知財部門が共創し、ロボット制御プラットフォームリリースを支援。スピーダ R&D分析と有償オンボードサービスで事業戦略立案を加速
事業創出に向け、知財部門にビジネス視点を装着
パナソニック コネクト株式会社
「事業の前に知財あり」の精神のもと、創業以来一貫して知的財産を重視し、活用に注力するパナソニック。グループ内のBtoBソリューション事業における成長の中核を担うべく、産業界の現場プロセスの変革に挑戦しているパナソニック コネクト株式会社は2024年3月、物流倉庫内の多種多様な作業用ロボットの一元制御を可能にする「ロボット制御プラットフォーム」をリリースしました。あわせて、「タスク最適化エンジン」やラピュタロボティクスとの提携など、物流の課題を本質的に解決するソリューションを発表しています。開発に向け協働したのはパナソニックグループの知財実務を一手に引き受ける、パナソニックIPマネジメント株式会社です。
事業化にあたってスピーダ R&D分析やスピーダ R&D分析 有償オンボードサービス(以下、有償オンボードサービス)をどのように活用したのでしょうか。パナソニック コネクト全体の知財戦略を担当する、パナソニック コネクト 知的財産部 シニアマネージャー濵田様、パナソニックIPマネジメントのコンサルティング部 藤本様とコネクト知財部 西様に話を伺いました。
サマリー
- ・スピーダ R&D分析によってビジネス情報の取得をスピーディに実現。テーマ別の調査レポートの購入が不要になり、大幅なコスト削減・調査時間の短縮に成功
- ・スピーダ R&D分析 有償オンボードサービスでのワークショップ実施により、外部情報の取得から初期仮説案の構築まで約4時間で実現
- ・事業創出を行なう際の手順がわかる設計書の内容が充実。知財部門の人材育成を後押し
事業・技術・知財三位一体の戦略を考え、事業の成功に貢献する
まずはパナソニック コネクト、濵田さんのお役回りを教えてください。
濵田様:パナソニックグループは2022年4月に事業会社制となり、7つある事業会社はそれぞれ独立して経営を推進することになりました。中でもパナソニック コネクトはグループ内でBtoBソリューション事業の中核を担い、お客様の現場のプロセスに貢献するソリューションの提供をミッションとしています。事業領域は多岐にわたり、情報通信機器や産業用機器の製造などのものづくりにとどまらず、子会社化した米国のサプライチェーン管理システムBlue Yonderのプラットフォームを活用した、ソフトウェアベースのソリューション開発にも取り組んでいます。
事業会社はそれぞれ知財部門を有しており、私はパナソニック コネクトで知財部門の責任者を務めています。企業経営と連動した大きな知財戦略の立案を我々が行ない、具体事業の戦略への落し込みや知財実務をパナソニックIPマネジメントが担っています。
最近ではIPランドスケープという考え方がだいぶ浸透してきましたが、我々の中では一貫して「知財を含むさまざまな情報を活用して経営に貢献する」という本質は変わりません。知財部門としての最終的な出口は、あくまでも事業の成功です。そこに向かうためには単に特許(IP)だけを見るのではなく、「事業・技術・知財」三位一体での戦略立案が大事だと考えています。
次に、パナソニックIPマネジメントのお二方のお役回りをお聞かせください。
藤本様:パナソニックIPマネジメントはグループ全体の知財を一括管理し、各事業会社の知財活動に関わる業務全般を手掛ける会社です。その中でも私はコーポレート部門にあたるコンサルティング部に所属し、パナソニックグループ各社の知財部門と連携し、特許+αの情報分析を通じて事業戦略立案の支援を行なっています。共創パートナーも含めた各キーパーソンが抱える課題をしっかりと見定め、課題解決におけるベストパートナーとなることを目指しています。
西様:私は同じくパナソニックIPマネジメントのコネクト知財部で、パナソニック コネクトの技術研究開発本部の知財業務を担っています。現在は、重点的に開発を進めている次世代ウェアハウス・ロボティクスに関するテーマを主に担当しています。
事業環境が複雑化、知財を企業の競争力に結びつけることが不可欠に
知財活動を推進する上で、貴社が抱えていた課題を教えてください。
濵田様:社会情勢の変化や技術革新が著しい昨今、自社で優れた製品をつくって売れば顧客の課題が解決する時代ではなくなりました。さまざまなステークホルダーとパートナーシップを組んで共創し、トータルソリューションとしてお客様に価値を提供しなければ、事業競争力を高めることはできません。
