#新規事業開発 2024/7/23更新

新規事業の“失敗例”は学びの宝庫、アンチパターンにこそ学べ

新規事業の“失敗例”は学びの宝庫、アンチパターンにこそ学べ 新規事業の“失敗例”は学びの宝庫、アンチパターンにこそ学べ

本コラムの執筆者・西村祐哉さんは、NTTデータに在籍し、社内外でイノベーション創出や新規事業開発を推進されています。「大企業と新規事業」を熟知する西村さんが解説する、今、失敗事例に注目すべき理由。新規事業に挑戦するみなさまに、ぜひお読みいただきたいと思います(編集部)。

Speaker

西村 祐哉

西村 祐哉

株式会社NTTデータ
イノベーションエコシステムデザイナー

株式会社NTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業部 部長 / イノベーションエコシステムデザイナー。京都大学経済学部卒業後、NTTデータ、ライブドアを経て起業。スタートアップ経営者として企業とターンアラウンドを担当。その後国内独立系コンサルティングファームにて戦略・ビジネス・IT各領域のコンサルティング、プロジェクトマネジメントに従事。2011年からの10年間、日本電気株式会社(NEC)でビジネスデザイナーとしてのITサービスや海外スマートシティ事業開発ののち、イノベーション創出部門に移り共創型の新規事業創出に従事。アクセラレーターとしても顧客企業や社内事業部に対する支援活動も多数手がける。これらの知見にもとづきイノベーション人財の育成・教育や組織づくり、プロセスや制度の整備といったエコシステム形成も担当。

実は参考にならない“成功事例”

イノベーション創出や新規事業開発というものに携わるようになり、気がつくとセミナーや講演の類でお声がけをいただくようになりました。

光栄に思うとともに、講演するたびに必ずとある質問というか要望というか、に遭遇します。それこそ後をつけられているのかのように執拗に。

『成功事例を教えてください』

『もっと事例について話してほしかった』

最初のうちは問われるがままに、あれこれ話をしていたような気もします。 しかし、登壇の回を重ねていくうちにひたひたと近づき、まとわりつき蝕むような違和感。あるとき気づいた“違和感の正体”はこれ。

「このひとたちは、他社の成功事例を聞いてどうするんだ?」

ウケのいいセミナーはだいたい、事例が語られる傾向があります。そしてそこで語られる事例はわりとヒロイックでドラマティックです。

聞いているとなんだかワクワクしたり、凄いなと思ったり、ときにカタルシスをもたらしたります。敢えて質問します。

「それ、貴社でもやれますか?」

成功事例クレクレが、事業開発者をぼんくらにする

思い返すと、アクセラレーターや伴走支援を手掛けてきて、さまざまなクライアントと事業開発をご一緒するなかでも、こういった傾向を持った方は一定数存在しました。

『なんか事例ありますかね?』といわれてあたってみたり、ときには成功事例や知見を持つかたとお繋ぎしたこともあります。

しかし、いざそういった機会を設けてみるとどうにもその後の反応が芳しくない。どうしたのかと尋ねると、きまって返ってくるのが、これ。

『うちは○○○社さんとは違うからさぁ……』

お笑い芸人でなくとも椅子からズッコケたくなる展開の一丁上がりです。 ウソのようなホントの話。他社の事例には再現性がないがこのオチには再現性がある。それも驚くほどに正確に。

巷で語られるさまざまな成功事例は、ある種のプロモーションであり、登壇者の勲章と化していることもあります。

それらのほとんどが成功にたどりつくまでの“ドラマ的なエピソード”にのみフォーカスされ、プロセスややり方にはほぼ触れられません。

また、触れられたとしてもその内容は、確かな再現性にはほど遠い属人的なものやたまたま恵まれたラッキーパンチのようなものばかりです。そりゃ確かに参考にはしづらい……。

不都合な事実とでもいえるこのことを実感し、先日とあるウェビナー(新規事業立ち上げのリアル -急成長を実現する新規事業のつくり方-)で投げかけたのがまさしくこの内容です。

