富士通のデジタルセールス組織が3カ月で前年比170%の商談パイプライン額を達成。「示唆質問」で顧客課題を引き出せた理由
富士通のデジタルセールス組織は、2025年6〜8月に前年比170%の商談パイプライン額を目指す短期プロジェクトを実施しました。この成功の背景には、営業部門との綿密な連携と、営業情報プラットフォーム「スピーダ 営業リサーチ」の戦略的活用がありました。若手メンバーを中心にどのようにツールを使いこなし、「量」と「質」を両立させたのか。デジタルセールス部門の3名に話を聞きました。
※本記事はSpeedaご導入企業の試行錯誤や実践知に光を当て、「考え抜く力」や「折れずに挑み続ける姿勢」を表彰・共有する「Speeda HEROES Award」受賞企業のインタビューです。主に「スピーダ 営業リサーチ」「スピーダ 顧客企業分析」「スピーダ 顧客企業データハブ」ご導入企業のユースケースや次なる行動のヒントを提供することを目的としています。
データドリブンな活動で営業変革をリード
──まず、今回のプロジェクトの背景を教えてください。
及川氏 私たちの所属するデジタルセールス組織は、2020年に富士通初の新規開拓専門チームとして立ち上がりました。富士通全体が「モノ売り」から「コト売り」へとビジネスモデルを転換する中で、セールスの在り方から変革する必要があったのです。
従来、富士通の営業は情報システム部門を中心とした既存顧客とのリレーションから多くのビジネス機会をいただいてきました。しかし、売り方を変え新規顧客を開拓するためには、お客様の経営課題や新たな業務を理解するというスキルの切り替えが必要になります。さらに、営業は提案から見積もり作成、導入後の障害対応まであらゆる業務に日々対応しているため、物理的に新規開拓をする余裕がないという現実的な難しさもありました。
そこで、情報システム部門以外の業務部門(LOB)を攻略する新規開拓専門チームをボトムアップで立ち上げました。3名からスタートしたこの組織も、現在は約130名まで成長し、その中で50名ほどのメンバーが実際にお客様へのアプローチ活動を行っています。

長年お客様と密に関係を築いてきた営業部門にとって、デジタルセールスは未知の役割で、当初抵抗感も相当ありました。非対面の電話1本で、お客様とつながり課題など本当に聞きだせるのかと。しかしデータドリブンな活動で営業変革をリードしたいという思いから、あえて「インサイドセールス」ではなく「デジタルセールス」と名付け、CRMやSpeeda、電話ログ分析ツールなどを駆使して生産性の高い活動を追求してきました。そしてデジタルセールス組織の立ち上げから5年。成果と信頼を積み重ねながら、営業部門との連携を深め規模を拡大し、昨年は営業スタイル変革の促進を評価され社長より表彰を受けました。
こうして全社での認知が上がってきた中、営業部門のトップから「営業部門の今年度受注目標に対して大幅に足りないパイプラインの一部を、なんとか3カ月でつくってくれないか」と相談されたのです。やっと営業トップに認められ、営業と同じ目線で活動できるところまで来たと嬉しかったですね。
ただ、そのお願いされた数字は、我々の前年比170%にあたる非常に高く厳しい目標で、しかもリソースはそのまま。しかし、ここで成果を出し本当の意味で認められたいという思いから、急きょデジタルセールス内でプロジェクトを立ち上げ、3カ月の短期決戦をスタートさせました。

