営業利益率40%超。サンリオの成長の原動力は何か──辻󠄀社長が語る「第二の創業」と、価値を業績に変える「非財務KPI」の経営実装
2020年の辻󠄀 朋邦 氏の社長就任時、7期連続の減収減益の状況にあった株式会社サンリオ。そこから「第二の創業」を掲げ、まず組織風土改革に取り組みました。そして、「サンリオ時間」という独自のKPI指標導入や、ブランド価値を高める仕組みづくりなどを推進し、2026年3月期には営業利益率40%超という業績を実現するとともに、「グローバルIPプラットフォーマー」を目指すという長期ビジョンを掲げるに至っています。本セミナーでは、コーポレートファイナンスの専門家である株式会社インテグリティ代表の田中 氏と、慶應義塾大学教授の保田 氏が、辻󠄀 氏との対話を通じて財務から見える経営判断の本質に迫りました。
※本対談は2026年7月1日に開催されたセミナー『サンリオは、次の企業成長をどう描くのか ―辻󠄀社長の信念と財務から読み解く、進化を導く経営判断』を再構成したものです。
「みんななかよく」創業から変わらない理念が、すべての経営判断の原点
“「グローバルIPプラットフォーマー」へ、長期ビジョンに思いを込めています。”
──まずサンリオの事業と、現在地について教えてください。
辻󠄀 氏:サンリオは、創業当初からの企業理念「みんななかよく」をゴールに、物販・ライセンス・テーマパーク・新規事業を大きな柱として事業を展開しています。
近年は好調な業績を続けており、2026年3月期には過去最高の売上高・営業利益を達成しました。
保田 氏:企業理念が創業から変わっていないのが驚きですね。「みんななかよく」──まるで国家間の争いや対立が起きている今の時代を見越していたかのようです。
辻󠄀 氏:創業者である辻󠄀 信太郎が、自身の戦争体験を経て、「人が人に物を贈り、仲良くなることで平和な世の中をつくりたい」と考えたことが理念の原点です。
元々サンリオはキャラクターではなく、雑貨品からスタートしています。ただのスリッパにちょっとイチゴのデザインを入れてみる。そんな思わず笑顔になるようなデザインを広げるべく自社にデザイナーを迎えたことをきっかけに、現在までに450を超えるキャラクターが誕生してきました。私たちは「キャラクター会社」の先を見据えています。将来的には、日本発のIPを世界へ広げるエンターテイメント企業「グローバルIPプラットフォーマー」として認識いただくことを目指し、進化すべく、長期ビジョンに思いを込めています。
そして、時価総額5兆円という目標も掲げました。非常に大きな数字ではありますが、しっかり達成していきたいと考えています。

時価総額5兆円 ―目標の開示がもたらす組織への効果
“株価を意識するようになると、単純に売上や利益を伸ばすだけでなく、「自社の市場評価をどう高めるか」という視点が生まれました。”
保田 氏:時価総額5兆円という目標数字を公表するのは、とても勇気のいる経営判断だったと思います。実現への期待が高まる一方で、当然プレッシャーもあります。それでも、あえて数字を掲げた背景をお聞かせください。
辻󠄀 氏:向こう10年を見据え、2023年に公表した「価値創造ストーリー」の中で時価総額1兆円という目標を掲げました。「ハローキティのような強いキャラクターを有する企業が1兆円もないのはおかしい」という思いからで、当初は厳密な計算やロジックに基づいた数字ではありませんでした。
しかし、実際に1兆円を達成して感じたのは、目標として「株価」を意識することの重要性です。これにより、社員一人ひとりに「自社の市場評価をどう高めるか」という視点が生まれました。日々のブランディングにも自然と力が入り、結果として企業価値や株価の向上につながっていく。その実感を持つことができたからこそ、時価総額の目標を掲げることには大きな意味があると考えています。
数字が語るV字回復 ―上場企業平均を超える収益性
田中 氏:海外の売上割合も、ここ5年で20%から40%に急増していますね。
辻󠄀 氏:売上ベースでは海外比率は40%ほどですが、ライセンス事業が主力なので利益ベースではもう少し高くなります。ライセンス事業は、ものを仕入れて売るわけではないため、利益率が非常に高いビジネスモデルです。
保田 氏:海外市場が重要になる中で、現地の空気感やトレンドはどのようにキャッチしているのでしょうか?
辻󠄀 氏:私自身も海外へ行く機会を増やしており、現地では自社キャラクターをどれくらい見かけるかを一つのバロメーターにしています。最近ではショッピングモールを50メートル歩けば、何かしらのサンリオキャラクターを目にする機会が増えたという実感があり、海外でも着実に浸透しているなと捉えています。
田中 氏:高利益率なライセンス事業が伸長、そこに海外市場の成長もあいまって、業績が一気に向上していますね。
2021年3月期までは7期連続で減収減益が続いていましたが、そこから大幅なV字回復を遂げ、近年では営業利益率約40%という、上場企業として極めて高い収益性を実現しています。
ROE(自己資本利益率)も、日本の上場企業平均がおよそ10%のところ、サンリオはパンデミック時の0.4%から41.6%まで回復しています。
こうした高い収益性を支えているのは、ライセンス事業なのですね。

