「専門性」だけではもう選ばれない。
NTTファシリティーズが挑む「価値をつなぐ営業」とは
株式会社NTTファシリティーズは2022年から「ソリューション営業」への転換を進めてきました。現在はさらにその先を見据えた「価値をつなぐ営業」へと役割を再定義し、実現のための組織変革を推進しています。建築・設備の専門家集団は、なぜ今自社の提供価値を根本から見直そうとするのか。変革を牽引したリーダー2名が、その全貌を語りました。
※本対談は2026年6月23日開催、『専門性だけでは、選ばれない時代“価値をつなぐ営業”を、いかに組織で実現するのか』セミナーを再構成したものです。
「お客様の要望に応える営業」の先へ
“外部環境のさらなる変化を受けて、もう一歩踏み込んだ営業の形が必要”
──まず、NTTファシリティーズの事業概要と、営業改革に至った背景を教えてください。
牛垣氏:NTTファシリティーズは、NTTグループの街づくり事業を統括するNTTアーバンソリューションズの傘下にある会社です。
建築・設備に関わる企画、設計、工事、維持管理というサービスを提供しており、NTTグループの施設1万棟に加え、グループ外のお客様を含めると1万4千棟の施設に関わってきました。
従来の私たちの営業スタイルは、あくまでお客様から求められたものに応えることが中心でした。例えば太陽光発電所を構築する、空調設備を更改する、あるいは「建物を設計してほしい」という依頼に応えるといった、技術やサービスそのものを提供する形が主流だったのです。
しかし、人手不足の深刻化や、AIによる業務変革など、外部環境が激しく変化する中で、これまでのように「お客様からご要望を受け、それに応える」では、お客様のビジネスに貢献し続けることが難しくなってきました。
私たちは、2022年からソリューション営業への転換を図り、さらにそこからもう一歩踏み込み、お客様の課題の構造全体を見渡す動きが必要だという認識に至りました。それが「価値をつなぐ営業」というコンセプトです。
お客様の経営戦略に伴走し「価値をつなぐ」営業スタイル
“お客様の経営目標を理解した上で、そこにソリューションを提案する発想への転換”
──「価値をつなぐ営業」とは、具体的にどういう意味でしょうか。
牛垣氏:例えばオフィスを作る案件で考えてみると、従来は「どんな空間にするか」というハード面の議論が中心でした。
しかし本来は、
・どんな働き方を実現したいか
・社員のウェルネスにどう寄与するか
・採用競争力の観点から会社の魅力をいかに高めるか
こうした経営課題と空間づくりをセットで議論する必要があります。
近年、お客様の抱える課題は複雑化しています。お客様自身も施設の専門家ではありませんし、社内のニーズを全て把握できているわけでもありません。そのため、お客様からの「こういうオフィスを作ってほしい」というオーダーに、ただ私たちの専門知識で応えるだけでは、本質的な経営課題の解決には至らないという限界がありました。そこで必要になったのが、私たちがお客様の経営目標を理解した上で、そこにソリューションを提案するという「発想の転換」です。
──つまり、専門知識を提供するだけで、顧客課題に応えられる時代は終わったということですね。
牛垣氏:そうです。プロジェクトが進む中では、目の前の要件整理や仕様の検討が中心となり、お客様自身も当初掲げていた経営課題や事業目的とのつながりが見えにくくなることもあります。だからこそ私たちは、ご要望に応えるだけでなく、その背景にある目的に立ち返り、お客様と一緒に整理しながら最適な解決策を考えていきます。それが、「価値をつなぐ営業」だと考えています。

