SPEEDAでトレンドを読む 先端トレンドを「知るだけ」でなく「事業に活かす」読み解き方の実践解説
あらゆる企業を取り巻く環境が大きく変化している中、その変化自体=トレンドを素早く、的確に理解しなければならないという課題意識を持つ方が多いのではないでしょうか。
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政治情勢・経済情勢・社会情勢/社会課題へのアラインはどうする?
- 台頭しているビジネスモデルはあるか?(競合他社や新興企業の動きは?)
- 市場ニーズや社会的価値観の変化・多様化の影響は?
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新たな技術や仕組みはどうなっている?理解すべきポイントは?
- 事業ポートフォリオや事業計画はこのままでいいのだろうか?
上記のような悩みを解決するためには、トレンドを上辺だけでなく「読み解き」、自分たちが「利用できる」状態にすることが重要です。
今回は、このトレンドの読み解き方と活用方法を、皆様にご紹介します。
トレンドを理解することで得られる効果
ビジネスが影響を受ける大きな変化は、大きく3つのカテゴリに分けることができます。
1つは、AI、自動運転、ゲノム編集などに代表される「新しい技術」
次に、モノ・資産・人的資源のシェアなどの「新しいモデル」
最後に、政策や社会的価値観の変化からくる「新しいビジネストレンド」です。
こうした「技術・モデル・ビジネストレンド」を把握することで、具体的に得られる効果は次の3つがあげられます。
①機会探索:自社状況と実は結びつく、事業のタネを見つけられる。
トレンドを理解すると、トレンドにひそむ課題も見えてきます。課題はすなわち事業のタネ、事業機会を見出せます。
②危機回避:”そもそも”の「乗るべき船」を間違えなくて済む。
事業機会があっても、自社が本当に取り組むべきか?は慎重に見極める必要があります。自社の事業戦略・経営計画と合致するトレンドかどうか?を理解し、乗るべき船を正しく選択できます。
③知見蓄積:社内で目線を合わせ、変化に対応/協議できる。
「なんとなくこんな感じだよね」ではなく、必要十分な要素を元にトレンドを言語化できます。語る言葉を持てば、社内のさまざまなステークホルダーと目線を合わせ、変化に対応することが可能です。
とはいえ、トレンドは”掴みづらい”のも特徴です。
私たちは「ビジネスシフトを促す変化とその影響」をトレンドと定義しています。
特定の業界に閉じたものではなく、影響し合いながら多様な領域に変化を与える「大きなうねり(変化そのもの)」がトレンドです。
この、「変化そのもの」であることが掴みづらさに関係しています。
変化に関する情報は、点で話題化するニュースや報道などになってしまう傾向があるためです。
既存産業(変化の影響を受ける財・サービス)であれば、分析に資するような、客観的にまとまったデータがあることが多いのですが、「変化そのもの」であるトレンドにはこうした情報がなく、体系立てて理解することが難しいのです。
加えて、領域の広さ、量の多さも挙げられます。
私たちが調査レポートを出してきたものだけでも、トレンドの数は100を超えます。
相互に関係し合いながら変化のうねりを起こすトレンドは、下図のようにグループで括って考えることが有効です。
しかし、こうした総合的な調査は珍しく、グループ分けも土地勘のない領域では難しいこともあるでしょう。
トレンドを高解像度で理解し、分析する方法
これまでのまとめとして、大きな変化(=トレンド)を理解した戦略立案は不可欠になっているが、「新しく・情報が少なく・変化が早い」トレンドを捉えることの難しさも存在することをお伝えしました。
この”掴みづらい”トレンドの 現在状況や将来展望を理解するためには、客観的な評価情報に基づく分析(定性分析)がフィットするでしょう。
ビジネストレンドを大括りでつかむには、SPEEDAを用いた調査を行うのが効率的です。
SPEEDAオリジナルのレポートである「SPEEDAトレンド」は、100種類以上のビジネストレンドに関してテクノロジーや法規制、社会課題の変化による新規ビジネスの創出や既存産業の変革する動きといった情報をまとめており、それぞれのトレンドの大まかな把握に役立ちます。ニュース・レポート検索機能によりオープンソースの情報の収集も容易におこなうことができます。
