#新規事業開発
2024/7/23更新
新規事業担当者の課題は?
2024/7/23更新
パナソニック(旧松下電器産業)グループ創業者の松下幸之助さんは、開塾した松下政経塾の塾生に向けて筆をとり、「大忍」という言葉を贈りました。
この「大忍」という造語は、「大きく耐え忍んで、志を遂げる」という意味合いを持つようです(Official Webサイト「松下幸之助.com」より)。
2023年を迎えた今、社会を取り巻く状況は大きく変化していますが、この考え方は新規事業に取り組むビジネスパーソンにも通じると思い、冒頭で紹介させていただきます。
今回はFLASH Opinionの「実務調査」として、新規事業担当者が抱える課題を聞いてみたところ、新規事業の企画・推進者、新規事業をモニタリング・評価する役職者など、複数名のエキスパートから回答が得られました。
同じように新規事業に取り組まれている方のご参考になれば幸いです。
質問内容
・ご所属先の新規事業開発における課題を教えてください。
・①業種および企業規模 ②組織課題 ③個人課題をご回答ください。
エキスパートの回答
一般職/マネージャー
社員数数百人の時に入社し、現在はグループで万単位の社員数になっています。
新規事業における組織の最大の課題は、企業が大きくなるにつれ、新規事業開発に相対的に力が入らなくなることです。
なぜなら、既存の大きな事業を数%伸ばした方が売上や利益の増分インパクトが大きいため、
0から新規事業を立ち上げる短期的な財務メリットがないためです。
よって意図的に新規事業を立ち上げる意志を組織のトップが持たない限り、
実質上、新規事業に力が入らないのが課題です。
これに対して、次のような打ち手を考えたり実行したりするのですが、各打ち手に対しても課題が出てきます。
最大の課題を克服するため、新規事業は組織を分けることをします。
既存と新規を同じ組織で実行すると必ず既存事業を優先してしまうからです。
しかし、新規事業組織は、同一の会社内である限り、
既存事業を主軸に作られた社内の各種ルールや制度(人事評価含む)、意思決定の考え方や文化の影響を受けますので、
おのずと新規事業に向かない仕組みの中で成果を出すことが求められる事が課題になります。
会社を分けてしまう場合も多いですが、その場合は、
新規事業会社に(親会社の)競合企業とのアライアンスを含めた自由度を与えないと意味がないため、
親会社としてそこまで踏み切れるかどうかが課題となります。
新規事業開発において、個人として抱えている最大の課題は、上記に記載した通り、
既存事業にあらゆることが最適化されている中での業務になるため、
例えば個人の人事評価や組織間の競争についても既存事業と比較され、
必ずしも新規事業の立ち上げプロセスが高く評価されないことです。
また、新規事業は現在の時点でのファクトに基づく計画ではなく、
数年後の将来の時点の予想ファクトに基づく計画でないと意味がありませんが、
その予想を納得してもらわない限り、計画自体の妥当性を納得してもらうことができません。
しかし、予想は人によって考え方が異なるため、多数決の意思決定方法がそぐわない点が課題となります。
大手メーカーで新規事業を推進して行く上で、組織の課題は、慎重派と促進派に大別されることです。
慎重派は市場規模、勝ち筋、競合との陣取りについて疑問視し、ブレーキを掛けます。
一方、リスクを負ってタイミングを重視する促進派は、足りない物をアウトソーシングを活用することで埋めようとします。
このバランス感覚を持つ人材が足りません。また、企業は人となりで規模は関係ありません。
個人としての課題は、マネージャーで企画兼任だった時、市場調査で顧客にアンケートを取り、
シンクタンクの調査結果と合わせて考察してプレゼンし、周囲を説得するのに苦労しました。
しかしながら、現在は自らAIプログラムを組み、統計的に予測して精度を上げてきています。
質の高い、より信憑性の高い情報を収集することは極めて困難です。
AIは手段であり、最終的に適正なデータを集めているかは、技術力・企画力の総合力が必要です。
さらに自社技術の優位性を個人の能力だけで判断することは、リスクと限界があります。
所属先の業種ならびに規模はIT大手のSlerとなります。自社の企画部門に所属しています。
新規事業開発を推進していくうえで、組織の課題は、おもに決済サービスを起点としたシステム開発を中心に、
顧客ならびに顧客の提携先のユーザー嗜好に合わせて、時代に合わせたカタチで、
スクラッチ開発することをメインに実施してきました。
その時代背景の流れで、組織がアカウントごとに「営業」「開発」と分かれるばかりか、
顧客ごとに同じものを開発しているが、開発した無形資産が社内で共有化されておらず、分断化されている問題があり、
SI型よりもサービス型を基本とする現状の中で、今の時代背景にそぐわないことが大きな課題となっている。
その中で会社としても課題と認識しており、「企画」セクションを立ち上げたのが現状となります。
個人として抱えている課題は、おもに新規事業案件を遂行していくにあたり、
会社ならびに顧客からの要望に合わせたサービス型を企画し、