こうした事業環境の変化に伴い、ハードウェアありきの製品開発から、ソフトウェアやAI、IoTなど最新テクノロジーを中核に据えたビジネスモデルそのものの構築へと提供する製品・サービスがシフトしつつあります。ソフトウェア企業であるBlue Yonderの文化を取り入れるなど、組織や開発環境の改革も進めているところです。
藤本様:事業が多様化すると関わるステークホルダーも増え、それぞれが持つ課題の複雑性も増していきます。ゆえに事業全体を把握することが従来よりも重要になったと思う一方で、情報の収集と整理に時間がかかるようになってきたと感じています。
西様:最終的なユーザーである、その先にいるお客様へのメリットも必要になるので、それぞれの困りごとやメリットを理解した上で進めないと、的外れな知財活動になると考えています。
ビジネス情報にアクセスしやすいデータベースを求めて
スピーダ R&D分析導入のきっかけを教えてください。
濵田様:パナソニック コネクトでは2022年に事業会社として発足する前からスピーダ R&D分析(旧 SPEEDA R&D)を活用してきました。それまで知財情報を得るために使っていたのは、特許情報に特化した自社のPatentSQUAREや、他社の訴訟情報ツールなどです。しかし事業環境の変化に伴い、競合企業や業界動向、市場構造などの情報収集の必要性が一気に増加。ビジネス情報にアクセスしやすいデータベースが見つからない中で検討に上がったのが、すでにパナソニック コネクト、パナソニックIPマネジメントで活用していたスピーダ R&D分析でした。
藤本様:パナソニックIPマネジメントは6年前からスピーダ 経済情報リサーチ(旧 SPEEDA)を使っています。グローバルに展開されている知財データベース・分析ツールも利用していましたが、やはりビジネスに関する情報が足りずスピーダ 経済情報リサーチを導入。その後、パテントツールと相乗効果を生みやすいスピーダ R&D分析が生まれたタイミングで切り替えた経緯があります。スピーダ R&D分析には、経済情報に加えて、特許動向をはじめとする多角的な技術情報が包含されているため、活用することに決めました。
西様:スピーダ R&D分析の導入前は、一般的なWeb検索や、100万円前後する高額な調査レポート、コンサルティング会社へのリサーチ依頼などを通じて調査を行なっていました。調査に多大な時間と金銭的コストがかかっていたのです。
しかし、他社動向を知りたいのに売上しか記載されていない、ピッキングロボットの情報を得たいのに自走式ロボットしか書かれてないなど、求める内容が網羅されないことが多々ありました。購入サイトに書かれているレポートのタイトルだけでは、内容の充実度は判断できませんから。
そもそも知財担当の私からすると「新規事業を立ち上げる」と聞いても、どのような情報が必要なのかよくわからず、必要な情報にすぐたどり着けませんでした。事業の複雑性が増している分、調査前に仮説を立ててもそれ自体が検討違いの場合もあり、仮説検証のスピードをもっと上げたいと考えていました。
スピーダ R&D分析を使って顧客視点で特許を考える
普段スピーダ R&D分析をどのように活用されていますか。
濵田様:競合など気になっている企業リストを簡単につくれる、ダッシュボード機能をよく使っています。当社の複数の事業ごとに競合にあたる企業をダッシュボードでリスト化し、経営状況や知財状況の変化、業界の動向をチェックするのです。
企業情報が自動的に更新されるため、都度企業のホームページにアクセスして調べる労力を省けます。
濵田様:スピーダ R&D分析で「調査に費やす時間を買っている」という感覚がありますね。マネジメントの立場からすると、コストをかけたにもかかわらず「知っている情報しか得られなかった」では困ります。いつでもアクセスできるクラウドのデータベースが身近にあることで調査に対する物理的・心理的なハードルが下がり、知財メンバーが気軽に調査に取り組める環境をつくることができると感じています。
西様:最近では、物流現場の課題に対してBlue Yonderとの連携を模索し、スピーダ R&D分析のトレンドレポートで「スマート物流」を参考にしました。
物流業界の全体像に加え、主要国の物流コストや世界的な人材不足といった、現状の課題と今後の動向がわかります。それに、実際に事業を展開したらどうなるのかというマネタイズポイントまで把握できるのは他社の調査レポートと大きく異なる点だと感じます。
西様:進出したいマーケットの売上規模を仮説立てする際に根拠となるデータや、業界内のプレーヤーの具体的な取り組み事例も書かれているため、マーケットの可能性を知ることができます。
