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#経営企画 2023/3/10更新

セミナーレポート 海外展開の課題を乗り越える グローバル戦略のリアル

海外展開の課題を乗り越える グローバル戦略のリアル 海外展開の課題を乗り越える グローバル戦略のリアル

2022. 3.30 WED / 株式会社ユーザベースが主催するH2H(Home to Home)セミナー「海外展開の課題を乗り越えるグローバル戦略のリアル」が開催されました。業界の垣根を超えたテクノロジー企業の市場参入や新興企業の台頭など、グローバルでの競争環境は目まぐるしく変化しています。日本企業が国際競争力を高め、グローバルで成長戦略を描くためには何が必要なのでしょうか。

今回はグローバル変革を牽引する、NECグローバルファイナンス本部長(4月1日より執行役員)青山朝子氏と株式会社日立製作所インダストリー事業統括本部 事業戦略統括本部 経営企画部部長(4月1日よりコネクティブインダストリーズ事業統括本部 事業戦略統括本部 経営戦略本部長)ハジャティ史織氏のお二人と、モデレーターに株式会社インテグリティ代表 田中慎一氏をお招きし、日本企業の強みやグローバル企業として成功するためのルールづくりについて伺いました。

Speaker

青山 朝子 氏

青山 朝子 氏

NEC
グローバルファイナンス本部長

NECのグローバルビジネスユニットのCFOとして、グローバル部門と海外拠点・子会社のCFOを統括している。NECに入社する前は、日本のコカ・コーラビジネスにて、ボトラーの再編をリードした。2004年に日本コカ・コーラに入社。2011年に東京コカ・コーラボトリング(現 コカ・コーラ ボトラーズジャパン)の取締役兼CFOとしてファイナンス全般を統括し、日本のコカ・コーラビジネスにおいて初の女性取締役として活躍。二度の上場企業のM&Aと統合を通じ、 会計・財務・戦略の専門家として、伝統的な経理組織をグローバル標準のファイナンス組織へと変革した。コカ・コーラ入社前は、監査法人トーマツにおいて監査業務、メリルリンチ日本証券投資銀行部門にてM&Aアドバイザリー業務に従事。太陽ホールディングス株式会社社外取締役。企業会計審議会臨時委員。既婚。二児の母。

ハジャティ 史織 氏

ハジャティ 史織 氏

株式会社日立製作所
インダストリー事業統括本部
事業戦略統括本部 経営企画部 部長

1994年、東京大学法学部卒業後、日立製作所に入社、海外事業推進部門において事業開発・交渉業務を担当。 2000年、米国UCLAアンダーソンスクールにてMBAを取得。2001年、外資系スタートアップ入社、当時まだ普及していなかった動画ネット配信の事業開発に携わる。2003年、日本マイクロソフト株式会社入社、ファイナンス部門を経て、エンタテイメント部門の事業開発、経営企画業務に従事。2011年、日立製作所に再び入社、国内外のM&A、事業再編の実行業務を担当、数々の案件に携わる。現在は日立製作所のインダストリー部門を統括する組織の経営企画部長として経営戦略策定に携わる傍ら、 M&A等、事業開発業務にも従事。趣味は最近始めたばかりのゴルフ。イラン人男性と結婚、1男1女の母。

田中 慎一 氏

田中 慎一 氏

京セラ株式会社
株式会社インテグリティ 代表

慶応義塾大学経済学部卒業後、あずさ監査法人、大和証券SMBC、UBS証券等を経て現職。 監査法人、投資銀行を通じて会計監査、IPO支援、デューデリジェンス、M&A・事業再生・資金調達に関するアドバイザリー サービスに従事。現在は、アドバイザリーサービスに加えて、スタートアップ企業のCFO、買収後の企業変革を推進するターンアラウンドに取り組む。 著書に『コーポレートファイナンス戦略と実践』『役員になれる人の「日経新聞」読み方の流儀』『あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座』『M&A時代 企業価値のホントの考え方』『投資事業組合とは何か』等がある。趣味はトライアスロンで、ヨーロッパのIRONMAN をすべて完走するのが目標。

今、お二人が取り組む挑戦とは

1.収益構造の改革を推進(NEC)

田中慎一 氏(以下、田中):まずは青山さんがNECで担う役割と現在の取り組みについて教えてください。

青山朝子 氏(以下、青山):五大陸にわたる約40社の海外子会社のファイナンス組織と、それを支えるグローバルファイナンスチームを統括しています。私はグローバルビジネスユニットのCFOということで、今日は数字の話からスタートさせていただきます。

