「スピーダ R&D分析の活用は、新たな事業創出へ “一歩踏み出すこと” を後押ししてくれました」

調査スキルの向上と社内におけるIPランドスケープ浸透の軌跡

日本ゼオン株式会社

User's Voice

知的財産権による自社の研究開発成果の保護に留まらず、IPランドスケープを活用し自社の事業成長へ貢献する活動が拡がる中、いかに調査・分析の質を高め、未来へのシナリオを描くのか、模索されている方も多いのではないでしょうか。
自動車用タイヤなどの合成ゴムや高機能樹脂の製造・開発を中心に事業を行う化学メーカー日本ゼオン株式会社(以下:日本ゼオン)。日本ゼオンでは2021年10月、当時の知的財産部の調査グループがハブとなり、調査ツール・スキルを習得する部署横断型ラーニングコミュニティ、『インテリジェンスコミュニティ』が発足。自主的に参加したメンバーはコミュニティで習得したスキルや知識を実務に活用することにより、所属部署の調査スキル向上及び知財リテラシー向上を図ることを目指しています。今回は、知的財産部長の清水様、IPランドスケープグループ長の野村様とメンバーの後藤様、北島様、総合開発センターカーボンニュートラル研究開発推進室の小松様にインテリジェンスコミュニティの活動、スピーダ R&D分析の果たす役割などを伺いました。

サマリー

  • 調査分析スキルを習得する部署横断型ラーニングコミュニティを通じて、IPランドスケープの浸透に成功。
  • スピーダ R&D分析に切り替えたことで、時間の効率化に加えて、技術領域における新たな観点からの情報を自ら収集・調査することを実現。
  • 技術動向や業界動向の俯瞰、網羅性により主要なプレイヤーや各社の取り組みが概観できることで経営層への提案の質が向上。

事業機会の探索を主要業務とするIPランドスケープグループを設立

知的財産部における"攻めの知財活動"の変遷について、お聞かせください。

清水様:日本政府が「知的財産立国」実現を標榜して2002年7月に策定した「知財戦略大綱」から約20年が経過しました。事業・研究開発・知財の3つ部門が連携しながら、それぞれの役割を果たす”三位一体の知財戦略”の考え方は、私が知財業務を始めた1990年代後半からありました。当時の三位一体の知財戦略の中には、将来の技術予測や事業展開を見据えた活動など、現在のIPランドスケープに通じるものが既にあり、私が以前在籍していた企業の知的財産部では事業部に対し、例えば企業買収などによって特許を入手するような戦略提言も実践していました。

日本には多くの化学関連企業がありますが、グローバルで比較すると規模が小さいため、個社で競争することには限界があります。そのような背景から化学業界では知財部門の横の繋がりが比較的強く、業界の知的財産関係者と、知的財産部のあるべき姿について意見交換することもありました。このような経験から、さまざまな企業での知財活動を通じて日本の化学業界全体を盛り上げたいと考えるようになり、今後、三位一体の知財戦略を前進させる可能性を秘めた日本ゼオンへ2019年に転職しました。当時日本ゼオンでは、知的財産部が経営戦略への参画や、市場調査を担うことが社内ではまだ充分に浸透していなかったため、一足飛びにそのような活動をすることは難しいという背景がありました。そこでまずは、知的財産部の中で市場調査や事業調査などを少しずつ実践していくことを考え、設立の準備をしていた部内のIPランドスケープを実践するグループにその役割をお願いすることにしました。

IPランドスケープグループについて、教えてください。

野村様:IPランドスケープグループは、2019年から設立準備に入り、2021年4月に調査グループとして設立、2023年2月に現在の名称へ変更しました。知的財産部も研究開発の川上から貢献できるよう、IPランドスケープグループでは、事業機会探索を主要業務として、新製品開発を支援する体制を整えました。具体的な活動としては、今後、当社の事業機会に繋がると考えられる技術テーマについて、特許情報と非特許情報とを組み合わせた分析レポートを経営層に報告します。また、研究部門から相談を受けた新技術について、新しい研究テーマとして採用するかの判断材料とするための調査や、既存製品についての新しい用途を見いだせないかの用途探索調査等を実施しています。このように、特許情報を起点として、新たなニーズや気づきを発見することで、新規事業や新規研究テーマ立案を支援しています。

清水様:過去の当社の知的財産部は、研究部門から依頼を受けて動き出すケースが多く、研究開発における川上に何かを仕掛けることは少ない状況でした。しかし特許は通常先願主義で、先に仕掛けることが重要です。一歩でも先に仕掛けるために、新規事業や新規研究テーマ立案の段階から知的財産部が関わることに意味があると考えています。

調査スキルを習得するインテリジェンスコミュニティの活動

インテリジェンスコミュニティ発足のきっかけと目的について、教えてください。

清水様:2021年4月に調査グループが設立された際、調査グループのメンバーが研究員にIPランドスケープを実践することを紹介したため、まず、研究員へIPランドスケープという考え方が広がりました。一方で、調査スキルは個人のスキルへの依存が大きく、スキルの共有や情報交換の場はありませんでした。IPランドスケープという考え方が広がる中、実際に調査を始めるために必要な知識を学ぶ場がないという課題が、インテリジェンスコミュニティの発足につながりました。