ブランドを育てるライセンス戦略 ―収益と価値を循環させる仕組み
“単にライセンスを増やすのではなく、ブランド価値とライセンス展開の好サイクルを回せるようになりました。”
田中 氏:さらに、ライセンスの契約社数はパンデミック前と比べて劇的に増えているわけではありませんが、「1社あたりのロイヤリティ売上」が全地域で3〜4倍に伸びている。とりわけ北米は、2019年度と比べ、桁違いに増えています。つまり、ライセンシーの「数」を増やすのではなく、1社あたりのロイヤリティ収入を高めることで成長しているということですね。
辻󠄀 氏:明確に「1クライアントからいただける収益を伸ばす」という戦略を軸にしています。例えば、ハローキティだけを使っていただいているライセンシー(提携先)に対して、扱う商品にクロミやシナモロールなど、他のキャラクターも提案してみる。その積み重ねが数字につながっていると感じます。

また、単にライセンスを増やすのではなく、ブランド価値とライセンス展開の好サイクルを回せるようになったことが大きいと思います。
まず、プロモーションでブランド価値を高めることによって、キャラクターの露出が最大化されます。それがライセンス展開により、新たなファンとキャラクターの出会いにつながり、ファンとの出会いでブランド価値がより高まることで、次のライセンスにつながっていく。このサイクルを回し続けることが重要です。
ライセンス事業の本質は、単にロイヤリティ収入を得ることだけではありません。自社だけでは到底作りきれないほどの多種多様な商品をライセンシー(提携先)の皆様を通じて世の中に届けることができる。つまり、パートナー企業と共に「サンリオのブランド」を育てていく共創モデルこそが、このライセンス事業の本質だと考えています。
田中 氏:2010年代初期は、ライセンス拡大が中心だったのに対し、現在はブランドを戦略的に育てながら展開されています。同じライセンス事業の中で、何が変わったのでしょうか。
“一つの施策が終わっても、お客様は別の接点から再びサンリオに触れてくれる。つまり、ブランドとの結びつきが資産として「蓄積」され、次なる価値の「創出」へと橋渡しされる循環が生まれました。”
辻󠄀 氏:大きく二つあります。一つ目は先ほどお話ししたように、プロモーションとライセンス展開が相互に作用しながら、ブランド価値を高めるサイクルを確立できたことです。
二つ目は、ブランドを「価値の創出・蓄積・拡張」という時間軸で捉えるようになったことです。2010年代のハローキティは、新しい話題や商品によって価値を生み出す力は絶大でしたが、その価値を蓄積する仕組みが十分ではありませんでした。そのため、ブームが落ち着くと価値が「拡張」されず終わってしまっていたのです。
しかし現在は、店舗やテーマパーク、多彩なキャラクターを通じた多角的な接点があります。一つの施策が終わっても、お客様は別の接点から再びサンリオに触れていただける。つまり、ブランドとの結びつきが資産として「蓄積」され、次なる価値の「創出」、そして「拡張」へと橋渡しされる循環が生まれました。
この循環を持続させるには、ブランドを徹底して守ることも欠かせません。例えば300円の商品と4,000円の商品で同じキャラクターを展開する場合でも、ブランド全体として違和感が生まれないよう、価格帯や露出のバランスは常に意識しています。
戦略を立てる前に、「戦略を立てられる組織」をつくる
“現場の従業員が納得してこそ、初めて組織は動きます。だからこそ、一人ひとりが納得した上で前に進めるよう、全員と面談し、変革の意義を直接伝えました。”
──こうしたブランド戦略や海外展開は、どのように形づくられたのでしょうか。
辻󠄀 氏:私が入社した2014年は、ハローキティが海外で大きな人気を集め、2014年3月期は当時として過去最高の営業利益を記録するなど、非常に好調な時期でした。一方で、その成長は単年度ごとの施策に支えられており、長期的なキャラクター戦略がなかったのです。短期的な施策は、その年の売上を積み上げるには効果的ですが、一度勢いが落ちると立て直すのが難しい。
自身も営業を担当しましたが、土台となる戦略がないため、お客様からさまざまな質問を受けても答えられない場面が多くありました。営業を通じて「この会社に足りないのは戦略だ」と痛感し、まず立ち上げたのがキャラクターのマーケティング組織です。戦略を立てられる組織をつくることが、改革の第一歩でした。
田中 氏:2020年の就任会見では、自社の課題にも率直に言及されていたのが印象的でした。
辻󠄀 氏:社長就任当初は、「みんななかよく」という理念を大切にしながらも、その言葉に甘えていてはいけないという強い危機感がありました。これまでの事業や組織を見直し、本当に変わらなければならない。その覚悟を込めて「第二の創業」を掲げ、まずは痛切な反省からスタートしました。
最初に役員体制を大きく見直すなど、かなりドラスティックな改革を行いましたが、トップダウンだけでは会社は変わりません。現場の従業員が納得してこそ、初めて組織は動きます。だからこそ、一人ひとりが納得した上で前に進めるよう、全員と面談し、変革の意義を直接伝えました。
人材採用を進める際にも、「なぜ新しい仲間が必要なのか」を丁寧に共有し、事業の成長と現場の足並みを揃えながら、組織基盤の強化を続けています。
「サンリオ時間」という非財務KPI ―収益と紐づく笑顔の計測
“売上ではなく「どれだけ多くの人に価値を届けたか」を目標にしたいと感じ、「サンリオ時間」が生まれました。”
“売上や利益に紐づいて設計しているからこそ、経営指標として成り立っています。”
保田 氏:改革が進む組織を共通言語として支えているのが、「寄り添い時間」と「夢中時間」で計測する「サンリオ時間」という独自のKPIですね。最近は、非財務指標をどう設計・開示するかに悩む企業も多く、御社の取り組みは注目されています。