NECは2000年に過去最高の売上を記録していますが、当時安定的に利益は出せていませんでした。その後、収益構造の改善や実行力の改革を行い、2019年度と2020年度には過去最高益を連続で達成しています。 我々はその長期利益の最大化と短期利益の最適化のために、ポートフォリオを見直したり成長事業に思いきり投資したりして制度や仕組みを整えています。

私が2020年1月にNECに入社してまず行なったのはアセスメントです。事業ポートフォリオ、財務、制度・プロセス、能力・カルチャーの面からアセスメントを行い、課題を抽出してプライオリティ領域を特定しました。

海外子会社のガバナンスとパートナーシップの強化にフォーカスして、5つのアクションを打っています。変革というと利益を見がちですが、そうではなくキャッシュがきちんとリターンを生み出し、企業価値の創造につながるところにアクションしていくことが大切です。

田中:青山さんのキャリアは、まさに変革が大きなテーマですよね。

青山:そうですね。私は監査法人で会計士をした後、投資銀行でM&Aを担当しました。コカ・コーラ社ではボトラーを統合しながら事業再編に取り組みましたが、変革を行うなかで大事なことを3つ学びました。

1つ目はみんなで同じビジョンを持つこと。

2つ目は優秀な人を集め、勝つチームを作ること。

3つ目はコミュニケーションです。

グローバルで勝つには「あうんの呼吸」は成立しません。何をやってほしいのか、どうしたらいいのかを言葉にして議論し尽くすことが重要です。そのため、NECのグローバルファイナンスチームでは日本から指示を出すだけではなく、海外のオポチュニティに対して自ら意思表示できる仕組みをつくろうとしています。

2.プロダクト× OT× ITで新たな価値を創出(日立)

田中:続いて、ハジャティさんが日立製作所で担う役割と取り組みについて教えてください。

ジャティ史織 氏(以下、ハジャティ)日立のインダストリーセクターで、経営戦略策定やM&Aを含む事業開発業務を担当しています。

製造・サービス流通業の法人向け事業を統括しているインダストリーセクターは、デジタルソリューション事業を担うビジネスユニットと、ユーティリティを基軸としたソリューション事業を担うビジネスユニット、分社化したプロダクト事業を合わせた4つの事業体で構成されています。

産業機器などのプロダクト、機械の制御や監視などを行うオペレーションテクノロジー(OT)、IT技術、製造機器などのプロダクトを併せ持つ強みを発揮して「プロダクト× OT×IT」によるバリューを出すことを推進しています。

そのなかでも特徴的なのが、ロボットを活用して現場の自動化ニーズに応えるロボティクスSI事業です。

ここがグローバル展開における重要なカギになると思っており、その大きな打ち手が2019年に行ったロボティクスSI大手の米 JRオートメーション社の買収です。ロボティクスSI事業を核としたデジタルソリューションの提供を実現して、日立の価値向上につなげていきたいと考えています。

田中:日立は連結子会社が1000社近くあります。組織図を拝見して、全体像の把握は容易ではないと改めて思います。

ハジャティ:デジタル事業をグローバルで加速するために、事業ポートフォリオをかなり整理しています。この4月から私どものセクターも再編成され、エレベーターなどの昇降機をはじめとするビルシステムや家電、ヘルスケア機器、産業機器などのプロダクト事業とソリューション事業で構成されるコネクティブインダストリーズというセクターに変わります。

さらにプロダクトの幅が広がり「プロダクト×OT×IT」を体現する、日立を凝縮したような組織になる予定です。

青山:今朝ちょうど、東原会長が事業売却について語られているNewsPicksの記事を拝見しました。事業ポートフォリオの入れ替えで大切なのは、利益だけを見るのではなく自社の方向性と合致しているかどうか。そして、バランスシートに着目してLight(軽い)とRight(適切な)アセットを両方見て判断するというお話にとても共感しました。

グローバルで事業成長を実現させるための日本企業の強みとは

1.日本企業としての魅力

田中日本企業の強みについて伺う前に、グローバルにおける日本企業の立ち位置を見てみます。

例えばサムスン電子を取り上げてみると、国内電機メーカー大手8社が束になっても2021年12月末までの直近12か月の当期利益合計はサムスン電子1 社に対して66%、時価総額(2022年3月29日時点)は77%にしか届きません。こうしたグローバル企業と日本企業の差としては、意思決定のスピード感とコミットメント力があると感じています。

例えば事業に関する提案を行う場でも、多くの日本企業が検討のために一度持ち帰る(大概なんの返事もないことが多い)ところ、サムスン電子はその場でやるかやらないか判断します。そして、やると決まったら2回目のミーティングで誰が何を担当するかを時間軸とセットで明確にし、最初の会議で多くの意思決定がなされ新規プロジェクトが直ちに動き出します。

