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明日からできる、市場規模を見積もる方法

明日からできる、市場規模を見積もる方法 明日からできる、市場規模を見積もる方法

アナリスト解説シリーズ」は、経済情報プラットフォーム「スピーダ」で配信しているオリジナルレポートを一部抜粋・要約したお役立ちコンテンツです。

アナリストの視点で「いま注目の業界トピック」や「ビジネスリサーチの基本」を解説。コンテンツを通して、自社の調査・分析業務に活かせる「ナレッジ」が得られるようになっています。

短い時間でもわかりやすく、ポイントを絞った構成にしているので、通勤・移動の合間やスキマ時間にぜひご愛読ください。

今回のテーマは「市場規模を見積もる方法」です。

はじめに

経営の未来を占う上で重要な指標となる「市場規模」の算出。

新規事業立案時や中期経営計画を立てる際だけでなく、「稟議書に具体的な定量説明を加えたい」「IRで投資家に説明するときの材料にしたい」といった場面や「市場のポテンシャルを知り、経営資源配分の助けとしたい」など、市場規模情報はさまざまなケースで利用されます。

一方で、普段あまり馴染みのない方にとっては、未知の領域と感じるのではないでしょうか?

土地勘のない業界の調査をおこなう場合、多くの人はまずインターネット検索で情報を集めることでしょう。しかしながら、インターネット上には市場規模の数字が溢れており、公式統計や調査会社のレポートを用いればある程度の概観をつかむことはできるものの、本当に欲しい対象の市場規模はなかなか見当たらないことが多いです。

仮に見つけたとしても、調査年が古かったり、試算の対象に含まれているものが曖昧であったりするために、有用性は理解している一方で、リスクを感じて実際に活用できていない場合も多いです。

また、自分で計算しようにもイメージが湧かず、計算結果が合っているのか自信が持てない。結局近しい(と思われる)数字をそのまま用いたり、諦めてしまうシーンも少なからずあるでしょう。

そこで本コラムでは、誰でも簡単に実践可能な「ボトムアップアプローチ」と呼ばれる市場規模の試算方法を用いて、実例と共にその使い方を解説します。

市場規模を知るメリットとは

市場規模を知るメリットを端的にいうと、「その市場の状態が定量的にわかるようになること」です。

さらに他の市場と比較した場合に、調査対象の市場がどの程度重要なのかが判断できるため、説明に説得力を持たせることができます。

たとえば、会議における上長等の意思決定者の説得やIRなど、社内外での説明が求められる場面において、市場規模について質問されることがよくあります。

よく質問されるということは、ビジネス上の意思決定における判断材料として、市場規模が一定重要であることを意味しています。そこで説得力をもってしっかりと説明することができれば、スマートにビジネスを推進することができるのです。

先般、弊社が連載を開始した「アジャイル経営シリーズ」では変化にスピーディに対応する必要性について説いていますが、変化の早い業界においては絶えず最新の市場動向を認識・アップデートする必要があり、市場全体における自社の立ち位置を正しく把握することが、有効な戦略立案の一助となります。

また、自社でオリジナルの市場規模の試算モデルをつくることで、さまざまな市場環境の変化にも対応可能なシミュレーションができるようになり、将来への見立てを持つことも可能となります。

市場規模利用時の注意点

インターネットで市場規模を調査する場合、下記の前提がわからないものについては、該当しそうな数字を見つけたとしても、実用的とは言い難いため注意しましょう。

①市場規模の対象としている業界は、探している情報と合致しているか

②市場規模に影響を与える変数は何か

③どの時点での情報をもとに推計されたのか

これらの情報を確認できるケースはあまりなく、結局は本当に欲しい市場規模にはたどり着けないことが多いです。予算に余裕があれば有料レポートを購入したり、調査会社に依頼したりする方法がありますが、予算に制約があるときは、自身で試算する必要があります。

以下では、自身で市場規模を試算する必要がある方に向けて、試算のヒントを提供します。

市場規模の試算方法

市場規模の試算方法はいくつかありますが、本コラムでは、「ボトムアップアプローチ」を紹介します。直感的に理解しやすく、変数の入れ替えが容易であるため、カスタマイズして実務でも活用しやすい方法です。

