#新規事業開発

海外法規制の要点を1日でつかむ

海外法規制の要点を1日でつかむ 海外法規制の要点を1日でつかむ

新規事業の中でも、海外展開が必要となる事業では、国内事業とは異なる課題も多く、とくにアジア地域では、規制の実態がわからないことで、事業の検討段階で行き詰ることがあるかと思います。

新規事業案は多くの事業案を検証し、取捨選択しながら磨いていくことが求められます。

そのようなときには、エキスパートリサーチで不足情報を補うことで、検証の速度や判断の確度を高めることができます。

今回、焦点をあてる「海外の法規制」は、クリアできなければ市場参入自体ができない重要な項目であり、初期段階で概要を把握しておくことで、その後の検証作業を効率化できるメリットがあります。

海外法規制について把握する3つのメリット

海外法規制について把握するメリットは以下の3つが挙げられます。

法規制の把握は海外新規事業に必須

一般的に、新規事業開発では、アイディア段階である初期仮説から事業化までに、仮説を検証しブラッシュアップしていく工程が重要となります。

その際に、市場動向や法規制、競合企業の状況、顧客ニーズなどを調査する必要がありますが、非公開情報も多く、把握が難しい場合もあります。

とくに法規制は、参入可否を左右する重要な事項ですが、新興国では言語の壁やそもそも明文化されていない場合もあり、実態の把握には実務者の知見が欠かせません。そうした情報収集には、エキスパートリサーチが有効な手段の1つとなります。

エキスパートリサーチとは、デスクトップリサーチが困難な分野において、第一線で活躍する専門家からアドバイスを受けることができるサービスです。

たとえば、化成品の場合、許可成分の具体的なリスト(ポジティブリスト)がない場合、自社製品の販売可否や、自社の生産・品質管理方法が規制の要求水準に合致するかといった項目はなかなか把握できません。

時間をかければ調査可能かもしれませんが、進出候補国すべてに調査を実施することは困難です。

以降の章では、規制の把握がとくに難しい新興国市場について、食品・化粧品原料を扱う化学品メーカーの事業開発を想定し、エキスパートリサーチを活用した情報取得の効率化イメージを紹介します。

新興国における、規制情報収集の壁に当たる

化学品メーカーA社では、化粧品原料を生産しており、ハラール化粧品の展開を開始したスタートアップのニュースをきっかけに、「ハラール化粧品向けの機能性素材を開発できるのではないか?」という着想を得ました。

その仮説を検証するため、SPEEDAのハラール産業トレンドや公開されているムスリム市場についてもレポート・各種ニュースなどを調査したところ、ハラール産業についての市場動向などを概ね把握でき、広くムスリムに訴求できるため、提供価値や市場の可能性はあると判断しました。

一方で、法規制については多くの不明点がありました。

アジア地域は言語の問題がある上に、ハラールについては明文化されているものも見当たらず、具体的な規制の内容の把握が難しいためです。

しかし、法規制の概要がわからないと事業の実現可能性は判断できません。

デスクトップリサーチによる情報収集可否

エキスパートリサーチで規制概要を把握する

ハラール化粧品やその素材を展開するためには、ハラール認証の取得条件がキーポイントになると考えられるが、公開資料ではこれ以上収集できそうにありません。

そこで、スピーダのサービスであるFLASH Opinion※を活用してエキスパートに見解を求めることにしました。

※FLASH Opinion:24時間以内に5名以上のエキスパートからテキスト回答が得られるリサーチ手法

Q.ハラール化粧品に使用可能な成分は?

化粧品素材においてハラール認証を取得したい場合、

1)エタノール、豚由来成分(ブタ由来プラセンタやコラーゲン)以外の配合は可能と考えてよいでしょうか。

例えば、化学構造的には広義にアルコールと捉えられるエタノール以外のもの(基材用途でのセタノール、防腐用途のフェノキシエタノール、保湿用とのグリセリン等)は使用可と認識しています

2)エキスや香料中にエタノールが含まれる場合、そのエキス原料は使用不可でしょうか。

3)その他に注意すべき条件があればご教示ください。

1)エタノール(アルコール)、豚由来成分、豚以外の動物由来成分は不可
2)エキスや香料等にエタノールが含まれる場合、使用は控えたほうがよい
3)その他
・製品中に含まれるすべて原材料の製造過程において、忌避される成分を含まないこと
・製品の製造過程での汚染がないことや包装資材にも動物由来成分が含まれないこと
・物流段階において、非ハラル製品と隔離しての輸送や倉庫保管でも隔離した管理が必要
・販売時の商品陳列に関しては、非ハラル製品と分けて並べるよう配慮が必要

