「データを分析して可視化するのが目的ではなく、捻出した時間で情報をどう深掘りするのかが重要です。SPEEDAでそれが実現できました。」
大手メーカーの知財部門での活用
セイコーエプソン株式会社
知的財産部門から戦略提案をする時代へ
セイコーエプソン株式会社は、インクジェットプリンターやプロジェクターなどの分野において、質・量ともに業界トップレベルの特許を有しています。今回は、知的財産本部の方針を取りまとめる知的企画管理部に所属する谷口様に、知財部門の在り方からSPEEDA活用の背景、そして導入効果までをじっくりお伺いしました。
サマリー
- ・知財を経営に役立てる上で必要な、業界・競合情報の収集が効率化
- ・データを一瞬で可視化出来るため、情報を深掘りするための時間が捻出可能に
- ・メンバーの意識改革が進み、提案に自信が持てるように
特許量産型から経営戦略に沿った戦略提案型の知財部門へ
知財企画管理部ではどのようなミッションに力を入れていますか
私どもは、特許を大量に出す時代は終わり、知財を活用する時代に入ったと考えています。10年後や20年後の会社があるべき姿を描き、その戦略に沿って知財を活用する。そうやって「物量から戦略重視の知財」へと変革しなければ、ビジネスが広がらないと考えています。私ども知財企画管理部では、従来からの仕事も大切にしながら、新しい知財部門の在り方にも試行錯誤しながらチャレンジしています。
谷口さんが時代の変化を実感したきっかけは何ですか
私が知財部門に配属されたのは2003年ころです。当時は、特許を分析して「どこに特許を出そうか」と検討して、発明創出を支援することが仕事でした。年間10,000件の特許出願を目指していた時代です。 それが会社を強くするものだと信じていました。ところが時代が変わり、量から質に転換して、重要領域での出願に戦略シフトする中、今では年間3,000件ほど。知財部門の在り方を考え転換するターニングポイントだと思っています。 世の中も変わってきたと思います。2010年ころから、「経営に資する知財活動をしよう」という雰囲気がありました。ただ、何をしていいのか誰も分からない。そんな時、私が注目したのは、欧米企業の取り組みです。彼らは2005年ころから、すでにあたり前のように知財を経営戦略に活用している経営層がいて、日本よりもかなり進んでいると思います。 特許情報は技術を正確に分析できる優れた情報だと、私は思っています。技術が素直に書いてあるので、分析すれば必ず経営の役に立てるはず。日本も欧米に追い付かなければいけないと常々考えていました。そんな時に出会ったのがSPEEDAです。
SPEEDAで実現したかった3つのこと
①業務効率化
SPEEDAの導入を検討した背景を教えてください
私は、「知財を経営に役立てたい」という思いから、業界や競合情報を調べるようになりました。SPEEDAを導入する以前から取り組んでいます。 どうして知財の人間がそのような情報を調べた方がいいかというと、特許だけでは説明できないことが分かるようになるからです。例えば、企業の開発方針と特許の出願数が相関していることが分かってきます。特許は未来への投資行為。成長しないところに投資する経営者はいません。つまり、競合企業がどのようなビジョンを持っているのかという事が、企業情報と特許情報を紐づけることで読み取れるというわけです。 近頃は、このような取り組みを、IPランドスケープと呼ぶようになりましたが、まさにSPEEDAはIPランドスケープに最適のツールだと考えています。
その分析にSPEEDAを必要とされたわけですね
そうです。PDFの有価証券報告書をダウンロードして、データをExcelに入力してグラフをつくる。1社分析するのに1週間もかかっていました。SPEEDAをトライアルで使わせて頂いた時は衝撃をうけました。UIが優れているので使いやすい。何よりもデータが一瞬でビジュアル化できるのでとても重宝しています。
競合企業の売上や利益、開発費など定量データに注目するわけですか
大きな会社は多角経営しているので、売上や利益だけからはそんなに細かなことまでは分かりません。セグメンテーションも会社によって違うので、定量データだけでなく文言などの定性データも一緒に見ながら考えます。それでも分からないことがあれば、調査会社から資料を買うこともあります。
②情報の深掘り
業務効率化されたこと以上の効果はありましたか
あります。以前はグラフを作るだけで精一杯で、大変だから作らなかったこともありました。SPEEDA導入後は、情報を効率よく取得し分析するという上では妥協がなくなりました。 そもそも、SPEEDA導入する時には、データを分析して可視化するのが目的ではなく、捻出した時間で情報をどう深掘りするのかが重要だと考えていました。調べる時間が減れば考える時間が増えますからね。今はそれができています。これこそが最大のSPEEDA導入効果だと思っています。