ボトムアップアプローチはまず「単価×数量」のフレームワークから考えます。

推計のために必要なセグメントサイズ(業種や職種、企業規模、用途、エリアなど)にまで単価と数量をそれぞれブレークダウンしていき、数値を取得します。

その後、取得した数値を単価×数量で積み上げていきます。シンプルではありますが、精度が高い点が特徴です。

どの程度まで数字をブレークダウンするか、変数の前提にどの数字を用いるかを柔軟に組み替えられることもメリットです。

他には、建設業界や製造業など、比較的大きなサイズの市場規模(経済活動別GDPなどで取得可能)を構成要素の比率をかけることで分けていき、自分の欲しい数字を取り出すトップダウンアプローチが主要です。

新興サービスで、試算前提となる数字が得にくい時には、それが既存市場の何のニーズを代替するかを予想し、市場代替率をかけて計算していく方法もあります。ボトムアップローチ以外の試算方法については、本コラムではここでの紹介に留めます。

実際の試算例

日本のソフトウェア(営業・マーケ)のSaaS領域の市場規模

ここからは、実際にボトムアップアプローチで市場規模を推定してみましょう。

2021年時点、日本におけるソフトウェアビジネス市場(営業・マーケ分野)のSaaS領域部分を例として取り上げます。

SaaSの浸透により近年急速に成長していますが、インターネットで欲しい市場規模の情報が出てこない例の1つです。

前述したとおり、単価×数量のフレームワークで個別の数値を積み上げて計算していき、この時、仮説・仮定を立てながら数値を確定させていきます。

①ソフトウェアの単価を算出

まず単価。ポピュラーなサービスの情報をもとにソフトウェアの単価を出します。

今回はセールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)の単価(2021年3月31日確認)を参考に、中小企業向けは1ユーザー当たり年額10万円、大企業向けは同約20万円と仮定しました。

②獲得可能なユーザー数を試算

次に数量。今回は、実際に参入した場合にどれだけユーザーを確保できるかという「獲得可能なユーザー数」を試算します。獲得可能なユーザー数は、ターゲットとなるユーザー層に実際の導入率の想定を掛け合わせたものとして算出します。

ターゲットとなるユーザー層は今回、一次産業(農林水産業)を除く全ての企業の営業職としました。一次産業以外の企業の従業員数は、中小企業庁がまとめている規模別従業者総数を用いれば、企業の規模別や業種別の従業者数が確認できます。

ここから従業員数のうち、ターゲットとなる営業・マーケティング職の人数に絞り込みます。今回は労働力調査をもとにして、営業職に携わる人数を10%と仮定しました。労働力調査では、職種別や雇用形態別の人員比率がわかるので、容易に絞り込むことが可能です。ここまででターゲットとなるユーザー層の人数を求めることができました。

なお、統計データは1~2年前の数値であることが多いので、念のため、過去5年程度の変動率(前年比)から足元の増減を確認し、必要に応じて最新値(1~2年前の数値)に掛け目をかけた現在の数値を計算しましょう。

たとえば、過去5年間の数字を確認して大きな変動がなければ、1~2年前の数値をそのまま使うことができます。しかし、ここ2~3年で毎年10%の増加などのトレンドが見えた場合には最新値に1.1を掛けて調整することで、より実態に近い数値を得られます。

次に想定の導入率。ターゲットとなるユーザー層(農林水産業を除く全ての企業の営業・マーケティング職)の全員にSaaSを導入するというのは現実的ではありません。

今回は企業の規模別に、導入率の前提を変えて計算し獲得可能なユーザー数を算出しました。

なお導入率は他の数字に比べると、どういう数字を置くべきかが悩みどころです。こういったときには白書などで実態調査を探すとよいでしょう。

情報通信白書をもとにすると、クラウドサービスの利用率が6割強に及ぶことが読み取れますが、今回はこの数値からやや保守的に導入率の数字を織り込んでいます。

クラウドサービスの利用率には、ファイル共有サービスや電子メールの利用が含まれており、これらのサービスの利用率より営業・マーケ分野のソフトウェアの利用率は低いであろうと考えたのが保守的に置いた理由です。

最終的に単価と数量を企業の規模別に掛け合わせていくと、約2,600億円程度という数字が導かれます。

ここで強調しておきたいのは、分解したフレームワークを構築したメリットです。メリットは大きく2つあります。

1つ目は、前提の数値を簡単に入れ替えて実務に適切なサイズの市場規模を得ることができる点。たとえば、導入率や単価の前提が弱気だと思うのであれば、この数字を変えるだけで簡単に別の結果が得られます。

