新規顧客獲得を効率化するために、ターゲットリストの精度を上げる
新規顧客の獲得は、企業の成長の要です。
製品・サービスの特徴や顧客属性・競合状況によって営業戦略は異なり、正解はありません。
新規市場の開拓にあたっては、顧客動向や特有の商習慣を把握し、優先すべき領域や効果的な営業方法を明確にすることがカギとなります。
ターゲットリストも、自社製品・サービスに合った条件付けをすることで、商談化率や成約率を向上させることができます。
新規市場の見極めやターゲットリスト作成の初期段階においては、主にニュース・プレスリリースなどの公開情報が参考になります。
しかし、エキスパートリサーチを活用し、実務家・専門家の知見を借りることで効率的にターゲットリストを作成したり、ターゲットリストの方向性が合っているかを確認したりすることができます。
また、一般に公開されていない業界特有の商習慣なども加味して営業戦略を策定することで、少ない人員でも効率的に新規顧客を獲得することが可能となります。
エキスパートリサーチとは、国内外の第一線で活躍する実務者などから、業界・製品分野・国ごとの固有の経験に基づくアドバイスを受けることができるサービスです。
本コラムでは、営業戦略の立案やその具体化において、どのようにエキスパートリサーチを活用できるのか、さまざまなBtoB営業の事例を想定しながら紹介します。
新規市場開拓の中で、優先すべき国や製品領域を見定める
自社製品やサービスを新規市場にて販売する場合、どのような地域や属性の顧客に重点を置くかが商談化率や成約率を左右します。
一方、想定顧客との直接の接点や理解が不十分な中で、どのような顧客に自社製品・サービスがマッチするのか、成長分野がどこにあるのかを、自社内で判断するのは容易ではありません。
そこで、エキスパートリサーチを活用して、どのように注力すべき新規市場を見定めることができるか、エネルギーマネジメント事業を国内外で展開するA社の事例を想定して紹介します。
A社の事例
A社はさまざまな規模・業種の工場向けに、エネルギーマネジメントシステムを販売しています。アジアを中心に複数の海外拠点をもち、アジアにおける日本企業の設備投資ニーズを取り込み、事業拡大したいと考えています。
そこでA社が注目しているのが、半導体業界です。
半導体は主要な生産拠点がアジアであり、日本企業が素材や製造装置などで強みを発揮しています。足元の半導体不足の状況をふまえても、今後さらに設備投資が加速する可能性が高いと考えました。
そこでA社は、アジア半導体業界のどのような製品領域の企業に対し、どの国の設備投資ニーズ把握に注力するべきか、エキスパートに質問することにしました。
A社がおこなった質問内容とエキスパートの回答は以下となります。
■A社がおこなった質問内容
様々な規模・業種の工場向けにエネルギーマネジメントシステムの販売を行っています。
東アジアや東南アジアにおける、日本企業の製造拠点の新規進出や工場増設のニーズを取り込み、
事業拡大したいと考えております。
特に半導体業界に関しては、半導体素材・製造装置やパワー半導体で日本企業に強みがあり、
直近の半導体不足やTSMC・Samsung・富士電機などの設備投資計画をふまえると、
今後サプライチェーン全体でさらなる設備投資が実行されるのではないかと考えています。
半導体のサプライチェーンに関し、
・日本企業の工場新設や増設が今後2年以内に加速するとお考えの国(東アジア・東南アジアの具体的な国名)
・どのような企業の工場新設・増設が予想されるか(フォトマスク関連企業の工場増設が予想されるなど)
・その背景(川下の特定企業の設備投資計画、現在の生産キャパシティの不足感、政府の誘致政策など)
についてご教示ください。
■マレーシアのパワー半導体モジュール向け製品に成長性があり
半導体関連で中短期で成長が見込まれるのは、用途としては、先ず第一に車載関係があげられます。
これは他のアプリケーション、例えばテレビやスマホと異なり、アプリケーション自体が大きく転換する端境期であり、
元々ある程度の市場規模が安定形成されていた数量が母数となり、そこに新規の制御機能要素の点数が
乗じられるという確度の高いものです。
既にマレーシアにはペナンにてインテルがMPU/GPUの組み立てと最終試験工場の新設を発表し、
インフィニオンはクリムの前工程工場にSiC/GaN専用ラインを新設します。
STMicroelectronicsは、元々マレーシアには自社の世界最大の後工程工場をムーアに、
パワー系前工程をシンガポールのアンモンキョに、パワー関連の後工程をトパイオに持っていたので、
これらを中心にパワー系デバイスやセンサ系デバイスを強化していくのではないでしょうか。
ボッシュはペナンにパワー半導体とセンサの出荷検査工程を新設し、富士電機はクリムの前工程を増強、
ロームはコタバル工場でアナログLSIとデスクリートの前工程を増強します。
これらは主にパワー半導体で、どちらかというと後工程や最終出荷試験が中心になるため、