事前準備やトークスクリプトなどナレッジは組織で共有
──短期間でストレッチ目標を達成するために、どのような工夫をされましたか?
及川氏 通常のやり方では、到底このストレッチ目標を達成することはできません。そこで、メンバー全員でアイデアを出し合い、まず営業部門ごとに目標をコミットし、デジタルセールス内でもチーム別、個人別KPIを設定。CRMでダッシュボードをつくり、営業部門とも、デジタルセールス内でも数字で会話することを徹底していきました。
デジタルセールス組織には「一人で勝つな、一人で負けるな」というスローガンがあり、ナレッジを積極的に共有するカルチャーがあります。そのカルチャーを最大限活かし、イネーブルメントチームがSpeedaの使い方から効果的なメールの書き方、カウンタートークの仕方、営業への引き渡し方までメンバー間で個別に交わされているナレッジを収集。Tipsを全体に展開する仕組みもつくりました。
新野氏 コール前の事前準備としてよくやっているのは、「スピーダ 営業リサーチ」に記載されている経営課題や組織図、トークスクリプトなどをOneNote(Microsoft 365のノートアプリ)にまとめることです。「スピーダ 営業リサーチ」にある中期経営計画や決算資料からDX関連情報を探し出し、「Why you」(なぜそのお客様に自社の商材をお届けすべきか)、「Why now」(なぜ今DXをやるべきか)について仮説立てをすることもよくあります。そこで明らかになった経営課題をもとに、「○○様が中期経営計画で掲げるDX戦略において、○○の領域で課題をお持ちではないでしょうか」といった、具体性の高い示唆質問を策定するようにしました。この内容をベースに、お客様固有の状況を加味したアプローチを準備することで、質の高い活動を効率的に行うことができています。
こうした事前準備の内容は全メンバーがクラウド上で閲覧可能で、「あの人の準備の仕方は参考になる」と見にいくことができます。良かったやり方は、週次のベストプラクティスとしてデジタルセールス内で発表する機会もありました。

土屋氏 私の場合、担当の営業部門と毎週15分の戦略会議を独自に始めました。その際はトスアップした商談の進捗確認や、営業が得た情報やインサイトのシェア、私からVOC(顧客の声)を踏まえてネクストアクションを提案しています。
Speedaに掲載されている各企業の組織図やCRMのデータを一緒に見ながら「この部門にはまだアプローチできていないですよね」「この部門にはこういう課題がありそうだから、この商材を提案できるのでは」と、営業と同じ目線で戦略を考えていきました。15分なら、商談にリソースを割きたい営業にとっても気軽に応じられます。こうした取り組みを重ね、商談のトスアップを増やすことで次第に関係性が良くなっていきました。

中期経営計画を見ながら「示唆質問」で課題を引き出す
──今回のプロジェクトでSpeedaの活用をどのように変えましたか?
新野氏 今回のプロジェクトが始まってから、コール中にSpeedaの画面を見ながら示唆質問を投げかけるようになりました。例えば、「事前にお調べしましたが、御社は〇〇に力を入れられているとお見受けします。昨今、議論に上がっているテーマはございますでしょうか」といった形で、Speedaから得た情報をもとに「気づき」を促す問いかけをするのです。
事前に立てた仮説が外れても、Speedaの「AI課題サジェスト」機能で出てくる経営課題に間違いはないので、そこに立ち戻ってトークの仕切り直しができます。お客様は部長級の方々が多く、話している中で「そういえばこの目標に対してこういう課題がよく議論に上がっていた」と気づいてくださる方も多くいらっしゃいます。Speedaは企業の公開情報から中期経営計画を示してくれるので正確性が高く、役員の視座に立ってトークできるように感じています。

土屋氏 私の場合、担当企業数は5社ほどですが商談量を担保する必要があったので、コールの質を上げることに注力しました。とくに課題仮説をぶつける際に、スピーダ 営業リサーチの「AI課題サジェスト」機能で出てくる経営課題をよく活用しています。同業他社との比較も行い、企業属性や課題を調べることで、質の高い仮説を立てることができました。

