総合化学メーカーの知的財産部門における活用

「SPEEDAの活用も通じて、経営層や事業部とのIPランドスケープ推進を加速しています。」

旭化成株式会社

旭化成株式会社 知的財産部の皆様

IPランドスケープにおいて、知財と事業との橋渡し役としてSPEEDAを活用

旭化成株式会社では、2019年度からスタートした新中期経営計画においてデジタルトランスフォーメーションによる事業高度化アクション計画の一つに、IPランドスケープが導入されました。

IPランドスケープというのは、「経営の意思決定に知財情報を資すること」を称します。これは特段新しい発想ではなく、電気機器メーカーのDyson(ダイソン)や製薬企業のGSK(グラクソ・スミスクライン)等を始め、知財先進の欧米企業や外部専門家の間では10年以上前から当たり前に使われている思想です。

これまでモノづくりのための特許戦略が中心だった日本企業においても、改めて日本の競争戦略の一つとして定着させるべく、2017年頃から急速に広がり始めました。旭化成においてIPランドスケープの活性化に取り組むのは、昨年、研究・開発本部の知的財産部内に新たに組織された知財戦略室です。SPEEDAは本室において、事業戦略推進の一環としてご活用いただいています。

今回は、知的財産部長 中村様、知財戦略室チームリーダー 和田様、佐川様、宮城様の4名にお話を伺いました。前半は中村様から旭化成が考える「IPランドスケープ」とは何か、経営層に受け入れられるべきIPランドスケープの本質とは何か、について、後半では実務面を中心に担当される3名から旭化成のIPランドスケープにおいてSPEEDAの導入事例について語っていただきます。


【サマリー】

  • IPランドスケープとは「経営判断に繋がるような知財情報を、経営層に資すること」
  • 事業部との議論における事前リサーチから、都度市場のファクトを確認する過程まで、SPEEDAを幅広く使用
  • 知財人材の重要スキルである質問力や課題設定力、シナリオ構築力のレベル向上にもSPEEDAが貢献

 

「経営が活性化するような気付きに繋がる情報を“そっと”提供したい」知財戦略室が担うIPランドスケープにおける役割

旭化成が取り組む「IPランドスケープ」について簡単にご説明をお願いします。

中村様:我々は、「経営判断に繋がるような知財情報を、経営層に資すること」を目的としてIPランドスケープに取り組んでいます。

研究・開発本部 知的財産部長 プリンシパルエキスパート 中村栄様

旭化成のIPランドスケープ実践におけるフローは以下です。旭化成が持つ事業ポートフォリオも含め、徹底した競合との情報比較から自社が優位な位置付けにある点を示し、経営層への報告まで何度も事業部と打ち合わせを重ねながらレポートを作成していきます。この議論における事前リサーチから、都度市場のファクトを確認する過程まで、SPEEDAを幅広く使用しています。


(旭化成におけるIPランドスケープ実務フロー 提供:旭化成)

このプロセスにおいて我々が意識しているのは、「徹底した情報解析や技術分析を通じて、各事業部の考えや思いを発言として引き出すこと」「経営または事業判断が活性化するような気付きに繋がる情報を、黒子として“そっと”事業部にお渡しすること」です。

事業部との議論を重ねるメリットはどのような点にあるのでしょうか。

中村様:事業部がもつ情報と特許解析から見えた結果を相照らしながら、より解析精度を高める点です。これは事業・知財、両担当者がそれぞれの内容について理解を深めながら議論を重ねるからこそ可能となります。

またこのレポートは、最終的に事業本部長にまで報告し、コメントを得るようにしています。その結果として、事業部の企画担当者はもちろん、そのトップの考えや思いが反映されたレポートが完成するのです。

このような背景から、我々の目的が単に知財に関する報告書を作るだけではないとおわかり頂けるのではないでしょうか。大事なのは「Report to」の精神です。レポートを提出しただけで終わりではなく、このレポートをどのようにして事業部の次の行動へつなげてもらうかも含め、担当者を支援していきます。IPランドスケープを通じて、Report toを意識した経営の活性化に繋がるような取り組みを全社的に実現しているところに当社IPランドスケープの強みがあると感じています。

 


