「研究者は社会に目を向け越境せよ」
産総研 FREAとAISolトップが語る真のオープンイノベーション
日本企業に眠る、多様な技術シーズ。世界トップレベルの研究開発を進めているにもかかわらず、「ビジネスにつなげる力が弱い」といわれて久しい。企業の研究者・技術者は「市場や顧客を知ろう」「新しい事業や製品につながるテーマ探索を」と日々ビジネス視点を求められているのではないだろうか。
世界で勝ちうる技術テーマを社会実装すべく2023年に設立されたのが、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)グループのAIST Solutions(以下、AISol)だ。産総研の技術をマーケティングと掛け合わせてビジネスにつなげ、企業のイノベーションに役立てることで、科学技術立国日本の再建を目指している。
大規模な研究や実験設備が求められるエネルギー領域で事業創出に取り組む、産総研 福島再生可能エネルギー研究所(以下、FREA)とAISol。FREAで研究開発を担う再生可能エネルギー研究センターでセンター長を務め、その後、産総研全体のカーボンニュートラルを領域横断的にマネージしてきたFREA所長の古谷氏と、AISol代表取締役社長 CEOの逢坂氏に、技術の社会実装の必要性や国内トップ企業との連携で生まれたグリーンエネルギーソリューション、これからの研究者のあり方について聞いた。
福島再生可能エネルギー研究所〈FREA〉
Fukushima Renewable Energy,Institutie,AIST

政府が策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」を受け、2014年4月に産総研の最新の研究拠点として開所。「世界に開かれた再生可能エネルギー研究開発の推進」と「新しい産業の集積を通じた復興への貢献」をミッションに、多くの企業や大学と積極的に連携、再生可能エネルギーに関する新技術の創出・発信拠点を目指している
技術の社会実装で気候変動問題を解決するときがきた
━━ 企業にとって技術の社会実装はどのような意義がありますか
逢坂氏:
現在、極端な高温や記録的な大雨など地球規模の気候変動が起こっています。これは産業界が生産性を第一に企業活動を行なってきた結果とも言えます。日本では2050年のネットゼロ実現を掲げていますが、いままで通りのやり方でそれを成し遂げるのは相当難しいでしょう。
カーボンニュートラルの実現にはサーキュラーエコノミーとの組み合わせが必要ですし、その先にはネイチャーポジティブ(自然再興)という壮大な課題と対峙することになります。技術の社会実装を通じて気候変動問題に取り組まなければ、もはや企業は存続できません。ひいては地球市民ではいられないほど事態は深刻になっています。

逢坂 清治 氏
株式会社AIST Solutions 代表取締役社長 CEO
1982年にTDK株式会社入社後、ドイツ、ロシア、イタリアにて同社における記録メディア事業の海外販路の開拓、世界シェアの拡大に貢献。1999年同社経営企画担当、記録メディア事業売却、中国ATL社リチュウムイオン電池事業買収、アルプス社HDDヘッド事業買収、ラムダ社電源事業買収、独エプコス社電子部品事業買収、米クアルコム社とRF360JV設立などTDKの事業ポートフォリオ組み換えに成功。2017年からは取締役専務執行役員戦略本部長。2023年3月に同社退社後、同年4月より株式会社AIST Solutions代表取締役社長 CEOに就任。
古谷氏:
地球規模の課題に本気で挑むには、これまで挑戦したことのない異次元の取り組みが必要です。しかしエネルギーの領域では、この課題に1社で立ち向かうのは非常に難しい。個々の企業が持つ技術を組み合わせ、ダイナミックなオープンイノベーションを起こすことで社会に実装していく必要があります。
━━ エネルギー領域での社会実装が難しいといわれる理由は
逢坂氏:
エネルギー領域で重要なのは、単独の「技術」ではなく「仕組み」や「システム」です。仮にすばらしい触媒があったとして、その触媒だけではエネルギーは生まれません。
アンモニア(NH3)を生み出すには、窒素ガス(N2)と水(H2O)や、それらを合成するための装置・仕組みが必要です。アンモニアの合成というと触媒がキーといわれますが、どんなに活性が高い触媒が開発できたとしても残念ながら触媒だけでアンモニアはつくりだせないのです。
この、あるエネルギーを生み出すための仕組みやサプライチェーンこそが「システム」であり「ソリューション」です。各社のよい技術、よい材料を、どのようなエコシステムの中で用い、どう組み合わせれば、社会に役立つエネルギーに変えられるのか。そこを複数の企業や研究機関が連携して考えねばならないため、難しいと捉える人が多いのではないでしょうか。

