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資料・コラム

セイコーエプソンが実践するSPEEDA R&D × INITIALによる知財戦略活動

セイコーエプソン株式会社

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時計製造を原点とする技術をもとに、産業に欠かせない半導体と水晶デバイスという2つのマイクロデバイスの本質的な技術を持ち合わせ、事業展開を続けるセイコーエプソン株式会社。インクジェットプリンターやプロジェクターなどの分野において、質・量ともに業界トップレベルの特許を保有し、2020年4月には、エプソンクロスインベストメント株式会社 (略称:EXI)を発足させ、運用総額50億円、グローバルにCVC投資を行っています。
今回はセイコーエプソン株式会社 知的財産本部 知財戦略調査部長 兼 知財企画管理部長 大橋洋貴様、経営戦略本部 経営戦略推進部 谷口誠一様に、日々の活動におけるユーザベースのサービスが果たす役割を伺いました。

サマリー

  • 俯瞰的・多角的な市場・企業分析、特許情報など競合企業の技術動向を情報収集(SPEEDA R&D)
  • スタートアップ企業との共創可能性を探索する経営者略歴などの詳細を情報調査(INITIAL)

【導入前の課題】
SPEEDA R&D:
経済情報や企業情報はすべて紙やPDFの資料が基本だったため、1社の分析を1週間で終えることができない状況だった。
INITIAL:SPEEDAの導入により、業務効率改善に大きな効果を発揮した一方、非公開企業の情報を得る上では不十分な側面もあった。

【導入後の効果】
はじめに、SPEEDA導入時、知財経営に役立てる上で必要な、業界・競合情報の収集が効率化。
その後、SPEEDA R&Dプランに切り替えて、知財や技術起点でより多角的なバックキャストの市場分析が可能になり、INITIALとの両刀使いでスタートアップ企業も調査対象とした、幅広い知財戦略活動を実現できている。

“技術は人びとのためにある”という経営トップの精神に基づいたオープン戦略

セイコーエプソンの事業について、お聞かせください。

大橋氏:
時計製造を原点とするセイコーエプソンの技術は、「無駄を省き」「より小さく」「より精緻に/高精度に」と進化を続けてきました。この「省・小・精」の技術を軸に、さまざまな領域に事業を広げ、現在5つのイノベーションから製品を展開しています。

(1)オフィス・ホーム プリンティングイノベーション:プリンター、オフィス複合機 など
(2)商業・産業 プリンティングイノベーション:大判インクジェットプリンター、 デジタル捺染機、POSシステム、インクジェットプリントヘッドなど
(3)マニュファクチャリングイノベーション:産業用ロボット、小型射出成形機など
(4)ビジュアルイノベーション:液晶プロジェクター、スマートグラスなど
(5)ライフスタイルイノベーション:ウオッチ、センシングデバイスなど

5つのイノベーションを支えているのが、マイクロデバイスです。当社は、産業に欠かせない半導体と水晶デバイスという2つの本質的な技術を持ち合わせ、事業展開を続け、2022年9月に制定したパーパス「『省・小・精』から生み出す価値で、人と地球を豊かに彩る」を実践すべく日々活動しています。

知財経営・知的資源活用の先駆者としての変遷について、お聞かせください。

大橋氏:
当社が古くから経営の中心に知財を据え、また、それが当然であるかのように活動してきた背景としては、プリンター、PC業界の巨人と対峙しなければならない状況がありました。特許で苦労を重ねた経験とともに、セイコーエプソンの知財経営・知的資源活用は成長を続けています。

当社は、”技術は人びとのためにある”という経営トップで時計事業の礎を築いた中村恒也 元社長の精神に基づき、現在のオープン戦略につながる取り組みを先駆的に実践してきた歴史があります。特許権利化したクオーツ時計の技術公開により、クオーツ式腕時計が劇的に普及したのは、その一例です。

守りの知財を土台に、経営・技術開発・知財が一体となり、同じ方向に向かう

現在のご職務のミッションや想い、日頃の活動について、お聞かせください。

大橋氏:
私が所属する知的財産本部 知財戦略調査部では、イノベーション支援を主なミッションとしています。さまざまなイノベーション支援がある中で、IPランドスケープを私の部門にて、契約サポートを別の部門でと知的財産本部全体では大きく2つを中心に担っています。知財本部員のうち、約20名がイノベーション支援に携わっています。