営業・構築・運用を「一連の営業活動」と再定義する
“営業、構築、運用フェーズを「一連の営業活動」として捉え直したのが、今回の組織改革の出発点”
──組織の構造的な課題についても伺えますか。
牛垣氏:以前は営業、設計、工事、維持管理がそれぞれ独立した組織として動いており、どうしても部分最適に陥りがちでした。
例えばコンサルティングで中長期の整備計画を立てても、実際に設計・工事の段階になると計画通りにはなかなか進まないことがあります。建設費の高騰が続く昨今では、計画時の前提が短期間で崩れる可能性もある。そうした課題を解決するために、営業、構築、運用フェーズを「一連の営業活動」として捉え直したのが、今回の組織改革の出発点です。
変革を阻んだ「4つの壁」:分断、再現性、時間と能力、共創
“「時間と能力の壁」は仕組みとして解決しなければ先に進めない根本的な問題 ”
──変革を推進する中で、どのような障壁に直面しましたか。
牛垣氏:大きく4つの壁があったと振り返っています。
1つ目は「分断の壁」
各組織が部分最適に動いてきた慣性はそう簡単に変えることはできません。
2つ目は「再現性の壁」
成果が属人的で、優秀な営業担当者に依存している状況では組織として持続できません。
3つ目は「時間と能力の壁」
限られた期間で成果を出そうとしても、社員の時間が足りず、スキルアップも追いつきません。
そして4つ目は「共創の壁」
NTTグループには、自前主義の文化が根強く、外部パートナーと共創する動きが広がりにくいという課題がありました。
──4つの中で最も高い壁はどれでしたか。
牛垣氏:短期的に1年で結果を出そうとした時に、最も重くのしかかったのは「時間と能力の壁」でした。というのも、組織間の「分断の壁」であれば、マネージャー世代の連携によって努力次第で崩すことができますが、現場の時間と能力不足は、仕組みとして解決しなければ先に進めない根本的な問題だったからです。
4つの壁を乗り越える「取り組み」と「スキル」
“お客様自身が気づいていない業界トレンドに触れ、課題を顕在化させるサイクルを意識 ”
──4つの壁に対して、具体的にどのような施策を展開しているのでしょうか。
牛垣氏:「信頼づくり」「仕組みづくり」「人づくり」「時間づくり」という4つの柱を立て、それをAI・DXが支える構造で進めています。
1つ目の信頼づくりについて言えば、CS(顧客満足度)の向上は10年以上前から取り組んでいますが、顧客満足度調査を繰り返すだけではボトムアップの対応にとどまってしまいます。そのため2年前からは、ソリューションによる機能的価値に加え、お客様の期待を超える体験や感情的価値の創出をめざしたCX(顧客体験価値)の高度化に取り組んでいます。
お客様の期待を超えるには、業界・顧客への深い精通と、課題そのものを一緒に作っていく姿勢が必要だと考えています。そのために、私たちはSpeedaのような情報プラットフォームでお客様の業界動向を常に把握し、訪問時にお客様自身が気づいていない業界トレンドに触れることで、課題を顕在化させるサイクルを意識して回しています。

──仕組みづくりの面では、どのような工夫をされましたか。
牛垣氏:CX高度化委員会、EX(従業員体験)高度化委員会、DX推進委員会という委員会組織として会社に位置づけ、継続的に回る仕組みにしています。
その体制のもと、実際の現場の動きを変えていくために、営業活動をオペレーショナルな業務とストラテジックな業務に因数分解し、効率化・高度化する領域とAIで支援する領域を明確にマッピングしました。
建物の設計に配置図が必要なように、まず全体をマッピングして、定期的にそのマッピングが現実に合っているかを振り返ることが重要だと考えています。

“AIが進化する中で営業に求められるのは、お客様の課題を構造化する力 “
──人づくりという観点では、どのようなスキル開発を行っていますか。
菅家氏:「営業スキル」「業界知識」「サービス知識」「協働・共創スキル」という4つのスキルを定義して強化しています。
AIが進化する中で営業に求められるのは、お客様の課題を構造化する力です。
そのためには基本的な営業スキルと業界知識の底上げが不可欠で、さらに社内外の専門性をつないでいく力が必要になります。
こうした「業界知識」や「専門性をつなぐ力」を現場でいち早く身につけるために、具体的には、課題解決力強化研修を実施しつつ、業界経験者を持つ外部パートナーと組んだ「伴走営業」も取り入れています。金融機関出身者、製造業出身者といった方々に実際に営業活動に加わっていただき、お客様側の視点でリアリティある提案を経験することで、若手の育成につなげています。
「時間と能力の壁」を乗り越え、ディスカッションセールスを実現する
“お客様の現場課題と経営課題を紐づけ、一緒に課題を設計していく”
──仕組みづくりという観点で、AI・DXの活用はどの段階まで進んでいますか。
菅家氏:営業プロセスを「顧客理解・仮説立案」「課題ヒアリング」「提案方針の合意」というフェーズに整理した上で、各フェーズでSpeedaや名刺管理システム、商談議事録ツールなどをどう活用するかをマッピングした「営業プロセスマップ」を作成中です。
顧客理解や仮説立案はAIでクイックに処理し、浮いた時間をお客様との対話に集中させる。そうして生み出した時間で、お客様の現場課題と経営課題を紐づけ、ありたい姿を共に描く「ディスカッションセールス」に最も注力しています。