──生成AIとSpeedaはどのように使い分けていますか?
新野氏 中期経営計画など正確性の必要な情報はSpeedaで確認し、1to1メールの作成やより詳細なトークスクリプトの作成に汎用的な生成AIを活用しています。「AI課題サジェスト」で得た企業課題を生成AIに入力し、「この課題を持つ企業の〇〇部にコールするトークスクリプトを作って」と指示すれば、その企業の状況に応じたメール文面やトークスクリプトを短時間で作成できます。
Speedaの「AI課題サジェスト」は個社ごとの有価証券報告書やIR情報などファクトチェックされている企業の公式情報が掲載されているため、正確性が揺らぎません。安心して営業活動に使用することができます。
土屋氏 部署の一般的な業務内容など、汎用的な情報を調べるときは生成AIを使い、課題を掘り下げたり自社商材に結びつくような具体的な課題を調べたりするときにはSpeedaを活用しています。

最終的に前年比202%の商談パイプライン額を達成。量と質を両立
──最終的にはどのような成果につながりましたか。
及川氏 当初掲げた「前年比170%」という目標に対して、最終的には前年比202%を達成することができました。営業への満足度アンケートでは400名近くが回答を寄せてくれ、NPS(ネット・プロモーター・スコア) 23という高い評価をもらいました。営業部門からパートナーとして認知されたと同時に、質への要求も高くなってきていると感じています。
新野氏 このプロジェクトを通じて活動量は1.7倍に増え、しかも質は維持することができました。Speedaを使用していなかった前職と比較してリサーチ時間が6分の1になり、1時間かかっていた事前準備が10分でできるようになりました。
土屋氏 私自身は商談獲得件数がこれまでの2〜3倍になり、有効会話率は5ポイント以上増えて15%に向上しました。日々のコールの中で、質の高い会話が増えた結果だと感じています。
──今回の短期プロジェクトを通じて、営業組織にどのような変化が起こりましたか。
及川氏 最も大きかったのは私たちデジタルセールス組織が、営業にとって「いてくれたら助かる」Nice to Haveな存在ではなく、「なくてはならない」Must Haveな存在へとまた一歩近づいたことです。
これまでは正直なところCRMの活用やパイプライン管理、数字に対する意識も営業によってだいぶ温度差がありました。私たちがデータに基づいて話すことを徹底したことで営業部門とパイプラインを意識して商談を進めることができるようになり、データドリブン営業への変革に貢献できたのではないかと感じています。
これからはより一層中長期的な視点で新規パイプラインを継続的につく作り出し、営業がクロージングに集中できる状態をつくりたいと考えています。Speedaのようなツールから得られる情報をもとに、人間の洞察力と、営業との連携力をさらに高めることで、より質の高い案件を創出したい。そして、Revenue Engineとして価値を提供できるデジタルセールス組織を目指していきたいです。

Speaker

及川 美智代 氏
富士通株式会社
カスタマーグロース戦略室
Digital Sales Division シニアディレクター
新卒で富士通に入社後、営業として民需大手顧客やパートナービジネスを担当。その後、マーケティング部門にて、イベント、Web、SNSなどリアルとデジタルを組み合わせたコミュニケーション領域を経験。2020年よりデジタルセールスの初期立上げメンバーとして推進し、現在はデジタルセールスの育成・仕組みづくり・組織運営などEnablementを中心に担当している。

新野 元哉 氏
富士通株式会社
カスタマーグロース戦略室 Digital Sales Division
建設会社での営業経験を経て、建設業界向けSaaS企業にてインサイドセールスを担当。2024年7月に富士通に入社し、デジタルセールスとして主に稼働資産の少ないお客様や、新規のお客様に対するアウトバウンドでの提案活動に携わっている。情報システム部門から製造、設計、経営企画、総務・人事など、幅広い部門に対して、富士通の多様なソリューションを提案している。

土屋 直樹 氏
富士通株式会社
カスタマーグロース戦略室 Digital Sales Division
2023年に新卒で富士通に入社、大手QR決済銀行向けのインフラシステム更改提案を行うアカウントセールスを経て、2024年7月にデジタルセールス組織に異動。大手化学・素材メーカーを担当し、デジタルセールスとして架電やメールなどによる商談創出・育成に携わる。各企業の担当営業とも連携しアプローチ先の部署や提案ソリューションの戦略を練り、実行している。