また、建設業や物流など業界特化のSaaSに試算対象を変えたいのであれば、従業者数や単価を合う数字に変更することで対応が可能です。

2つ目は、社内外のディスカッションの場でのたたき台として使うことができる点。社内外の人から試算結果に違和感があるという指摘を受けた場合に、数字を分解したフレームワークがあれば、相手と自分でどういった前提が異なっているのかを確認できます。

こういった前提の認識を揃えたい場合に、フレームワークは役立ちます。

試算した数字の検証方法

市場規模は試算して終わりではありません。

検証作業を通してその試算の精度を高めることも重要です。

検証の代表的な方法は2つあります。1つはトッププレイヤーの売上と比べてみること、もう1つは当該分野に詳しい人に意見を聞くことである。

では、先ほどの結果を実際に上位プレイヤーの売上と比べてみましょう。なお、上位プレイヤーを探す場合、経済情報プラットフォーム「スピーダ」を活用すれば、業界ページからプレイヤー一覧で確認することができます。

トップにはトランス・コスモスが表示されますが、アウトソーシングが主要事業領域であるため外すと、同分野の上位プレイヤーとしてセールスフォースを特定できます。上記で試算した2,600億円の市場規模とセールスフォース(日本法人)の売上約1,000億円と比較すると、2つの示唆が得られます。

まず、試算した市場規模は主要企業の売上を下回っていないので、少なくとも算出した数字が見当はずれである可能性は低いこと。次に、上位プレイヤーのシェアが妥当であることです。

推定した市場規模(約2,600億円)とセールスフォースの売上(約1,000億円)から、セールスフォースの日本のシェアはおおよそ38%と算出できます。

もし、試算した市場規模が仮に2兆円だった場合、上位プレイヤーのセールスフォースのシェアが5%となり、もしセールスフォースのシェアに対する感覚値があれば、「実態と離れているのではないか?」という違和感に気づくことができます。

このように、上位プレイヤーの売上と比べることによって、推計した市場規模を検証することができます。

また、当該分野に詳しい人に意見を聞くのも有益な方法です。スピーダには、「FLASH Opinion」という専門家に質問して、24時間以内にテキスト回答を得られるサービスがあります。今回、FLASH Opinionで市場規模の予想値をきいたところ、たとえば、下記のような回答が得られました。

◾️大手Sler 法人向けクラウドサービス 企画担当
少し古いデータですが、Gartnerの調査によると米国の大企業は収益の約13%、
中小企業は約10%をマーケティング費用に費やすというデータが存在します。
このマーケティング費用の内約10%(過去の自身の利用金額経験等)を営業・マーケティング分野のSaaSに投資可能と仮定すると、
総収益の約1%が最大の市場規模と言えるでしょう。
経済産業省のデータによると、日本国内における企業売上高は638.6兆円、
その内、矢野経済研究所によるとSFA・CRMツール利用率は3.5%のため、
現在のTAMは約2235億円であると想定することが可能と判断できます。
日本におけるSFAのトップシェアであるSFDCの日本国内売上が983億円であるというデータもありますので、
おおよその数字感覚としては近しい数字であるのではないかと思われます。

 試算したフレームワークの応用的な利用方法

前述したフレームワーク自体のメリットに加えて、フレームワークを構築する過程でも得られるものがあります。

たとえば、ターゲット範囲を絞っていくことで該当の市場をマクロ経済全体から俯瞰でき、実際の製品・サービスの調査によりトレンドや相場観がわかるようになります。

また、そのフレームワークを社内外に展開することで共通認識の醸成につながります。将来見通しを作る場合にも、変数を変えることで、すぐに複数のケースのシミュレーションが可能となります。

将来予想を作る際は、過去の成長率を参考に当てはめることもありますが、過去の成長率がどういう前提のもとに成り立っているかを理解していれば、具体的な将来のリスク別の予想にも応用が効きます。

【ご参考資料】市場規模の算出に役立つ「スピーダ」

本コラムでは、市場規模の算出方法について具体例を交えながら記載しました。実際に自分で市場規模を調査する際の参考にしていただければ幸いです。また日々のビジネスの現場で説明力を上げ、ステークホルダーを巻き込んで物事を推し進めるための武器の一つとして活用していただきたいと思います。

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