東芝が目指す共創の未来 オープンイノベーション戦略の軌跡と展望
本日のセミナーのテーマは、「東芝が目指す共創の未来、オープンイノベーション戦略の軌跡と展望」です。
様々なIoT機器やWebサービスをモジュール化することで、ユーザーが自由に組み合わせて便利なしくみを簡単に実現することができるIoTプラットフォーム「ifLink」。※1
※1 ifLinkは、東芝デジタルソリューションズ株式会社の登録商標です。
今回は、そのプラットフォームを普及すべく、東芝を含む複数の企業が業種・業界の枠を超えて設立した一般社団法人ifLinkオープンコミュニティについてお二人のゲストをお招きしてお話しいただきます。
なぜ事業開発の第一歩としてコミュニティ作りに取り組まれたのか、熱量や共創を生むためにどのような仕掛けをされているのかについて伺いました。
Speaker
千葉 恭平 氏
東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 ifLink推進室 部長
一般社団法人ifLinkオープンコミュニティ 理事 コミュニティディレクター
2001年、東芝に入社、デジタルソリューション事業に従事。
2018年より、東芝の全社DX・CPS推進部門の戦略企画を担当。
新たなデジタルビジネス創出/文化醸成を目的とした全社活動「みんなのDX」の初期立ち上げや、東芝の事業会社と社外企業をつないで新たなビジネス共創を促進するオープンイノベーションの枠組みづくりを推進。
2019年より、ifLinkというプラットフォームオープン化のプロジェクトリーダーを担い、100社超の企業や団体が垣根を越えて“IoTの民主化”を目指し共創活動を行う「一般社団法人ifLinkオープンコミュニティ」の立ち上げと運営責任者を務める。
現在、ifLinkを通じて様々なパートナーとの事業共創に邁進中。
丸森 宏樹 氏
東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 ifLink推進室 スペシャリスト
一般社団法人ifLinkオープンコミュニティ コミュニティマネージャー
2015年、東芝に入社、火力発電事業に従事。
2019年より、東芝の全社DX・CPS推進部門に異動してifLinkを担当し、一般社団法人ifLinkオープンコミュニティの立ち上げと運営推進を務める。
「ifLinkやifLinkオープンコミュニティを通じて沢山のモノやヒトを繋いで、一人/一社ではできないことをカタチに」を具現化すべく、異業種・他企業との共創による商用・実用化に驀進中。
志賀 康平
株式会社ユーザベース
Marketing Division INITIAL Marketing Team Manager
東北大学工学部を卒業後、西日本旅客鉄道(JR西日本)に入社。
非鉄道事業部門の新規事業チームにてM&A・PMIを経験。その後、経営企画部門に異動し、グループ会社の経営管理業務、コーポレートベンチャーキャピタルの戦略策定、新規事業部門の立上げ及び合弁会社(新規事業)の撤退・清算業務を経験。
2021年7月からユーザベースに参画。SPEEDA事業を経験したのち、INITIAL事業のマーケティング&ブランディングを担当。
東芝のオープンイノベーション戦略
ーーなぜ「ifLink」を活用したオープンな共創の“場”としてifLinkオープンコミュニティを作るに至ったのでしょうか。
千葉恭平氏(以下、千葉):ありがとうございます。我々はデジタル化を通じて、様々な技術、製品、お客様の生活のインフラや社会インフラを支える仕事をしています。
これからのさらなるデジタルエコノミーの発展に向けて、従来の枠を超えた新しいビジネスの創出に取り組んでいます。
「オープンイノベーション」の狙いは、ビジネスポテンシャルを飛躍的に広げることです。
たとえば、東芝の中にはたくさんのユニークなアセットがあります。技術だったり、様々な優秀な人材だったり。ベンチャーアイデアや、マネーサイドもその1つです。
それらを外部の異視点・多視点と掛け合わせて、新たなマネーサイドの開拓・アイデアの拡張やピボット・アセットの価値の再定義をすることで、ビジネスポテンシャルを飛躍的に広げようと考えています。
そのポテンシャルを引き出すトリガーとして、オープンなエコシステムによる仲間づくりを取り入れることにフォーカスしました。