野村様:2021年10月に発足したインテリジェンスコミュニティは、知的財産部の当時の調査グループがハブとなり、調査ツールやスキルを習得する場です。インテリジェンスコミュニティでは、自主的に参加したメンバーがコミュニティで習得したスキルや知識を、各自の所属部署に持ち帰り実務に活用してもらうことにより、各部署や会社全体の調査スキル向上及び知財リテラシー向上を図ることを目指しています。

インテリジェンスコミュニティでは、IPランドスケープに限定するわけではなく、”調査スキルの習得”を目的に仲間を募ったことが特徴です。当時の調査グループの限られたメンバーでIPランドスケープを全社に広めることは難しく、背景には仲間を増やしたいという想いもありました。

後藤様:コミュニティメンバーの募集は、社内の掲示板で研究員や事業部を対象に行いました。新規事業開発の関係者を中心に、既存事業の中でも新しい用途へ展開するなど、新しい取り組みを模索する社員や自ら調査する技術を習得したい社員が参加してくれたと思います。

スピーダ R&D分析の俯瞰、網羅性が新規事業の起案に貢献

インテリジェンスコミュニティの活動内容や主な成果、社内における影響について、教えてください。

後藤様:インテリジェンスコミュニティは、2021年10月〜2022年12月までを第1期として、メンバー19名で活動をスタートしました。まずメンバー全員で手分けして複数のツールを使用した上で紹介し合い、関心のあるツールのIDをメンバーに付与していきました。もっとも人気があったものがスピーダ R&D分析でした。

デスクトップリサーチと専門家を利用したリサーチの大きく2つの調査方法がある中で、デスクトップリサーチでは、スピーダ R&D分析のカスタマーサクセス担当の方に使用方法を解説いただき、翌月に実際の活用事例の発表を実施しました。全体の傾向としてツール初心者が多いことから、ニュース情報検索の使用例が目立ちましたが、とくに印象深い事例として、新素材や新規研究テーマのご提案・ヒヤリングに訪問する企業の最新情報を調査し、商談の際の話題づくりに活用するケースや財務情報の機能を活用し、プロジェクトの利益予測や価値評価をするケースがありました。

専門家を利用したリサーチでは、まず、関心のあるテーマについてアンケートをとり、3つの上位概念ごとのグループに分かれてディスカッションを行った後、各テーマから質問を設定し、スピーダ エキスパートリサーチを活用してインタビューを行いました。当社にはライフサイエンスの研究所がありますが、自社の材料を活用しながら、新しいことを始めたいと考える社員が積極的に活動する様子が見られました。

スピーダの導入の目的やきっかけについて、お聞かせください。

清水様:当時の日本ゼオンには、知的財産部内に市場や技術を専門的に調査する機能がなく、それらの調査を担う別の部門もないことが課題でした。特許情報に技術情報と市場情報を組み合わせて全体を俯瞰したいシーンにおいて、必要な情報を必要なときに必要な場所で得られるのがスピーダです。まず知的財産部でスピーダを活用した調査を実践すれば、”攻めの知財活動”が社内に広がるのではないかと考え、その足掛かりとして2020年6月にスピーダの導入を決断しました。グローバルでの競争力を高めるには、IPランドスケープを進めなければと考えていました。事業情報を把握することで知財活動がより良くなるという確信があり、”調査するとこんなことがわかった”という体験を少しずつ広げる過程で、新しい発見や活動につながるのではという期待がありました。

スピーダ R&D分析をコミュニティメンバーに使用してもらう上で工夫した点を教えてください。

北島様:スピーダ R&D分析は技術投資動向・市場構造変化・先行事例などの情報が体系化されており、技術領域の機能が充実しています。最初から全ての機能を活用しようとせずに、まずは、”検索窓にキーワードを入力した後、タブをクリックしていくだけでどのような情報を得ることができるか”というポイントに絞り、実際にどのような情報が得られるのかを企業と市場の観点、技術動向から共有しました。スピーダ R&D分析は時間の効率化だけではなく、これまで知る機会がなかった情報に触れる体験に価値があると感じています。新たな観点から競合を調査するなど、新しい視点が広がることが伝わるよう工夫を凝らしました。

※スピーダ R&D分析 特許動向「ロボットx工場・FA」より、「半導体」の絞り込み結果の抜粋

インテリジェンスコミュニティでの*スピーダ 経済情報リサーチからスピーダ R&D分析に切り替えて実感した価値ついて、お聞かせください。

*日本ゼオン様は導入時スピーダ 経済情報リサーチをご利用いただいておりましたが、スピーダ R&D分析リリース後に切り替えてご利用いただいております。

野村様:スピーダ R&D分析は、スピーダ 経済情報リサーチ従来の機能に加えて、R&D領域に特化したオプション機能を活用できることが特徴です。従来の特許情報に論文や科研費の情報、研究者の簡易プロフィールなどが追加されたものだと捉えています。スピーダ R&D分析では、市場情報だけではなく技術観点でも、全体を俯瞰できることに大きな価値を感じています。IPランドスケープには未来の観点が重要です。従来の特許調査とは異なり、未来について何が言えるのかが問われています。論文から大学や研究機関の最新の技術情報を俯瞰でき、大企業の特許情報からワンストップで全体の技術の変遷を俯瞰できます。また、科研費やスタートアップの情報から、将来の成長予測を描いていくことは、IPランドスケープとして重要です。

