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新規事業立ち上げのリアル -急成長を実現する新規事業のつくり方-

新規事業立ち上げのリアル -急成長を実現する新規事業のつくり方- 新規事業立ち上げのリアル -急成長を実現する新規事業のつくり方-

本日のセミナーのテーマは、「新規事業立ち上げのリアル -急成長を実現する新規事業のつくり方-」です。企業としての持続的成長を成し遂げるために、必要不可欠ともいえる「新規事業」に取り組むうえで、どのような戦略を描き、実行していけばよいのでしょうか。

村田製作所・安田様、NTTデータ・西村様のお二人から、新規事業開発のコンセプトづくりやチームづくり、組織づくりについて、実体験にもとづくリアルなお話を伺っていきます。

社内新規事業に取り組む中で、課題を感じている方はぜひご参考になさってください。

Speaker

西村 祐哉 氏

西村 祐哉 氏

株式会社NTTデータ
法人コンサルティング&マーケティング事業部 部長/ビジネスデザイナー

京都大学経済学部卒業後、NTTデータ、 ライブドアを経て起業。スタートアップ経営者として企業とターンアラウンドを担当。その後国内独立系コンサルティングファームにて戦略・ビジネス・IT各領域のコンサルティング、プロジェクトマネジメントに従事。2011年からの10年間、日本電気株式会社(NEC)でビジネスデザイナーとしてのITサービスや海外スマートシティ事業開発ののち、イノベーション創出部門に移り共創型の新規事業創出に従事。アクセラレーターとしても顧客企業や社内事業部に対する支援活動も多数手がける。
これらの知見にもとづきイノベーション人財の育成・教育や組織づくり、プロセスや制度の整備といったエコシステム形成も担当。共創を基軸とした新事業創出・ビジネスデザイン・社内事業部の伴走支援部門を部門長として立ち上げ、運営する。また、スマートシティ/都市開発系のDX領域において海外シンクタンク(CSIS: 戦略社会問題研究所) 客員研究員としての活動経験なども活かしSPEEDA/MIMIR等で知見を発信。その後2021年4月より株式会社NTTデータに"帰還"。まちづくりやスマートシティといった、都市空間におけるDXや経年的なライフスタイルの変遷に寄り添う価値提供の創出に関する新規事業開発を担当。それと並行して、イノベーションの民主化を目的とした、共創型新事業創出やビジコンやステージゲート等の制度設計、新規事業人材の育成や教育などを包括的に取り扱う、イノベーションエコシステムの創出と定着の伴走組織の部門長としても活動している。
世界最先端のイノベーション創出手法であるFORTH INNOVATION METHODの公認マスターファシリテーターとして社内外の共創を"イノベーションのおこしかた" の面で伴走している。ひとのいとなみと空間との関係性に着目した都市構想の検討と実現支援者としての顔と、イノベーションの仕組みの形成者という2つの顔をもつ、"憑依型アクセラレーター"。

安田 圭佑 氏

安田 圭佑 氏

株式会社 村田製作所 
技術・事業開発本部 新規事業推進統括部

京都大学大学院工学研究科修了後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて製造業の新規事業戦略の立案に携わる。2016年、村田製作所に入社。中国において工場の環境負荷を下げる事業の立上げに従事しつつ、事業開発人材の育成を企画推進。2020年ローンディールのレンタル移籍を村田製作所に導入。ベンチャーで新たな挑戦をする機会を活用した、事業開発と組織変革の担い手の輩出を目指す。
本の要約サイト『flier(フライアー)』ライター。ブレスト会議『Beyond ミーティング』 プロボノ。趣味は読書と書店めぐり。京都の読書スポット探しが日課

志賀 康平

志賀 康平

株式会社ユーザベース
Marketing Division INITIAL Marketing Team Manager

東北大学工学部を卒業後、西日本旅客鉄道(JR西日本)に入社。
非鉄道事業部門の新規事業チームにてM&A・PMIを経験。その後、経営企画部門に異動し、グループ会社の経営管理業務、コーポレートベンチャーキャピタルの戦略策定、新規事業部門の立上げ及び合弁会社(新規事業)の撤退・清算業務を経験。
2021年7月からユーザベースに参画し、SPEEDA事業のマーケティング&ブランディングを担当。