・イスラム教の教義は「解釈」により大きく異なる
・アルコールでは、「酔っ払うこと」をNGとしてビールは売っても良いというインドネシアと、
「酔っ払う原因となるアルコールを販売すること」をNGとするブルネイや中東諸国とで分かれる
・エキス原料としてもアルコール成分と解釈されるようなものは、利用しない方がよい
・東南アジアでは、インドネシアは比較的寛容だが、ムスリム層の所得水準では、ブルネイ>マレーシア>インドネシアと厳格な国ほど富裕層が多くなる。厳格な国にあわせることが、追加投資せずに商品開発出来るのでは

Q.工場のハラール認証取得に必要な条件は?

ハラール化粧品向けの工場の認可取得に当たっては、製造および管理過程で使用不可成分が混入しないことが必要と認識しています。

1)通常の製造ラインとの隔絶はどのレベルで必要でしょうか?(施設を完全に分ける、製造ラインを分ける、製造ラインを分けてビニールなどで遮蔽されている、など)

2)容器や製造機器などの消毒でのアルコール使用について、十分に乾燥させるなどの処理により残留していなければ、使用は可能という認識でよいでしょうか?

1)マレーシアの場合
・製造ラインならば、ハラールの製造ラインとノン・ハラールの製造ラインは別々の建物か、
同じ建物でも別の部屋に設置するのが適切
・材料の保管庫なども別々に分けることが必要
・ハラールとノン・ハラールの製造ラインの転用(今週はノン・ハラール、再週はハラール、といった具合に)は認められない
2)器具や製造ラインのアルコール消毒
・最も適切な方法は当該認証団体が認めている消毒剤の使用
・なお、手指を洗う際のアルコール消毒の使用については、
コロナ対策としてイスラーム法学者の間でも認める傾向が高まっている

・「ハラール認証」は各国で、また認証機関によって基準も異なる。
東南アジアでは、マレーシアの認証が比較的信用度が高い
・アルコール使用については、いずれの処理をしたとしても、
後々のリスク回避の観点から、利用はおすすめできない
・工場の立地に関しては、「豚」の飼育施設や加工場等が半径○○キロ以内に存在する、
等もNG項目となると考えられる

以上の回答から、成分上の問題は大きくない一方で、認証の取得に専用の設備を用意する必要があり、大きな設備投資が必要となるであろうことが把握できました。ただ、コロナ禍の影響もあり、こうした基準は変更される可能性もあります。

顧客の潜在ニーズはデスクトップリサーチでは把握できない

ハラール化粧品向け素材に必要な条件はわかったが、A社にとってかなりの投資が必要となることもあり、顧客である化粧品メーカー側のニーズ有無を確かめる必要があります。

大手化粧品メーカーでは既にハラール製品を展開しているとの報道がなされていますが、ハラール化粧品を含むと考えられる東南アジア事業の規模は大きくありません。

また事業戦略をみると、現在注力しているのは中国市場であり、東南アジア市場の優先順位はそれほど高くないように見えます。

しかし、東南アジアは成長市場であり、今後注力領域になるとすると、投資価値がある可能性もあります。

デスクトップリサーチによる情報収集可否

エキスパートリサーチで顧客のニーズと課題を抽出

そこで、エキスパートリサーチを活用し、化粧品メーカーやパーソナルケア用品メーカーを対象に、東南アジア市場での戦略や課題、ハラール化粧品のニーズ有無の把握を試みました。

Q.化粧品 パーソナルケアメーカーにおける東南アジア市場の位置づけは?