企画したサービスにおける各組織のアセットを組み合わせるために、横断しまとめていく立場であります。
その立場上、今の時代に合わせた顧客要望型のサービスをまずは理解させる必要があり、
そこから顧客への個社対応している知財サービスを個人の企画側で認識しているサービス内容を可視化してもらい、
組織ごとに費用回収と粗利計算させるまで行きつくのに時間がかかるので、サービスの型を作るにあたり、
おもに顧客対応と社内調整のタイミングを合わせるのに非常に難しい調整を強いられるのが一番の課題であります。
組織として抱えている課題は、本業における収益が大きすぎて、新規事業として小さなビジネスが出てきたとしても、
結果的に本業からすると相手にされず、畳んでしまうか、良くて社内の事業に吸収されるパターンがほとんど。
スピンアウト時の資本政策を本気で考えていない。
個人にリスクを負わせる制度設計をもう少しできると良い。
個人として抱えている課題は、基本的には本業との兼務となってしまい、フルコミットができない。
また、スピンアウトした場合も、個人として資金を投入できないため、
事業に対する責任感が通常の起業家に比べて低くなってしまう傾向にある。
結局は大企業の社員であり、人事異動などによって、スピンアウト先の人材が会社都合で入れ替わってしまう。
大手通信事業社で、新規事業開発の担当をしております。
組織としての課題は、MVNO等の台頭、政府による通信料の値下げにより、
通信分野の収益が頭打ちとなるため、非通信分野での収益拡大を目指し、
2008年頃から新規事業の検討が活発になってきた印象です。
新規事業立ち上げ・推進を実施する個人としての課題は、求められる利益水準が大きいことです。
通信分野の売上が大きすぎるため、非通信での売上も数年で億以上の売上を求められる。
新規事業において、現在の正しい企業文化や能力の把握ができないまま、アイデア(思いつき)を実現しようとして、
体制や予算を組めばなんとかできると考える経営層が多く見られます。
アイデアを「思いつき」と「閃き」という2つの言葉で分けて、一度立ち止まり、考えることで、物事の多くが整理できます。
思いつきは根拠(社内文化や人員、予算、将来性)などを含まず、
閃きは根拠(過去の企業得意分野やアイデアを実現する能力、予算、将来性、見通し)を含めていると理解すれば、
その後のアクションとタスクが経営者も明確に捉えることができます。
何かやりたい、何とかできると気合いで経営している会社であれば、気合いで何とかする。
何とかなった時代もあるでしょうが、現代は新規事業に参画するメンバーが同じ意識を持つことが重要となるので、
一人ひとりに浸透する経営者の考えが重要になります。
ここまでは経営者のトップダウン思想に近い部分ですが、この考えの中にはテクニカルに、
実現性と将来性、可能性を含めていることが重要です。
何かをやることになって、現場で何人もが参加する会議に、何十時間もかけて検討して、
ミスなく用意した企画書で、経営者が納得するまで説明する時間を浪費し、
理解力が不足している経営者への説明と納得するまでの内容を用意することで現場が疲弊して、
プロジェクト自体が形骸化し、企画を経営者に通すことが目的となった場合は、多くのプロジェクトが頓挫します。
経営層の理解と協力はとても大事ですが、その上で、やり遂げる現場の情熱が揃わないと、
小さく失敗しない、大きく事業に貢献できない新規事業に着地するでしょう。
現在、医療機器・印刷機・センシングデバイス・ITサービス等をグローバルに展開する企業に所属しています
(年間売上規模:一兆円大手、グループ従業員数4万人)。
自社の新規事業開発を遂行していくうえで、組織として抱えている課題は大きく分けて2点あります。
1つ目は投資の制約。
米国等に拠点を構えるスタートアップが多額の資金をベンチャーキャピタル等から調達し、
大規模な先行投資を進める中で、自社の先行投資の規模が小さく、その差は拡大傾向にあります。
ある程度の規模を持つ企業として、大きな市場を狙うには投資規模が大きくなりますが、
既存事業の成長力鈍化とあわせて、投資枠を捻出できない課題があります。
2つ目は人材の問題。
新規事業を推進するには、戦略・ビジネスアイデアを創造できる人材、
立上げを推進できる支援部隊、さらに実績のない事業を拡大させる優秀なオペレーション部隊が必要だが、
これがバランスよく配置できないことや、キーとなる人材が流出することで進捗が遅れるケースが目立ちます。
新規事業開発を遂行していくうえで、個人として抱えている課題は、とくに技術面に関する知見が不足しているところがあります。
ビジネスアイデアを創造する上では、どういった商品・サービスを展開するために、どの技術を採用するかがポイントになります。
従来、自社のもつ技術に当てはめるような形で商品企画をする機会が多かったのですが、
昨今だとソフトウェアやサービスに限らず、ハードウェアや部材技術等においても
他社技術を利用しなければならない機会が増えています。
技術領域は細分化すると専門家も多岐に渡るため、どういった技術の知見を持つ人の協力を得ることが必要か、
その選別だけでも苦労することが多いです。
エキスパートの回答
部課長/役員
大手商業ディベロッパー所属。