また、メディアや調査会社、コンサルティングファーム、シンクタンク等が発行する書籍(”xxxx年のキーワード””xxxx年の経営の論点”等のタイトルのもの)を購読するのも一案です。
こうしたで概略をつかみ、自身(自社)にとって関係のありそうなトピックにあたりをつけた上で、それについてさらに深掘り調査をしていきます。
とはいえ、良い定性分析にはどこでも言われているような内容ではない、独自性ある情報の獲得も大切です。
こうした独自性と高い質を兼ね備えた情報は、変化の最前線で経験と知見をもつ、エキスパート(実務家/研究者/技術者など)の頭の中だけに存在していると私たちは考えています。
そこで、ここからはエキスパートに直接質問を投げかけます。(今回はSPEEDAを利用)
まず、はじめに基礎的な質問で知見を引き出しましょう。
以下のような統一の「型化」された質問をすることで、簡単に理解と比較ができる多様な論点をあぶり出すことができます。
先進事例を知る「ここ1年でこのトレンド領域の先進事例/ユニークな事例の具体的な取り組み内容、評価できるポイントを教えてください。」
課題を知る「このトレンド領域で事業を遂行するにあたり、発生している、または今後3年間で発生が見込まれる課題やリスクはなんですか?」
このほかにも、「トレンドの現在地(フェーズ)」「普及が見込まれる領域を知る」「注目技術や注目企業」「法規制・政策」などの型が有効です。
複数のトレンドを横断的に調査する場合でも、認知負荷をかけず、読み解くことが可能になります。
次に、多面的な見解によって立体的に理解します。
トレンドは、複雑性が高いことも特徴です。そのため、単一の視点では理解しきれない事柄も存在します。
そこで、多様な立場のエキスパートから、先ほどのような型化された質問で見解を集めることが有効です。
例えば「Meat Tech」のトレンドを理解する場合、以下のようなエキスパートから見解を集めることが有効といえます。
既存市場の中堅プレーヤー担当者
→既存市場の侵食に関する見解が期待できる
新興ベンチャーCTO
→研究開発・製品化における規制対応に関する実績や見解が期待できる
新興ベンチャー オウンドメディア編集長
→自社だけでなく広く代替肉市場の概観について客観的な見解が期待できる
最後に、集めた見解を整理して比較することで、読み解きましょう。
これから説明する、読み解き方のコツを活用することで、単に見解を読むだけではなく、未来への示唆を得るための読み解きが可能になります。
トレンドを読み解く
まずは、はじめのコツ「回答者の属性をみる」を、先ほど挙げた「Meat Tech」のトレンドを例に説明します。
型として説明した課題やリスクを聞くために、「MeatTechで発生している、または今後3年間で発生が見込まれる課題やリスクはなんですか?」という質問をしたところ、2つの異なる立場のエキスパートから、以下のような回答を得られました。
要約すると、〈大手食品企業 グローバルマーケティング担当マネージャー〉様は、「市場参入による競争激化が継続する見通し。」という見解。
一方、〈商社 食料事業本部 新規事業推進室 室長〉様は、「植物肉普及に欠かせない課題は「旨い、安い、早い」の実現。まずは「美味」しくなくては売れません。」という見解。
それぞれ、業界内の視点と、顧客側の視点で回答いただいていることがわかります。
そのため、2つの意見に相違があるわけではなく、掛け合わせることで課題の全体像が浮かび上がってきます。
この2つの見解から読み解けることは、
先行する海外市場ではトッププレーヤーが固定化してきており、競争が激化する。
一方、国内では商材そのものや流通・消費者認知にまだ課題がある。
そのため、商品力を鍛えていくフェーズにある。
といえるでしょう。
次のコツは、「意見と事実を分けて理解する」です。
以下のように、先行事例の型で質問を投げかけた場合、「事例・事実」と「評価・意見」を分けて見ることができます。