これを追ってパッケージ、IPM(パワーモジュール)などに材料を提供する
サプライヤが現地(マレーシアやシンガポール)での製造を強化するのではないかと考えます。
部材で言えば、パッケージケース、放熱基板、シール材、ワイヤー、配線用金属材料、樹脂(レジン)等ではないでしょうか。
※実際の回答を一部抜粋
■マレーシア・中国の半導体サプライチェーンで設備投資が加速
半導体のサプライチェーンに関しまして、中国およびマレーシアにおける工場新設や増設が
今後2年以内に加速すると考えております。
両国ともに、半導体前工程と呼ばれるウェハ周りのプロセスを扱う工程に関わる工場の伸びが大きくなると考えております。
後工程に関しては、特に中国での伸びが大きくなると考えています。その背景を国別に申し上げます。
まず、中国については、中国製造2025で掲げた半導体自給率目標70%到達に向けたラストスパートを
国を挙げて推し進めることが容易に予想される点が大きいです。
折しも世界の電気自動車の中心国として名を馳せている中国は車載半導体の需要が非常に旺盛であり、
半導体全般に対する需要が喚起される土壌が整っております。
これに加え、外国からの輸入に良い顔をしない当局が輸入品に対して様々な規制を設けているため、
中国国内で製造した半導体を製品に載せるしか道がない状況になっています。
これらの状況に鑑み、旺盛な需要に応えるために中国国内での工場新設、増設が加速すると考えています。
一方のマレーシアですが、マレーシアも世界の著名な半導体工場が集積する国として有名です。
特に前工程関連企業の集積度が高く、それらの企業は世界的な半導体の需要を満たすため、
マレーシアにおけるビジネス加速に向けて工場の新設や増設を加速すると考えます。
また、既存ビジネス撤退に伴うビジネスポートフォリオ変革によって、半導体設備投資を増やす会社も存在します。
例えば富士電機はマレーシアで長らく磁気記録媒体の製造を続けていましたが、
2021年に取引先が無くなるという理由で撤退することを発表しています。
空いた工場は半導体ウェハ工場へ転換することも発表しており、
このような形で半導体能力増強が図られる例として知っておくと良いと思われます。
これらの回答を受け、A社はマレーシアや中国にてパワー半導体モジュール向けのパッケージケース・放熱基板・シール材・レジンなどを提供する企業に対し自社製品の提案をおこなうことを決定しました。
また、同様の質問を半導体だけでなく他業界についてもおこなうことで、今後自社製品のニーズが高まる可能性が高い国・製品領域を見極めることが可能です。
また、数か月〜半年の周期で業界動向や見通しを質問し続けることで、注力すべき新規市場をアップデートすることができます。
特有の商習慣がある市場で、新規顧客への効果的な営業方法を把握する
自社が優先すべき新規市場を把握しても、それらの顧客に対しての接点がない場合や各企業のどのような部署にアプローチすべきかわからない場合も多いと思います。
とくにその市場に特有の商習慣がある場合は、誰に、どのような方法でアプローチするかが新規顧客獲得の成否を左右します。
そこで、新規顧客に対しどのような営業手法をとるべきか、顧客社内外のキーパーソンや組織はどこかを、その市場の実務経験が豊富なエキスパートに質問することが有効です。
国内のBtoB向け中心に照明器具の生産・販売をおこなうB社の事例を想定します。
B社の事例
B社の照明事業の主な販売先は、工場・倉庫・大型商業施設などであり、新規顧客として国内の学校施設へ提案するために、4月より営業人員を5名増員しました。
一般的に、照明器具の新規受注の確度が高いのは、建物の修繕や建て替えのタイミングです。増員された5名だけで全国すべての学校をカバーすることは現実的でなく、修繕や建て替えの可能性が高い工場・学校を競合に先駆けて把握したいと考えています。
公立・私立学校により修繕・建て替え予算の決定方法や、修繕の決定後にどのようなスケジュールでどのような関係者に相談するのかが異なることも想定されます。
B社は、公立・私立学校それぞれでどのような営業手法が有効か、学校関係者のエキスパートに質問することにしました。
B社がおこなった質問内容とエキスパートの回答は以下となります。
■B社がおこなった質問内容
国内の工場・倉庫・大型商業施設などに照明器具を販売しています。
建物全体の省エネを実現する照明システムに強みがあります。
学校向けにも自社製品を販売したいと考えており、
照明購入の可能性が高い修繕・建て替えニーズを把握する体制を整えたいと考えています。
・どのようなタイミングで学校の修繕・建て替えを検討されているか
・照明器具の新規購入を検討するのは、修繕・建て替え計画のどのフェーズか
・修繕・建て替えの検討をする際に、相談する相手(建設会社・工務店・金融機関など)と相談する順番
について、公立・私立学校それぞれの状況についてお伺いできないでしょうか?