経営層が“脳内に描く未来像”をより具体的に – 事業と知財の両面を繋いだ提案

2019年中期経営計画にIPランドスケープが採用された背景には、やはり知財戦略室の皆様のアプローチがあったのでしょうか。


中村様:決して我々が強く採用を求めた訳ではありません。経営層がIPランドスケープの必要性を理解し、全社的活動として推進すべしという意思の表れなのだと思います。

もちろん採用に至るまで、我々は役員会議・事業本部会議などを中心に何度もIPランドスケープに関する説明を行ってきました。


(トップダウンによる展開 提供:旭化成)

経営層にIPランドスケープを受け入れてもらえたのは、経営層の頭の中にある現業と融合させた時のイメージや事業化に向けたシナリオをご理解頂けたからこそだと思います。

経営層を始め、事業を預かる人々は、常に自身の領域における将来像を考えています。だからこそ、経営・事業(市場・顧客サイド)と知財(技術サイド)の両面を繋げて、戦略をより具体化させるような示唆・論点を示すことにより、彼らの脳内に広がっていた経営層のイメージを刺激することができるのだと思います。

「IPランドスケープ」という言葉が一般に浸透してきたことで、興味を持つ知財関係者が増加する一方、様々な解釈をされているようにも感じます。中村様から見て、その辺りはいかがでしょうか。

中村様:IPランドスケープという言葉が業界で幅広い受け止められ方をしているように感じています。「経営層に知財情報を提供すること」が一義的な定義とされていますが、同時にこれは一面的な見方だとも思います。
特に、各社の特許情報を調査・整理し、特許マップとしてビジュアル化することがIPランドスケープと捉えている方もいるようですが、これは違うと思います。

IPランドスケープというのは、突き詰めて言えば「経営や事業判断において、実際に知財が役立っていること」だと私は思います。例えば、経営陣に知財部の方がいらっしゃる企業様においては、当然のごとく経営会議の場で事業と知財が一体として議論されているでしょう。これもまたIPランドスケープそのものです。おそらくそういった企業様では、昨今のIPランドスケープの盛り上がりを今更感をもって見ておられるかもしれませんね。このレベルが企業として当たり前になることが大切なのです。つまり経営の意思決定に知財情報が普通に活用され、事業の進化や変革が実現されている姿こそ、IPランドスケープそのものなのではないでしょうか。

 


IPランドスケープは1日にしてならず――旭化成における20年の積み重ね

IPランドスケープの社内実現を考えるも、「最初の一歩の踏み出し方」「プロセスの歩み方」に悩まれている方は多いと思います。ぜひ、中村様がここまで実現できた背景を伺えますか。

中村様:「企業において、知財情報を戦略的に活用することとは何か」を意識した行動を続けてきたからです。これは私の命題でもあります。

20年前、当社の知的財産部の中に調査強化を目的とした情報調査セクションが発足し、そのコアメンバーとして召集されたことで、私はこの世界に入りました。

活動を通して疑問に思ったのが、「各部署の特許調査における取り組み」です。最初にすべての技術開発部署をヒアリングして判ったのが、調査の結果を上手に活用できていなかったり、自分たちがなぜ調査をしているのかすらよく分からなかったりする状況…。せっかくの知財情報が生かされていない現状に、行動を起こそうと決めました。

これまでされた取り組みについて教えていただけますか。

中村様:特許情報調査結果の有効活用として「戦略データベース(SDB)」の全社普及など様々な取り組みを行いましたが、「特許マップ、知財解析」については、当時の解析ツールは現在のレベルには程遠いものであったことや、我々のスキルも非常に稚拙なものであったため、周囲からその必要性に関する理解が得られませんでした。


(2000年代の特許マップブーム 提供:旭化成)

「こういった知財解析が将来必要になる日が来る」と思い、その後は水面下で解析のシナリオ構築に向けた勉強を行なってきました。そして昨今のIPランドスケープのブームが来た時、「今しかない、千載一遇のチャンス」と判断し、上層部へのアプローチを行ったのです。当時の副社長が「知財の見える化」に関心を持っていたことも大きかったです。

各種解析ツールの進化ももちろんですし、SPEEDAのような新しい切り口のツールの台頭も、活動の加速に一役買ったのだと思います。

IPランドスケープを経営層に受け入れてもらうには、彼らの心に刺さるストーリーを持った解析結果を出していかないといけません。このストーリーを組み立てる能力は一朝一夕に獲得することはできません。まさにローマは1日にしてならずです。