村田製作所が取り組む事業開発

志賀康平(以下、志賀):本日はよろしくお願いいたします。まず安田さんが実際に取り組まれているお仕事を伺い、その後、西村さんにもお話を伺いたいと思います。

安田圭佑氏(以下、安田):よろしくお願いします。村田製作所は京都に本社があり、製造業として75年間の歴史がある会社です。

村田製作所がどのような会社かというと、こちらの社是を大事にしているということが1つポイントかなと思います。

社是には、「技術」「科学」「文化」といった言葉がありますが、会社の発展だけではなく、「協力者の共栄」や「信用の蓄積」といった言葉が含まれているのがいいなと思っています。

私は「Innovator in Electronics」というスローガンに惹かれて村田製作所に入りました。

これからもイノベーターとしてのプレゼンスをどんどん高めていきたいと思っていますし、社内にも「イノベーターであれ」と思っているメンバーがたくさんいます。

村田製作所はスマートフォン、車、コンシューマー機器など、みなさんの身の回りにあるモノに対して、いろいろな電子部品を提供しています。

そのため、BtoBの会社ということもあり、事業開発するときに考えられる範囲がかなり広いです。

また、コンポーネントからデバイス/モジュール、データ・サービスへと徐々にレイヤーを上げていくところにも挑戦しているフェーズです。

そのため、縦で見ても横で見ても伸びしろはあるけど、どこに焦点を当てるか、というところに難しさがあると思っています。

私が何をしているかということで、4象限に分けているんですけど、今日は右上の「コンセプト創出」に焦点を当てて、具体的な社内の取り組みをお話しします。

今日は「急成長を実現する新規事業」がテーマになっていますが、図のロケットが打ち上がるように、すべての事業開発がうまくいくとは限りません。

急成長しない場合はどういうことかというと、1つは事業のコンセプト自体がうまくつながらず、バラバラになってしまう話。もう1つはチームがバラバラになってしまう話があって、今日はこの大事な2つのポイントについてお話ししたいと思います。

新規事業における「方針策定」の重要性

志賀:西村さんにも伺いたいと思います。安田さんの「事業コンセプトがバラバラになる」「チームがバラバラになる」という話にもつながりますが、「既存事業との関わり方をどうするべきか」「新規事業を経営陣に理解してもらうにはどうするべきか」といった事前質問を多くいただいています。

このあたりの前提・土台となる認識をどう揃えて、新規事業を動かしていかれたのでしょうか?

西村祐哉氏(以下、西村):そうなんですよね。新規事業というと、アンダーグラウンドなレジスタンス活動みたいな感覚で受け取られることも多いです。

そうすると、現場は必然的に「上層部がわかってくれない」、逆に上層部は「現場がよくわからないまま勝手なことをやっている」という感じになってしまったりするので、最近はよく「そもそもちゃんと方針を定めましょう」と言っています。

方針をしっかり定めて動き出すと、うまく滑り出す新規事業開発というのは、ものすごく多いです。

オーナーの期待値に基づいて、「どのような方針で進めていくのか」という軸をしっかり作ること。軸をしっかり合意したうえで、現場でやっていくこと。さらにマネジメント層のサポートが重要です。

マネジメント層のサポートについて具体的に説明すると、もし共感できる事業開発・方針があるのであれば、ミドルマネージャーが現場のためにコーポレートフィットも一緒に考えたり。さらに上位層はコネクションを投入して検証できるようにしたり、予算を投入したり、ファンドレイズ等の支援をしたりすることが重要だと思います。

まとめると、方針をきちんと立てたうえで、自分たちの新規事業の使命・ミッションを固めましょうということです。

当たり前っぽく聞こえるかもしれませんが、意外とできていないことかなと思っています。

新規事業開発者に聞く、イノベーションの阻害要因

志賀:ありがとうございます。イノベーションの阻害要因とそもそも、なぜ新規事業が重要なのかという点について、資料でもまとめていただいています。こちらについて教えてください。

西村:こちらの図は、2019年にいわゆる「ニッポンの大企業」で新規事業開発に携わられてる方25社・延べ50名程度に取らせていただいたちょっとしたサーベイです。

「日本におけるイノベーション創出の阻害要因は何ですか?」と質問したのですが、「戦略が不明確」「イノベーションに割く時間がない」「リソースの不足」、あるいは「職場の権力争い」「失敗への不安」などの回答があり、どれも普遍的に当てはまるものだと思います。

これらの普遍的な課題をどのように乗り越えてゆくのか、という問いに対しては、昨今は「イノベーションのおこしかた」そのものに着目が集まってきつつあり、重要な潮流だと思っていますので、全体像からお話ししていきたいと思います。