日本企業がプロダクトアウトから脱却できない理由
━━ 日本の研究開発部門がシーズ思考から脱却できないのは何故でしょうか
逢坂氏:
ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれ、ポータブルカセットプレイヤーなどが市場を席巻していた時代はメカトロニクスが主流でした。研究開発から社会実装まですべてのバリューチェーンが、1社の中の「すり合わせ」で完結する領域なら日本は強かったのです。
当然、日本企業はいまでもいいものをつくっています。しかしある技術を製品化してマーケットに投入するまでのスピード、すなわち「Time to Market」ははやいものの、どのような使われ方をすれば売れるのかを考える「Time to Design」や、世界標準にして市場拡大を図る「Time to Scale」は遅い。多くのステークホルダーと協働する領域が弱いのです。
「Design」には、技術や材料を社会に役立てる「仕組み」をデザインする力や、エネルギーを生み出し使うサプライチェーンを構築する力も含まれます。ビジネスモデルや、多様なステークホルダーとのコミュニケーションをデザインする力も必要です。
社会全体の「Pain Point」の解決に向けてさまざまな技術を織り交ぜてスピードあるソリューションを実現することが、真のイノベーションです。
古谷氏:
「Time to Scale」とは、ある技術が各国、各地域の戦略に標準として組み込まれることでマーケットを取ることです。1つの尖った技術を持っていても、その技術が国・地域のデファクト(スタンダート)として採用されなければマーケットに広がりません。
私も、日本企業は他社とのコミュニケーションが苦手だと感じます。日本企業はいい技術を持っていながらも、個々の技術が結びついていないから、なかなかスピードが出ない。海外では5年で実現するところを、日本では10〜15年はかかっています。

古⾕ 博秀 氏
福島再⽣可能エネルギー研究所(FREA)所⻑
筑波大学大学院工学研究科博士課程修了後、1992年国立研究開発法人産業技術総合研究所の前身である工業技術院に入所。WE-NETプロジェクトの一員として水素利用技術の研究開発に従事。水素燃焼タービン、水素ディーゼルエンジンなどの技術開発に携わる。これと同時に、1999年旧通商産業省にてNSS推進本部の一員として水素技術開発全般に関与。その後もレーザー着火などエンジンの燃焼技術の開発を続けるとともに、省エネルギー技術についてもNEDOプロジェクトリーダーや国の省エネルギーロードマップ策定委員などを歴任。2024年4月より福島再⽣可能エネルギー研究所(FREA)所長に就任。
━━ こうした背景の中でAISolが果たしている役割は
逢坂氏:
AISolは新たなイノベーション・エコシステムを構築していく、ナショナルエージェントの役割を果たしています。国立研究開発法人(国研)である産総研のグループ会社ですから、企業や政府へのアプローチも行ないやすいのが特長です。
尖った技術やアイデアがあったら国内企業に「さあ集まれ」と声をかけ、関連する技術や仕組みを持つ企業を取りまとめるハブになれる。そしてマーケットに届くビジネスモデルを構築できるのです。
古谷氏:
私たちが行なっているのは「技術をベースにしたマーケティング」、すなわち技術マーケティングです。世界トップクラスの技術を持ったうえで、エネルギーを社会に届けるためのサプライチェーンを構築すべく多様な企業や国へ働きかけられる。日本企業が苦手とする、「Time to Design」「Time to Scale」の“きっかけづくり”を担えるわけです。そうすれば、国内のさまざまな技術を社会に届ける仕組みづくりにブーストがかかり、世界のデファクトを取りにいけます。
これは、産総研グループしかできないことだと思います。