また、他社の特許情報もつかめるので、自分たちがどこを押さえて特許出願すべきかあたりもつけられます。買い切りのレポートの場合、欲しい情報がなければそこで諦めるしかありません。その点、スピーダ R&D分析はレポート内に企業名が記載されていれば、企業情報がまとまったページに飛ぶことができます。マーケットの未来から関連企業の現状までワンストップで調べられる点が非常に助かっています。
物流現場へのロボット導入経験がある有識者の方の声を聞くために、スピーダ内のスピーダ エキスパートリサーチというサービスも活用しています。スピーダ R&D分析を導入すると、スピーダ エキスパートリサーチに登録している業界の有識者にインタビューできるチケットがオプションサービスとしてついてきます。このインタビューを行なった後、さらに現場の困りごとを深掘りしたいと考え、パナソニック コネクトの技術担当者にも参加してもらって有識者の方に別途講演をセッティングしてもらいました。その録画を事業開発メンバーにも共有できたので、リアルな声が技術開発の刺激になったのではないでしょうか。
経営層に対してスピーディーな戦略提案が可能に
藤本様:私の場合、スピーダ R&D分析と知財特許のデータベースを行き来して活用することが多いですね。スピーダ R&D分析で企業情報や競合比較、トレンドレポートなどを見つつ、関係のある特許情報は知財特許のデータベースで確認するなど、組み合わせながら使っています。知財特許データベースで、注目特許を保有する企業のM&A情報を見つけたら、スピーダ R&D分析で成立時期や、売買形態、売り手・買い手など詳しい情報を調べ、アライアンス状況を確認します。
一方で、トレンドレポートに掲載されている注目企業や、「取り組み事例」を手掛けている企業の保有特許については、スピーダ R&D分析で概要を調べてから知財特許データベースで詳細を確認しています。スピーダ R&D分析に搭載されている企業データや競合比較情報は、クリック1つでグラフとなって分かりやすく可視化され、ダウンロードも可能です。
以前はさまざまなデータベースからデータを集めて成形する作業にかなりの時間がかかっていましたが、それでは素早く意思決定したい経営層の求めるスピードに追いつきません。その点、スピーダ R&D分析では専門的な情報やデータをわかりやすいかたちで、スピーディーに経営層に提案できるのでとても助かっています。
濵田様:ロボットをどう活用していくかを考える場合、研究開発の技術をベースに知財部が特許化するというシーズ思考になりがちです。しかし私どもの役割は、顧客視点の市場ニーズで特許を考えることです。
研究開発担当もシーズ思考になりがちなため、スピーダ R&D分析やスピーダ エキスパートリサーチで顧客課題をつかみ、そこを起点に事業・製品開発を推進することが大切です。顧客課題から特許につながる発明を誕生させるという発想で知財活動に取り組まないと、新規事業のヒット率は上がらない。つくりたいものをつくるという発想だけではなく、顧客の喜ぶソリューションを提供することが当社の未来をつくっていくと考えています。
有償オンボードサービスで技術の強みを棚卸し。PEST分析やSWOT分析を実践
今回、スピーダ R&D分析で新たにスタートした有償オンボードサービスもご活用いただきましたが、きっかけをお聞かせください。
藤本様:既存事業なら経験則で事業戦略を立てることもできますが、新規事業では土地勘のない新たな領域を探索しなければなりません。スピーダ R&D分析でトレンドや市場情報にたどり着いても、これらの情報をどう組み合わせて事業シナリオを描けばいいかわからず困っていました。
そうしたなか、社内から、これまで蓄積してきたIPランドスケープに基づく事業戦略立案のノウハウを言語化し、手順を型化することで人材育成につなげたいという動きが生まれました。そこで当社の知見を反映したオリジナルの「IPL設計書」の作成に取り組むことになったのです。この設計書の描き方を社内に広めれば、IPランドスケープを活かした戦略立案のできる人材が増えるのではないかと考えました。
ところが実際、この設計書をつくるためにビジネスモデルキャンバスなど事業戦略の立案フレームワークを描こうとしても、やり方がわからず行き詰まってしまいました。ちょうどそのタイミングで、スピーダ R&D分析を使った調査の仕方や、PEST分析、SWOT分析による戦略立案方法をレクチャーしてくれる有償オンボードサービスの案内を受け、渡りに船だと思い実施を決めました。
実際、有償オンボードサービスの際はどのようなリサーチや分析を行ないましたか。
西様:当時は技術シーズからスタートした事業アイデアを考えていた頃でした。自分たちでピッキングロボットを開発するという「ものづくり」のアイデアや、Blue Yonderと連携して専用のソフトウェアを開発するアイデアなど変遷を繰り返していました。
