどのような営業スタイルが課題となっていたのでしょうか。
菊池氏:これまでの「プロダクト力」で売れる時代から、競合代理店や類似製品が増えたことで差別化が難しくなりました。そこで、お客様と伴走するアカウント営業に転換し「なんでもお任せください」というスタンスを取ったことが、結果的に悪い意味での”御用聞き営業”の始まりでした。
問い合わせが増え、案件数も増加していく一方で、量をこなすことを優先するあまり、要件を受けて回答するだけの“パススルー型”の対応になっていった。しかし、付加価値を意識して丁寧に向き合おうとすると、件数をこなせず目標数字に届かない。この量と質のどちらも満たせない構造に現場は行き詰まり、成長を実感しにくいまま仕事に追われるような閉塞感が漂っていました。
──営業変革に取り組むにあたり、まずどのように目指す姿を描かれたのでしょうか。
菊池氏:対応量を優先すると品質が下がり、品質を高めようとすると件数が追えない。この負のスパイラルをどう抜け出すかが出発点でした。
そこでまず、調達ビジネスの再構築に着手しました。即応できる案件は効率化し、本来付加価値を発揮すべき案件には、しっかりと時間とリソースを割く。対応量を大きく減らすのではなく、リソース配分を見直すことで全体のクオリティを高めて顧客満足度を高めていく考え方です。営業チーム内で日々試行錯誤しながら形にしています。

戦略と現場行動のズレを埋める組織変革
──現場の課題を前提に、経営としては営業変革をどのような方向性で進めていったのでしょうか。
上氏:せっかくやるのであれば、CTCエスピーの独自色を出したいと考えました。SaaS事業は親会社の注力分野ではありませんが、市場を見ると明らかに伸びており、「やらない手はない」と以前から感じていた領域です。そこで、単なるライセンス販売にとどまらず、CTCエスピーならではの付加価値を加えて、新規でSaaS事業を展開することを決めました。
親会社を経由する案件であってもエンドユーザーとしっかり向き合い、直販に近い形で価値を提供していく。こうした“ハイタッチ”型の営業を広げていくことが、今回の営業変革を象徴する取り組みであり、目指す姿でもあります。
──SaaSビジネス拡大の方針は、営業現場ではどのように受け止められましたか。
菊池氏:最初は戸惑いもありました。CTCグループとしてSaaSは積極的に販売していくものという印象があまりなかったこともあり、「どこから買っても同じではないか」という声が現場にはあったように思います。
そこで私たちは、SaaSを売ることを目的にせず、「まずお客様の課題に向き合って話を聞き、その中でSaaSが役立つ場面を提案する」考え方を方針としました。

畑佐:お客様の話を広く聞くことは重要ですが、「次に何をするのか」を積み上げていくだけでは現場のゴールが見えにくくなります。
そこでまず全体像を描き、そのうえで「最初に着手すべき一歩」を定めていきました。
営業変革を進めるには、組織や目標設計、成果管理、ツール活用といった「仕組み」の見直しに加え、現場のスキルやマネジメントの関わり方、価値観などの「人・文化」もアップデートが欠かせません。従来のままでは現場とズレが生じ、質を高めようとするほど負荷が増えるためです。
伴走させていただき約1年ですが、「人・文化」の面では、顧客起点で課題を聞くだけでなく提案につなげていくスキルや、新しい戦略と目の前の売上をどう両立させるかを現場に伝えるミドルマネジメントのコミュニケーションにおいて、前向きな変化が少しずつ表れていると伺っています。

──営業のあり方を見直す方向性が見えた中で、次にどのように組織を整備し、現場に定着させていかれましたか。
上氏:この考え方を現場で実践していくには、まず体制から変える必要がありました。そこで最初に手を打ったのが、SaaSのプリセールス専任部隊の新設です。その立ち上げを菊池に任せました。
こうしてSaaS販売に取り組む中で、「これは特定の商材の話ではなく、”私たちがどんな営業を目指すのか”という問いそのものだ」と気づいたのです。お客様の課題に向き合い、ニーズ起点で価値を届ける考え方は、営業の本質そのものであると。
そこで、過去の反省も踏まえながら、SaaS専任部隊だけではなく営業全体を、顧客単位で継続的に向き合うアカウントセールスへと再設計しました。営業とSEが二人三脚で顧客を担当し、それぞれの強みを活かしながら、より深い価値提供を目指す体制です。
菊池氏:取り扱い製品が増え、フロント営業だけで知識を網羅するのは難しくなっていました。そこで、プリセールスやSE、プロダクト推進部隊が製品知識や技術面を担い、フロント営業はお客様のニーズ確認に専念できるようになりました。