━━ 一方で産総研はどのような役割を果たしていますか
古谷氏:
海外のナショナルラボも認める国内トップクラスの技術を多数保有する、日本のナショナルラボとして機能しています。以前伺ったドイツのフラウンホーファー研究機構や、米国、アジアの研究所などからも注目されています。
産総研全体では、グリーンイノベーション戦略推進会議が掲げる「イノベーション・アクションプラン」の39技術テーマのうち、34テーマの研究開発や実証実験に取り組んでいます。その領域は電源の脱炭素技術や水素製造、バイオマス建築素材など多岐にわたります。中でも再生可能エネルギーに特化したFREAでは、カーボンニュートラルのキー技術となる、再生可能エネルギーと水素、それらをつなぐエネルギーネットワーク技術の研究開発を実施しています。
FREAでは太陽光、風力、地熱、水素などあらゆるエネルギー分野の研究開発と実証実験が可能です。研究者にとって夢でもある大規模なエネルギー研究を具現化し、社会実装を推し進められる、いわば「エネルギーのディズニーランド」なのです。

国内最大級の実証実験ができる78,000㎡の研究所
━━ 実際にFREAではどのような研究や実験が可能なのでしょうか
古谷氏:
FREAは78,000㎡の広大な敷地に、再生可能エネルギーの研究設備や実験施設をはじめとする多様な設備を有します。その中には、700kWの太陽光発電と300kWの風力発電を実装した、広大な実証フィールドも含まれます。
たとえば再生可能エネルギーを大量導入すると、電力系統が不安定になると論じられています。そこで電力系統の不安定が起こった場合に、工場などの消費者側の機器にどのような影響があるかをシミュレーションする必要があります。不安定性にタフなシステムであるか、各再生可能エネルギーの発電の仕方をスマート化して系統への負荷を軽減し、より多量に再生可能エネルギーを導入できる仕組みなのかなど、FREAでは実規模サイズのMW(メガワット)級で検証できます。
コンピューター上でもシミュレーションは可能ですが、実機を使った実運用に近い環境下での大規模な実証実験は、国内を見渡してもFREAでなければできません。
ほかにも亘長(こうちょう)7km相当の高圧配電を模擬した模擬配電線路や、3MVAの大型実験用模擬負荷なども擁しています。また、大型パワーコンディショナなどの先端研究拠点であるスマートシステム研究棟では5MWまでの系統連系試験が可能です。安全性試験は‐40℃〜+85℃、30〜95%RHまで実現できます。近年では、年間31件の企業との共同研究などに利用されています(2022年度実績)。
模擬電源
AC Grid Simulator,PV Array Simulator

写真左が電力系統模擬電源(AC Grid Simulator)。低圧400V級、高圧6000V級で世界各国の電力系統を模擬し、分散電源の系統試験や、単独運転検出試験、事故時運転継続試験などに対応できる。右は電力3300kw、電圧2200vまで対応する太陽光模擬電源(PV Array Simulator)。
強者連合を形成しイノベーション・エコシステムの構築を目指す
━━ 産総研やAISolではどのようなプロジェクトに取り組んでいますか
逢坂氏:
「社会課題の解決と産業競争力の強化」というミッションを果たすべく、主に3種類のプロジェクトを行なっています。
1つ目は産業を見据えた基礎研究です。国費を投入し、明確な目的を持った基礎研究を推進しています。たとえば量子や半導体など、初期投資コストや研究開発が長期的にかかる、いち民間企業では難しいテーマの基礎研究に取り組んでいます。
2つ目は、政府研究開発プロジェクト(通称 国プロ)での実証実験や評価試験です。国益に資する研究として資金を投じてもらえるよう、他の研究機関とも競争し、存在価値を高めなくてはいけません。
3つ目は、技術起点の大型オープンイノベーションの実現です。優れた技術とビジネスモデルを持つ国内トップ企業のCEO、CTOとディスカッションし、イノベーション・エコシステムの構築を目指します。もちろん公的機関や大学とも連携します。

━━ 3種類の中ではどのプロジェクトが増えていますか
古谷氏:
最近では3つ目の大型オープンイノベーションのプロジェクトが増えつつあります。基礎研究を終えたら企業へ引き継いで事業化・製品化してもらうのではなく、ビジネスとして成立するまで私たちが伴走します。
とはいえ主役はあくまでも企業で、最終的にサービスとして社会に送り出すのは企業です。技術マーケティング力で事業化を後押しするのが、私たちの立場です。
電波暗室
テニスコート約5面分の広さは国内最大級