技術者や事業部と議論を重ね、「ロボット制御プラットフォーム」のアイデアのタネは見つかったものの、このアイデアが本当に「たしからしい」のか自信が持てませんでした。
そこで「ピッキングロボット」というテーマを設定し、PEST分析やSWOT分析などのフレームワークを作成する2時間のワークショップを3回にわたって実施。スピーダ R&D分析のカスタマーエクスペリエンスチームに伴走してもらい、「たしからしい」アイデアなのか検証しようと考えました。
西様:1回目のワークショップでは、物流業界の課題に対してパナソニックグループのどんな強みを活かせるのか棚卸しし、PEST分析、SWOT分析を行ないました。続く2回目では、作成したSWOT分析に基づき内部環境と外部環境をかけ合わせ、クロスSWOT分析に挑戦。そして3回目では、あえてロボティクスではない別のテーマを設定し、PEST分析からクロスSWOT分析までの流れをおさらいしました。
スピーダ R&D分析の活用サポートも含めて伴走していただいたおかげで、当社の強みを棚卸しでき「ロボット制御プラットフォーム」の具現化と新規事業のリリースにつながったと感じています。
事業アイデアの「たしからしさ」を見極め新規事業リリースを支援
スピーダ R&D分析と有償オンボードサービスご活用の感想をお聞かせください。
西様:有償オンボードサービスのワークショップでは、外部情報の取得から初期仮説案の構築まで約4時間でたどり着いたことに驚きました。自分たちだけでフレームワークをつくろうと思っても、そのスピードで事業環境を整理するのは難しいと思います。
藤本様:スピーダ R&D分析を活用した土地勘のない市場構造の把握やトレンド情報の収集方法、事業に結びつく発想への広げ方は非常に参考になりました。戦略を練っていく上での手順が言語化できず、設計書に落としきれていなかった部分のヒントにつながった実感があります。今後はより詳しい調査フローなどを設計書に反映し、多くのメンバーがスピーダ R&D分析を効果的に活用しながら企画立案できる環境をつくっていきたいです。
濵田様:ダイレクトに新規事業の起案に結びつかなくても、有償オンボードサービスでのレクチャーやワークショップを通じてメンバー間で議論が生まれたり、アイデア創出のきっかけとなったりすることに価値があると感じました。
今後の方針やスピーダ R&D分析に期待することを教えてください。
濵田様:繰り返しですが、IPランドスケープを活かして事業戦略に即した知財戦略を立案できる人材を増やしていきたいです。ビジネス視点を持つ知財担当者を育成する重要性を強く感じているところです。今後もスピーダ R&D分析を縦横無尽に使いこなせるメンバーをさらに増やしていきたいですね。
藤本様:Web検索では得られない有識者のリアルな声など、一次情報に簡単にアクセスできる点に大きな価値と可能性を感じています。最近では海外の法規制の動向なども取得できる機能が付加されましたが、さらなるデータベースの拡充に期待しています。
西様:もっとスピーダ R&D分析を使いこなしたいですね。テーマが抽象的だと調査結果もそうなってしまうので、生成AIを掛け合わせて調査の方向性を具体化させるなど積極的に活用していきたいです。
パナソニック コネクト株式会社
connect.panasonic.com/jp-ja/特色
パナソニックグループにおいてBtoB事業の中核を担い、顧客起点で現場課題の解決を目指すソリューションカンパニー。「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」をパーパスに掲げ、サプライチェーン・公共サービス・生活インフラ・エンターテインメントなどの「現場」にイノベーションを起こすべく、各種機器・ソフトウェアの開発・サービスの提供を行なっている。
業種
製造・メーカー
部署・職種
知的財産
企業規模
5000人以上
主な利用シーン
事業開発/新規事業開発、IPランドスケープ・知財戦略
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パナソニック コネクト株式会社
知的財産部 シニアマネージャー
濵田 清司 様
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パナソニックIPマネジメント株式会社
コンサルティング部 課長
藤本 克也 様
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パナソニックIPマネジメント株式会社
コネクト知財部 主幹知財技師
西 博樹 様