──営業体制が整った中、目指す姿でもある”ハイタッチ営業”を広めるために工夫をされていることはありますか。
菊池氏:我々が「エンドユーザーはこう考えているのではないか」という資料を親会社の営業に共有したところ、「一緒にお客様へ提案しよう」と共感してもらえたことがありました。お互いを同じお客様を見ている仲間として捉え、誰が対応してもCTCグループとして成果につながる。そんなマインドを共有できる連携を進めています。
上氏:親会社との関係を恐れず、積極的に取り組んでほしいと伝えています。「どんどん行け!」と。もちろん事前に断りを入れるのが望ましいですが、過剰に構えず行動してほしいですね。
──新しい営業戦略に対する目標設計はどのように進めましたか。
上氏:目標設計は評価に直結するため、当初は数値のKPIを置き、受注につなげることを想定していましたが、実際にはなかなか難しかった。評価は収入にも影響するからこそ、新しい取り組みの浸透度合いを見極めながら決めた方がいいと判断し、導入初期での数値固定は避けました。
菊池氏:現時点では、行動や意識の変化といった定性的な部分を目標として設定し、定量目標は次のステップと考えています。いきなりSaaSの数値目標を掲げてしまうと、既存の売上目標との両立が難しくなり、ベースラインの目標が達成できなくなる恐れがあるためです。
上氏:でも実は今でも迷いがあります。思い切って数字目標を先にドンと掲げ、新しい営業戦略に覚悟を決めて踏み切るやり方もあり得たのではないかと。どちらが正解なのかという葛藤は続いていますね。
──営業変革を支えるシステム・ツール面の取り組みも教えてください。
菊池氏:Speedaを活用して仮説検証を行ったほか、全社的にはMicrosoft 365 に組み込まれた AI アシスタント機能(Copilot)を導入しています。従来、調べて回答するまでに時間がかかっていた問い合わせについて、リードタイム短縮に非常に効果的です。社内FAQチャットボットも整備しており、こうしたツールが現場で活用されています。
SaaS導入状況の可視化については、CRMの検討も進めていますが、こちらは今後の課題となっています。
経営から営業現場へ。そして、「変革」から「文化」へ
──SaaS販売戦略は、いつ、どのように全社へ共有されたのでしょうか。
上氏:2025年度4月のキックオフで、SaaS Innogrator(Innovator(革新者) × Integrator (統合者)を組み合わせた造語)戦略を全社に向けて発表しました。ライセンスを売るだけでなく、実際に使える状態までサポートする戦略です。最初は皆ポカンとしていましたが、まずはトップが言葉にして旗を立てることが大事だと考えました。その後も様々な節目や、役職者には特に会議体などを通じて繰り返し伝えています。
菊池氏:周囲からは「SaaS部隊がやるんでしょう」という雰囲気を感じることもあるため、現場が自分ごととして捉えられるよう、折に触れて「全員で取り組むものだ」と伝え続けています。
──今後の展望をお聞かせください。
菊池氏:営業変革に着手して約1年ですが、この取り組みを継続し、全社の文化として根付かせていくことが今後の課題です。SaaSを中心とした新しい営業スタイルを会社全体に浸透させるため、自ら先頭に立って推進していきます。
上氏:本日の内容が、少しでも皆さんの参考になれば幸いです。菊池の言葉にもありましたが、この営業変革はまだまだこれからです。これからもCTCエスピーとして挑戦を続け、営業変革を着実に進めていきますので、ぜひこれからもご注目ください。

Speaker

上 克也 氏
CTCエスピー株式会社
代表取締役社長
1992年、伊藤忠テクノサイエンス株式会社(現・伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)に入社。テレコム営業、通信・SP営業領域で複数部門の部長を歴任。
2013年には情報通信システム第3本部長、2016年には情報通信第3本部長に着任。
2018年より執行役員として全社の事業推進に携わる。2024年4月、CTCエスピー株式会社の代表取締役社長を兼任。

菊池 早耶香 氏
CTCエスピー株式会社
ビジネス企画推進部 部長
2009年、CTCエスピー株式会社に新卒入社。
映像配信関連製品のプロダクトセールスを中心とした、エンドユーザーおよびパートナー向けの営業経験を経て、2025年4月にビジネス企画推進部 部長に就任。
新規商材の立ち上げに加え、SaaSを中心としたダイレクトセールスおよび営業企画を担い、現場起点での営業変革を推進している。

畑佐 拓哉
株式会社ユーザベース
グロースパートナー事業本部
セールス&マーケティングコンサルティングチーム
ディレクター
新卒でNECのグループ会社でSEとしてキャリアスタート。セカンドキャリアで営業職へ転身。SFAのスタートアップ企業にてパートナー営業、関西エリアの立ち上げを実施。その後マーケティングオートメーションベンダーへ転職しエンタープライズ企業の開拓に従事。2019年にユーザベースにジョイン。ABMの拡販、セールスチームチームリーダ、 営業リサーチ(旧FORCAS Sales)のサービス立上げを経験。2024年からはインサイドセールス〜フィールドセールスを管掌しながら新しくセールスマーケ領域でのコンサルティング立ち上げの責任者として兼務。