また、日本独自の製造業やサービス業としての強みを活かす場合、「縦割りのIoT・縦割りのDX」では、ユーザーから見て、なかなか価値が最大化できません。
そこで、東芝だけのIoTやDXではなく、いろいろな方が枠を超えてつながり、ユーザー体験を作っていく姿を目指したというのが、もう1つの狙いです。
ifLinkオープンコミュニティの設立時の根底には、スケールフリーネットワークという考え方があります。
詳細は「スケールフリーネットワーク」という書籍に記載がありますのでぜひご覧ください。
サイバーとフィジカルが両方重なった世界で、スケールフリーネットワークを実践していくためにはコトが自動的に起こるような場作りが非常に重要になります。本日ご案内する「ifLink」の取り組みも、この考えを体現・実践していく取り組みの1つです。
ーーその方向性として、なぜ「ifLinkオープンコミュニティを作る」に至ったのでしょうか。
千葉:「アセットをオープン化しましょう」「持っている技術をオープンにします」と言うだけでは、コトが自動的に起きないという想いがありました。
とはいえ、我々としても答えを持っていなかったので、数十社に場や活動のコンセプト仮説を持ち掛けて対話を繰り返しました。テクノロジーをオープンにし、みんなが何をやりたいか・どうやったら参加しやすく、知恵やアセットを交換しやすい共創のプラットフォームになるかをフラットに議論して、実験できる形は何かを考えた際に、コミュニティという共通概念が出てきたという経緯です。
丸森宏樹氏(以下、丸森):もともとコンソーシアムというフレームで考えていたのですが、もっとカジュアルに従来の枠を超えた共創のできる場にすることが良いのではないかと考え、コンソーシアムではなく、コミュニティにしました。
ーーありがとうございます。アセットを共有する際、どこまでオープン/クローズにするかはどのように整理されたのでしょうか。
千葉:最初から綺麗に整理しすぎることは考えておらず、まずは「提供する心構え」を大事にしましょうという考え方をしています。そうでなければ、何も始まらないからです。具体的な技術や製品だけではなく、それぞれが持っている何かをGIVEをする姿勢で臨むことで、徐々に進んでいった認識です。
ーー率先して何かをGIVEすることには、ハードルもあると思います。どのように進めることで、このハードルを超えていったのでしょうか。
丸森:Giveというと素晴らしい製品や技術を提供しなくてはいけないとイメージされるかもしれませんが、私はそうでなく、皆さんの会社や会社に所属する個人が抵抗なく提供できるものをカジュアルに出し合うことが大事だと思います。
たとえば、実際に各社が持っているモジュール、アセット、スキルをカードにして、そのカードでこの会社のこれと、この会社のこれをつなげたらこんなことできるんじゃないかと、ワークショップ的に行うことがあります。
実際にワークショップをやっているとイメージが具体的になるので、そのように事前にイメージした上で、ビジネスモデルやマネタイズは劣後で考えていくというステップを踏むことが重要だと考えています。
千葉:基本的には「GIVE&GIVEでやっていきましょう」と言っているのですが、最近はWill=「やりたいこと」が明確にある人とGIVEができる人や企業がつながるとコトが起こりやすいと思っています。
ifLinkオープンコミュニティとは
ーー「ifLinkオープンコミュニティ」(https://iflink.jp/)の活動内容や事例を教えてください。
千葉:こちらが、2023年5月24日のセミナー時点でのifLinkオープンコミュニティのコミュニティの会員のみなさまです。
ifLinkオープンコミュニティは一般社団法人になります。特定領域に限らず、業種業界はバラバラ、企業規模も垣根もなく、フラットなコミュニティです。
また、学校法人・非営利団体の方々もいらっしゃいます。常時100を超える会員のみなさまと一緒にこのコミュニティを営んでいます。
そして「ifLink」はモジュールを組み合わせてIoTを作れるプラットフォームです。
様々な会社のみなさまが作ったハードウェア機器・デバイス・アプリ等を、「ifLink」を介して組み合わせることができます。
こちらがコミュニティの概念図です。