複数の見解をまとめて行く際、複雑に感じることがあれば、この作業を行うことで、情報をスッキリと整理していくことができるはずです。
最後のコツは、「切り口を設定する。」です。
エキスパートの方々は、質問を解釈し、自分の専門性に引き寄せて回答していきます。
そのため、単純に「質問」と「回答」の関係で見るのではなく、発見したい論点を切り口として設定し、それに沿って複数の回答を分類し整理することで、エキスパート見解を構造的に扱うことが可能になります。
しかし、そもそも切り口ってどうやって設定するの?という疑問があるかと思います。
切り口がまだ定まっていない場合では、業界分析によく用いられる、5-Forces分析やPEST分析、3C分析などのフレームワークが役に立ちます。
今回は、5-Forces分析とPEST分析を組み合わせた読み解き方を紹介します。
切り口を設定する
今回は以下の5つの切り口を設定し、実際にトレンド「スマホ決済」を分析していきます。
①競合や新規参入
②サービス提供者の交渉力
③既存品の優位性
④法規制・政策
⑤技術進展・技術革新
①②③は5-Forces分析から、④⑤はPEST分析から、それぞれ採用した切り口です。
「スマホ決済で事業を遂行するにあたり、発生している、または今後3年間で発生が見込まれる課題やリスクはなんですか?」という質問に対して、エキスパートの見解を集めたところ、以下のような結果になりました。
〈大手ペイメント会社 新技術担当ディレクター〉様は、アプリの進化に関するコメント、〈元クレジットカード会社 現在はフリーランスコンサルタント〉様は、他の決済手段との比較に関するコメントと分類できます。
しかし、これだけでは独立した表面的な理解に止まってしまいます。
そこで、先程の5つの切り口に沿って、集まった見解をまとめていくと、以下のようになります。
※例示している2つの見解以外にも、回収できた全見解を総合しています
エキスパートから寄せられた見解をまとめ上げていくと、スマホ決済の現状は、以下のように読み解くことができます。
「コロナ禍で非接触決済手段としてスマホ決済の需要は底堅い。だが、現金やクレジットカードの優位性も依然として強く、決済手段の主流になっているとはいえない状況。
そうした環境下で、プレーヤー間での激しい消耗戦は収束。現在はスーパーアプリ化による収益力の向上を各社が模索中。
小売店側のQRコード決済端末の導入コストが長年の課題だが、海外で広がりつつある「tap to phone」が、そのソリューションになりえるかが注目される。
一方、QRコード決済に対するセキュリティ不安という課題は解決の必要がある。」
トレンドを読み解くことで見えてくるもの
これまでのように、トレンドを読み解くことで、事業・未来への示唆を得ることができたと思います。
そして、さらに自分たちが活用するために、トレンドを手繰り寄せる質問が思い浮かんだ方もいるのではないでしょうか?
例えば、先程のスマホ決済に関しては、次のような深堀りの質問が考えられます。
「店舗に決済端末を導入する際のインフラ投資は長年の課題である。海外式の「tap to phone」だけがソリューションなのか?自社技術でも何かできるのではないか?」
そこで、例えばSPEEDAの機能である、FLASH Opinionを利用し、エキスパートにこうした質問を投げかけてみることが可能です。
【質問】
クレジットカード決済、QRコード決済など、店頭に端末を設置する必要のある決済手段において、現在の読み取り端末よりも小型・薄型・低価格の端末を導入したいという現場ニーズはどの程度強いでしょうか?
【補足説明】
自社が持つxx技術を応用すれば、現在の読み取り端末よりも小型かつ薄型で、価格を抑えた端末を開発することが可能です。
・そもそも現在導入されている端末をリプレースする余地はあるのか?
・導入コストを理由に端末を必要とする決済手段を導入していない小売店は、どの程度価格が下がれば導入見込みが立つか?
について理解を深めたく、ご見解をお教えください。
回答エキスパート : 大手小売チェーン店舗担当者、中小規模小売店担当者
いかがでしたか?
ビジネス環境を大きく変化させているトレンドを読み解くことで、変化に振り回されるのではなく、逆に示唆を引き出し、活用していくことができるはずです。