#新規事業開発 2023/2/21更新

セミナーレポート SPEEDAって何ができるの?「新規事業開発を加速させる」編

SPEEDAって何ができるの?「新規事業開発を加速させる」編 SPEEDAって何ができるの?「新規事業開発を加速させる」編

2021.9.2  THU  /   株式会社ユーザベースが主催するH2H(Home to Home)セミナー『SPEEDAって何ができるの?「新規事業開発を加速させる」編』が開催されました。今回は株式会社ポーラ 新市場企画プロジェクトの大城氏と、株式会社マクニカ イノベーション戦略事業本部の本村氏をお招きし、新規事業開発の実践において経済情報プラットフォーム「SPEEDA」は何ができるのか?について伺いました。ポーラの大城氏がリーダーを務める新市場企画プロジェクトは、3年後に新事業を立ち上げることをミッションに、2020年7月に発足しました。一方で立ち上げ時のプロジェクトメンバーはたったの3名。そこから1年間の試行錯誤を通じて事業案に辿り着くまで、いかに事業構想を進めてきたのでしょうか。一方マクニカの本村氏は、次なる事業の柱としてDX事業を立ち上げるべく、AI社会実装サービス「Re:Alize」の新規市場開拓に取り組まれています。事業価値を届けるべき顧客がどこにいるのか、業界の垣根を超えた探索をどのように実践されているのでしょうか。当日は「SPEEDA」のサービス画面をお見せしながら、お二人の新規事業開発がどのように加速したかお話しいただき、「SPEEDA」について具体的に何ができるのか、新規事業開発の情報収集についてお伺いしました。

[モデレーター]
株式会社ユーザベース SPEEDA事業:海野 悠樹

Speaker

大城 敦 氏

大城 敦 氏

株式会社ポーラ
新市場企画プロジェクト
プロジェクトリーダー

2003年ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)に新卒入社。BtoB営業、化粧品事業の企画及び国内エリア営業の後、ロジスティック、マーケティング部門にてマネージメントを歴任。2020年7月より新設部門である新市場企画PJリーダーに着任(現職)

本村 健登 氏

本村 健登 氏

株式会社マクニカ
イノベーション戦略事業本部
AIビジネス推進部 部長代理
DXコンサルティング室 ディレクター

2017年以降100件以上のAIプロジェクトを支援。現在はマクニカのAIサービス「Re:Alize」のサービス責任者に従事。クライアントの事業戦略立案、データ統合基盤~AI作成、実装運用などの知見を活用し、DXコンサルティング事業を兼任。

SPEEDA 導入前の課題

1.ポーラ新市場企画プロジェクト

海野 悠樹:お二方それぞれにお伺いします。新規事業開発プロジェクトの概要と取り組みについて、お聞かせください。

大城 敦 (以下、大城):まずプロジェクトが生まれた背景からお話しします。ポーラは2029年に創業100周年を迎えますが、今後も事業ドメインを変えずに収益を上げ続けるのは難しいという経営層の判断がありました。

会社が存続するためには何か変革を起こさなければなりません。そこで2019年から10年後の自社をどう捉えるかというタスクフォースが発足。戦略の1つの柱として新規事業開発が掲げられ、2020年7月に新市場企画プロジェクトが発足しました。つまり経営における危機感から生まれたのが、このプロジェクトです。発足時点では、2023年までに新規事業を1件ローンチするというゴールだけが定められており、そのやり方は何も決まっていませんでした。プロジェクトメンバーは私を含めて3名だったので、「どうすれば限られたリソースの中、3年間で1つの新規事業を立ち上げることができるのか」を考え、たどり着いたのが社内から300のアイデアを募集して、そこから1つを事業化する計画でした。

実行に移すにはまず社内風土の変革が必要でした。自分も含め「プロジェクトのメンバーに任命されたから新規事業を開発する」という考え方ではなく、新規事業開発が職務ではない社員も含めた全社員が主体的に会社の未来を考える風土を作りたいと思いました。そのうえでアイデアを募集し、良いものをさらに磨き上げ、実現できるよう私たち専任メンバーが引っ張っていくというスキームを作ったのです。

プロジェクトのMission、Vision、Wayの策定にも取り組みましたが、その中でも「speed×trial」が一番重要だと考えています。既存事業と同じようなスピード感で取り組んでいては3年という期日に間に合いません。それに加えトライアルの数を増やすことも大切です。プロジェクト発足時には社長から「とにかく挑戦しなさい。そして失敗しなさい。あなたの評価は失敗の数だから」と言われました。私のミッションはスピード感をもって失敗の経験を積み上げながら1つ1つ進めていくことです。初期段階ではこの考え方が原動力になりました。

2.「Re:Alize」の新規市場開拓

本村 健登 氏(以下、本村):当社の半導体事業の顧客はメーカーの開発部門で、彼らへの技術支援が業務のメインです。そのため弊社は今までエンドユーザーが何を求めているかに触れる機会がなかなかありませんでした。その結果、たとえ他社に先駆けて発見した最先端の技術を強みとして持っていても、その技術がエンドユーザーに提供する価値について解像度の高い回答ができる社員が少ないという課題を抱えていました。

事実として私の携わっているAI事業も、2016年という割と早い段階から、プロジェクト支援ベースで300件ほどの実績を積み上げていますが、PoC(Proof of Concept:概念実証)はできても社会実装まではなかなか進まず、そのうち運用に至ったのは5%ほどしかありませんでした。その反省点を活かし、2020年9月に立ち上げたのがAI社会実装サービス「Re:Alize」です。2018年頃まではAIという言葉そのものが流行し注目されていましたが、現在はAIが生み出す価値を顧客が理解した上で興味を持ってもらうことが大切だと思っています。そこで、Re:AlizeではAIを利用し業務を自動化することで生まれた時間をビジネスパーソンのクリエイティブな時間に充てることを自社の提供価値として定義しました。

当社の無料相談会では最初からAIという言葉は使わずに、真っ白なキャンバスに顧客が抱える課題を書き出してもらうことから始めています。それから課題解決にAIやDXを活用することで本当に価値は生まれるのかを顧客とディスカッションし続けることで、現在はPoCに留まらずに価値を提供できるビジネスプロセスを実行しています。

3.新規事業創出で忘れてはならない自社のビジョンとコアバリュー

海野:本村さんにお伺いします。新規事業開発において重視した方針についてお聞かせください。

本村:経営理念や自社のコアバリューとの一貫性を重視しました。当社のコアバリューは「テクノロジーとインテリジェンスをつないでよりよい未来社会をつくる」というものです。インテリジェンスの定義は「世の中が今必要としているもの」です。具体的に世の中が何を必要としているかの解像度を高め、テクノロジーをつないだときに価値があるのかを徹底的に考えました。

海野:大城さんにお伺いします。新規事業創出における既存事業との親和性についてはどのように考えていらっしゃいますか。

大城:既存事業との親和性は、優先順位として一番ではありません。私も本村さんと同じく最も重要なのは自社の掲げたビジョンとの親和性だと考えています。ただ、スピード感をもって事業を進めるときには、自社の既存リソースの中からどれを使うと速いかを考えるため、自社の強みを転用して活かせる道を見極める視点も大切です。

SPEEDAって新規事業開発で何ができるの?(ポーラ編)

1.導入前の課題

海野:SPEEDA導入前の課題、利用機能や具体的な利用シーンについてお聞かせください。

大城:TOPIC1でもお伝えしましたが、新市場企画プロジェクトでは3年間で300のアイデアを募集して1つを事業化することをKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)としてビジネスアイデアコンテストを実施しています。当社は設立からの歴史が長く専門的な仕事をする社員が多いため、プロジェクト専任メンバーだけでアイデアを出すよりも社員からアイデアを公募した方がそれぞれの豊富な知識を活用した新しい挑戦ができるのではないかと考えました。

実際に社員から提出されたアイデアを見ると、やりたいことや課題感などの「想い」が99%でした。例えば「このアイデアの顧客はどこにいるのか?」と彼らに足りていない視点を意見するのは簡単ですが、アイデアを一緒にブラッシュアップするには、私たちもフィードバックの質を高めることが必要でした。そのためにはアイデアが関連する業界の将来予測などの基礎情報を最短で掴む必要がありますが、WEB検索に頼っていては本当に欲しい情報には素早く辿り着けません。新規事業開発のスペシャリストではない私たちにとって、情報収集が課題となることは早い段階でわかりました。そんな時、SPEEDAのセミナーを社員から教えてもらい、後に導入することになります。

2.SPEEDAの活用事例

大城:アイデアの応募件数は2日に1件、多いときは1日に3件寄せられますが、ここでもスピードを重視し、遅くとも2日以内にフィードバックを返すようにしています。また、1つのアイデアに2名以上で担当し、「顧客にとって必要な提供価値は何か?」と「自分たちが進みたい業界はどこか?」という2つの視点で議論しています。さらにアイデア募集期間は40日間ですが、はじめの20日間はフィードバックを無制限で実施することで社員が何度でも挑戦できる仕組みを作っています。これらをプロジェクトメンバー5名(2021年より2名増員)で実行するためには、効率的に有益な情報を入手する必要があります。

SPEEDAの活用方法としては、掲載されているテーマの概要レポートを資料として見ながら、狙う業界の重要なポイントについて30分ほどの短い壁打ちを実施したり、あるいはアイデアをブラッシュアップするための参考資料として渡したりすることで、素早く確度の高いフィードバックを実現しています。情報の検索方法として、参入したい業界が決まっていれば業界検索から情報収集します。一方「サブスクリプション」というような業界横断で起こっている新しい流れについて深掘りをしたいときは、トレンド検索を活用すると比較的速く情報を入手できます。業界検索・トレンド検索のどちらも重要なことが概要としてすぐ手に入るのがSPEEDAの魅力です。

3.新規事業開発の情報収集と仮説検証

海野:ありがとうございます。ここで視聴者の方からの質問を拾っていきたいと思います。社員からアイデアを集めるためにどのようなことを実践されていますか、とたくさんコメントいただいていますが、いかがでしょうか。

大城:社会や経済の変化、面白いトピックについて、感度が高い状態を保てるように月1回の座談会を実施しています。さらにゼロからでもアイデアが創れるように、アイデアシートのワークショップも開催しています。今はどんなアイデアでも「応募したい」と思ってもらうことが大事なフェーズです。

海野:SPEEDAの活用方法についても質問です。ニッチな業界の調査はどのようにしていますか。

大城:SPEEDAで拾えない情報はほとんどないと思います。欲しい情報が手に入らないときは、検索の角度や切り口を変えて探すことで、他のWEBサイトで調査するよりも早く有益な情報が手に入ることが多いです。

本村:当初目算を立てた業界に隣接する業界に答えがある場合もあります。連鎖的な調査によって必要な業界動向を掴むことがポイントです。

海野:SPEEDAでの検索で行き詰まった際はサポートデスクを利用して、調べ方のヒントを聞くこともできるので気軽にご利用いただきたいと思います。次に専門家からのコメントを24時間以内に得られる機能(FLASH Opinion)の活用方法について、お聞かせください。

大城:アイデアからコンセプトを作る際、顧客の共感は得られたとしても、実際に事業として実現できるのか確信を得るために、専門家や研究機関に話を聞く工程が欠かせません。専門家を探すまでに1週間、さらにアポを取るために1週間かけて、ようやく90分のヒアリング時間を確保したにもかかわらず、結果としてあまり参考にならない、というケースもあり効率性に課題を感じていました。FLASH Opinionを活用すると、今知りたいことが24時間以内にテキスト回答(200~800字程度)として5件以上も受け取れます。すぐに疑問が解決する場合もあれば、解決せずとも次に意見を聞くべき専門家の分野や質問の切り口について、新たな発見につながる場合もあります。知見のない業界で新規事業を検討する際は、専門家に少しでもインタビューしてみるだけで気づくことがたくさんあります。ポイントとしては、質問の意図を詳細に書くことで、熱意ある回答を得られる確率が高まります。

SPEEDAって新規事業開発で何ができるの?(Re:Alize編)

1.導入前の課題

海野:SPEEDA導入前の課題、利用機能や具体的な利用シーンについて、本村さんにお伺いします。

本村:最も大きな課題は冒頭でもお伝えした通り、自社の技術を市場や顧客にいかに結び付けるかでした。現在のSPEEDA利用シーンは、自社の技術アセットをどのように新規顧客へ横展開できるかを探るための調査です。AIやDXは企業や組織文化を変える取り組みにもつながるため、同じ業界内でも企業ごとに導入のスピード感が全く異なります。そこで、アプローチ先を業界区切りで探すのではなく、顧客のユースケースから見つけ出そうと考えました。

2.SPEEDAの活用事例

本村:当社は、製造業における外観検査のAI自動化実績が豊富です。この技術を活かせる新規アプローチ先をユースケースから見つけ出すために、まずAIの外見検査を「点検×画像×AI」と抽象化した項目でまとめなおします。そして、あらゆる業界を調査しながら、課題や変化の動向と自社の強みを紐づけられないか検討するのにSPEEDAを利用しています。

例えば「建築物の老朽化」という問題をイメージした際に、ゼネコン業界の動向や課題について調査するとします。建設業界の知見がない状態でも、SPEEDAに記載されているサプライチェーンの大枠から関連する企業の全体像を捉えることができ、「建築物の老朽化」は点検という項目に当てはめると可能性が見えてくること、そしてゼネコンではなく補修会社にアプローチが必要だとわかります。さらに、点検にまつわる調査を進めると、労働力不足という業界課題があり、加えて建築物の維持管理コストの増加傾向も読み取れて、AIやDXの適用可能性があるというユースケースの仮説が立てられます。

3.新規事業開発の情報収集と仮説検証

本村:もう一つ、企業単位を調査する段階では財務数値、経営指標、株価などを比較できる「競合企業比較」や事業セグメントや地域セグメントで比較できる新機能の「セグメント比較」を活用しています。「半導体」「ネットワーク・セキュリティ」のような自分がフォーカスしたい項目で企業を検索できるので、多くの企業が様々な事業を展開しているが故にスムーズにできなかったセグメントごとの検索を、効率的に行えるようになりました。

また調査を深掘りする際には、サポートデスクを頼ることで情報が入手できる場合もあります。直近の事例として「業界全体としてはコロナ禍で減収/減益になったが、増収/増益している上場企業は AIやDXに取り組んでいるのでは」という仮説をもちました。この仮説を裏付ける定量的な調査を実施するために、サポートデスクに依頼して「業界別売上データとその平均値一覧」と「減収/減益した業界にもかかわらず増収/増益している、かつ経営戦略としてデジタル戦略を掲げている上場企業一覧」をご用意いただきました。このデータを使って仮説検証する中で具体的な企業の成功事例も知ることができ、デジタル戦略の大切さを今後マーケティング活動の中で啓蒙していくことに自信を持つことができました。

海野:製造業から他の領域に展開していく中で、例えば「建築物の老朽化」に使えるのではないか、といったような筋の良い仮説を立てることも難しいと思うのですが、何か工夫されていますか。

本村:ビジネス実績のない領域においても、SPEEDAの定量情報とこれまでの取り組み実績を元に想像したユースケースについて、対象領域の顧客に直接ヒアリングをする機会としてウェビナーを開催しています。そこでは、UI(User Interface)や簡単なデモを使った製品紹介を実施し、参加者から意見をもらうことで仮説検証の場にしています。

SPEEDA導入後の変化と今後の展望

海野:SPEEDA導入後の変化や今後の展望について、お聞かせください。

大城:1回目のアイデア募集期間のフィードバックは手探りでしたが、2回目の募集期間では、ある程度社内の仕組みが体系化したことにより提案の質が高まりました。さらに視野を広げるためには、適切な情報をクイックに立案者に渡すことが大切です。それが応募者のモチベーション向上やアイデアの質を高めることにもつながります。現在、目標にしたアイデア応募数300件のうち150 件集まっています。残り150件を3年待たずに集めるためには、立案者のリピーターを増やすことと、まだ応募に至っていない社員の発掘の両方が必要です。

積極的にSPEEDAの情報を活用していくことは、社員の目を未来に向ける社内風土の醸成にもつながります。目標の3年後まであと2年を切ったので仮説検証、トライアルに進むスピードをさらに上げなければなりません。時間を上手く使っていきたいと考えています。

本村:SPEEDAの活用によって、業界で実際に起こっていることが見えるためスピード感をもって変化に挑むことへの恐怖心がなくなりました。少なくとも仮説の50%は間違っていないという前提で臨めることは大きいです。

顧客と共にサービスを創り上げていく中で、今後は具体的な顧客ニーズ特化型のサービスを増やしていきたいです。SPEEDA EXPERT RESEARCHを活用してエンドユーザーになりそうな専門家のフィードバックを集めるなど、SPEEDA活用方法もさらに拡げていきたいと考えています。

海野:本日は貴重なお話をありがとうございました。