三菱電機に学ぶ、新規事業の営業方法。立ち上げ2カ月で商談の案件化率66%を実現した「新規市場」を開拓するPDCA
新規事業を立ち上げる際に、多くの企業が「営業計画を立てても実行に移せない」という課題に直面しています。三菱電機では生産現場向け対話ソリューション「MelBridge®」の営業活動において、スピーダ 顧客企業分析を活用した科学的なアプローチでPDCAサイクルを確立。導入から半年で商談獲得率66%という成果を上げています。「MelBridge®」の立ち上げから関わっている営業・マーケティング担当の三条様と、インサイドセールスの前田様に新規事業におけるアプローチ対象の定め方や、営業活動を前進させる極意を伺いました。
※本記事はSpeedaご導入企業の試行錯誤や実践知に光を当て、「考え抜く力」や「折れずに挑み続ける姿勢」を表彰する「Speeda HEROES Award」受賞企業のインタビューです。主に「スピーダ 営業リサーチ」「スピーダ 顧客企業分析」「スピーダ 顧客企業データハブ」ご導入企業のユースケースや次なる行動のヒントを提供することを目的としています。
新規事業の立ち上げで直面した「ターゲティング」の壁
──まず、現在の業務について教えてください。
三条様 私たちはビジネスイノベーション本部で、新規事業として立ち上げた生産現場向け対話ソリューション「MelBridge®」というブランドの営業取りまとめを担当しています。MelBridgeには「翻訳サイネージ」という製品と、2025年10月にリリースした「しゃべり描き翻訳」という2つの製品があります。現在はそのマーケティングと営業、両方を担当している状況です。
前田様 ビジネスイノベーション本部は事業創出に特化した部署で、約90人の組織です。2024年10月に営業グループが立ち上がり、AIも活用し先進的な営業スタイルを取り入れて成功確率を高めるという方針で進めています。私はその中で営業体制作りを担当し、MelBridgeという新規事業の営業活動を行っています。

──新規事業立ち上げ時のターゲティングはどのように進められたのでしょうか。
三条様 私自身は「MelBridge®」の事業立ち上げから関わっているので、事業検討段階ですでにペルソナを設定していました。プロダクト自体が社内の課題探索から始まったこともあり、外国人の多い電機・機械業界、あるいは自動車業界など当社のような製造業を中心にターゲットを考えていました。その仮説を検証するため、取引先のお客様にヒアリングも行っていたのです。
──実際にターゲティングを進めていく中で、どのような壁に直面しましたか。
三条様 仮説はあったものの、具体的な顧客リストを作成するには至らず、ターゲットとなりうる企業がどのくらいの規模で存在するのかわかりませんでした。また、これまで既存顧客に対する営業活動が中心だったので、リストアップした企業へのアプローチ方法も手探りの状態でした。
前田様 新規事業ではTAM・SAM・SOMのフレームワークで市場規模を設計しますが、その設計が本当に正しいのか答え合わせをするのが困難でした。それに、設計した市場を具体的な企業リストに落とし込む際、1社1社手作業で調べてリストアップしていくのは非効率的で、当社が使用している情報ツールでは情報が不足していると感じていました。
中でもSOM(アプローチ可能な顧客の市場規模)をバイネームの企業名に落とし込む方法がわからず、とくに「外国籍の方が働いている企業」をどう特定すればいいのかについては、大きな課題でした。他社のやり方を知るために、知人の勤めるスタートアップ企業に尋ねることもありました。
これまで、どのチームメンバーも既存顧客への営業経験しかなかったので、Speedaを導入する前は仮説を立てておらずリスト作成もままならなかったので、場当たり的な営業活動になっていたと思います。

仮説・実践・検証を繰り返してSOMを精緻化
──Speedaを活用してどのようにSOMを設定していかれましたか。
前田様 スピーダ 顧客企業分析を導入した際のオンボーディングで、ターゲット企業の業種や規模、特徴、ニーズ(顧客課題)などを明確にしていきました。その際、もともと想定していた電機・機械、自動車製造に加え、展示会で接点のあった業界も視野に入れ、スピーダ 顧客企業分析で業種や企業名、アプローチ先を絞り込んでいきました。
Speedaのカスタマーサクセスの方には、「同じマーケットの中でもTier(顧客の階層)ごとに訴求内容を変えた方がいい」というアドバイスをいただき、顧客を分類してそれぞれに合わせたアプローチを比較分析するようになりました。
三条様 プロダクト開発チーム側が設定した「WHO・WHAT・HOW」を営業・マーケティング活動でそのまま活用するのは限界があります。当初の想定とのズレをSpeedaのカスタマーサクセスの方とディスカッションし整理することで、顧客像が徐々に明らかになっていきました。

