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#新規事業開発 2023/3/7更新

セミナーレポート 大企業を進化させる新規事業への挑戦

大企業を進化させる新規事業への挑戦 大企業を進化させる新規事業への挑戦

2020.07. 22 WED 株式会社ユーザベースが主催する H2H(Home to Home)セミナー「大企業を進化させる新規事業への挑戦」が開催されました。ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中で、既存事業の延長線上にはない新しい事業を立ち上げるにも、社内理解の獲得や人材確保など数多くの壁が立ちはだかります。そこで今回は、パナソニック株式会社にて新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」を立ち上げ、社内事業コンテストの実施や社外とのコラボレーションの加速を推し進めている真鍋  馨氏と、東日本電信電話株式会社にてアクセラレータープログラム「LIGHTnIC(ライトニック)」の運営を行い、ベンチャー企業との共創により社会・地域の課題を解決する事業立ち上げに取り組む若木 豪人氏をお招きし、対談セッションを行いました。

Speaker

真鍋 馨 氏

真鍋 馨 氏

パナソニック株式会社
Game Changer Catapult 事業総括

2003年にパナソニック株式会社へ入社、乾電池事業の調達業務を担当。2009年から本社経営企画部にてグローバル経営体制構築・M&A推進。2015年に冷蔵庫事業部経営企画課長、グローバル事業戦 略立案・推進を担う。2016年から新規事業アクセラレーター「Game Changer Catapult」を立ち上げ、事業総括として、食・ヘルスケア領域を始め、多くの新規事業責任者を務める。社外活動として、青山スタートアップアクセラレーションプログラム(東京都)や、ONE JAPAN挑戦者支援プログラム“CHANGE”のメンターを務める。大阪大学大学院基礎工学研究科修了。ケンブリッジ大学経営学修士(MBA)。中小企業診断士。

若木 豪人 氏

若木 豪人 氏

東日本電信電話株式会社
地方創生推進部 地域協創担当

福島県出身。東日本大震災直後にNTT東日本へ入社し、SE・事業計画・サービス開発を担当。販売不振に陥っていたネットワークカメラ事業を、スタートアップ企業と連携し立て直しに参画。NTT東日本初の「アクセラレータープログラム」の運営を行い、国内外のスタートアップとの新規事業開発を実施。現在は、街づくり・新規事業・地方創生担当としてビジネスの“実装”を仕掛けている。( 一社) Society5.0・地方創生推進機構代表理事/Founder 学生キャリアデザインコミュニティ「CARICO」キャリアデザインディレクター。株式会社Publink主催、官民連携コミュニティ「官民連携サロン」第0期生。ほか多数の団体運営と、それによるビジネス創出に携わる。

アイデアをオープンにし共創機会を増加させ、エコシステムをつくりたい

酒居 潤平:お二方は、それぞれ新規事業アクセラレータープログラムの立ち上げと運営に携わっていますが、具体的にどのような取り組みなのでしょうか。

真鍋 馨氏(以下、真鍋):当社は「A Better Life, A Better World」をブランドスローガンとして掲げており、生活者1人ひとりのくらしの願いや困りごとに寄り添って解決することで、結果的に社会課題の解決に繋がると考えています。

このスローガンのもと、不確実な世の中になってきている中で、変化に迅速に対応する組織能力を強化するため、2016年に発足したのが新規事業創出プラットフォームGame Changer Catapult」です。「Game Changer Catapult」は、主に3つのフェーズに分けて活動を行っております。まずアイデアを掘り起すプロセスとして、ビジネスコンテストを開催しており、主に社内の熱意を持った人々に参加いただいています。

次に、起案したアイデアが実際にビジネスとして成立するのかをハンズオンで検証しながら、事業化の可能性を探っていきます。そして最後に、事業化を実現する手段としては、個々の事業特性なども考慮し、既存事業部門や新規事業部門での立上げといった社内で事業化する方法や、社外で事業化するスキームとしてベンチャーキャピタルと合弁会社を設立し、スピンオフ型で投資をしてもらいながら事業をスケールさせていくというやり方があります。「Game Changer Catapult」の特徴として、公式サイトに開発段階のプロトタイプを掲載し、アイデアを見える化しています。

プロトタイプには2種類あり、1つはビジネスコンテストに応募してブラッシュアップしたもの。そしてもう1つは、スタートアップを始めとする他社と共創し、ゼロからアイデア構築したものです。