谷口さん以外の社員も、SPEEDAを使って情報の深掘りができていますか
はい、同業者と「この特許は互いに許諾しましょうね」とライセンス交渉を担当しているメンバーも活用しています。SPEEDAを活用することで、交渉を始める前に、ライセンスによる経営へのインパクトや、将来のリターンなどを予測するようになりました。そういう情報を持った状態で交渉に入れるということは大きな進歩だと思っています。
③意識改革
お話を伺っておりますと、従来の「特許を出す仕事」から、情報を分析して「提案する仕事」の比重が高まっているように思います。現在の比率はどれくらいですか
そうですね、2003年のころは、ほとんどの仕事が開発部門からの依頼を受けて動く「特許を出す仕事」でした。最近は、「提案する仕事」を中心にやっている人が増えています。もちろん、従来からの「特許を出す仕事」も大切な仕事ですが、これからは、少しずつでも社員の意識が「戦略提案」へ変わっていけたらと期待しています。
SPEEDAは社員の意識改革に有効ですか
はい、実は、SPEEDA導入は、社員の意識改革も一つの狙いでした。国内やグローバルの企業情報や市場環境、財務情報を一元で手に入れられるので、世界観がパッと広がります。 ここまでの当社の道のりを振り返ると、知財部門として、知財戦略を経営戦略の重要視点として組み込むために取り組んできたベースにあります。通常であれば、まず「しくみ」、「プロセス」など、価値創造につながる状態に変えていくこと、そのための事業成長・変革への健全な危機意識・当事者意識が根本にあるべきだと考えます。 その上で、こういったツール活用に明るい若手社員から、意識改革が始まっていますが、ベテラン社員も含めて、全社に浸透していくことを期待しています。
意識が変わりSPEEDAを活用し始めることで、初期段階では具体的にどのような効果が表れますか
まずは、自分の提案に自信を持てるようになります。SPEEDAで情報を調べたうえで、お客様や上司、他部署の人と話をしているからです。以前は、「特許のことなら詳しいけど、それ以外のことは分からない」ということも多かったと思います。意識が変わりSPEEDAで業界や競合のことを調べるようになると、大局的な観点から会話をすることができるようになります。それが自信につながります。 他部署から「ある会社の出願状況を調べて欲しい」と依頼された時、私なら経営情報も入れた資料を作成して渡します。そうすると、情報の納得感が高まりますよね。資料を渡した相手からの反応も上々です。
幅広い情報をもっておくことが大切ですね
そうだと思います。私は、何かあったら一般的な検索エンジンよりもSPEEDAを使います。週に3日ほどは使いますよ。RSSリーダーで届いた情報をSPEEDAで直ぐに調べます。成長領域であれば、プリンターやプロジェクターと関係ない業界のことでもウォッチしています。
今後の展望
SPEEDAを活用するうえで、今後の課題はありますか
SPEEDAで様々な情報を扱えるようになった一方で、扱えるデータをより有効に活用できる人材がまだまだ少ないと感じています。SPEEDAから得られる情報を読み解き、判断できる人材を育てたいと考えています。 その結果、知的財産部門から戦略提案して、社内にイノベーションを起こしたいという大きな目標もあるんです。やはり、知財のあり方を変えたいという思いが強いです。
SPEEDAに期待することはありますか
経営情報と特許情報の融合したIPランドスケープによる戦略提案が、今後は企業経営により重要になると考えています。そのためにも、『企業情報×知財』のツールを完成させてもらいたいです。SPEEDAと知財データが紐づき、直感的に使えて、経営層へのプレゼンにも使えるツールです。そうすれば、SPEEDAは高い独自性を持った、さらに無敵なツールになると期待しています。
2018.11 インタビュー
セイコーエプソン株式会社
www.epson.jp/特色
「省・小・精の技術」を核に、プリンター等のプリンティングソリューションズ事業、プロジェクター等のビジュアルコミュニケーション事業、時計やロボット等のウエアラブル・産業プロダクツ事業を展開している。
業種
製造・メーカー
部署・職種
知的財産
企業規模
5000人以上
主な利用シーン
IPランドスケープ・知財戦略
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セイコーエプソン株式会社
知的財産本部 知財企画管理部 知財企画推進グループ
谷口 誠一 様