「イノベーションのおこしかた」を考える

これだけ「新規事業だ」「イノベーションだ」と方々で言われるなかで、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスのような、いわゆる“Crazy Genious”が出てきて何かを変えていくということは、日本企業ではなかなかないと思います。

なので、一般的にはどの企業さんも特定個人というよりかは、組織力をきちんと高めていって、新規事業を「みんなで」作ろうというやりかたが求められていると思います。

そのため、コンサルティング部隊の部長という名札を提げている身でこれを言ってしまうのはなかなかに刺激的ですが、コンサルタントにアウトプットだけ頼むような、何か安直にとりあえず正解っぽいものを求めるのではなく、自分たちの事業としてやりかたの習得含め主体的に取り組むとか、あるいは成功の再現性を上げるための活動とセットでやることが重要です。

2つ目の「イノベーションの不確実性はマネジメントする時代に」という項目に関して、イノベーションそのものは規格化することはできないのですが、イノベーションを起こすためのやりかたについては、ある程度定型的なプロセスとして整理するような取り組みが広がってきています。

一方で、(狭義の)デザインシンキングには限界を感じています。

いわゆるデザインワークショップ的なことをやり、全員でポストイットに何かを書き、壁中が色とりどりのポストイットに包まれると、「やった!」という高揚感を得られます。しかしながら、そこから先どうしていけばいいのかを、実はわかっていない。

ワークショップ当日は誇らしいのですが、その翌日・翌々日に「これをどうコンセプトとして具体化したらいいのか」となった瞬間に、いわゆる発散と収束のよいやりかたがわからなくて、後続の検討が放置されてしまうこともありがちです。

やはり、しっかりしたビジネスに落とし込むための「やりかた」を知ることが重要です。

また、単独の一企業だけで新規事業開発をやりきることも大事ですが、いわゆるオープンイノベーションというやりかたで社会実装していこう、社会課題に向き合おうという時代になってきているとも思っています。

我々も、個別のお客様の新規事業開発のご支援に回ることも多いのですが、「共創型で何か一緒にやろうよ」ということも、とくに最近は新規事業開発の初期フェーズで増加傾向が強まっています。

志賀:ありがとうございます。1つ質問をいただいているのですが、方針を立てるときにどのくらいの粒度でおこなえばよいか。安田さん、いかがでしょうか?

安田:まず我々は「方針」ではなく「使命」という言葉を使っています。

自分たちでしっかり言語化しつつ、上の人の話を聞くことを心掛けていて、結果として、両者にとっての「使命」とすることが大事だと思っています。

粒度に関して、我々は言語化して表現したんですけど、「どういう世界を作りたいのか」「何を大事にするのか」ということを書き出して、最終的に「事業開発コンセプトとしてこういうものを作らなければいけない」ということを1枚の紙に明文化しました。

志賀:「使命」のようなものって作った瞬間が一番みんなの感度が高くて、時間が経つと忘れ去られてしまうこともあると思うのですが、どのような運用をされていますか?

安田:うちの会社は社是を唱和したりするような時間があったりするんですけど、事業開発コンセプトについても、メンバーで集まったときに言葉に出して、改めて起点を思い出すということをやっていました。

志賀:思い出して事業の判断軸になったり、みんなの拠り所になったりするというイメージでしょうか?

安田:そうですね。「大事だよね」と言うだけではなくて、大事にするための時間が必要だなと思っていて、実際に繰り返し唱和した結果として馴染んできたり、判断軸になってきたり、解釈や理解度が深まったりしています。

志賀:ありがとうございます。西村さんもコメントお願いできますでしょうか。

西村:我々も新規事業を作っていく際に、プロジェクトオーナーに対して、いつまでに何をここまでやらなきゃいけない、それを埋めるための新規事業でこういうことを考えなきゃいけない、という前提の落とし込みと言語化を最初にしっかりやるという取り組みをしています。

これが、イノベーションの使命(アサインメント)づくりです。

現場側にも、それを落とし込み、前提を共有しながら取り組むことによって、冒頭にも話したように新規事業開発がアンダーグラウンドなレジスタンス活動ではなく、しっかり上からも期待された活動として立ち上げることができるというわけです。

上位層からすると、中計などの多くの資料で以て現場に方針を伝えきったつもりになっているのですが、実は自分たちが取り組むべき新規事業の方針をシンプルにわかりやすく言語化できていなかったりするので、ここをやることによって、新規事業開発の双方向性として、現場と意思決定層の繋ぎ込みができるようになると思っています。

「FORTHイノベーションメソッド」とは何か

志賀:ありがとうございます。話を進めていきたいと思います。先ほど西村さんから「イノベーションの不確実性はマネジメントする時代になった」というお話があったと思います。

安田さんは実際のナレッジとして、社内でどのようなワークをしたのかお伺いしてもよろしいですか?