辻󠄀 氏:売上ではなく「どれだけ多くの人に価値を届けたか」を目標にしたいと感じ、「サンリオ時間」が生まれました。
例えば、ぬいぐるみを買う、メッセージアプリでキャラクタースタンプを送るなど、さまざまな接点を時間として積み上げるもので、算出ロジックは非常に複雑ですが、それぞれの体験が「サンリオ時間」として可視化されるようになっています。
保田 氏:「サンリオ時間」は非財務指標でありながら、売上や利益ともきちんと結び付いているのでしょうか。
辻󠄀 氏:売上や利益に紐づいて設計しているからこそ、経営指標として成り立っています。例えば、ぬいぐるみが売れれば「サンリオ時間」も増え、売上も伸びます。CSR活動のように直接売上に結び付かない取り組みであっても、ブランドへの共感や信頼を育み、長期的には事業成長につながっていく。そうしたブランド価値の向上まで含めて一つの指標で捉えられるのが、「サンリオ時間」なのです。
当初掲げていた「サンリオ時間」の目標は前倒しで達成できたため、現在は年間3,000億時間に引き上げています。
──「3,000億時間のサンリオ時間を創出する」というのは非常にインパクトがありますが、従業員の皆さんは自分ごととして捉えられているのでしょうか。
辻󠄀 氏:「どうすればサンリオ時間を増やせるか」の視点で考えることで、現場からさまざまな新しい発想が生まれます。例えば、男性のお客様も増えてきたなか、ピンクを基調としたかわいらしい店舗から、性別なども関係なくどなたでも入りやすい雰囲気づくりを進め、これまで接点が少なかったお客様の「サンリオ時間」と笑顔を創出できていると感じます。
私は利益だけが大きく伸びて、「サンリオ時間」が増えない状態は、あまり良いとは考えていません。サンリオがお客様の日々に寄り添い、関わる時間が増え、その結果として業績も伸びていく。それが私たちの目指す姿です。
保田 氏:「サンリオ時間を増やす」という目標は、自分たちの役割や提供している価値を理解しやすいですね。働きがいやエンゲージメントの向上にもつながりそうです。

灯台に込めた、グローバルIPプラットフォーマーへの構想
保田 氏:「サンリオ時間」を増やしていく具体的なアプローチは、長期ビジョンで示されている灯台の図が分かりやすいです。