月1回の振り返りで営業のPDCAサイクルを確立
──具体的にどのように営業活動のPDCAを行い、ターゲットを調整しているのでしょうか。
三条様 当初は月に1回のペースで振り返り会を設け、想定した仮説と、Speedaで作成したターゲットリストをもとに活動した結果を比較していきました。その結果、新たなターゲットが見つかったこともあります。
例えば食品業界は、最初のヒアリングで反応が芳しくなかったためターゲットから外していましたが、次第にインバウンドや展示会で反響があることがわかってきました。そこで、食品業界にはどのくらいの市場規模があるのかをSpeedaで再調査し、SOMに加えるかどうかを検討するようになりました。

前田様 それに加えて、企業規模も中小企業から大企業にシフトしています。もともと、大企業はセキュリティ承認に時間がかかるため、早期に事業を立ち上げるには中小企業を対象にすべきだと考えていました。実際、初受注も中小企業だったのでこの仮説は間違っていないと信じていたのです。
しかし営業活動を進めてみると、中小企業の場合契約していただくIDライセンス数を確保しにくいという課題が見えてきました。大企業も、想定より導入までのリードタイムが短いケースがあることもわかりました。そこで、大企業へ向けたアプローチを再設計しています。
ちなみに営業活動のアクションプランについては、Speedaの営業マーケティング領域のコンサルタントにも伴走していただき週次で振り返りを実施しています。一方で、ターゲットリストやTAM・SAM・SOMなどの戦略については、中長期的なスパンで見直ししていこうと考えています。
▶︎ スピーダコンサルティングによる三菱電機様の営業支援事例はこちら

新規事業のGo to Market戦略を諦めない
──Speedaをどのようなシーンで活用されていますか。
前田様 インサイドセールスは、架電する前にスピーダ 営業リサーチで企業情報を確認するよう徹底しています。以前Speedaのみなさんに実施いただいた「不信突破研修」のフレームワークに沿って架電することで、商談化率の向上につながりました。業務開始から2カ月で36商談を創出し、トスアップした商談の案件化率は66%を記録。SaaSプロダクトの基準値を上回る想定以上の成果が出ています。
▶︎ 商談獲得につながる 顧客起点トークの組み立て方
スピーダ インサイドセールス流「不信突破フレームワーク」のご紹介
三条様 商談に臨む際にスピーダ 営業リサーチの「AI課題サジェスト」機能を活用し、お客様のどのような課題に貢献できるかトークの参考にしています。
Speedaは業界分類が非常に細かく、自動車製造業界の中でも板金など特定の工程を担う業界の課題まで把握できます。お客様から「この工程で外国籍の人材が働いている」という話が出た際に、業界構造や工程を深く理解した上で対話できるのは、信頼関係の構築において非常に大きいと感じています。
──どの企業も新規事業のGo to Market戦略に苦戦しています。なぜ諦めずにPDCAを続けられるのでしょうか。
前田様 新規事業は社内に正解がないため、市場からの反応を素早く製品や営業戦略に反映するサイクルを高速で回すことが、成功に不可欠だと考えています。他社の新規事業はもっと進んでいるはずなので、そのレベルに早く到達したいという思いも強くあります。
三条様 私たちビジネスイノベーション本部には、新規事業立ち上げのプロセスそのものをナレッジ化するというミッションがあります。営業活動を通じてPDCAサイクルを回す手法を確立し、そのプロセスをナレッジとして社内に根付かせることが重要だと考えています。
──今後の展望について教えてください。
三条様 今回構築したこのデータドリブンな営業スキームを、他の事業本部にも展開したいと考えています。他にも新規事業を検討している部門は多数ありますので、そうした部門の営業活動に私たちの知見を活かせるはずです。
将来的には、他の事業本部から「新規事業の営業で困っているが、どうすればいいか分からない」といった声が上がった際に、私たちが支援できるような組織・プロセスを設計していくことを目標としています。
Speaker

三条 友輔 氏
ビジネスイノベーション本部
ビジネスイノベーション統括事業部 連携ソリューション推進部 連携ソリューション営業グループ
営業担当マネージャー
2014年に三菱電機(株)入社。ビル事業部にてSE及び営業を担当。ビジネスイノベーション本部へ異動後、新規事業として生産現場向け対話ソリューション「MelBridge®」の立ち上げに従事。現在は「MelBridge®」プロジェクトの営業・マーケティングを担当し、営業活動以外にもウェビナーの企画実施などマーケティング業務まで幅広く担う。

前田 雅幸 氏
ビジネスイノベーション本部
ビジネスイノベーション統括事業部 連携ソリューション推進部 連携ソリューション営業グループ
グループマネージャー
2006年に三菱電機(株)へ入社。監視カメラのBtoB営業を担当。その後、AI画像処理システムの新規事業を自動車メーカーと共創活動を経験。そこで新規事業に興味を持ち、同社の新規事業創出部門であるビジネスイノベーション本部へ異動。
建設業向けAI計測システムの立上げと鉄道事業関連の新事業の社内伴走支援に従事。現在は、同本部に新設された営業チームにて営業体制構築に取組み中。