■私立学校の方が主体的な営業が行いやすい事務長へのアプローチがおすすめ
公立、私立どちらも経験した教員です(現在は私立)。
【公立】
修繕、建て替えについては市町村教育委員会が、議会の承認に基づいて計画的に実施しています。
役場の職員が修繕、建て替えが必要か評価して決めるのではなく、
前もって今年はこの学校、来年はこことあそこの学校のように決められています。
金融会社などに相談はせず、即建設会社に見積もりとなります。
照明器具などは、各学校に割り当てられている予算内で工事ができる場合はその都度実施します。
修繕とか建て替えのタイミングは関係ありません。予算内で無理な場合は、委員会の予算から工事をします。
【私立】
校舎を建設した会社がアフターメンテナンスをしている場合が多いです。
最近我が校も照明器具を全て入れ替えましたが、
それは電気代の節約につながるというメンテナンス会社からの営業があったからとのことです。
私立の方が圧倒的に自由になる予算は多いので、営業はしやすいと思います。
直接学校の事務に営業しても良いかと思います。
照明器具は、学校設備のなかでは比較的頻繁に替える機会があるように思います。
公立には受け身になってしまいますが、私立に対しては主体的な営業ができると思います。
まずは各学校の事務長とつながることをお勧めいたします。
■現在校舎建て替え期の私立学校が多い
学校は概ね30年程度のサイクルで校舎建て替えを検討することが多い。
日本は戦後に設立された私立学校が多く、まさに現在が第2回目の校舎の建て替え期である。
ICT環境整備のタイミングとも合致しており、多くの学校経営者が設備投資に頭を悩ませている。
一方、学校経営者にとってはちょうど事業継承の時期でもある。
私立学校のほとんどは定員を充足できておらず、
数十億円の借り入れをして学校を継続するか難しい判断を迫られている。
したがって、現照明器具だけを全面的に変更することは考えづらく、
今後学校をどうするかの経営判断があり、それをふまえた設備投資になると思われる。
相談の順序としては、地元の金融機関と教育関係者(同業者・教育コンサルなど)が最初であり、
その後に建設会社や工務店になるのではないか。
公立学校の場合は、教育委員会の判断となる。
この場合は、教育委員会が知事部局と折衝してどれだけの予算を確保できるかによる。
近年は公立学校の統合や新設が多いため、このタイミングで校舎の設備を入れ替えるケースは多い。
こうした情報は学校ではなく教育委員会にコンタクトすることで得られる。
これらの回答を受け、B社は下記の営業方針を決定しました。
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アプローチの容易さから、公立校より私立校を優先してアプローチする
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各学校のHPを確認し、「創業●周年」などの周年行事を数年以内に控えている学校や、前回の建て替えから25年以上が経過している学校をリストアップする
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上記の学校に対し、事務長と関係を築いた上で自社製品の提案をおこなう
文部科学省によると、全国の学校のうち私立校の数は15%程度です。B社は学校関係者のエキスパートより優先すべき顧客や効果的な営業方法のヒントを得たことで、5名の営業人員でも効率的に新規顧客を獲得することが可能となりました。
自社固有の条件付けをすることで、ターゲットリストの精度を上げる
どのような属性の新規顧客にアプローチするかが決定しても、具体的なターゲットリストを作ることが容易でない場合もあります。
上場企業であっても、取得可能な公開情報は、過去の決算内容や事業内容・沿革・工場所在地などであり、自社にとって重要なターゲットリストの条件が公開情報からは取得できない場合もあります。
自社固有の条件付けによりターゲットリストの精度を上げたい場合も、エキスパートの知見を活用することが有効となります。
ここではBtoB向け営業管理用ソフトウェア事業をおこなうC社の事例を想定します。