分散電源のスマート化に不可欠なパワーエレクトロニクス機器やICT機器のEMC(電磁両立性)試験などを、さまざまな電源系統、気象条件下で実施できる。AC420V/1.5MVA、DC550kw✕4台と大電力を使用可能。
世界初・アンモニア燃焼によるガスタービン発電を実現
━━ 注力している大型オープンイノベーションの実例をお教えください
古谷氏:
世界初・アンモニアを燃料としたCO2フリー発電を実現させ、総合重工メーカーの株式会社IHI(以下、IHI)様とともに実用化に挑戦しています。
二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション燃料として注目の集まるアンモニア。私は一貫して「燃焼」を専門としてきたのですが、正直アンモニアは燃焼しにくいため、燃料としての利用にはやや懐疑的でした。ところがFREAができたとき、内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として、試験的にガスタービンで燃焼させてみたところ、驚くほどよく燃えました。通常、こうした新しい試みは基礎研究から始めるのですが、大胆かつ大規模な実機検証をいきなり行なったことが奏功したのかもしれません。世界で初めてのアンモニアを使った発電の成功に、研究者としてはしびれましたね。この成功が、その後のアンモニアの燃料利用の発展のトリガーになったと感じています。
SIPのアンモニアプロジェクトは、東北大学 流体科学研究所の小林(秀昭)教授がプロジェクトリーダーで、共同でアンモニア燃焼技術を開発しました。また、電力中央研究所でも平行して石炭火力での実証試験が行なわれ、環境汚染などの原因物質である窒素酸化物(NOx)の値が思ったほど上昇しないこともわかったのです。この発見も非常に画期的でした。
IHI様とはプロジェクトの中で情報を共有しつつ進めてきました。それぞれに並行して独自に技術開発を進め、IHI様のアンモニア燃焼技術を活用したアンモニア発電は、すでに愛知県碧南市の火力発電所で実規模の実証段階です。また、2MW級ガスタービンの技術開発を進めていたIHI様は2022年、ガスタービンで液体アンモニアのみを燃料にしたCO2フリー発電に世界で初めて成功しています。ガスタービン燃焼器のモデルである旋回流燃焼器で、高温旋回空気流中に液体アンモニアを噴射する方法を採用しています。
アンモニア燃焼 ガスタービン発電
IHI×東北大学流体科学研究所×産業技術総合研究所の産官学連携

━━ ほかに清水建設株式会社(以下、清水建設)様との共同研究についてもお聞かせください
古谷氏:
BCP(事業継続計画)対策とGX(グリーントランスフォーメーション)推進の観点から、建物内でのエネルギーの確保やゼロエミッション化の重要性が年々高まっています。これを再生可能エネルギーをベースに実施しようとすると従来は電池一択でしたが、災害時など長期間の安定的な電源を確保でき、再生可能エネルギーを最大限活用するため、清水建設様とは2016年より水素エネルギーに関する共同研究を行なってきました。そこで産総研が開発したのが、吸蔵と放出を何回繰り返しても微粉化が起こりにくく消防法上の危険物にならない水素吸蔵合金です。
この水素吸蔵合金を活用して水素を貯蔵すれば、水素製造装置と燃料電池を用いた蓄電と放電が可能になります。FREAの敷地内や郡山市総合地方卸売市場などさまざまな実証実験を行なって、建物付帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC®(ハイドロキュービック)」と商標登録し、本格的に実用化。
同社の超環境オフィスである北陸支店の新社屋や、新たなイノベーションを創出する場である「NOVARE(ノヴァーレ)」(東京都江東区)、民間企業のビルや工場で実装されています。

古谷氏:
このように、技術や実証実験の環境は産総研が提供できます。社会実装は産総研のミッションでもあるため、企業はうまく私どもを活用し、世の中に役立つ事業を前に進めてもらいたいですね。
|Hydro Q-BiC®
清水建設‐産総研 建物付帯型水素エネルギー利用システム