1社だけでやれることは限りがあるので、時間をかけて社内で検討するよりも顧客起点で物事を考え、技術ありきではない幅広い視点で様々なコラボレーションができるように、積極的にアイデアをオープンにしています。

若木 豪人氏(以下、若木):当社も“地域と共に歩むICTソリューション企業”として、お客さまの困りごとを解決し、地域が元気になるイノベーションを起こしていくことを目指しています。当社が持つアセットとスタートアップが持ち合わせる革新的なサービスを組み合わせることで、イノベーションを生み出していこうという思いから、アクセラレータープログラムの運営を行っております。

アクセラレータープログラムを実施するうえで、顧客課題の明確化が非常に重要です。そのためまずは500~600ほどの課題を吸い上げ、ユーザーヒアリングなども行いながら、現代の社会において本当に必要なものを取捨選択するようチーム全体で取り組んでいます。

スタートアップと共創しシナジーを出すと一言に言っても難しく、近い事業同士だと大きな変革が生まれづらく、遠すぎると周りの理解を得られづらい部分はあります。そのため外部パートナーと共創する際は、シナジー性や事業可能性など当社で独自に設けている3~4つの判断項目に加え、当社や顧客が抱えている課題と照らし合わせながら、何を優先度高く取り組んでいくべきかを決めています。

2020年は第3期目のアクセラレータープログラムとなり、初めて一般公募を行ったのですが、社内事業部や各支店から課題を約500件募り、スマートシティやスマートソサイエティというテーマで課題を解決できる協業アイデアを募集しました。結果、約100社のスタートアップ企業にご応募いただきました。当社で独自に選出した約200社と合わせた計約300社から14社が採択され、4ヶ月にわたるプログラムを通じて協業や提携内容について議論されました。

熱い想いと仕組み化の両輪が重要

酒居:新規事業開発に取り組むうえで大切にしている想いやミッションなどはありますか。

若木:個人ミッションとしては、「新しい収益の種を生み出すエコシステムづくり」を見据えて、新規事業開発に取り組んでいます。当社としても、急激に変化する世の中に柔軟に対応しながら収益を上げるために事業ポートフォリオを見直す中で、新規事業開発が必要です。とはいえ、短期的に効くものではないので、中長期的視点でエコシステムをつくっていくことが重要だと思っています。

アクセラレータープログラムに取り組む中で、当社に対しオープンイノベーションなどの“新しい取り組みを行っている会社”というイメージを持っていただく機会が増えたように思います。他社との共創をより一層加速させ、中長期的にエコシステムを創ってゆくためにも、当社の取り組みをより一層PRしていきたいと考えています。

真鍋:私は新規事業に携わるうえで「小さな使命感」を大切にしています。今でこそ「Game Changer Catapult」に取り組んでいますが、新規事業に関わったのはたまたま全社横断型の新規事業創出プロジェクトにアサインされたことがきっかけでした。新規事業アクセラレータープログラムというと大袈裟に捉えられがちですが、始めは小さなきっかけでもよく、そこから得られる小さな使命感を大切にすべきだと考えています。

なぜなら、新規事業に取り組むうえで、戦略の意味づけや仕組みだけでは上手くいかないことが多く、あらゆる壁にぶつかり難航することが多々あります。そのような状況下では、熱量が非常に重要です。新規事業が最速で立ち上がるための仕組みと、熱い想いの両輪が大切になってきます。

ゼロから事業構想を考え、実際に立ち上げて仕組化していく中で煮詰まったり、心が折れそうになったりすることもありますが、それでも行動し続けることで同じ想いを持っているメンバーに出会うんですよね。それがコミュニティとなり、現在の「Game Changer Catapult」のような場所が生まれるわけです。

例えば「OniRobot(オニロボ)」という「Game Changer Catapult」から生まれたプロジェクトがあります。

これは『できたて』『安心安全の無添加』のおにぎりを『待ち時間ゼロ』でお届けする顧客体験を、人数を最小限に抑えた無駄のない店舗運営で実現するソリューションビジネスです。入社以来ずっと炊飯器開発を行っているメンバーが、お米の消費量が年々減っていく中でこの状況を何とかしたいという想いから、「Game Changer Catapult」に応募し、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)で発表したところ、大反響をいただきました。