※スピーダ R&D分析「技術ライフサイクル分析」機能の抜粋

スピーダ R&D分析の活用を通じて実現できたことについて、お聞かせください。

小松様:研究員の探索活動のサポートをする中で、スピーダ R&D分析は調査から顧客紹介まで活用できることを知りました。事業開発活動としては、より良いビジネス鉱脈探しや社会的課題に応えていくことも重要です。そこで、石油化学から脱却・原料転換として、藻類バイオマスに着目しました。藻類はたんぱく質も油も採れる上、生産性も高いことで知られています。これまでは、藻類バイオマスへの期待感を話題にすることはあっても、研究テーマとして掲げ、行動を起こすことは、なかなかできませんでした。経営層に自社の新たな方向性について説得するための材料を揃えるハードルが高かったからです。

ところが、スピーダ R&D分析を活用すれば、藻類を具体的に事業化している企業のリストアップから、そのプレイヤーごとの技術動向や最新ニュース、投資動向や業績傾向などの特徴まで、一定の情報を構造的かつ多面的に自分の力で収集し、不足している情報を効率よく補完できると気づきました。

実際に何をするかを考える上でも、研究者情報を参考に他社の藻類バイオのスペシャリストと協力すればよい、というヒントも得ることができます。バイオマス全体の俯瞰情報は、スピーダ R&D分析から技術動向を確認しますが、藻類に絞った情報では、特許も含め複数のツールで調査します。このように俯瞰情報と視野を絞った情報を組み合わせることで、全体のポテンシャルがある中での藻類の強みが見えてきます。提案の際には、他社の強みを紹介した上で、どの企業と共創し、どういった提供価値を目指すのかを伝えます。これらを経営層に提案した結果、サポートする側ではなく、私自身が主体となって、自社での利活用に向けて活動することになりました。

具体的には、2021年6月から藻を基盤とした社会をつくり出す”MATSURIプロジェクト”に法人パートナーとして参画し、藻類の光合成で得られるバイオマス資源を活用した事業展開を通じ、カーボンネガティブになり得る藻類を基としたビジネスの創出に取り組んでいます。(参考:https://www.zeon.co.jp/news/assets/pdf/230327.pdf

自社の専門領域以外にも目を向け、将来進むべき方向を探索する

成果創出におけるスピーダ R&D分析の評価について、お聞かせください。

小松様:私がスピーダ R&D分析に価値を感じる点は、これまでなかなかできなかった”新しいテーマへも一歩踏み出す”ことを後押ししてくれるところです。研究テーマの探索活動のサポートに留まらず、自社が進むべき方向を積極的に提案し続けることは重要です。そういった事業提案につながる活動を可能にする存在がスピーダ R&D分析です。従来の探索活動では”自社の強みとは何か”が前提にあり、強みを活かすテーマ探索が中心でした。

他方、社会的課題の解決に目を向けたとき、ターゲットを新たなビジネス鉱脈に設定した可能性の探索も今後は重要になっていくと考えています。この考えを実践するにも、知見のない分野では何から始めればよいのかが見えないでしょう。そんなときに、スピーダ R&D分析を活用すると、技術動向や業界動向から主要なプレイヤーや各社の取り組みが概観できます。特許からの情報収集では、特許に記載されている専門的な内容を理解することの難しさがありますが、スピーダ R&D分析の技術レポートは、専門性が高すぎず、研究者以外も理解しやすいため、精通してない分野の情報を得るには最適です。

今後の展望について、教えてください。

清水様:IPランドスケープは、少数の知的財産部員だけではなく、研究員や事業開発関係者を含めた全員が実践している状態を創りたいと考えています。そのためには調査・分析ツールの整備をしていくことも重要です。”まずやってみよう”という考え方から広げていきたいと思います。

日本ゼオン株式会社

www.zeon.co.jp/
  • 特色

    日本で初めて合成ゴムの量産に成功するなど、独創的な技術力で発展した化学メーカー。 特殊合成ゴムや高機能樹脂は世界トップクラスのシェアを誇り、私たちの生活になくてはならない材料となっている。

  • 業種

    素材・化学

  • 部署・職種

    知的財産

  • 企業規模

    1000〜4999人

  • 主な利用シーン

    IPランドスケープ・知財戦略、事業開発/新規事業開発

  • 日本ゼオン株式会社

    知的財産部長 

    清水宏祐様

  • 日本ゼオン株式会社

    知的財産部IPランドスケープグループ長

    野村亮介様

  • 日本ゼオン株式会社

    知的財産部

    後藤伸幸様

  • 日本ゼオン株式会社

    知的財産部

    北島瑶子様

  • 日本ゼオン株式会社

    総合開発センターカーボンニュートラル研究開発推進室

    小松正明様