建築物のゼロエミッション化を目指し、清水建設との共同研究で水素製造貯蔵技術を導入したBEMS(ビルディングエネルギーマネジメントシステム)の開発を推進。建物付帯型水素エネルギー利用システムとして完成した。2024年6月には40フィートコンテナ相当サイズの「Hydro Q-BiC Lite」もプレスリリース。企業のBCP対策とGX推進にひと役買っている
CTOの思い切った決断が技術起点の事業づくりを加速する
━━ 多くの企業と共創してわかった技術起点の大型オープンイノベーションが成功する条件とは
古谷氏:
圧倒的な強みを持つトップ企業やスタートアップ、大学と連携してみて、「大型オープンイノベーションプロジェクトが成功する条件」は3つあるとわかりました。
1つ目は、社会ではもちろん、その企業にとって必須の事業テーマになっていることです。たとえば清水建設様の「再生可能エネルギーの建物利用」は、同社においてBCPとGXの両立が重要イシューになっており、その実現に必要不可欠なソリューションでした。
それから、CTOクラスの決裁者がすばやく意思決定できること、これが2つ目の条件です。清水建設様の場合は、当時のCTOがFREAに見学に来て「やるべきだ」と即断した。当時同社は水素エネルギーに取り組んでいませんでしたが、「業界内の他社を圧倒するスピードで実用化したい」と本気で取り組むことを決めました。このレベルの意思決定は、CEOやCTOクラスでなければ難しいでしょう。
3つ目のポイントは、多様なステークホルダーと協働し中長期的なプロジェクトリーディングを行なうこと。これは技術の社会実装に不可欠な要素でもありますが、産総研やAISol、大学やスタートアップなど価値観の異なるステークホルダーと目線を合わせ伴走していく姿勢が必要です。
こうした覚悟を持った企業との社会実装に向けたプロジェクトは、うまくいく確率が高い気がします。
ビジネスパーソンとの協働が研究者を変革する
━━ 研究者が技術マーケティングに興味を持つべき理由をお聞かせください
逢坂氏:
オープンイノベーションとは、新たな価値創出のために一流同士がスクラムを組むことだと私は捉えています。世界的なスマートフォンのデザイン技術者と、日本の部品技術者が議論に参加することで、たった半日で新たなソリューションが創出される、そのような場面を何度も見てきました。研究者が強者連合の輪に加わり、一流のビジネスパーソンと議論する機会が得られれば、驚くような発見や学びがあるはずです。
建設業界ならゼロエミッションビル、自動車業界ならカーボンニュートラルを実現するグリーンエナジー。そんなふうに、まずは自社の事業ドメインを「イノベーション・アクションプラン」の39技術テーマに当てはめ、そのうえで産総研とどのようなコラボレーションが可能か考えてみることから始めるとよいのではないでしょうか。これまで培ってきた事業ドメインを、産総研の技術とつなぐことでカーボンニュートラルに貢献できるでしょう。

古谷氏:
研究成果が事業化され、世に出るまでには10年以上かかることもよくあります。なかなか研究成果の応用にたどり着けないと嘆く研究者もいるでしょう。
しかしさまざまなビジネスパーソンとともに技術の社会実装を真剣に考えることで一気に研究が前進し、社会の役に立つ。この体験は研究者にとって心震えるポイントではないでしょうか。実際、清水建設様とのプロジェクトに参加した研究者は、技術がビルに実装されている様子を見て目を輝かせていました。

世界でも、欧州のフラウンホーファー研究機構をはじめ「研究成果が実社会で活用されることが研究者の自己実現につながる」という人材育成の流れを感じます。研究者や技術者がビジネスを学ぶ機会は、ますます重要になるはずです。
私も経産省へ出向したことにより、研究成果を実用につなぐ目線が持てるようになりました。機会があれば、クロスアポイントメント制度を活用して越境してみることをおすすめします。
逢坂氏:
産総研やAISolの研究者も変わらなければなりません。フットワーク軽くステークホルダーとコミュニケーションする力や、調整力、ビジネス理解力を磨く必要があります。企業や大学、官公庁のみなさんと対等に渡り合える技術マーケティング人財の育成が急務だと考えています。

執筆:高山しのぶ、撮影:渡邉大智、取材・構成:石川 香苗子