谷口氏:
私が所属する経営戦略推進部では、知財・R&Dと経営をつなぐ役割を担っています。主なミッションは、新規事業やイノベーションの創出です。その他、既存事業の延長ではない飛び地技術への出資に関しては、経営戦略推進部主導で進めています。新規事業やイノベーションの創出の方法論として、CVC、M&A、広義でのオープンイノベーションがあります。オープンイノベーションにもさまざまなパターンがあり、いずれも手段であると捉えています。

IPランドスケープの意義と課題、向かうべき理想像について、お聞かせください。

大橋氏:
近年、”守りの知財”よりも”攻めの知財”を重視するトレンドが見られますが、守りの知財は土台としてしっかり持つべきであり、そこに拡張機能として攻めの知財を付け足していくことが望ましいと思います。
各社のIPランドスケープのアウトプットはよく似ていますが、それらをいかに位置付けるかは、各社で異なります。知財部門が中心となってイノベーションを牽引するというよりは、イノベーションを起こそうとする人々に貢献し、指揮する経営層に知財部門の得意技を生かした情報解析の側面からサポートしていく形が望ましいと考えています。

谷口氏:
もともと知財部門に所属していた私は、2002年頃、IPランドスケープを実践している日本企業がほとんどない中、まずは他社と比較して特許件数を増やすことをKPIとし活動しました。それらの活動は「知財力倍増活動」を英語表記した際の頭文字と、イルカの持つ知性、機敏、協調のイメージをなぞらえて、『Dolphin活動』と称して、社内でも経営に資する知財活動の一環であると位置付けられたものでした(『Dolphin活動』に関する参考資料はこちら)。

当時、知らない自社技術は無いと言えるほど技術理解を深め、それを基に数多くの特許出願・権利化を推し進めてきましたが、そのうちに特許件数だけでは勝てないことが見えてきました。IPランドスケープの向かうべき理想像について、現在、経営戦略推進部として感じるのは、技術開発と経営と知財が一体となり、同じ方向に向かうことです。

高速に調査分析できる世界だからこそ、SPEEDA R&DとINITIALの両方で幅広い視野を得る

導入前の課題と導入後の取り組みや成果について、お聞かせください。

谷口氏:
2005年以降、中国経済が勢いを増す中、海外特許調査にも取り組み始めました。当時はSPEEDAを導入しておらず、経済情報や企業情報はすべて紙やPDFの資料が基本だったことから、外国語の翻訳負荷も含めて、1社の分析を1週間で終えることができない状況でした。こうした状況下で10年ほど調査・分析を続け、2017年にSPEEDAを導入しました。SPEEDAの最初の着眼点は、市場調査やシンプルな企業分析でした。当社の売上の3/4は海外であることから、海外情報を見ることは欠かせません。とくに、クオーツ・プリンター・プロジェクターに関しては、ほぼトップシェアを占めていることから、競合企業の情報収集を重視していました。

このように、まずは他社の観測を目的にSPEEDAを活用して企業情報を業界情報収集するところからスタートし、それが実践できるようになると、他の業界や最新のトレンド、スタートアップ情報など、より幅広い情報を求めるようになりました。

INITIALは知財部門で2020年に導入しました。そもそも導入のきっかけは知財情報分析では出願件数の少ないスタートアップを見つけることが難しかったからです。また当時、イノベーションという言葉がまだ社内に浸透しておらず、新規事業やイノベーション創出について調査する部門がない状況でした。そこで、知財部門にイノベーション関連の調査相談窓口の機能を設置しました。他部門からは、取り組みたい内容、そのために必要な技術などの相談を受け、私たちはINITIALを活用して、ともに実現できそうなスタートアップ企業を調査する仕組みを整えました。

SPEEDA単体では不足すると感じる要素、SPEEDA R&DとINITIALを合わせ使う機会やシーンについて、お聞かせください。

谷口氏:
当社は2020年4月に、エプソンクロスインベストメント株式会社 (略称:EXI)を発足させ、「EP-GB投資事業有限責任組合」を通じ、運用総額50億円、グローバルにCVC投資を行っています。協業・オープンイノベーションを加速し、スタートアップの成長や、新たな価値創造の実現をめざす上で、SPEEDA単体では非公開企業の情報が十分に得られないと感じるシーンがありました。そこで、スタートアップの資金調達、提携先、関連ニュース、分析レポートなどを、ワンストップで検索・閲覧・管理できるINITIALの導入に至りました。