この投影資料と私の投げかけは、ありがたいことに当日ご視聴いただいたさまざまな方からの賛同や反省、警鐘になったという反応を多くいただきました。

それでも2件ばかり『わかりやすい講演内容だったが、もう少し事例について紹介があればよかった』的なアンケート回答を見つけたときには、もはや背筋の凍る思いしかありませんでした……。

学びにならない成功事例、失敗という学びの宝庫

そういえば昔、ビジネスコンサル的な業務に携わっていた頃にも、似たような話が存在していました。他社事例の収集を求めるわりに、いざ事例に触れると二言めには『うちは他社とちがって特殊だから……』と言うクライアントが。

もちろん一定水準の固有性はすべてにおいて存在します。しかし、それを言ってしまうと「もはや学びってなんなの?」としか言いようがありませんし、ISOは何の意味も持たないことを意味します。

ここで少し唐突にISOを持ち出してみたのには、わけがあります。

2019年、ISO56000シリーズがリリースされました。このシリーズが定義しているのはいみじくも、イノベーションマネジメントです。

一見、標準化ともっとも縁遠いものに思われがちな、イノベーションや新規事業に関しても「やりかた」が存在することが今や打ち出されているのです。イノベーションのおこしかたやそのための再現性が少しづつ拡がっています。

その一方で、事業開発における失敗事例にはもっと簡単でわかりやすい学びが眠っています。さまざまな失敗要因については、ただそれらをやらない/回避するだけで再現性や成功可能性の底上げを容易に獲得することができるのです。

しかも、いちいちあるのかないのかわからない、自社に適合するのかどうか定かではない成功事例を青い鳥の童話よろしく捜し歩くより、自社のなかに眠るさまざまな失敗事例にこそ良質な学びが存在するのです。

なにより、自分たちの先達や、なんなら自分たち自身の事例なのですからリアリティは間違いありません。そしてそれらをそのままにしておくと、早晩同じ理由や要因で次の事業開発の失敗という墓標がまたひとつ増えることでしょう。

また、そもそも仮に成功事例から何かを学び取るとしても、あなたが取り組むのは新規事業ですよね。

Something Newを推し進めるのに、なぜ他で使い古されたようなものを求めるのでしょうか。 不確実性に果敢に挑むことこそがイノベーションであり、新規事業のはずなのですが……あれれ。

不確実性と失敗を恐れる日本人

少し話は変わりますが、みなさんは「ホフステードの6次元モデル」をご存知でしょうか。

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士が提唱した文化にもとづく人の価値観の切り口に関するモデルです。

この6次元モデルにおいて、日本人は[不確実性の回避] [男性性] の両項目において92ポイントと95ポイントという、顕著に高い傾向を示しています(100点満点)。

これは、ものごとの不確実性を嫌悪し忌避する傾向と、ものごとにおいて失敗してはならないという強迫観念的傾向がきわめて強いことを意味します。

成功の再現性を獲得するために、アンチパターンを知る

先ほど「失敗例は学びの宝庫、アンチパターンにこそ学べ」とは言いましたが、とはいえ実は、失敗例は日の目を見ないようそのまま野晒しにされてしまっていることが多いのです。

ここまで話すとお気づきのとおりで、失敗を振り返ることや失敗を検証するということ自体がなかなか苦痛をともなったり悪者探し的な文脈で好ましくないものととらえられたりもするからです。

しかし、そもそも新規事業は“せんみつ”と言われるほどには失敗や頓挫の類が方々で発生します。

事業開発におけるアンチパターンの整理、失敗要因の整理と蓄積は、今後間違いなく重要性を増すはずです。

ここまで述べてきたように、イノベーションのおこしかたや成功の再現性の蓄積、そしてこれらを自分たちで一定水準をコントロールできるようになってゆくことがこれからの新規事業におけるトレンドとなるはずです。

【ご参考資料】

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