本当に多様な会員のみなさまがいらっしゃり、出会いの場として人や物やアイディアを掛け算する出会いもあれば、試行の場として、1ヶ月・3ヶ月等のスピード感でビジネスを検証する企画もあり、さらに起業の場として新しいビジネスやソリューションをここから共創で生み出すことも可能です。
図のように、「つくりやすさ10倍」で繋がるモジュールを増やしていき・エコシステムを拡充し、「つくる人100倍」で多様な人材とアイディアも増え、その掛け算で「生まれるアウトプットは1000倍」という掛け算の連続がifLinkの活動コンセプトです。
その先には、専門家でなくとも、自由な組み合わせでIoTを使いこなせる社会を実現すること、すなわち、IoTの民主化が実現することを目指しています。
商品共創アプローチ事例(アウトドアIoT)
ーー次に商品化の具体事例をお伺いしてもよろしいでしょうか。
丸森:キャンプIoTの事例をご紹介させていただきます。
アウトドアIoTということでユーザー体験を作れるIoTの機能のついた“キャンプギア製作”というプロジェクトがあります。
PUZZLCEという金型メーカーの小池社長が、キャンプとIoTという2つを組み合わせ、今までにないユーザー体験を提供したいという強い思いを持って、このコミュニティに入って下さいました。
小池社長の課題は、これまでハードウェア一筋でやってきたので、IoTをやりたいと思っても、スキルや経験が全くないことでした。
そこで、小池さんが実現したいアウトドアIoTのコンセプトや想いをコミュニティのメンバーに発信していただき、共感したメンバーが一緒になって、アイディア出しと、それを実際に高速でプロトタイピングまで行いました
およそ2ヶ月ぐらいの非常に早いスピード感で試作を作り、実際のユーザー側の視点になるべく、キャンプ場で試作品を試してみて、ディスカッションも行いました。現在はクラウドファンディングでこの商品を出すというフェーズまで進んでいます。
ーーサポーターの募り方や、サポーターの立ち位置等の仕組み面についてお伺いできますでしょうか。
丸森:コミュニティの中でいろいろな場作りをしている中の1つとして、商品化を目指しているメンバーを一緒に助けてローンチまで持っていこうというプロジェクトを起こしました。
そのプロジェクトにPUZZLCEの小池社長に登壇をしていただいて、「世の中にないキャンプIoTを作りたいんだ」というコンセプトを発表してもらいました
そして、その場で協力してくれる方を募集しますと発信いただき、それに対して集まっていただいたのがサポーターというメンバーになります。
ーーサポーターに対する報酬はありますか?
丸森:現段階では無償で参画いただいています。
無償のGiveというと綺麗に聞こえますが、最終的に自分達に何らかの形で返ってこないと、それを永続することは難しいと考えています。それでもなぜコミュニティではGiveし続ける人が多いのかというと、GIVEをする方はコミュニティ内での認知度と需要が高まり、多くの仲間と繋がることができるようになります。沢山の人と繋がることで様々な情報が入るようになり、結果として個人の嬉しさを実現できたり、更には会社の売上に貢献できた事例も生まれてきています。
ーー企業間同士でアセットを出し合った事例もありますか?
千葉:「新型コロナ課題を解決するぞ部」という事例があります。当時、新型コロナウイルス感染症が拡まった時期に、このコミュニティが発足しました。
メーカーのみなさまが「コロナの課題解決に役立つソリューションを作りたいよね」という想いをひとつにし、始まりました。
発熱検知アプリやCO2のセンサーでCO2の濃度を検知するものなどを検討していましたが、いわゆる“部活”のような形で行っていたので、誰かが予算を持って商品化するという話でもありませんでした。
しかし、最終的には、アイディアの中から、飲食店内の(空気)環境を見える化するサービスが誕生し、実際に店舗に導入されました。
従来のような、商品企画をし、事業計画を立て、誰かが予算を持ってやる、という形式ではない事例です。
逆に、将来のユーザー様からのお問い合わせがあり、プロジェクトを組んで世に出したという経緯の事例です。商品ありきではなく、マーケットの要望があった時、当事者でビジネスを生み出したものです。
ーーありがとうございます。当事者間の熱量に差が生まれないための仕掛け作りや場づくりはありますか?