現在では、実際に浜松町に「ONIGIRI GO」というお店を開き、事業の収益性や成長性について検証しているところです。 このように強い想いとちょっとした仕組みがあれば、大きな可能性が拓くわけです。

大体の企業では意志決定を会議室で行うと思うのですが、不確実な現代ではお客様や世の中の課題に直に触れ、世の中の反響を見ながら高速でPDCAを回していく方が効果的です。そのため、SXSWのようなイベントで発表することで世の中の反応を得られ、後の事業化をよりスムーズに進めることができるように思います。

大企業で挑戦をつくりだすために大切なこと

酒居:熱い想いと戦略・仕組みの両輪が重要だということですが、そもそも大企業で挑戦をつくりだすために大切なこととは何でしょうか。

若木:「社内政治」「ネットワーク」「継続実行」が鍵になってくると思います。その中でも一番大事なのは継続実行です。何か行動を起こせば反対意見が出ることは当たり前です。その前提で継続的に実行していくことが大事で、反対されることを恐れていては挑戦もできませんし、実直に周りの理解を得ながら、継続的に実行することが事業をブーストさせるためにも大事だと思います。

新たなアイデアを反対されたとしても、高いシナジー性や事業の将来的な成長曲線などを経営陣に伝え続ければ実現することは可能です。また実行していく上で壁にぶつかることもありますが、社外の情報にアンテナを貼り、他社でのやり方や成功事例などを自社用にアレンジして試してみると、意外にすんなりと社内で通ることもあります。

いかに広い社外ネットワークを持てるかも重要で、人の繋がりから共創関係が生まれていったりもします。人的ネットワークの開拓に悩まれている方も多いようですが、同期や後輩などツテを頼ってお願いしたり、興味があるSNSコミュニティに参加してみたり、直でメールをしてみるなど、自分で行動を起こし続けながら地道に開拓することが大切です。

最後は社内政治です。政治というと悪いイメージがありますが、物事をスムーズに進めていくためには、部署や人の特徴、置かれている状況などに合わせながら、相手によって響く伝え方をしてコミュニケーションを取っていくことは、非常に大事だと思います。

真鍋:私が大切にしているところは「共感Give First」です。世の中や社内の共感を得られれば、新規アイデアを事業化するにあたり周りの協力を得られやすくなり、プロセスを進めやすくなるように思います。共感いただくためには、「Give First」で自分から行動を起こし、価値を届けていくことが重要です。その姿勢が事業を進めていくうえで力強く後押ししてくれるわけです。

例えばビジネスコンテストの一期生で、現在「DeliSofter(デリソフター)」という、摂食・嚥下障害をお持ちの方々にむけてリリースした事業があります。食べ辛いと感じる肉や魚料理を、見た目や味を変えずに柔らかくすることができ、家族みんなで同じものを、同じ食卓で楽しむことができるというものです。

「DeliSofter」を立ち上げるにあたり、既存事業との兼ね合いや商品の安全性など多くの課題にぶつかり、なかなか進みづらい状況がありました。そのような状況に置かれつつも、起案者の想いに共感した病院や周りのメンバーが協力してくれ、どうにか実証実験まで辿り着くことができました。その後、投資会社にも興味を持っていただき、足掛け4年ほどで事業化を実現しました。

このように起案者の強い想いが周りに伝染し、事業を進めていくうえで力強く後押ししてくれるわけです。

酒居:挑戦をつくりだすための人材を育てるという点では、工夫されている点はありますか。

若木:マインドセットが大切だと思います。新規事業に初めて携わる方は、アイデアに対して批判的な意見が出たり、プロセスがスムーズに進まなかったりすると、心が折れてしまうことが多いように思います。そのため社外の事例を踏まえて、折れても大丈夫だということを伝え、日々の業務を重ねながら粘り強く育てていくのが重要かと思います。

真鍋:新規事業開発は正解がない中で進まなければなりません。上手くいかないことは当たり前という前提のもと、小さな成功体験を積めるようにすると不思議と自走し始めます。とにかく進みながら考えて、行動量を増やす。その行動量を増やしたことを認めてあげることがキーポイントになるかと思います。

酒居:お二方の熱い想いに触れ、非常に刺激になりました。示唆に富んだお話をいただき、ありがとうございました。