C社の事例
C社は建設・不動産や機械業界中心の現在の顧客基盤を拡大するために、さまざまな業界へのアプローチを企画しています。
代理店を介さずに顧客に直接製品を販売しているかどうかが、C社のソフトウェアサービスの特徴上、受注率を大きく左右します。
このため、直販企業に絞ったアプローチをおこないたいと考えています。
各業界の主要プレイヤーはSPEEDAの業界情報や「企業を探す」機能で調べることができますが、直販か代理店経由の販売かは、公開情報だけでは明確な判別がつきません。
そこで、エキスパートリサーチを活用して、直販企業の具体名を質問することにしました。
C社がおこなった質問内容とエキスパートの回答は以下となります。
■C社がおこなった質問内容
BtoBの営業管理用ソフトウェアの販売を行っています。
これまでは建設・不動産や機械業界などを中心に事業を展開してきましたが、
新たに電子部品業界に事業領域を拡大したいと考えています。
自社製品は、顧客に製品・サービスを直販している企業に対し訴求しやすいため、
添付の企業リストを直販中心・卸向け販売中心に分類し、前者に対し重点的に提案する考えです。
下記リストから販売先へ直販をしている企業の具体名をご存じの範囲で教えて頂けないでしょうか?
※添付の企業リストは省略
電子部品を商社経由や代理店経由で販売しているところはありますが、結構汎用的な商品になります。
昨今は差別化された商品も多く、技術営業が直接販売するケースが多いです。
電子部品だと、アルプス、オムロン、村田、京セラ、パナソニック
さらにコンデンサーをわけてニチコン、ルビコンなど
コネクターだと日圧、イリソ
ハーネスだと住友電工
が基本的に直取りです。
販売部門を別会社化しているところもありますが、BtoBは直取りが半分以上を占めます。
メーカーによっては、50%直取り、50%は代理店・商社経由もあります。
以下メーカー、ファブレスメーカーが直販をしております。
【小口販売対応企業】
キーエンス
オムロン
ヒロセ電機
ミスミ
IDEC
富士電機
【大口直販】
フジソク
NKKスイッチズ(日本開閉器)
ニチフ
大同端子
日本圧着端子製造
モレックス
本多通信工業
あたりかと思われます。
C社はその他の業界についても、同様に自社で作成したリストの中から直販比率が高い企業をエキスパートに質問し、自社固有の精度の高いターゲットリストを作成することができました。
エキスパートの知見を活用し、効率的に新規顧客を獲得
以上のように、新規市場開拓時の重点領域の見極めや、特有の商習慣がある市場での効果的な営業方法の把握、自社固有の条件付けによるターゲットリストの精度向上など、エキスパートリサーチは新規顧客獲得の様々な場面で活用することができます。
エキスパートリサーチで実現できたこと
1 新規市場開拓の初期段階で、優先すべき領域を見定めることができる
→国(マレーシア・中国)×製品分野(パワー半導体モジュール向けのパッケージケース・放熱基板など)の注力分野を決定できた
2 特有の商習慣がある市場の開拓にあたって、有効な営業手法が把握できる
→公立校より私立校を優先する方針や、私立校への具体的な営業方法を決定し、少人数で効果的な新規顧客獲得が可能となった
3 公開情報ベースで作成したターゲットリストに、自社固有の条件を付けて精度を上げることができる
→公開情報ベースで作成したターゲットリストに、自社製品にとって重要な「直販企業」という条件付けを行い、営業効率を向上することができた
今回はスピーダのサービスであるFLASH Opinionを活用し、チケット1.5枚(3質問分)にて質問をおこなった結果、各質問について24時間以内に5名以上からテキスト回答を得ることができました。
【ご参考資料】
スピーダは、ビジネスパーソンの情報収集・分析における課題を解決する最先端プラットフォームです。世界中の企業情報、独自の業界レポート、市場データ、ニュース、統計M&Aなどの定量データから、本コラムでご紹介した業界エキスパートの "経験知"を活用した定性データまで゙あらゆるビジネス情報をカバーしています。
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