組織として抱えている課題は、既存事業の収益規模が大きい中、
新規事業を継続して育成するための評価指標が定義できていない点。早期にシュリンクしがちである。
新規事業への人的リソースの配置が困難で、既存事業に優先される。
また、エース人材を配置した場合、その後のキャリアディベロップメントが考えられていない。
大企業ゆえのコンプライアンスや残業規制など、ベンチャーでは可能な働き方が制度的に許容できていない。
新規事業立ち上げノウハウとその蓄積が少ないため、属人的な組織となり、
大手企業ゆえのリソース規模ををうまく活かすことができない。
外部専門家などの外的リソース活用や外部企業のオープンイノベーションなどの組織的対応ができない。
個人として抱えている課題は、プロジェクトマネジメントとプレイングマネジャーとしてのパフォーマンスの両立が困難な点。
新規事業の進捗を継続的に図り、前例のないビジネスモデルの骨格を太くするための仕組み、
仮説検証ソリューション手法が確立できていない。
新規事業の専門知識を高めるための情報収集ルートや外部ネットワークとの繋がりが不十分。
その結果、有望な外部スタッフィングをジョインさせることに成功していない。
新規事業継続年数が長くなるにつれ、現存する新規事業の損益成長のみにゴールが限定させられつつあり、
その先のビジネスモデル変容の姿を提示できていない。
チームを牽引し、既存組織を説得して回り、求心力を高めるだけのモチベーション、働きかけが、
IT技術力・システム構築力の向上が必須であり、その課題を克服するだけの専門的スキルの獲得も必要。
既存事業(カテゴリーキラーメディア)がブランド経年による顧客の年齢層上昇や関係性の変化(他メディア・経路からの浸食)により
成長鈍化・収益漸減傾向への転落を見せており、それへの対応が喫緊の課題という状況。
既存事業のスケールが大きいため、その不振を挽回する新規事業の必要額は
会社全体での成長維持に必要なボリューム感として大きい。
そんな中での新規事業創出は、ともすれば「大振り」になりがちで
事業スケールや成長シナリオに向けてのステップ感が雑というか性急になりかねないので、
マーケット占有のトレンドやKPIモニタリングの適切な対応が課題。
自分は直接の新規事業開発を担務として持っていないので、
全社的な事業ポートフォリオ最適化への貢献が第一義のミッションとなっている。
経営会議等で新規事業の進捗については適宜情報共有を受けるので、その際に感じる違和感や危機感については、
経営企画セクションの責任者などに適宜フィードバックをすることを心がけている。
自分のメインの所属先は大手企業ですが、傘下にグループ会社を抱えており、
そちらは中小、スタートアップの部類に入ります。
一般に新規事業を始めるという際に、その企業にとって新規領域なのか、
それとも世の中にとっても全く新しいチャレンジなのか、という2つに話を分けて考えた方が良く、
前者の場合は基本は小さく試してみて数多く打席に立つことが重要、
後者の場合は発明に近いのでやる気のある人員の提案によってどこまで初期投資を許すのか、
という判断が重要になるかと思います。
組織・個人としての課題は、新規事業を進めるにおいて、既存のアセット、
知見をどれだけ巻き込んでいけるかと言うところに尽きるかなと思っていて、
小さいチームで検討のスピードアップをするとともに、
企業が持つ既存アセットをうまく活用していく事が成功へのポイントになるかと思います。
合わせて撤退基準を定めつつ、行けるところまでは逡巡すること無く突き進める体制や、
社内での事業カニバリを気にしない体制を作ってあげることもポイントになるかと思います。
大手企業の場合は必要に応じて推進のための別の会社を作ってあげたり、
小さめのグループ会社で推進してもらうこともスピードアップのために必要かとは思います。
中堅教育事業会社で新規事業を推進しています。
組織の課題としては、スタートアップと比較した際に、既存事業を中心に考えて、
本来はエース級の人材を当てて新しい事業を成功するまでやり抜くことが必要なのですが、
兼務人員で検討することになり、コミットメントが弱まり、何もうまくいかないという状況になっています。
また、代表が自身で見える範囲の課題解決のための新規事業をやる傾向が強く、
TAMや競合状況を考慮した際に参入しない方がいいという件も多く発生するが、
メンバーレベルだと撤退する判断を持つこともできないという点で課題が大きいです。
個人の課題としては、元々スタートアップ企業から来ているということもあり、
新規事業をやるための投資としてはなるべく手作業含めて小さくやる意識なのですが、
会社として過度な投資でやりたがる傾向もあるので、その調整に非常に工数がかかる点が課題となっています。
【ご参考資料】
スピーダは、ビジネスパーソンの情報収集・分析における課題を解決する最先端プラットフォームです。世界中の企業情報、独自の業界レポート、市場データ、ニュース、統計M&Aなどの定量データから、業界エキスパートの "経験知"を活用した定性データまで゙あらゆるビジネス情報をカバーしています。
ご興味をお持ちいただけましたら、資料DLページをご参考になさってください。