その後、SPEEDAに特許・論文動向、研究者・科研費情報などの技術動向調査ができる機能を拡張したSPEEDA R&Dが包括的・多軸分析に有益だと判断し、プランを切り替えて、現在はSPEEDA R&DとINITIALを両刀使いする形でどちらも重宝しています。

私たちがINITIALに魅力を感じる1つは、創業者の経歴、関係者などが確認できることです。こうした創業者の周辺情報に加えて、投資状況や調達額を確認することにより、企業価値や新技術の可能性について、予測を立てる際に役立っています。

SPEEDA R&DとINITIALの両方を合わせ使うからこそ、実現される価値について、お聞かせください。

谷口氏:
例えば、事業部や開発部門からスタートアップ企業の調査依頼を受けた際には、まずはINITIALで企業調査・共創可能性を検討します。その上で、将来の市場性や競合技術の動向をSPEEDA R&Dで分析し、共創した未来の売上・利益計画、企業価値評価のベンチマークになるような財務データもSPEEDA R&Dから取得します。そうして、経営が求めるファクト・定量データも含む全体の繋がりで情報を整理し、社内への説明を実施します。投資を実現するにはこうしたプロセスが必要です。社内でも、多くの技術開発に取り組んで来た経験から、社内の既存事業や技術とあまりにも近しいテーマではさまざまな衝突が起きかねないため、よく配慮して提案する必要があると感じています。

取得した情報を社内で展開する上では、自社のカルチャーに合わせることも重要です。SPEEDA R&DやINITIALから取得した情報を土台にしつつ、説明を受ける人が興味を持つようなプレゼン資料にするよう心がけています。
そのためにも、SPEEDA R&DとINITIALのどちらか単体ではなく、両方を活用しながら幅広く情報収集することが必要です。

世界観を幅広く持つことも重要です。例えば、3Dプリンティングにおける日本のシェアは世界の3Dプリンティング市場の2%程度に留まるため、日本の技術や業界分析だけで判断すれば、誤った方向に行ってしまいます。

SPEEDA R&Dなどのツールの機能はますます拡張されていますが、調査者が視野の狭い状態で調査分析すれば、自ずと視野の狭いレポートになります。ツールをうまく活用すれば、高速に調査・分析ができる世界だからこそ、 幅広く調査することが大切です。幅広さとは、技術的な幅広さに加えて国や地域としての幅広さも必要です。両方をかけ合わせて見ることで、より精緻な答えにたどり着くことができると考えています。

イノベーションを起こそうとする人々や経営層を裏方として支援する

今後の展望について、お聞かせください。

谷口氏:
これは海外でよく聞く話ですが、法律や規制、ルールはただ「遵守するもの」として捉えるだけでなく、「目的達成のための手段・ツール」としても捉えられているそうです。これは学びの多い視点だと思っていて、知財も目的を達成するために存在すると私は考えています。これを理解した上で活用することにより、SPEEDA R&DやINITIALは、より一層、経営・技術開発・知財をドライブすることができると思います。

例えば環境”というテーマでは、規制を障害や障壁と捉えるのではなく、規制にうまく乗ることで、利潤を得られるような仕組みにもなっているということを理解すべきです。規制を守らなければいけない、規制があるから実現できないと諦めるのではなく、それをいかにうまく活用していくのかという考え方で、イノベーションを起こそうとする人々にどれだけ貢献するか、経営層にいかに情報を出していくか、裏方として貢献していきたいです。

セイコーエプソン株式会社

corporate.epson
  • 特色

    「省・小・精」の技術を核に、さまざまな領域に事業を広げ、5つのイノベーションから製品やサービスを展開している。

  • 業種

    製造・メーカー

  • 部署・職種

    知的財産、新規事業開発

  • 企業規模

    5000人以上

  • 主な利用シーン

    IPランドスケープ・知財戦略、新規事業開発・研究開発

  • セイコーエプソン株式会社

    知的財産本部 知財戦略調査部長 兼 知財企画管理部長

    大橋洋貴様

  • セイコーエプソン株式会社

    経営戦略本部 経営戦略推進部

    谷口誠一様