辻󠄀 氏:この灯台は、さまざまな接点を行き来しながら、サンリオとの関係が深まっていく姿を描いています。スポーツとのコラボレーションやスマートフォンゲームなど、どこから入ってきてもらっても構いません。体験の積み重ねによって結びつきを強め、灯台自体の高さもどんどん高くしていきたいと思っています。
将来的には、この仕組みをサンリオだけにとどめず、他社IPについても「世界へ広げるならサンリオに任せたい」と思っていただける存在になること。それが「グローバルIPプラットフォーマー」という長期ビジョンなのです。
保田 氏:そう考えると、他のIPホルダーとの関係も「競合」ではなく、「共存」に近いのでしょうか。
辻󠄀 氏:完全な競合はいないと考えています。同じエンターテイメント業界の企業は、ライバルの側面がある一方、コラボレーションもできますし、参考にさせていただくことも多い。同じ業界の仲間という感覚ですね。
また、競合は見る視点によっても変わります。例えば「癒し」という軸で考えると、ペット産業も競合になり得ます。ただ、ペット向けのキャラクター商品を展開すれば、その市場と共存することもできるのです。競争だけで終わらせず、共創へ発展させていけることも、 サンリオらしい価値の生み出し方かもしれません。
「みんななかよく」は今、最も求められている理念
“世界的な緊張や社会不安が続く中、人々が「癒やし」を求めていることの表れではないでしょうか。”
──最後に、お一人ずつメッセージをお願いします。
保田 氏:多くの経営者が「競争」や「市場シェアを奪う」といった荒々しい表現で経営を語ることが多いなか、辻󠄀さんのお話にはそうした言葉がほとんどありませんでした。「届けたい世界観」が経営の中心にある。その想いがエンドユーザーの価値につながり、それこそが企業の本来のあり方なのだと学ばせていただきました。
田中 氏:近年イギリスで売れた外国小説の上位作品のうち4割強を日本作品が占めており、その多くが読後に癒やしや安らぎを与える「ヒーリングフィクション」と呼ばれる作品です。世界的な緊張や社会不安が続く中、人々が「癒やし」や「安らぎ」を求める傾向は強まっているのではないでしょうか。そうした世界的な潮流と、サンリオが長年培ってきた「かわいい」という日本発の価値、そして近年進めてきた経営改革が重なり、現在の世界市場での成長につながっているように感じます。
これからも、不変の理念「みんななかよく」を通じて日本発の価値を世界中へ届け続け、その存在感をさらに高めていくでしょう。
辻󠄀 氏:サンリオは引き続き「みんななかよく」を実現するため、一人でも多くの人を笑顔にするビジネスを追求し、世代を超えて愛されるブランドを目指していきます。
キャラクターの会社からエンターテイメントの会社へ、そしてグローバルIPプラットフォーマーへ。今後のサンリオと、サンリオのキャラクターたちに、ぜひご期待いただければと思います。

Speaker

辻󠄀 朋邦 氏
株式会社サンリオ
代表取締役社長
1988年生まれ。誕生日はハローキティと同じ11月1日。
慶應義塾大学を卒業後、一般企業を経て2014年に株式会社サンリオに入社。2016年に取締役に就任し、2020年には創業者である祖父・辻󠄀 信太郎から事業を引き継ぎ、代表取締役社長に就任。
社長就任以来「第二の創業」を掲げて改革を推進し、力強い成長をリードしている。2025年5月には、今後10年の長期ビジョンとして「グローバルIPプラットフォーマー」を掲げ、エンターテイメントに新たな価値を付与し、次世代の楽しさや喜びをみんなで共創していく姿を描く。創業当初からの企業理念である「みんななかよく」のもと、「One World, Connecting Smiles.」をビジョンとし、多くの人を笑顔にし、幸せの輪を広げるグローバルエンターテイメント企業の実現を目指している。

田中 慎一 氏
株式会社インテグリティ
代表
慶應義塾大学経済学部卒業後、あずさ監査法人、大和証券SMBC、UBS証券等を経て現職。監査法人、投資銀行を通じて会計監査、IPO支援、デューデリジェンス、M&A・事業再生・資金調達に関するアドバイザリーサービスに従事。現在は、アドバイザリーサービスに加えて、スタートアップ企業のCFO、買収後の企業変革を推進するターンアラウンドに取り組む。著書に『コーポレートファイナンス戦略と実践』『あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座』『SDGs時代を勝ち抜くESG財務戦略』等がある。趣味はトライアスロンで、ヨーロッパのIRONMANをすべて完走するのが目標。

保田 隆明 氏
慶應義塾大学
総合政策学部 教授
リーマンブラザーズ証券、UBS証券で投資銀行業務に従事後、SNS運営サイトを起業。同事業売却後、ネットエイジキャピタルパートナーズ(現ユナイテッド)にてベンチャーキャピタルファンドを組成、運用。その後、金融庁金融研究センター、小樽商科大学准教授、昭和女子大学准教授、神戸大学大学院経営学研究科准教授および教授を経て、2022年4月より現職。2019年8月より2021年3月までスタンフォード大学客員研究員として米国シリコンバレーに在住し、ESGと財務戦略について研究。上場企業の社外役員も兼務。専門はコーポレートファイナンスとソーシャルファイナンス。博士(商学)早稲田大学。