ハラールの化粧品・パーソナルケア向けの機能性素材の開発を検討しています。

現状では大手化粧品・パーソナルケア用品メーカーの海外展開は中国を軸としており、イスラム圏の マレーシアやインドネシアを含めて、東南アジアの優先順位はあまり高くないように見えます。

・今後日系メーカーは東南アジア事業を大きく拡大させていくとお考えですか。注力する時期やまず 展開すべき国もあわせてご教示ください。

・日系メーカーの東南アジア事業について、最も大きな課題をご教示ください。

・東南アジアは有望市場ではあるものの、諸国間の関連性が薄い。
例えばインドネシアで売れている化粧品がベトナムやマレーシアで受け入れられるとは限らない
・また彼らは、欧米、日本、韓国(化粧品)、中国などの化粧品先進国のフォロワーであるため、
特定国をターゲットにした化粧品の戦略的意義は低い

日用品、化粧品業界は積極的な拡大戦略を図る必要がある。
・展開国:(ph1)タイ、ベトナムからスタート、(ph2)マレーシア、
インドネシアへの展開を積極化、(ph3)ミャンマー、カンボジア拡張
・戦略の方針:富裕層となる市場1割の消費者にむけて先行的提案しかけた後で、
浸透を図ることが重要。その際、広げるときに、購入価格を考慮した展開が必要。
また、現地生産なども中 期で視野にいれた事業戦略が重要

Q.ハラール化粧品 パーソナルケア用品向け素材ニーズはあるか?

ハラールの化粧品・パーソナルケア向けの機能性素材の開発を検討しています(例:ヒアルロン酸などの保湿成分、ビタミンC誘導体などの美白成分、グリチルリチン酸などの抗炎症成分)。

イスラム圏の国を含む東南アジアには、既に多数のグローバルメーカー、現地メーカーがあります。

その中で日系メーカーがシェアを拡大していくには、独自の訴求機能が重要であり、素材メーカーとしてもそれに資する素材開発が必要ではないかと考えています。

東南アジア事業において、

・ハラール品向け素材のニーズはありますか。

・あるとお考えの場合、日系メーカーが今後訴求すべき機能 (保湿、美白等)や価格帯、それに伴い素材に求める機能やコスト感をご教示ください。

(1)ハラル素材ニーズ
東南アジアで最大人口を抱え、美意識の高い消費者を抱える
インドネシア市場の将来性においても非常に魅力的な市場。
そのインドネシア市場に入るにはハラル認証をとった素材が必要
(2)日系メーカーが訴求すること
インドネシアの肌悩みとして、
①高温多湿による乾燥油肌の肌質によるニキビ
②強い紫外線の下で生じるシミそばかす対策
③年齢とともにくすんでいく肌を明るく見せる
これらの悩みに対応した、アクネケア(自称敏感肌対応)や、
紫外線対策や乾燥による肌老化を防ぐなどの悩み対応が必要
(3)また、高温多湿の気候が多いことから、さっぱりした使用感が好まれる。
しかしハラルの関係でアルコールが使えないことから、
みずみずしい使用感触でありながら浸透がしっかりしているマイクロナノ粒子などの技術訴求と優れた処方が必要

・アジア諸国では、まず美白、またニキビなどのメイクトラブル需要がある。
逆に、高温多湿のためべたつきのあるものは避けられるので、保湿は注意が必要
・ただ、各国の法規制が未発達であり、機能性原料を導入する場合には、
その国の法規制について、十分なリサーチが必要

以上の回答から、化粧品メーカーやパーソナルケア用品メーカーは近い将来東南アジア市場への注力度合いを高める可能性がある。一方で、各国ごとの商品開発やハラル認証取得が必要となるなど課題も多い。各国のニーズに合わせた機能性素材があれば一定の需要は見込めそうだということがわかりました。

新規の設備投資リスクを考慮し現時点では見送り

エキスパートの回答から得られた情報をまとめると、「新規の設備投資が必要」、および「ハラール化粧品向けの素材ニーズは確実にあるが、需要拡大は段階的な見込み」という2点となります。

この2点を比較して事業性を判断すると、A社の規模でハラール認証取得のための新規投資を行うのはややリスクが高い。化粧品原料だけがA社の基幹事業ではないため、現時点でハラール分野に投資をする必要性は低いといえます。

海外法規制は時短効果が高い

以上のように、エキスパートリサーチは細かい情報を迅速に収集し、仮説検証サイクルを早めることができます。

とくに海外法規制は情報収集コストが高いため、エキスパートという外部リソースを活用し即日で要点を把握できるメリットは大きいといえます。

たとえば、今回は法規制をクリアするためには相応の設備投資が必要である一方、短期的な市場成長は見込みにくく、高リスクな事業案であることが一両日で判断可能となりました。

事業性が見込みにくい事業案は早い段階で落とし、他の候補案の検証に時間を割くほうが、新規事業を迅速に創出できます。

エキスパートリサーチで実現できたこと

【ご参考資料】

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