安田:私はちょうど1年前に、西村さんに「FORTHイノベーション・メソッド」を教わり、そこでの学びをもとに、社内で「Make2030」というプログラムに取り組んでいます。

「Make2030」の参加者は100名超の中堅社員です。「ムラタの2030年を作ろう」ということで、1チーム5名で活動しているのですが、私はチームに「FORTHを使ってみましょう」と提案して、半年間活動してきています。

志賀:安田さんから具体的な活動内容を伺う前に、そもそもFORTHとは何かについて教えていただけますか?

西村:FORTHはもともとオランダで開発された「FORTH INNOVATION METHOD」という手法です。

いわゆるゼロイチ段階での新規事業のアイディエーションをしっかりと確実に、顧客検証も込みで、ある程度具体的にコンセプト化することができます。

ゼロイチフェーズでしっかりしたプロセスがあることを不思議に思われるかもしれませんが、デザイン思考とビジネス思考が非常にうまく設計されていて、トータル20週間をさまざまなワークショップやタスクを組み合わせて進めることができます。

このプロセスをやり切ることにより、ある程度検証ができた状態で、3つから5つぐらいのビジネスコンセプトができあがります。

FORTH自体はオープンソースですが、NTTデータには私を含め、国内世界最大規模の公認ファシリテーターが在籍しており、社内での新規事業やお客様との共創に役立てています。

村田製作所さんにおいても、安田さんがこれをうまく活用した取り組みをされているという形になります。

「Make2030」の活動内容と気づき

志賀:ありがとうございます。では安田さん、具体的な活動について教えてください。

「Make2030」で実際にどのような活動をしていたのかというのがこちらの図です。

まず最初に5人で1つの使命を作りました。

その後、使命の言語化をしっかりして、使命に関わるキーワードを書き出したうえで、15のキーワードを選びます。

「カタルシス」や「病院」など、いろいろなキーワードが出たのですが、キーワードに関して37件のインタビューをおこない、課題解決のアイディアを312個出し、15のコンセプトをつくり、最後に3つの事業企画に落とし込みました。

やってみて良かったと思っているのは、「FORTH イノベーション・メソッド」のような拠り所になるものがあると、どうやればいいのかという議論ではなく、何をやるのかに集中できるところです。大事な部分を外さないというか、使命の言語化を明確にすることがポイントだなと思います。

チーム活動については、3〜4ヶ月の間ずっと顔を合わせてやってきたからこそ、アイディア出しやコンセプトづくりで素直な意見が言い合える仲になるんだなと思いました。

コンセプト創出のプロセスにはプロが必要だなとも思っていて、自分でアイディアを出す側・ファシリテーションする側の両方をやってみたんですけど、非常に難しかったです。

なのでプロセス設計を繰り返しやってきている人がいる会社といない会社では、ぜんぜん違うんじゃないかなと思っています。

新規事業立ち上げの注意点・体制とは?

志賀:西村さんにも伺いたいんですけど、1つの使命を作ってから事業企画に落とし込むまでの流れで注意点や意識すべき点はありますか?

西村:何かの新規事業を作るときに、「すでにアイディアあるんだよね」という方もいらっしゃると思います。

それはそれで進めていけばいいのですが、(FORTHでは)今あるものを無理やり押し込んでやるというよりかは、みんなでチーミングして、使命にもとづく新規事業を作っていく中で、そのプロセスにしっかり取り込んでいくことが重要だと思います。

自分たちの使命とは何かと自己開示しながらチームを作っていき、その共感できるミッションに向かって動いていくようなやりかたをしています。

志賀:教えていただける範囲でいいのですが、安田さんがチームで定められた使命はどのようなものですか?

安田:全部読み上げると長いので、部分的にご紹介します。

「世界の中でも少子高齢化の進みが早い日本では、国や地域レベルでのマクロな効率の改善が課題となる。これまで情報の流動性の高まりによって、生産性や利便性が向上してきた。これからモノの流動性の高まりによって実社会の進歩や改善が期待される」といった話。

あとは「日本でも新たなモノの流動性の高まりもあるけど、人と社会が適合するには人の心を動かすことも鍵になる」といった話。

そういった文章が書いてあり、基準としては「ヒトやモノなどの動かす対象がある」「ライフスタイルやワークスタイルに変化をもたらす」「社是に即している」「目標上市時期は2027年内である」「最後は自分たちなりのスタイルとして楽しくかつ真剣に取り組む」といったことを、1ヶ月くらいかけて作りました。

志賀:コア技術や自社アセットの活用など、自社との関係性はどの程度、使命に盛り込まれたのでしょうか? 合わせにいくというより、結果として合ってきたというほうが近いですか?