また、今年のラスベガスでの家電見本市(CES)にも出展していましたが、日本企業の多くが出展を見合わせるなか、権限と責任を託された若い社員が中心となり商談をしていたのが印象的でした。サステナビリティやESGの関心が高まる中、次世代に意思決定権限を譲渡できるか、というのも大切な視点になってくると思います。

一方で、お二人や東芝の島田社長のように外資企業で活躍していた方たちが日本企業の中枢に入り、主要なポジションでさらに活躍されている状況も面白いなと感じますし、最近増えてきたこのような動きを非常にポジティブに捉えています。お二人が入社される前に感じたNECと日立の魅力や、日本企業や経済を変えていけると感じたポイント、インサイトがあればお聞かせください。

青山NECは技術があり、堅実な会社というイメージを持ちつつも、「もったいない」と思っていたのも事実です。強い技術と真面目な社員を持つのに、なぜ世界で勝てないのかと。東芝の島田社長と同様、私の上司であるグローバルビジネスユニット長の熊谷もGEで日本やアジアパシフィックの社長を長らく務めた後、NECに入社しました。「世界で勝ちたい」という想いは彼も私も全く同じで、それがモチベーションでもあります。

ハジャティ:私は一度退職して戻ってきました。日立を離れている間に外資系スタートアップと日本マイクロソフトで ITの世界を経験するうちに、ITはリアルの世界をつないでこそ価値が発揮できるのではと考えるようになりました。

次のキャリアを探そうと思ったときに、それがいちばん実現できるのは日立ではないかと。お客様のニーズに対してどのような技術や製品を使ってソリューションを構築するかということを、長い期間リアルの場で培ってきたドメインナレッジが日立にはあります。それが強みだと思い再入社しました。

マイヒーローである元会長の中西も「日立をグローバルなメジャープレーヤーにする」というビジョンを掲げていました。メジャープレーヤーになりつつあるという自負を持ってやっていきたいですね。

田中:ハジャティさんは IT×リアルの分野では日立こそがやはり面白いと感じられたのですね。2011年に戻られてからも、その信念は揺るがないですか?

ジャテはい。多くのM&Aの実行業務を担当させてもらいましたが、サルエアー社とJRオートメーション社の買収により、まずは北米にしっかりと事業基盤を築けました。それら一連のプロジェクトに対して副社長の青木や経営陣が目を輝かせて事業を語るんです。一緒にビジョンを実現させたいという強い想いを感じます。

2. コングロマリットのメリット

賀:ここで視聴者の方からのご質問を取り上げたいと思います。NECはグローバルを一つのユニットとしてコングロマリットの形を取られていると思いますが、コングロマリットのメリットをどのように考えますか?

青山私はMBAと投資銀行時代に「コングロマリットにメリットはない」と教わってきました。コカ・コーラの場合はノンアルコール清涼飲料しかやらないという方針があり、 NEC とは対極にあるわけですが、どちらも経験して感じたことは、コングロマリットは各事業がちゃんと社会に貢献できているかを見ることが大切だということです。

数多く事業を持つと、確かに芽吹いたときに掴みとれるかもしれませんが力が分散されます。リソースを集中しながら自分たちの強みを一番発揮できる体制をつくろうと、我々もまさに「組織の大括り化」を行っているところです。

ハジャティ: 日立も小さな事業体は多いですが単にたくさん持てばいいわけではなく、それぞれの技術の可能性や有用性をしっかり見ながら判断して、コングロマリット・プレミアムにつなげていくことが重要だと思っています。

志賀:ありがとうございます。体制を変えるにしても労力がかかります。それを素早く実践するには何が大事でしょうか?

青山:ポートフォリオは高速で入れ替えていかないと会社として生き残れません。しかし都度会社や事業を閉じてマーケットから撤退となると工数やコストもかかります。ベースとなるものは共通化して、その上で再編成していくことがカギです。経営プロセスとシステムを統合して高速回転できる仕組みを作っていきたいですし、NECはそこに勝機があると信じています。

3. グローバル展開する上でのガバナンス

志賀:もう1件質問を取り上げさせていただきます。「日本はルールを守るのは強いが、作ることは弱いと言われています。この状況を改善するには何が必要だとお考えですか?」というご質問ですが、日本の本社と海外子会社のガバナンスをどう効果的に行っているかについてお聞かせ願えますか。

ジャテ現地のリーダーを尊重しようというビリーフのもと、現地に投げてしまうケースが多い気がします。私はビジネスに対しての信念は万国共通だと思っており、全て任せたりこちらが完全にコントロールしたりするのではなく、対話しながら進めることが大切だと考えています。

