ターゲティング戦略と数値管理の徹底で商談数が対前年比158.8%へ。宇部情報システムの営業生産性向上プロセス
製造業向けシステム開発を手がける宇部情報システムは、DaigasグループおよびUBEグループの強固な関係を基盤に、さらなる事業成長を目指して営業強化とマーケティング活動の変革に取り組んできました。同社は2022年からスピーダ 顧客企業分析を導入し、複数プロダクトに関するターゲティング戦略のPDCAを月次で実施することで、営業生産性の向上を成し遂げようとしています。その中心メンバーである営業企画部マーケティンググループの松島様、黒田様、金様にこれまでの取り組みを伺いました。
※本記事はSpeedaご導入企業の試行錯誤や実践知に光を当て、「考え抜く力」や「折れずに挑み続ける姿勢」を表彰する「Speeda HEROES Award」受賞企業のインタビューです。主に「スピーダ 営業リサーチ」「スピーダ 顧客企業分析」「スピーダ 顧客企業データハブ」ご導入企業のユースケースや次なる行動のヒントを提供することを目的としています。
営業の属人的判断からの転換
──まず、マーケティング活動について感じていた課題について教えてください。
松島様 2022年に入社して感じたのは、マーケティング活動の成果を可視化し、さらに伸ばしていくためのデータ活用の仕組みや習慣化に改善の余地があるということでした。具体的には、初回商談の日付、商談内容、失注理由、フェーズなどマーケティング活動に必要なデータが不足していると感じました。それだけでなく、当時はKPIなど明確な目標設定がなく、成果よりも「Webサイトをリニューアルした」「新しい資料を公開した」といったプロセスが評価の中心になりがちでした。
つまりDaigasグループおよびUBEグループの強固な基盤があるがゆえに、精緻な目標設計や進捗管理を行う習慣がないことが課題でした。
黒田様 それに加えて営業からの定性的な情報をもとにターゲティングを考えることが多く、実際にコールをかけても商談につながらないことがありました。商談化する・しないの分類が非常に曖昧で、受注実績からターゲット業界の動向をあまり深く分析できていませんでした。
金様 以前は製造業向けのイベントなど、幅広い層へ向けた施策を中心に行っていました。その結果ターゲットではないお客様にもアプローチすることになってしまい、費用対効果が見えにくくなっていました。
──こうした状況を改善するために、何から着手されたのでしょうか。
松島様 まずKPIを作ることから始めました。それを月次・四半期・半期・通期で定点観測できるフォーマットを整備し、ウィークリーのマーケティンググループ定例会議で各メンバーが進捗状況を報告する仕組みを作りました。それは達成率、計画未達成の理由、リカバリープランを明確にし、組織全体で数字に対する視座を高める必要があると感じたからです。当時はCRMが十分にデータ整備されていなかったため、CRMとデータ連携し高頻度・高精度でマーケティング活動を行う必要性を感じていました。そこでスピーダ 顧客企業分析を導入することに決めました。

6プロダクト×複数Tierの施策管理を緻密なPDCAで実現
──複数プロダクトのターゲットをどのように整理し、Tier(顧客層)を決めていきましたか。
松島様 当初は、各プロダクト毎にフレームワーク(3C、4P、STPなど)で定義していたものの、どの業界や企業をターゲットにすべきか絞り込みが曖昧な状態でした。そこでまずスピーダ 顧客企業分析の導入時にカスタマーサクセスの方と初期ターゲットを作成。その後、受注実績のある顧客の傾向を分析してターゲットを修正・拡張。データに基づいたターゲティング戦略の作り方を教えてもらいました。

