現役の経営企画担当者様へのリサーチ状況アンケートを基にした 経営企画のリサーチ業務。共通課題と、専門家アドバイス〜2023年のリアルなリサーチの課題
はじめに
現役の経営企画ご担当者様たちへのアンケートから見えてきた、経営企画部の調査業務における「共通課題」と、課題に対するエキスパートの実践的なアドバイスをまとめました。
新規事業の検討や推進には、リサーチのスキルが欠かせません。
なぜなら、独自性の高いアイデアを生み出すには、独自性の高い情報収集が必要だからです。
しかし、分析フレームワークは世に溢れていても、そもそも分析すべき情報、それも信頼のできる、質の高い情報を見つけるリサーチスキルはなかなか学ぶ機会がないのではないでしょうか。
また、自らのリサーチ方法がどれぐらい効率的で他社と比べてどれぐらいのスピード感で行えているのか客観的に判断する方法もなく、他社や競合のリサーチへの取り組み方を知る機会も少ないという課題も存在します。
そこで、効率的なリサーチが定常的に求められるいくつかの部門を取り上げその実態を把握しようという試みの一つとしてSPEEDAではリサーチに関する実態調査アンケートを開始し、更に浮き彫りになった課題に対するアドバイスを専門家にヒアリングしました。今後のリサーチの手段を模索・構築するためのベンチマークとなれば幸いです。
リサーチ業務の現状と課題
まずは企画/事業推進に携わる方々に対して、業務で市場調査やリサーチ業務を行う頻度をうかがいました。(図1)結果、大多数(70%程度)の方が、定常的にリサーチ業務を行なっていることがわかりました。
次に、リサーチ業務にどのような課題を感じているかを調査したところ、適切なリサーチ方法や調査設計・分析の方法がわからないというお悩みが多いことがわかりました。(図2)
つまり、調査したいことはあるが、方法がわからないため困難なケースが多く存在するようです。
また、どのようなリサーチが行いづらいのかを調べるために、主なリサーチ業務について質問したところ、具体性の高い情報の獲得や、仮説やアイデアの検証については、困難あるいは手が回らない傾向にあるという示唆が得られました。(図3)
調査を効率化するサービス等の利用状況と課題
しかし、定常的にリサーチを行い、かつ困難に直面している方が多かったにも関わらず、情報収集サービスについては全く利用しないか、スポットの利用がほとんどです。(図4)
また多くの皆様が、利用中の情報収集サービスでは、不十分だと感じています。(図5)
※十分だと感じているとお答えいただいた二名の方については、SPEEDAをご利用中でした。
課題の声をピックアップすると、以下のように、調査の方法や精度に関する声が多いことがわかりました。
「自分が必要とする情報がタイムリーに得られるとは限らない。」
「新しい領域の情報は、そもそも調べることが難しい。」
「表面上のデータ以上に深く調べることができない。」
「自身のリサーチに自信がない。」
「内製化してクイックに下調べがしたい。」
こうした課題に対して、エキスパートからアドバイスをいただきました。
そこで、リサーチに関するエキスパートである石森 宏茂 氏(図6)に、特に質問が多かった、以下の2点についてアドバイスを伺いました。
Q1:自分では表面上のデータ検索しかできない/自身のリサーチに自信がない(集まる情報の複雑性を単純化することに終始し、リサーチの本質を見失っているのではないかという不安)
Answer:
リサーチの本質を見失っているのではないか、という点については、そもそもそのリサーチ結果がわかると、業務全体の何が前に進むのか、という問いを自分自身に問いかけてみることが良いかと思います。
これからリサーチをする、このリサーチを通じて、おそらくこんなことがわかる、それが分かると業務は前に進むのか、という問いです。
今、業務を前に進めるために、何が分からなければいけないのか、何が分かると、前に進むのかを考えて調査することが重要です。
調査はあくまで手段のひとつでしかありませんので、前に進む手段として本当に調査が必要か、という点から考え直すことも重要です。
その上で、調査を通じて何を明らかにしたいかにも寄りますが、バランス良く、かつ、確からしい調査結果を出すには、トライアングルリサーチという考え方が役に立ちます。
トライアングルリサーチは、大きく3つの観点から調査を進める手法です。
その3つは、①データ、②コンテンツ、③ナレッジです。
①データは「主に定量的な企業発信の情報や業界や市場の情報」、②コンテンツは「主に定性的なレポートやニュース等の第3社がまとめた情報」、③ナレッジは「社内外問わず、リサーチ対象に詳しい人の知見を活用」です。
それぞれに重要な役割があります。
①は過去の事実、②は過去の事実に第3者視点を持たせたまとめ、③は①と②を最新状況の視点を入れてアップデートする、というそれぞれの役割があります。
①と②は多くの場合、デスクトップリサーチの中で行われ、そのどちらも過去の事象に対してのまとめになります。
しかしながら、現代はVUCAの時代と言われるように、環境や物事の変化が早く、過去のデータやまとめが陳腐化しやすくなります。
そこで重要なのが、人のナレッジをうまく活用することです。
デスクトップリサーチではわからない、最新の生の情報を人から仕入れることで、デスクトップリサーチで調べた内容を肉付けし、最新の情報にアップデートすることができます。
一般的には、エキスパートネットワークサービスというリサーチサービスがありますので、それをうまく活用することがポイントです。
有料のサービスではありますので、デスクトップリサーチである程度概観がまとまった段階で、その検証等の目的で活用することがおすすめです。
Q2:新規性の高い領域では、調査設計の方法やどんな視点で考えるとよいのか(最新のビジネストレンドのような、新規性の高い領域を調べるときどのようなステップをふむとよいのか)
Answer:
新規性の高い領域の調査において注意するべき点は、「調査できる自分か」という問いにしっかり答えられる状態にすることです。
調査の多くは、自身の理解している語彙に影響します。
ネット検索を中心に、語彙を軸にして調査をしますが、知っている語彙でしか調べることができません。
なので、まずは、その新規性の高い領域において、どのような語彙が使われているのか、ザーッとでもいいので調べることが重要です。
おすすめは、YouTubeでその新規性の高い領域、関連するトレンドのキーワードを入れて、調べることです。
そうすると、その言葉に関して解説している動画が何かしら出てきます。無料で観られます。
信ぴょう性の側面もありますので、中身は話半分で捉えながら、「なるほど、この領域ではそういう言葉が使われるのか。聞いたことない言葉だけど、おそらくこういう状況で使われる言葉なんだな」というような形で語彙を拾っておきます。
そこで得た語彙を使いながら、調査自体を深ぼっていきます。
調査が進むとまた新しい言葉に出会うこともあるので、それをまたYouTubeなどで検索して、語彙を広げていく、このサイクルを回せると新規性の高い領域でも調査が進みます。
また、新規性の高い領域は、SNSの中で、特にTwitterなどでは、スタートアップ経営者などの投稿にコメントがされていたりすることがあります。
関連するニュース記事等が引用されながら、コメントがされているので、最新のトレンドに対する視座やポイントが得られ、新規性の高い領域における調査の付加情報として有益です。