牛垣氏:こうした「対話の時間を生み出す」ための仕組みづくりとして、情報検索や社内業務の効率化にも取り組んでいます。具体的には、設計・維持管理のデータ、法令・基準、社内ナレッジを組み合わせたデータプラットフォームの構築を進めるとともに、Microsoft Copilot(※) を活用した自然言語による各々のナレッジ活用を、根拠に基づく業務遂行を支援する仕組みとして、既に一部で利用を開始しています。
また、「社員がメリットを感じること」を最優先に実装を進めています。例えば、電子契約の推進などは、社員の業務時間の短縮とお客様の利便性向上を同時に実現できる取り組みであるため、早期に着手しました。
──現場への浸透はスムーズに進みましたか。
菅家氏:最初は説明会を開いても、ついてきてくれるのは2割程度でした。そこで、推進意欲の高い人を先に動かして小さな成功事例を作り、全国展開するという流れを意識しました。
具体的には、1時間の一方的な説明会形式ではなく、半日程度のワークショップ形式でアカウントプランやディスカッションペーパーを実際に一緒に作る取り組みへシフトしており、現場の手応えとして表れてきています。
このワークショップを通して得られた最大の気づきは「発信主義ではなく、到達主義」の重要性です。これは社内コミュニケーションの話ですが、実はお客様との関係構築においても全く同じことが言えます。
AI時代に人が磨くべき力とは
“人が価値を発揮する領域は、「問いを立てて捉え直す」ことと、「判断を下す」こと ”
──先ほどの「人を育てる」というお話に関連して、AI時代の人の成長をどのように描いていますか。
牛垣氏:AIは「知る」「整理する」「アウトプットする」というサイクルを高速で回せます。しかし、人が価値を発揮する領域は、整理されたものに「問いを立てて捉え直す」こと、そして本質を見抜いて「判断を下す」ことだと考えています。
失敗するかもしれなくても判断する。その行為こそが人の成長の土台であり、価値創出の源泉になると思っています。
そのため、新入社員にはまずこのメッセージをシンプルに伝え、上司・先輩には「業務実施力」「周囲への想像力」「面倒を見る力」「自分ごとで行動する力」という4つを意識して後輩を指導してほしい、と伝えています。
AI時代だからこそ情報量が多くなるため、原点に立ち返ってシンプルなメッセージを出すことが重要だと感じています。

さいごに:専門性の先にある「つなぐ力」を組織の血肉にするために
──今後の展望についてお聞かせください。
牛垣氏:この変革の取り組みは、現時点でもまだ道半ばです。人がやることである以上、変革は一朝一夕には完成しません。しかし、「信頼づくり」「仕組みづくり」「人づくり」「時間づくり」という4つの柱を立て、AIをそれらの基盤として活用しながら、組織の構造そのものを変えていく取り組みは着実に前進しています。
そして、これからの時代、AIは今後ますます活用が進んでいくでしょう。だからこそ私たち人間は、AIに任せられることは任せ、 お客様に向き合い、共に課題を考え、新たな価値を生み出すことに集中できる環境をつくっていきたいと考えています。
専門性だけでは選ばれない時代に、専門家集団が「つなぐ力」を手に入れるための変革。彼らが挑むこの現在進行形のプロセスは、業種を問わず、多くの企業にとって実践的な示唆となるのではないでしょうか。

※Microsoft、Microsoft Copilotは、米国Microsoft Corporationの商標または登録商標です。
Speaker

牛垣 和正 氏
株式会社NTTファシリティーズ
取締役
東日本事業本部
副本部長兼営業部長
1996年に株式会社NTTファシリティーズ社へ入社。建築設計エンジニアとして18年間、規模・用途を問わず多様なプロジェクトで専門性を磨く。2014年より組織マネージャーとして、企画、人材戦略(人事・育成・採用)を担い、全社横断の仕組みづくりを推進。2019年よりセールス・オペレーション統括を担い、ソリューション営業への転換を牽引。現在は営業責任者として、営業機能を再定義。AI・デジタル活用、データ起点の価値提案、社内外との共創を軸に、企業の成長戦略を営業現場へと実装し持続的な価値創出を実現する営業組織への進化をリードしている。

菅家 裕介 氏
株式会社NTTファシリティーズ
ファシリティソリューション本部
ソリューション推進部
担当課長
2011年に株式会社NTTファシリティーズへ入社。電力設備の保全業務を経て営業へ転じ、NTT・公共・法人(製造・流通業界)向けに太陽光発電設備やデータセンターの構築、その他建物・設備の大規模改修など幅広い案件を担当。2019年より営業推進部門で営業戦略の策定・展開と人材育成を担い、ソリューション営業への転換を推進。現在はこれらの業務に加え、AI・デジタル活用とデータ起点の営業プロセス改革を推進している。