スピーダ 顧客企業分析のデータをどう解釈し、アクションにつなげるかについても、カスタマーサクセスの方に手厚くサポートしていただきました。おかげで具体的なターゲットリストの作成から分析まで自分たちで実践できるようになり、データドリブンなアプローチの第一歩を踏み出せたと思います。
Tier策定後は、月次のモニタリング会議で施策の振り返りとネクストアクションを決め、PDCAサイクルを確立。プロダクト毎に多様な施策を行っているので、「このTierにBDR(アウトバウンド)コールを実施したらうまくいった」「展示会で目標を達成できた」など、施策毎の振り返りを行うようにしています。今では、自分たちでターゲット業種や企業の増減を行うなど、毎月細かにTier調整ができるようになりました。
黒田様 マーケティンググループの担当プロダクトは複数あるので、全プロダクトのTierを一斉に決めたわけではなく、優先順位をつけて段階的に取り組みました。まず1つのプロダクトでTier設定して効果検証し、良い結果が出れば同様の傾向を持つ他プロダクトにも波及させるアプローチを取りました。

──日頃の業務で、スピーダ 顧客企業分析をどのように活用されていらっしゃいますか。
黒田様 コンバージョン発生時に、CRMと連携されているスピーダ 顧客企業分析のデータを見て、顧客属性やTierを確認します。また、ターゲットに合わせてメルマガを制作し、開封率、クリック率をモニタリング。その結果をカスタマーサクセスに共有・相談し、次のアクションを考えています。
金様 私の場合はスピーダ 顧客機能分析の「シナリオ機能」を活用し、訴求内容の仮説を立てるために活用しています。例えば、製造業向け品質管理システム「QC-One」の顧客を分析したところ、同じ製造業でも「ディスクリート系(組立・機械加工など)」と「プロセス系(液体、ガス、粉体など形が定まらない原料を扱い、化学反応、合成など一連の工程を経て製造する業種)」ではシナリオが変わることがわかりました。この仮説が正しいか否かを、メルマガの開封率、クリック率、顧客インタビューなどで検証しています。
データドリブンな営業組織へとカルチャー変革の挑戦
──データドリブンな考え方を社内に浸透させるために、どのような工夫をされましたか。
松島様 そもそもデータがなければ正しい分析もボトルネックもわかりません。まずは意識を変えることから始めようと、営業、開発、マーケティング担当が集まる定例会で、折りに触れてデータ入力の重要性とその理由について伝えるようにしました。
営業からは「好感触です」「商談が増えています」といった定性的な報告が多くなりがちなので、「具体的な数字で教えてください。目標に対して商談何件必要ですか?」と、データに基づいた会話を粘り強く促しました。
黒田様 私の場合、営業との商談共有会などでデータ共有し、商談進捗を確認。会議後にすぐ入力してもらうようにしています。最近ではデータ入力が進んできたので、失注分析によって昨年度と今年度の傾向を導き出せるようになりました。営業に対しては、「データ入力が進めば精度の高い分析、資料作成ができるのでメリットがある」と伝えています。
金様 データ入力が習慣化されてきたので、データを持ち寄って営業とディスカッションし、データから得られない考察についてはヒアリングを通じて仮説立てすることを心がけています。