安田:今回は15個のコンセプトを作ったのですが、そのうちのいくつかはシナジーが効くもの、またいくつかは全然関係ないものになったりします。すべてガチガチにシナジーをつけるとなると、バリエーションがかなり狭くなってしまうと思います。

ただ、自然と思い浮かぶことはやっぱり社内のこととつながる部分もあり、15個のコンセプトから3つの事業企画を選ぶときには、魅力や実現性で評価して選ぶので、そこでも(社内の声が)反映されたりはします。

志賀:ありがとうございます。すこし話を変えますが、実際に新規事業の使命を考えるフェーズ、事業立ち上げフェーズではそもそも何人でやるのがいいのでしょうか?

西村:FORTHイノベーションメソッドを前提にお話ししますが、一連のプロジェクトが終わったときに、作りたいコンセプトの数×2のチームメンバーの人数を推奨します。

これはプロセスの中で、最後にコンセプトを作っていくときに、ペアワークをしながら、それぞれがプロジェクトチーム内でレビューや編集しながら磨き上げることが算出の根拠となっています。

また、ワークをするうえでのチーミングは大事です。つい同質性の高いメンバーを集めてしまいたくなることもあると思います。

それだと特定のフェーズでは勢いよく進むかもしれませんが、結局その後に、さまざまな組織横断で進めなければならない状況で行き詰まったり、多様性の欠如に起因するコンセプトのクオリティの限界の露呈といった問題が発生したりするので、なるべく多様性のある横断的なチームを作ることを推奨します。

実際、安田さんのMake2030も社内の多様なメンバーですよね。

安田:そうですね。知財、医療機器の商品企画、商品開発、タイの工場にいる人にも参加してもらいました。

人数の話については、たとえば、コンセプトもモノも作れるスーパーエンジニアであれば1人でもできると思います。

しかし、私はビジネスサイドの人間で一人では開発ができないので、作れる人と組まざるを得ません。多様性を最大化しようとすると、5人くらいになってくると思います。

志賀:今回の「急成長を実現する」というキーワードに対して、FORTHはどのように関連するのでしょうか。

西村:けっこうキャッチーな言葉を書いたので、人によっては「イケてる事業を作るためのやり方ですか?」と思ってしまわれる部分があるかと思うのですが、そうではありません。

FORTHは、組織全体に新規事業を成功させるためのマインドセットやケイパビリティ、あるいは新規事業開発を裏側で支えていくための、エコシステムづくりみたいなものにポジティブな影響をもたらしうると思います。

複数のコンセプトを作り、それぞれをローンチする必要があるので、1つの事業の大当たりを保障するというよりかは、新規事業のケイパビリティや成功の再現性を向上させることができるというイメージを持っていただくのが良いのかなと思っています。安田さんはどうですか?

安田:20週間という期限が決まっているので、しっかりと作り上げる工程なくしては初速が上がらないというか、半年間やってきたから「このメンバーとならやれる」という感覚を持てています。あとはやはり、事業開発の量をこなすことも大事だなと思います。

伴走する側・される側が持つべきマインドセット

志賀:ありがとうございます。最後に「コンセプト創出のプロセスにはプロが必要」という点について伺います。

安田さんはどちらの立場も経験されたと思うのですが、新規事業開発に伴走する側として、どのようなマインドセットを持つべきかをお話しいただけますか?

安田:事業コンセプトを作る工程に対するプロ意識は必ず要ると思います。

あとは、外にも中にも開いている状態というか、「こういうことをやるぞ」となったときに、社内で人を集めることも絶対に必要だと思っていて、あとはインタビューなどで外に「こういう人を知らないか?」と働きかけることもあると思うので、オープンマインドなのか、素直さなのか、好奇心なのかわかりませんが、そういったものが大事なのではないかと思っています。

また、変な表現になるかもしれませんが、「人を大事にする」とか「人を面白がる」ということも大事だなと思っていて、「プロセス屋さん」ってちょっと冷酷なイメージがあるじゃないですか。「この工程に従ってください」というような。