中村様が思う、経営層の心を掴めた理由はなんだと思いますか。

中村様:現場や経営層の心を掴むためのアプローチを工夫したことです。「何が事業に携わる人たちの心を打つのか」を彼らの視点で考え、伝えたからだと思います。

我々はIPランドスケープを進めるにあたり、「事業を優位に導くために」「新事業創出のために」「事業判断のために」という3つの目的を打ち出しました。

この目的の設定にはメンバー間で相当話し合いを重ね、時間もかけました。IPランドスケープの目的が明確になっていないと実際に行う解析も茫洋としたものとなり、受け手の心を打つことはありません。


(IPランドスケープの目的の明確化 提供:旭化成)

最初に我々が重点的に取り組むことにしたのは「現在の事業を強くするために、知財情報がどのように活用できるか」です。この点を経営層にも強く訴えました。これが具体的なイメージをもって事業部・経営層の心を引き付け、受け入れられたのではないでしょうか。

SPEEDAを各事業部との目線合わせに活用

ここからは、実務面について和田様、佐川様、宮城様からお話を伺いたいと思います。早速ですが、知財戦略室について教えていただけますか。

和田様:私たちのミッションは「IPランドスケープを全社的に実行・遂行し、旭化成に定着させていくこと」です。本室は各事業部からのエントリーを受け、事業担当者と連携しながら知財情報を経営に資するところまでを目的に活動します。今年で設立2年目に入り、現在約10名の室員が活動中です。

知財戦略室 リーダー  和田玲子様

どのようなきっかけでSPEEDAの導入に至りましたか。

宮城様:導入のきっかけは、既に導入されている部署の担当者から評判を耳にしたことです。「業界が俯瞰しやすい」「網羅的に内容をすぐに理解できる」などの強みも後押しとなりました。SPEEDAは560以上の独自業界分類に基づくグローバルな国別のアナリストレポートを持つことから、旭化成のように広い事業領域において細かいセグメントで商材を扱っている企業でも、欲しいデータをすぐにピックアップできます。

※SPEEDA収録のアナリストレポートの一例。(上図は「総合化学」レポートの一部)各業界ごとの概況・市場環境・競争環境を俯瞰的に把握できる。

導入前に課題として感じられていたのは、どのような点でしょう。

和田様「事業部の方たちとの目線合わせ」です。当たり前ながら、事業部と知財部の持っている情報は、それぞれの事業や専門性に偏りがあります。だからこそ、もし私たちの方から事業目線で特許の話を提供できるのであれば、事業部の皆さんに特許情報をビジネスに繋げてイメージしてもらいやすくなると考えたのです。

佐川様:私たち知財の人間は、事業を支援する側の人材です。ただ、各事業の内容について詳しく理解できているわけではありません。ここで問題となるのが、事業部の方は私たちが何を知らないかが分からないということです。だからこそ、こちらから目線を合わせるきっかけとなるツールの存在が求められていました。

 

「準備時間の短縮」「調査の時短」――少数精鋭部隊の仕事を支えるSPEEDA

SPEEDAを使っていく中で、どのような点に価値を感じられますか。

和田様:私が一番価値を感じるのは、「日本語で世界中の業界情報がコンパクトにまとまっている点」です。我々は約10名という少人数で、多様な事業を扱う旭化成において、IPランドスケープに関する相談を一手に引き受けています。

相談者毎に毎回事業内容が異なることからも、事前リサーチにSPEEDAは欠かせません。それこそ、相談領域の内容から関連領域までを、網羅的に短時間で把握することができるのはSPEEDAのお陰です

スピーディーに打ち合わせ本題に入れることはもちろん、事業部の方からより詳しい内容を引き出すための事前予習にも欠かせません。

佐川様:他部署にいた時からSPEEDAを使っていましたが、各社のIR情報リサーチ時間が、肌感覚では10倍以上短縮された印象です。

IPランドスケープを考える場面においては、領域を超えた調査が不可欠です。それは既存のビジネスモデルやモノづくりの枠組みを超えた発想が、求められているからです。この中で私たちが知らない領域や事業が出てきた場合でも、その業界を速やかに把握できるようになりました。

知財戦略室 課長  AIPE認定 シニア知的財産アナリスト(特許)佐川穣様

宮城様:和田の話にもありましたが、私たちは主に特許を扱うことが多いため、それだけしか見ていないと事業部の方と話す時に断片的な情報で会話することになってしまいます。

だからこそ、SPEEDAを通してビジネス市場やプレイヤーなどを併せて理解できることに価値を感じます。これによって、知財面とビジネス面の両輪をより早く回転させながら、案件に望むことができるからです。

ネット検索に引っかからないような情報もSPEEDAで確保

SPEEDAを活用した事例について教えていただけませんでしょうか。

宮城様:例えばある事業部からの相談で、「事業変革期を迎えた商材において、今後どのような検討が必要になるか」を調べていた時のことです。リサーチ先が中国のマイナー企業だったため、IR情報などがネットリサーチから得られずに困っていました。

しかしSPEEDAを使うと、ネットに出てこないようなマイナーな中国企業の情報でも、あっという間に発見できたのです。事業部側では意識していない企業だったため、この報告きっかけに新たな議論へ入ることができました。

知財戦略室 係長  弁理士  AIPE認定 知的財産アナリスト(特許) 宮城康史様

これまでの事例を通して、「もしSPEEDAを使っていたら…」と思うような場面はありますか。

和田様:多々あると思います。例えば、中村が過去に研究テーマとして取り上げた「化粧品業界新規参入F社の知財戦略を探る」では、実際の企業の知財状況を明確にすることによって,自らが異業種に参入する場合、どのような知財戦略を取るべきかについて探ろうというのがテーマでした。

このような場面でもしSPEEDAを活用していたとすれば、競合分析の迅速化を始め、多領域も含めより網羅的に検討できるのではないでしょうか。また、技術的観点という切り口においても、違った視点からの気付きがあったかもしれません。

佐川様:本話題に関連してですが、私たちは知財の仕事において「虫の目・鳥の目・魚の目」のように、様々な異なった視点から、事業・商材を検討・分析します。もし仮に昔からSPEEDAがあったとしたら、異なる視点に気づくことができたかもしれません。

「えぐり出すような質問力」から問題解決を目指す

今後、SPEEDAを活用して実現したいことをお聞かせください。

和田様:相手の真意を「えぐり出すような質問力」を養うことです。最初に中村から話がありました通り、私たちの価値は「経営層や事業部に対して、事業の気付きに繋がる問いを黒子として投げかけること」にあります。
さらに、課題設定力やシナリオ構築力も求められます。これらはIPランドスケープを担当する知財人材のスキルレベルにおいて、一人前のアナリストとして重要な要素です。

これら、質問力、課題設定力、シナリオ構築力のレベルを上げていくためには、前提となる事業領域の理解がかかせず、コンパクトに情報取集ができるSPEEDAの出番となります。

最後に中村様から、IPランドスケープにおける将来像についてコメントをいただけませんでしょうか。

中村様:IPランドスケープというのは、あくまでも経営層や事業部メンバーと、知財も含めた総合戦略を企画するためのコミュニケーションツールです。主体は事業部側にあり、知財の我々は、間接部門として後方からサポートしています。

IPランドスケープを担う機能が間接部門である知的財産部の中にあるべきか、というところは私にもまだ判りません。将来的には知的財産部から離れて主体的に情報戦略を担う未来が、もしかしたらあるかもしれません。ただし、今は各事業部からの相談毎に質の高い議論と意思決定の創発を通じて存在感を高めていき、我々のIPランドスケープ活動を全社に定着させることに尽力していきたいと思います。我々のIPランドスケープがどのような進化をとげていくのか、正解がない世界だけに楽しみです。

 

【参考論文】
中村栄 特許情報解析のプロセスと有効な活用PAT-LIST研究会アドバイザー活動を通しての考察 情報管理 2012 年 55 巻 4 号 p. 229-240
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/55/4/55_229/_article/-char/ja/
中村栄 研究開発における開発ターゲット設定のための特許情報活用(<特集>特許情報の分析・活用) 情報管理2010 年 60 巻 8 号 p. 319-325
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/60/8/60_KJ00006543516/_article/-char/ja/
嶌谷 芳彦, 中村 栄, 米田 晴幸 特許情報の戦略的活用について~旭化成における戦略データベースの構築とその活用~ 情報管理2008 年 51 巻 7 号 p. 457-468
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/51/7/51_7_457/_article/-char/ja/
和田 玲子 企業における知財アナリストのキャリアパス~IPランドスケープの実施のために~ 情報の科学と技術 2019 年 69 巻 1 号 p. 16-21
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/69/1/69_16/_article/-char/ja/

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2019.8 インタビュー

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