商談数は対前年比158.8%に、企業リストの作成コストは約9分の1に
──3年間の取り組みで、どのような成果が生まれましたか。
松島様 BDRによる商談獲得数が、23年度から2年連続で前年より大幅に増加しました。中でも製造業向け品質管理システム「QC-One」の24年度商談数は、対前年比158.8%に伸長しました。また、単純比較は難しいですが、従来の企業リスト作成方法と比べてコストは約9分の1になりました。
さらに、蓄積したデータを分析することによってボトルネックが明らかになり、次の打ち手が考えやすくなったと思います。そのうえ、営業・開発部門にABM、ターゲット、Tierという言葉が浸透し、定例会でもこれらの言葉を用いた議論が活発になりました。データに基づいて議論するため、マーケティンググループのプレゼンスも向上したと感じています。
この1年で、データドリブンな営業活動の重要性が経営陣も含め社内に伝わってきた手応えがあります。当社のプロダクトの場合、受注までのリードタイムが半年〜1年に及ぶので、スピーダ 顧客企業分析導入当初の1、2年はその成果が分かりづらかったのですが、数値として徐々に成果が出始めています。
経営陣含め社内会議の場等でリード数、商談数などKPIの向上を報告するなど、データをもとに成果を伝える工夫を重ねました。時間はかかりますが、地道に少しずつ伝えるのが当社にとっては最善策だったと思います。
黒田様 25年度は近年の商談傾向、業界動向を加味して画像処理検査ソリューションのTierを再設定。BDRによるプッシュ型施策を実施しました。というのも、24年度のBDR施策では、商談は増加したものの多くの失注を招いてしまったからです。そこで失注分析をしたところ「得意とする技術分野を生かしきれないお客様にアプローチしていた」ことが明らかになりました。
施策後に再度失注分析を行った結果、前年度までは「機能不足」による失注が目立っていましたが、今年度は「タイミングが合わない」という理由が中心に変わりました。これは正しいターゲットに対してアプローチできており、お客様が具体的な検討に入る前に接触できたことを意味します。そもそもニーズの合わないお客様ではなく、時期が合えば提案の可能性があるお客様との商談を増やすことができました。
私自身にも変化がありました。月次でPDCAを回していく過程でデータ蓄積のメリットを実感でき、分析作業そのものを楽しいと感じるようになりました。
金様 CRMへのデータ入力が定着化し、定例会での数値共有や各関係者への報告が効率化されました。商談履歴、顧客ニーズ、今後のスケジュールも確認できるようになったので、分析の質も向上しています。

──今後の取り組みについてお聞かせください。
松島様 セールスイネーブルメントの強化を進めたいと考えています。お客様の理解度・解像度を高め、お客様が気づいていない潜在的な課題を発見し、お客様の課題解決に役立つ営業活動ができることを目指しています。営業組織全体で、ファクトデータをしっかり把握した上で戦略を立て、顧客深耕に役立てられたらなと考えています。
現状、生成AIの活用は部分的となっているため、今後は積極的にAI活用を進め、AIを活用した顧客データ分析によるより精度の高いターゲティング、業界・役職別に最適化されたコンテンツ提供、アカウントベースドマーケティング (ABM)の高度化に取り組みます。
また、市場インテリジェンスや競合分析の領域をAIで効率化し、ROI測定や施策の最適化を継続的に行うことで、BtoB マーケティングの成果の最大化を目指したいと思います。
── Speaker
株式会社宇部情報システム
松島 渉 氏
ビジネスソリューション本部 営業企画部マーケティンググループ マネジャー
不動産系広告、証券会社のマーケ立ち上げ、Web接客ツールSaaSなどの企業でマーケティング業務に従事した後、2022年に宇部情報システムにキャリア入社。プロダクト販売におけるマーケティング業務を取り仕切る。コーポレートブランディングも担当。
株式会社宇部情報システム
黒田 斉季 氏
ビジネスソリューション本部 営業企画部マーケティンググループ
旅行業を経て、2018年に宇部情報システムにキャリア入社。画像処理検査ソリューション「URCP」、「データイノベーションソリューション」のリード・商談獲得を目的としたマーケティング施策の企画・実施およびKPI達成を目指し、業務に取り組む。
株式会社宇部情報システム
金 イェヨン 氏
ビジネスソリューション本部 営業企画部マーケティンググループ
IT企業の営業・マーケターとしてキャリアを積んだ後、2021年に宇部情報システムへキャリア入社。現在は社宅管理システム「借上くん」、製造業向け品質管理システム「QC-One」、生産スケジュール「FLEXSCHE」(※)というプロダクトのマーケティング担当として、市場調査やマーケティング戦略の立案・実行・分析・改善に取り組んでいる。
※「FLEXSCHE」および「フレクシェ」は株式会社フレクシェの登録商標です。