丸森:我々事務局が、制約を持たせ過ぎないことを意識しています。
“「ifLink」を使う”という共通ルールはありますが、コミュニティで何をするのかについては正直なんでも良いと考えています。
キャンプIoTであったり、教育事業であったり、ロボットを使ったサービスであったり。そこに自由度を持たせることによって、個人や所属組織の意思で「こういうことがやりたい」というものが出てくることが重要だと捉えています。
実際にコミュニティで活動をされて、それを最終的に会社に還元できるような取り組みをされている方もいます。
千葉:新たな売上が立つ=マネタイズの成果もあれば、新しい探索をして今まで自分たちになかった知恵や価値を広げていくという成果もあれば、人材育成のような文脈の成果もあります。
「みなさんはこの場でどのように活動していきたいですか?」ということを丁寧にコミュニケーションしながら進めています。
ーー「ifLink」側はどのようなKPIみたいなものを定めて活動をしているのですか。
千葉:モジュールやアイディア等のコンテンツが生まれてくること自体が価値というのがまず大前提にあります。当然マネタイズも目指していますが、ユーザー視点を重視していますので、まずは普及・ユーザーによろこんで使われている状態を目指すべきというのが、基本的な考え方です。それがゆくゆくの商用的な話になると捉えています。
ーー「ifLink」の社内での認知はどのような感じなのでしょうか。
丸森:2023年3月で設立4年目になりますが、日に日にifLinkを軸にして一緒に活動するメンバーが増えていますので、東芝の中でのifLinkの認知度も、かなり広がってきている実感があります。
千葉:最初にDXやオープンイノベーションというキーワードを出しましたが、本当にそれらを実践していくロールモデルがifLinkとifLinkオープンコミュニティであることは間違いないと思っています。
少しロングテールですが「ユーザーのかゆいところに手が届き、そしてそれが世の中に広がったらビジネスになる領域」に対して、リアルにその0→1、1→10を推進する場になるポテンシャルを秘めていると感じています。
ーーありがとうございます。次は「ifLinkオープンコミュニティ」でオープンイノベーションを実践する際のセキュリティ面について教えてください。事業アイディアの漏洩などのリスクについては、どのようにお考えですか。
千葉:我々は事務局として、会員同士のプロジェクトをコントロールするという考え方はしていません。セキュリティ面は、当事者同士で進めていただいていて、今後もそのような対応になるかと思います。
また、オープンにした方が、仲間が集まり、アイディアだけでなく、実現手段も増えるため、とことんオープンにしていくことを推奨していますし、逆にオープンにしたくない・しちゃいけないことは、自主自律で秘匿性を遵守していただいております。
今後の展望について
ーー最後に、ぜひ今後の展望を教えてください。
丸森:私自身が事業共創を今まさに勉強している段階です。
私が携わっているビジネスをローンチさせて、ここで得た経験・スキル・ノウハウを社内に還元し、多くのビジネスを起こせる人材になっていきたいと考えています。
そのためにコミュニティに入ってきてくれた方々の想いを大切にして、やりたいことを実現するための場作りを今後も率先していきたいと思います。
ーーありがとうございます。千葉さんもお願いします。
千葉:設立4年目に入り、人と物とアイディアがつながるネットワーキング、爆速のプロトタイピング、その他ビジネスの事例が増えてきています。
会員さんとは、「今後も従来の縦割り型ではできない具体的な商用のサービスや、アウトプットが生まれる場を目指していきましょう」とお話をしています。
その中で、全てがビジネス側に寄るのがいいのかという議論も出ています。やはりネットワーキングや人材育成などの価値も享受しながら、最終的なマネタイズ・新しいビジネスの成果を追求していく姿勢を継続したいと思います。