サルエアー社やJRオートメーション社のPMIでも、現地のマネジメントを信頼しつつ日立のスタッフをキーポジションに置いて我々のやり方を学んでもらい、事業体としてまとまるように進めました。

青山:弊社も様々な投資や出資を行なっていますが、マイノリティ投資よりもマジョリティ、しかも我々がコントロールを握っている投資のほうがリターンが高いという結論が出ています。たとえば昨年のアバロック社への投資など、大きな投資にはしっかりとPMIを行います。 本当にお任せではリターンは出ない、ということだと思います。

田中:その通りですね。どちらがイニシアティブをとるかは明確にしないといけませんが、強弱関係ではなく適材適所で人材を登用することが大事です。たとえば M&Aを繰り返しているルネサスエレクトロニクス社のマネジメントチームのメンバーは、買収した会社からも登用しているので実に多国籍です。

ギャラハー社を買収したJTも同様です。今はJTインターナショナルとしてスイスに本社を置き、そこが実質的なグローバルオペレーションを統括していますが、トップは買収されたギャラハーの幹部だった人物です。

青山:マイクロマネジメントではなく、現地に学ぶことが大事です。我々が買収してきた会社のCFOたちはとても優秀です。ベストプラクティスを学ぶつもりで相談をし、彼らが答えを持っているときはリードしてもらうこともあります。私は海外のCFOの18人とは毎月1on1を続けており、お互い助け合う関係になってきたと感じます。

賀:ハジャティさんはサルエアー社とJRオートメーション社の買収に携わられたということですが、それぞれに戦略的な違いはありますか?

ハジャティ:サルエアー社のケースでいうと、日立には既に空気圧縮事業で技術の強みもシェアもありましたので相互補完的な買収でした。かたや飛び地とも言われたJRオートメーション社の場合、先ほどお話しした通り「プロダクト×OT×IT」でお客様に価値を提供するための、ミッシングパーツを埋める戦略的な買収です。

ただ、M&Aはタイミングも影響します。JRオートメーション社はファンドに買収されて3 年目でして、まさに最適なタイミングで名前が上がってきました。弊社の戦略策定・ミッシングパーツの特定・アクショナビリティが合致して実現した案件でした。

お二人のご挑戦の現在地と今後の展望について

志賀:今の環境で実践されたいことは山ほどおありだと思いますが、今後の展望をぜひお聞かせください。

青山:4月1日から執行役員として、今の役割に加えてさらに 2 つのグローバル事業を部門長として統括します。CFOをやりながら事業も担うのは外資では考えられないアサインメントで「さすが日本企業、ふところが広い」と思いながら受け取りました。

新たに担当するのは、各国の通信用のネットワークを担う通信事業者に対して通信に必要な光やIPと呼ばれる機器やサービスを提供し、構築していくサービスプロバイダソリューション事業と、この部分が無線での通信網を構築するワイヤレスソリューション事業という、通信技術にかかわるこの2つの事業です。

グローバル5Gに注目が集まる一方、トラディショナルなネットワークのなかにも市場はまだあります。もともと高い技術を持っているので再定義し、利益をどう高めていくかにトライします。自分の信条である「社会価値を創造しながら、 NEC の企業価値も最大化していく」ことにチャレンジしていけるので、まずはここをしっかりやりきりたいです。

ハジャティ:ロボティクスSI事業のグローバル展開にあたり、地域を越えた一体運営がさらに求められます。それぞれの事業体も自分たちの事業を強化していくなかで、それらをつないでトータルバリューを出していく役割を担っていかなくてはいけません。

経営企画とM&Aという現場的な業務との両輪で進めていけるので非常にワクワクしています。4月1日からは経営企画部部長から経営戦略本部長にタイトルが変わって様々なファンクションに着手していきますので、組織内でも色々とつなげて戦略を作っていきたいと考えています。

田中:最後に、変革をすすめるなかで挫折した経験があれば教えていただけますか?どのように乗り越えたのかを聞けると視聴者の皆さんも勇気がもらえると思います。

青山:前職でIT 推進のプロジェクトリーダーを任されましたが、トラブルが山積みでした。そこで日夜部下に指示を飛ばしていたら、あるとき部下に呼ばれ「青山さんわかっていますか?あなたが問題なんです」と。細かく指示を出しすぎたのです。本当に大事なことに集中しないと変革は上手くいかないこと、そして部下の頑張りをきちんと認める大事さを学びました。

ハジャティ:日々細かい失敗だらけです。周囲の人たちに助けられて上手くいっていることばかりです。一つ言えるのは、人は失敗をあまり覚えていないということです。どんなに失敗しても、目的の達成を見ていれば先に進めると思います。

志賀:本日は貴重なお話をありがとうございました。