私は事業コンセプトを作るってそういうものではないと思っていて、やっぱりお互いの想いを交わす部分もありますし、面白おかしく、元気に、時に熱くなれる場を作れないといけないと思っていて、そのような雰囲気醸成も大事にしたいです。

西村:事業開発の支援といったときに、どうしても支援部門の方々は「我々は事務局ですから……」といって引いてしまう形も多いように思います。

事務局としてのプロフェッショナリティもあるとは思うのですが、事業開発の現場の、より内部に入っていく機能が必要であるとなったら、自分たちにそのケイパビリティをつけるか、プロフェッショナルとして提供しているところと一緒にやるかという決断が重要だと思います。

アクセラレーター組織やそういった支援者や伴走者の価値って、ただ事業のローンチまでのスピードを上げるだけじゃなくて、「事業化への加速」と「事業価値の拡大」とあと「成功の再現性を上げる」ということを役割として明確に担わなければいけません。

あとは、自分たちが注力するポートフォリオを考えることも必要です。

「何でもやります」となると、なかなか知見がたまらないので「自分たちとして取り組む領域はこうだ」みたいな形で、支援者サイドにも意思を持つことがまず重要だと思います。

しっかりとしたプロセスを持つことができると、本当に事業開発を強くすることができると思いますし、自分たちが「いいな」と思えるプロセスがあれば、しっかりと咀嚼することが重要です。

また、ウェビナーでも「他社の事例を教えてください」と聞かれることが多いのですが、みなさん自身の新規事業を作っていくうえで、他社の成功事例ってどこまで必要なんですか、ということはあらためて問いたいです。一歩間違えると、あなたの単なる知的好奇心の満足程度にしか役に立たなかったりもします。

このようなウェビナーにご参加いただくことも、すごく光栄だしありがたいのですが、ただ参加するだけではなく、やっぱり自分たちの学びを持っていただきたい、持つべきだよなと思っています。

もし本当に他社事例から学びたいのであれば「守破離の“守(先人の教えを守るところ)”をちゃんとやりましょう」と強く申しあげたいです。

このFORTHイノベーションメソッドに関しても、安田さんたちの取り組みが本当に素晴らしいなと思ったのは、「このプロセスはいいかもしれないな」と思ったときに、しっかり愚直にやってみようとしてくれたんですね。私にもいろいろな相談をしてくれたので、こちらも強い想いを持って一緒に伴走することができました。

また、アンチパターンの分析は取り組む価値があると思います。

アンチパターンというのは、とにかくそれをやらないだけで失敗を回避できます。綺麗な成功事例を「くれくれ」するのではなくて、自分たちがアンチパターンの轍を踏まないようにしっかり取り組むことが重要です。

あとは最後の「青い鳥なんていない」ということを考えていただければと思います。

志賀:外部のプロに頼るという点について、どういうシチュエーションで、どのように頼ったらいいのかということを最後に伺えますか?

西村:そうですね。頼るにせよ頼られるにせよ、僕らは「単に1プロジェクトだけやるというのは逆にもったいないです」と言っています。

というのも、そのプロジェクトが終わったらお互いにチームを解散してしまって、またゼロからスタートしなければいけません。

事業開発をしたといっても、本当にすべてのノウハウが蓄積できているかというとそうではないので、いくつかのプロジェクトを包括的に、同時進行でご一緒できるような伴走のやりかたができれば、本日の主旨である「急成長を実現する」という意味での効率性は圧倒的に上がります。

それをやった後に、たとえば半年なら半年、1年なら1年という振り返りをしっかりやって、自分たちでもう自走できるようなところは変にコンサル漬けになってはいけません。次の挑戦のために、自分たちの次の予算を使うほうが絶対にいいお金の使いかたになります。

とはいえ、もしまだ不安な部分があるのであれば、そこはあらためてもう1回プロフェッショナルの力を借りながら伴走してもらい、「次にできるようになるんだ」というようなマインドセットが必要です。

志賀:安田さんは、1社目がコンサルティング会社だと思います。事業側として、どうやって頼るのかという点についてはいかがですか?

安田:自分たちがやること・やらないことをちゃんと仕分けすることが一番大事だと思っています。相手に任せる領域を明確に絞るということですね。

あとは結局、自分たちがゆくゆくはその領域までやるつもりがあるのか、ずっと頼り続けるのを良しとするのか。学ぶ必要があると思っているのであれば、頼り方は変わってくると思います。

前提として、対象範囲の絞り込みと習得意思の明確化が大事なのかなと思います。

安田さん、西村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました