事業計画書の書き方(社内向け・新規事業編) -決裁者が見る10項目-
この記事では、社内で新規事業を進める上で、事業計画の社内承認をできるだけ高確率で通過するべく、事業計画書のポイントを整理しました。まず最初に事業計画書をつくるうえで知っておくべきことが書かれているので、ぜひ参考にしてください。
より具体的な事業計画書づくりの事例を知りたい方は、以下の関連記事をお読みください。
事業計画書に欠かせない10項目を整理
企業を継続させるためには、既存事業だけでなく、新規事業を生み出し、新しい収益の柱を作ることが求められます。とはいえ、新しい収益の柱を作り出すことは至難の業です。
新規事業案を思いついてから成功(PMF)まで、以下のような数々のハードルが存在します。
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Customer/Problem Fit(顧客に課題があるか、そしてその課題がどれだけ深いか)
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事業計画策定
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事業計画承認
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Problem/Solution Fit(顧客の課題が特定の解決策でとけるか)
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Solution/Product Fit(製品の実現可能性・ソリューションの製品化)
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Product/Market Fit(市場に受け入れられるか)
この中でも企業の新規事業として取り組む場合、一番最初にぶつかる大きな壁は「事業計画承認」のステージだと思います。アビームコンサルティング社が実施した新規事業創出の実態調査では、新規事業創出を検討した企業のうち創出に至る割合は45%という結果もあります。なぜ事業計画の承認がこれほどまで難しいのか。
このステージでは事業計画の明確さ、確からしさ、自社とのフィットといった観点で、役員人の多角的な視点から評価を受けることになるからです。
かくいう私も事業計画書は書くものの予算をとれず事業を進めることができない経験をしました。
以前勤めていた会社で新規事業コンテストに参加し、中古の自動車部品をアフリカに売る越境ECサービスを提案したものの、役員陣から承認が降りませんでした。
承認が降りなかった理由の一つは「競合企業との差別化が弱い」ことでした。当時を振り返ると、確かに競合企業との差別化を強い強度で考えられてなかったので予算がとれないのも当然だったかもしれません。
過去の自分に「事業計画はただ作れば良いものではない」と強く言いたい。事業計画書は決裁者の心を掴んで予算を獲得するため、ひいては事業を成功させるための戦略書でなくてはなりません。
実際に事業計画書の承認判断を担当されている6名の役員・責任者の方々へのヒアリングを基に、事業計画書10のポイントをまとめました。
項目1. 事業計画書の目次
1つ目のポイントは事業計画書「目次」項目について。
事業計画書にページ数の決まりも、必ず入れなければいけない項目があるわけではありません。正解がないから難しい。例えば、シリアルアントレプレナーの濱渦伸次さんが立ち上げたNOT A HOTELがVCから6億円を調達した時、事業計画の数字が載っていない100ページのポエムだったそうです。これを実現できたのは、独立起業家であり、実績のある濱渦さんだからとも言えます。
一方、まだ新規事業で成功体験をしていない場合はどうでしょう。事業計画に数字が載っていない事業計画で社内で決裁をもらうことは非常に難しいと思います。
決済者へのヒアリングの結果、社内で事業を立ち上げる場合においては、以下9項目の決裁者が考えるポイントを押さえることが重要だということがわかりました。
以降、各項目のポイントを解説していきます。
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新規事業の目的
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事業内容 / ビジネスモデル
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市場環境及び競合状況
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自社の強みや独自性
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マーケティング戦略
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リスク分析・対応策
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撤退ライン
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財務シミュレーション
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立ち上げメンバー
項目2. 新規事業の目的
2つ目は新規事業を創る「目的」について。
新規事業の根幹とも言える「“なぜ”その事業に挑戦するのか」を明確にした上で、なぜ自分がやるのか、なぜ熱量持って取り組めるのか説明できると良いでしょう。
新規事業は計画通りに進むことはほぼありません。あらゆる方面で課題にぶち当たります。そんな状況になった時、事業に対する熱量が低いとそれ以上うまく事業を進めることが難しい。新しい収益の柱を担う大仕事は、あらゆる課題をなんとか乗り越えてくれそうな新規事業担当者に任せたいものです。
「なぜ」とは別に、多くの企業はパーパスやミッションを掲げているため、既存事業とのシナジーを求めるケースもあることには注意が必要です。
Check
☑︎新規事業に取り組む意義
☑︎会社のパーパスや、事業ドメインに対し新規事業がどのような役割を担うか
☑︎既存事業とのシナジー創出の可能性
項目3. 事業内容 / ビジネスモデル
3つ目は「事業内容」について。
顧客がどんな課題を持っていて、その課題に対してどんなサービス・プロダクトを提供していくのか。顧客の課題は深さが重要です。今すぐにでも顧客が解決したいと思っている深い課題に対してソリューションを提供できているかどうかが重要です。
そして、そのプロダクトはビジネスとして経済合理性があるのかビジネスモデルを明確にしましょう。当然ですが、顧客の課題解決ができてもコストだけが大きくなりすぎてしまうビジネスだと事業を継続することができません。
Check
☑︎顧客が今すぐにでも解決したい課題(=バーニングニーズ)に対するソリューションか
項目4. 市場環境及び競合状況
4つ目は「市場環境」と「競合状況」について。
狙っている市場を定義し、TAM(Total Available Market)やSOM(Serviceable obtainable Market)がどれくらいあるかを算出します。TAMやSOMは定義により数字が大きく変わるので、どの市場を攻めるか定義できることが大切です。また、市場規模だけでなく、5〜10年先も魅力的な市場かという中長期的な視点も必要です。
そして、自社だけでなく、競合の状況(強みや弱み・資金力・採用力など)を理解した上で、どれだけ市場を取りに行くことができそうか、自社に勝ち目はあるのかを決裁者はみています。
ここで言う競合は直接的な競合だけではありません。間接的に競合(例えば、ゲームを開発する企業においての競合はゲーム会社だけでなく、ビデオオンデマンド企業・ライブ配信企業・SNSも競合と捉えます)になりうる企業についても把握しておきます。
Check
☑︎中長期的に魅力的な市場を選定しているか
TAM: ある市場で獲得できる可能性のある最大の市場規模
SOM: 製品・サービスを持って市場に参入したときに、自社でアプローチして獲得できるであろう市場規模
項目5. 自社の強みや独自性
5つ目は「強み」や「独自性」について。
長く事業を継続させるためには、競合優位性や自社の強みは必ず必要な要素です。これらが確立されると、価格競争に陥りにくく、高い利益率で事業を進めることができます。
競合優位性や強みをスタートアップ界隈ではMoat(堀)と呼ばれ、スタートアップ経営者はMoatを構築するために全神経をここに使うと言っても過言ではありません。Moatの概念の理解を深めるには、DCMベンチャーズ原さんが書いた「Moat(モート): スタートアップの競争戦略概論」を一読することをおすすめします。
また、Moatをすぐに構築することは難しいですが、事業計画書の段階で顧客調査や需要データを通して、Moatになり得そうなものを考えておくことも重要です。
Check
☑︎それは本当に競合優位なのか(すぐに真似されるものではないか)
☑︎競合優位である裏付けがあるか
Moat(モート):原健一郎 著:「Moat(モート): スタートアップの競争戦略概論」
項目6. マーケティング戦略
6つ目は「マーケティング戦略」について。
初期の顧客をどう見つけて、グロースさせていくか。プロダクトが市場に受け入れられるかわからないフェーズなので、事業計画書にHOW(どうやって | プロモーション戦略)を書く必要はありません。それよりもまず、誰に(WHO)どんな便益と独自性を提供(WHAT)できるかを決めることが重要です。そして、WHOは1つとは限らないので、WHO(どんな顧客に) / WHAT(プロダクト) の組み合わせを作り込みます。
WHOを定義するときの注意点は、架空の顧客像を作るのではなく、実在する顧客を設定します。WHOとWHATが決まれば、自ずとHOW(メディアや手法)が決まるという流れです。
また、サービスを顧客に届けるだけでなく、継続的に使ってくれるのか、お金を払ってくれるかが鍵になります。事業計画書の段階で、顧客にサービスを使ってもらい、「このサービスに対してお金を払ってくれる」と言ってもらうことができたことを証明できると説得力が増します。
Check
☑︎WHO(誰に)とWHAT(便益と独自性)が明確に定義できているか
☑︎WHOは架空の人物ではなく具体的な人物を想像できているか
☑︎サービスに対して「お金を払う」と言ってもらえたかどうか
西口 一希著『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』
項目7. リスク分析・対応策
7つ目は「リスク分析」について。
外部環境(競合が大型資金調達をした・競合が特許を取得した・法改正があったなど)を中心とする事業計画遂行上のリスクと想定外の出来事が発生した場合に、軌道修正できるあるいは別プランがあると社内決裁が通りやすいです。
想定できないものもあると思いますが、リスクになりうるものは全て洗い出して、それぞれのリスクが顕在化した場合にどういうプランに舵を切るかは考えておきましょう。
Check
☑︎想定外の出来事に対して別プランを作っているか
項目8. 撤退基準
8つ目は「撤退基準」について。
新規事業の成功確率は低いため、失敗した時にどれくらいの損失になるのか、新規事業の失敗で企業存続が危ぶまれることがないかは経営陣の関心が強いです。事業継続の判断が人によって見解が別れることのないよう定量的な撤退基準は設けておきましょう。
これまで累計32社の子会社を設立し、それらの新規事業から売上約3,259億円、営業利益約455億円を創出している株式会社サイバーエージェントは、「2四半期連続で減収減益になったら撤退」と明確に撤退基準を設けています。
Check
☑︎定量的な撤退基準を設けているか
☑︎新規事業の失敗が企業存続に影響がない、IR上問題ないか
売上・営業利益は2021年9月末時点
項目9. 財務シミュレーション
初期投資から何ヶ月で黒字化を見込んでいるのかPL(Profit and Loss Statement)を作成します。売上の正確な予測はさまざまな要素があり、極めて難しいので決裁者はあまり参考にしていないかもしれません(事業計画の多くは基本的に右肩上がりに作られる)。
一方で、販管費に関わる人員計画には注目しています。社内のリソースを使う場合にはどの部署の誰を巻き込むのか、そして彼らが抜けても所属部署は補完できるのか整理しておく必要があります。
万が一、社内のリソースで補うことができなければ、専門家に依頼することになり外注費がかかってくるのでコストシミュレーションは精緻に行います。
Check
☑︎社内リソースをどれくらい使うのか
☑︎人材が抜けたあとその部署は補完できるのか
項目10. 立ち上げメンバー
新しくて正解がない新規事業を1人の思考で向き合うことは難しい時代です。BTCの3種類の人材:Biz(ビジネス) 、 Tech(テクノロジー)、 Creative(クリエイティブ)が必要と言われていますがそれだけではありません。
決裁者は新規事業担当者に大きな予算を預けることになるので、新規事業を成功させてくれる可能性が高いチームにお願いしたいわけです。
このチームでプロダクトが開発でき、事業を推進できるメンバーになっているのかが重要です。もし、事業を推進していくために不足しているところがあれば、社外の専門家にお願いすることも選択肢としてあるでしょう。
Check
☑︎BTC人材が揃っているのか
BTC人材:井上一鷹 著『異能の掛け算』
事業計画書づくりで重要なこと
事業計画書に必要な10のポイントを決裁者目線で解説しました。各項目でみているポイントはそれぞれあれど、総じて ①担当者の新規事業に対する熱量 ②事業計画の蓋然性が決裁者にとっては重要であることがわかりました。
熱量はなぜ自分がその事業をやるのかという強い意志、さまざまな課題を乗り越える力とも言えます。この2要素を裏付けることができれば決裁者は承認しやすいでしょう。
そして、事業の蓋然性は「その計画は本当に実行できるの? どこか論理が破綻していない?」ことを確認することなので、市場調査や顧客ヒアリングを通して確からしさを証明します。
冒頭言及しましたが、事業計画書に答えはありません。業界、業種、事業フェーズによっても異なるでしょう。上記の10のポイントは参考までにご活用ください。
まとめ
これらのポイントを押さえることで、より明確で精度の高い、承認に必要な情報が詰まった事業計画書づくりにつながります。
本記事が、事業計画書の各項目を詳しくチェックし、新規事業の立ち上げに向けて最適な事業計画書づくりの参考になれれば幸いです。
新規事業立ち上げは多くのハードルがありますが、ビジネスにおいて欠かせない重要な仕事です。そして、事業計画が承認された後は、実行に移すことが最も重要です。 知恵を絞り、ビジネスをつくっていきましょう!
Special Thanks
・元日本たばこ産業株式会社 パブリックリレーション部長(兼務)株式会社ジェイティクリエイティブサービス取締役
・株式会社TOSEI 海外事業推進統括責任者
・外資系修理事業会社のエグゼクティブ・アドバイザー
・株式会社アマダ 常務執行役員 DX戦略推進担当 兼 株式会社 アマダAIイノベーション研究所所長
・フリーランス 技術コンサルタント
・元大手非鉄金属企業 自動車事業担当
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